狠狠撸

狠狠撸Share a Scribd company logo
因果チェーンを用いた
リードラグ効果の実証分析
第24回 人工知能学会 金融情報学研究会
2020/3/15
アウトライン
1. 研究の背景?目的
2. 因果チェーンの構築手法
3. 実証分析
4. 先行研究
5. まとめ
2
1. 研究の背景?目的
3
否定的 … 効率的市場仮説 (EMH) [Fama,70]
肯定的 … 様々な「アノマリー」現象の存在
情報が即座に価格に反映されるため超過収益機会は存在しない。
? 経済的因果関係に起因するリードラグ効果の収益機会の検証。
株価の予測可能性
(1) Weak Form …過去の市場価格
(2) Semi Strong Form …公開情報
(3) Strong Form …未公開含む全ての情報
リードラグ効果は、情報が即座に価格に反映されないことによる収益機会。
?サプライチェーンを用いたリードラグ効果の実証分析 [Cohen, 08]
?因果チェーンを用いたリードラグ効果の実証分析 [本研究]
4
1. 研究の背景?目的
カスタマー
サプライヤー カスタマー
サプライヤー カスタマー
物流
リードラグ
サプライチェーン?ネットワーク
株価ショック
企業 A
物流
カスタマー?モメンタム
企業 C
企業 B
サプライチェーンを用いたリードラグ効果の実証分析 [Cohen, 08]
リードラグなし
? 物流の需給関係に起因するリードラグ効果の収益機会の検証。
[磯貝, 19]
5
1. 研究の背景?目的
原因
結果 原因
結果 原因
因果関係
リードラグ?
因果チェーン?ネットワーク
株価ショック
企業 A
因果関係
企業 C
企業 B
因果チェーンを用いたリードラグ効果の実証分析 [本研究]
リードラグ?
? 経済的因果関係に起因するリードラグ効果の収益機会の検証。
1. 研究の背景?目的
? テキストデータを解析し、企業間の業績に関する因果関係を紐づけたネットワーク情報
? テキストデータは決算短信を使用する
6
決算短信(テキストデータ)
原因表現
結果表現
紐づけ
(経済)因果チェーンとは? [Izumi, 19]
1. 研究の背景?目的
? 決算短信に示される業績の背景に関わる文章を利用
? 企業の原因-結果の類似性から因果関係を抽出
7
企業 A :
半導体の需要回復を受けて
半導体メーカーが設備投資を増やしている。
企業 B :
半導体メーカーの設備投資の拡大を背景に、
半導体製造装置向け制御システムの販売が伸びた。
結果表現
原因表現
因果関係
(経済)因果チェーンとは?
因果チェーンの構築方法
8
決算短信
- 因果チェーンは大きく下記の3つの手順にて構築される [Sakaji, 17]
2. 因果チェーンの構築
原因表現
結果表現
- [手順 1] 因果表現を含む文の抽出
- [手順 2] 原因-結果要素の抽出
原因
結果
企業 A
- [手順 3] 因果要素の連結
決算短信
原因
結果
企業 B
手順 1. 決算短信のテキストデータの中から因果表現を含む文を抽出する
手順 2. 手順1で取得した文中から原因-結果要素を抽出する
手順 3. 手順2で取得された各企業の原因-結果要素の類似性を評価しチェーンを構築する
-手順 1.
? 決算短信のテキストデータから因果表現を含む文を抽出する
? 構文的な特徴を捉え、対象の文章が因果関係を示しているか確認する
9
構文的特徴: “... の...を受けて... を...”
2. 因果チェーンの構築
手がかり表現
“半導体の需要回復を受けて半導体メーカーが設備投資を増やしている。”
NG
OK
“あなたのために、花を買った。”
因果チェーンの構築方法
-手順 2.
原因-結果表現の抽出
10
- 手順1で抽出した文中から原因-結果
表現を構文パターンを適用して抽出する
2. 因果チェーンの構築
因果チェーンの構築方法
-手順 2.
