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Ryan Wadleigh
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特集：情报管理と灾害対策 楽園を襲った 「ハロウ ィーンイブ鉄砲水」： ハワイ大学マノア校ハミルト ン図書館災害復旧報告 バゼル山本登紀子1 著者抄録： 2004年10月30日， 米国ハワ イ 州オア フ島にあ る マ ノ ア渓谷に観測史上最悪の集中豪雨が 襲っ た。 流木や瓦礫 （がれき） でふさがれたマ ノ ア川の橋が流れをせき止め， 鉄砲水がハワ イ 大学 マ ノ ア校キャ ンパス を直撃し， 40施設が多大な被害を被っ た。 中でも太平洋地域最大の研究図書館 であ るハ ミ ル ト ン図書館の受けた被害は20億円以上 と い う大惨事 と な っ た。 図書館機能を担う中枢 部が全壊し， 1世紀近 く の年月をかけ収集し， 保存し てきた政府刊行物， 地図， 航空写真は泥水の中 に埋没し た。 本稿はハ ミ ル ト ン図書館が体験し た こ の大災害の記録であ る。 災害の実態， 対応， 復 旧の実体験を関係者の イ ン タ ビュー， 災害記録等を基に紹介す る。 キーワード：図書館災害， 鉄砲水， 被害， 災害対策， 対応， 復旧， 救出， 防災 Halloween Eve Flash Flood Disaster in paradise: Disaster recovery report for Hamilton Library of the University of Hawaii at Manoa BAZZELL Tokiko Yamamoto1 Author Abstract: This article is a chronological account of the flood disaster, response, and recovery aftermath at Hamilton Library of the University of Hawaii (UH) at Manoa. The heaviest rains since 1905 hit Manoa Valley in Honolulu on October 30, 2004. The rain gauge recorded 5 inches per hour at the storm’s peak. The normally sedate Manoa Stream became a raging torrent. Debris clogged the bridges and diverted the waters directly into the UH campus, with Hamilton Library suffering the heaviest damage. The Collection Services Division was completely destroyed. Nearly a century’s-worth of government documents, maps, and aerial photos were submerged under 12 feet of muddy water. Key words: library disaster, flash flood, damages, disaster planning, mitigation, response, recovery, salvage, disaster preparedness 原稿受理 （2005-07-11） （情報管理　48 (6): 356-365） 1. はじめに ク レアの2つの図書館があ る。マ ノ ア校の学生， 研究 者のみな ら ず， 全ハワ イ州民たち に研究の場を提供 穏やかな気候と美しい自然に恵まれたハワ イは「太 し， 太平洋地域最大の高等研究図書館 と し て世界中 平洋の楽園」 と 呼ばれてい る。 州立ハワ イ大学マ ノ の研究者の利用に供し てきた。 ア校校内には， 南国の花が咲き誇 り ， 時折， 霧雨の ハ ワ イ 大学 は， 2007年 に 開校100周年 を 迎 え る。 中に大学のシンボルであ る大きな虹がかか る。 マ ノ 2005年3月 に は， 1世紀近 く の年月 を か け， 収集 さ ア校はハワ イ諸島に散在す る10キャ ンパスの1つで， れ保存 さ れて き た貴重文献 を集め， 「図書館の至宝 2万人の学生を有する研究 ? 学問の中心地であ る。ワ 展」 を 大学アー ト ギ ャ ラ リ ーで開催す る 予定だ っ イ キキか ら， 3キロほど山の手に上っ たマ ノ ア渓谷を た 注1)。 2004年10月30日土曜日， ハ ミ ル ト ン図書館 背景に， 122万m2 のキ ャ ンパスが広が る。 中心部に 全館の時計は， 午後7時56分 を指 し 停止 し て し ま っ は300万冊を超える文献を所蔵するハミル ト ン と シン た （図1）。 1 州立ハワ イ大学マ ノ ア校図書館 ? アジアコレ ク シ ョ ン 1 University of Hawaii at Manoa Library, Asia Collection (2550 McCarthy Mall, Honolulu, HI 96822 USA) E-mail: tokiko@hawaii.edu