原因-結果表現の抽出
11
2. 因果チェーンの構築
半導体メーカーの
背景に、
半導体製造装置向け制御システムの
設備投資の
拡大を
販売が
伸びた。
Cause
Clue
Effect
因果チェーンの構築方法
-手順 3.
因果チェーンを構築する
? 企業間の結果-原因要素について類似性をWord2vecを用いて評価する [Mikolov, 13]
? 類似度が一定以上のものについて因果関係があると判断する
12
類似性を評価
?
2. 因果チェーンの構築
類似度 > 0.5
原因
結果 原因
結果
企業 A
企業 B 原因
結果 原因
結果
企業 B
企業 A
因果チェーンの構築方法
-手順 3.
因果強度の定義:
? 因果の出現数を決算短信の発行日と企業名をキーとして集計し、因果の強さと解釈する。
? 因果関係が強い銘柄間ほど株価ショックの影響度が高いと期待される
13
Key: 企業A, 企業B,
発行日(A), 発行日(B)
チェーン(因果)の出現数
2. 因果チェーンの構築
Pair Aの方がリード?ラグ効果を捉え
易いと推測される
Pair Aのチェーン数
>
Pair Bのチェーン数
Pair A
Pair B
因果チェーンの構築方法
3. 実証分析
14
原因
結果 原因
結果
因果関係
企業A
株価ショック
企業B
原因
結果 原因
結果
因果関係
企業A
株価ショック
企業B
Lead
Lag
Lag
Lead
順伝播:企業間の因果の流れ方向(結果→原因)と
株価ショックの伝播の方向が一致
逆伝播:企業間の因果の流れ方向(結果→原因)と
株価ショックの伝播の方向が逆
因果チェーンを用いたリードラグ効果を日本株式市場を対象に検証。
検証期間: 2012年12月 – 2019年1月 (月次)
ユニバース : TOPIX500
ショックの伝播方向を次の2パターンに分けてリードラグを検証。
3. 実証分析
手順 1.
分析する月末までの間に公表された決算短信を用いて因果チェーンを構築し、
TOPIX500の銘柄群について前月リターンの大小で5つのグループに分ける(等ウェイト)
15
Q5
Q4
Q3
Q2
Q1
リターンの大小で
5分位にわける
High
Low
TOPIX500
前月リターン
3. 実証分析
手順 2. 逆伝播のケース
因果チェーンを用いて一年以内で最新の原因側(lead) から結果側(lag)の銘柄を特定
16
Q5
Q4
Q3
Q2
Q1
High
Low
原因
(Lead)
因果チェーン
結果
(Lag)
Q5’
Q4’
Q3’
Q2’
Q1’
リードラグは存在するか?
(株価ショックが伝播するか?)
原因
結果 原因
結果
因果関係
企業A
株価ショック
企業B
Lag
Lead
逆伝播:企業間の因果の流れ方向(結果→原因)と
株価ショックの伝播の方向が逆
3. 実証分析
手順 3.
因果強度の数ごとに、Lead側の前月リターンが最も高い分位銘柄群を買い、最も低い
ものを売るロング?ショート戦略を取る
17
Q5
Q4
Q3
Q2
Q1
High
Low
原因
(Lead)
因果チェーン
結果
(Lag)
Q5’
Q4’
Q3’
Q2’
Q1’
買い (Long)
売り (Short)
Portfolios = Q5’ – Q1’
因果チェーンを用いない場合
3. 実証分析 ~ 結果
18
Quantile Return[%] Risk[%] R/R
1 19.52 18.57 1.05
2 19.46 16.6 1.17
3 18.09 15.58 1.16
4 16.75 15.37 1.09
5 14.99 15.63 0.96
Return[%] Risk[%] R/R
- 4.53 11.52 - 0.39
各分位におけるパフォーマンス ロング?ショート (Q5 – Q1)
? 短期リバーサルが観測される:前月のリターンが低いほど、当月は高いリターン。
3. 実証分析 ~ 結果
* denotes significance at the 0.1 level.
19
ロング?ショート (Q5’ – Q1’)
? 順伝播の場合、因果強度が7,8付
近でリターンが最大になり、以降は
低下する傾向にある。
Type Threshold Return[%] Risk[%] R/R
順伝播 2 0.39 1.06 0.37
4 1.26 4.20 0.30
6 2.51* 4.21 0.60
8 4.44* 8.24 0.54
10 3.33 10.68 0.31
逆伝播 2 0.13 1.67 0.08
4 0.33 3.05 0.11
6 1.57 4.05 0.39
8 5.50* 9.74 0.56
10 6.92* 13.03 0.53
因果チェーンを用いた場合
? 逆伝播の場合、因果強度が大
きくなるにつれリターンも高くなる
傾向にある。
? 順伝播、逆伝播ともにリードラグ効果の存在が確認できた。
? 因果強度が低いとき、紐づけがされる銘柄が多くなり、各分位の銘柄が重複していることに起因する。
? 逆伝播の場合、高閾値で高リターンが獲得されるのに対し、順伝播では閾値7以降ではリターンが低下傾向にある。
これは伝播方向によるラグ側への価格折り込み速度の違いが影響しているものと考えられる。
? この結果は、サプライチェーンと同様に、情報が時間差をもって価格へ反映され、逆伝播でのリターンが良好な結果
となる事象と一致する。
20
3. 実証分析 ~ 考察
原因
結果 原因因果関係
企業 B
企業 A
順伝播
逆伝播
因果関係
ショックの伝播が早い
ショックの伝播が遅い:株価ショック
順伝播と逆伝播とのパフォーマンス差異について
リードラグ効果の存在
? 投資家が因果関係を適切に認識し、情報が即座に反映されるならば、リードラグ効果は存在しない。
? リードラグ効果はモメンタム効果と同様に投資家の過小反応に起因するものと考えられる
? 情報に対しての過小反応が理論価格からの乖離を発生させ、その修正過程でリードラグ効果が計測された。
? 過小反応の背景については投資家の注意力の限界等が考えられ、より詳細な検証が必要となる。
21
3. 実証分析 ~ 考察
原因
結果 原因因果関係
企業 B
企業 A
ショック発生時には
理論価格からの
乖離あり
:株価ショック
リードラグ効果の要因
4. 関連研究
22
Author 手法 データソース
Cohen (2008)
企業間
サプライチェーン
サプライチェーン
(the Compstat segment files)
Menzly (2006)
Shahrur (2010)
業界間
サプライチェーン
サプライチェーン
(CRSP)
Rapach (2015) LASSO 回帰
株価リターン
(Kenneth French’s Data Library)
本研究 因果チェーン テキストデータ (決算短信)
本研究ではテキストデータのみを利用した
ネットワークでリードラグ効果を検証している
リードラグ効果の関連研究について
5. まとめ
23
原因
結果 原因
結果 原因
因果関係
リードラグ
因果チェーン?ネットワーク
株価ショック
企業 A
因果関係
企業 C
企業 B
リードラグ
? 経済的因果関係に起因するリードラグ効果の収益機会の検証。
日本株式市場において、順方向、逆方向ともにリードラグ効果が存在。
5. まとめ
? ユニバースを拡大させた場合でのリードラグ効果の検証
? 高次の因果関係についてのリードラグ効果の検証
24
TOPIX500
ユニバースを拡大させた場合
Lead-lag exists ?
高次の因果関係の検証
検討
参考文献 (一部抜粋)
[Cohen, 08] Economic links and predictable returns.
The Journal of Finance, 63(4):1977–2011, 2008.
[Rapach, 15] Industry interdependencies and cross-industry return predictability
[Menzly, 06] Cross-industry momentum.
[Shahrur, 10] Return predictability along the supply chain: the international evidence.
Financial Analysts Journal, pages 60–77
25
[Sakaji, 17] Discovery of rare causal knowledge from financial statement
summaries.
[Mikolov, 13] Distributed representations of words and phrases and their
compositionality
[Izumi,19] Economic Causal-Chain Search using Text Mining Technology.
In Proceedings of the First Workshop on Financial Technology and
Natural Language Processing (pp. 61-65).

More Related Content

因果チェーンを用いたリードラグ効果の実証分析