357 特集：情报管理と灾害対策 ●楽園を襲 っ た 「ハロ ウ ィ ーン イ ブ鉄砲水」 間 に 瓦礫が詰 ま っ た2つ の橋は， 完全 に 川の流れ を せ き 止め て し ま っ た。 行 き 場の な く な っ た水は ダ ム 状態 と な り ， 決壊 し， 一気 に 流れ出 し た （地図 1） 。 激流は さ ら に 勢い を増 し， 大学キ ャ ンパ ス の 生物医学セ ン タ ー に 達 し た時 に は， すで に1m以上 の泥水壁 と な っ て い た。 鉄砲水 は 次 に 農学部， 実 験セ ン タ ー， ハ ミ ル ト ン 図書館 を 突 き 抜け さ ら に 下 り ， ド ール通 り を 超え て キ ャ ンパ ス 最南端の運 動場 ま でい っ て分散 し た （地図2） 。 40の大学施設 が被害 を 受け た が， そ の中で も ハ ミ ル ト ン 図書館 を 含め た5施設の被害は最悪だ っ た。真 っ 暗なキ ャ ン パ ス に は押 し 流 さ れ た車や瓦礫が散乱 し， 懐中 電灯 に 照 ら し だ さ れ る 鉄砲水の跡 に は， 一面15cm 図1　災害時に停止した時計 S. Tokairin撮影 2004年は自然災害の多い年だ っ た。 米国連邦危 機管理庁 （FEMA） の 統計 注2) に よ る と ， こ の 年全 米で68件の主要災害宣言が あ り ， 1953年か ら52年 間 の 年間平均値30.8件 を 大 き く 上回 っ て い る。 マ ノ ア渓谷の集中豪雨 に よ る 鉄砲水災害 も ブ ッ シ ュ 大統領か ら 主要災害宣言 を受け た 注3)。 本稿はハ ミ ル ト ン 図書館が遭遇 し た 大災害， 通 称 「ハ ロ ウ ィ ー ン イ ブ鉄砲水災害」 の体験 を 報告 す る も の であ る。 災害か ら す で に8か月が経過 し， 発電機を 利用 し て図書館機能の多 く が再開 さ れた が， 完全復旧 ま で に は 数年 か か る 見通 し で あ る。 本稿は， 主 に 災害 に 直接かか わ っ て き た図書館関 係者への イ ン タ ビ ュ ー 注4)， 災害記録報告， 図書館 災害ニ ュ ー ス レ タ ー を 基 に， 筆者の個人的体験 を 加え て報告す る も の で あ る。 現在なお復旧作業中 であ り ， 本稿 に 引用 し た統計類は執筆時点で入手 で き た も ので， 最終的な も の で は な い こ と を お断 り し てお く 。 2. 災害の実態 2.1.「ハロウィーンイブ鉄砲水」の正体 ハワ イ の秋 に は珍 し く ， 2004年10月最後の1週間 は ほ と ん ど 毎日雨が降 っ た。 オ ア フ 島の中央 に 横 た わ る コ オ ラ ウ 山脈 の 南東 に あ る マ ノ ア 渓谷 は， 他の地区 と 比べ る と 雨量が多 い。 し か し， 10月30 日は特異だ っ た。朝か ら 強い雨が降 り 続き， 午後6 時30 分 に は1 時 間 に12.5cm の 降 雨 量 を 記 録 し 注5) ， 地図1　マノアの洪水 1905年以来 の 観測史上最悪 の 集中豪雨 と な っ た。 （Honolulu Advertiser紙より許可を得て転載。日本語は 豪雨は流木や瓦礫 を マ ノ ア川 に 押 し 流 し， 橋脚の 筆者加筆）
358 情報 管理 Vol. 48 No. 6 September 2005 地図2　キャンパス内の鉄砲水の道筋 以上の泥が残 さ れ て い た。 翌日31日はハ ロ ウ ィ ー ク シ ョ ン， ハワ イ 大学図書館情報学部 （LIS） ， そ ン と 呼ばれ る 米国のお祭 り で， 子供た ち が仮装 し し て ス タ ッ フ 休憩室が あ っ た。 図書館関係者， 教 て， キ ャ ン デ ィ ー を も ら い に 各家 を 回 る 楽 し い年 員， 学生， 利用者な ど， 常 に100人近 く が利用す る 中行事で あ る。 そ のハ ロ ウ ィ ー ン 前夜 （イ ブ） に 職場で あ り ， 学問 の 場 だ っ た。 ま た， 普段 は 人目 起 こ っ た瞬時の災害だ っ た。 に 触れ る こ と は な い が， サブ地下 と 呼ばれ る さ ら な る 地階が あ り ， 1号館 と 2号館の電話 ? 電気 ケ ー 2.2. ハミルトン図書館 ブル と 制御装置， 館内冷房用の冷却装置が備え ら ハ ミ ル ト ン図書館は3つの建物が連結し た総合図 れて い た。 書館であ る。 地上3階， 地下1階の1号館は， 1968年 に 新築 さ れ た。 少 し 離れ た場所 に あ る シ ン ク レ ア 2.3. 図書館を駆け抜けた鉄砲水 図書館は1954年建造であ る。蔵書増加 に 伴い， 1977 鉄砲水 は ど の よ う に 図書館 を 駆 け 抜 け た の か， 年 に は2号館が1号館 に 隣接増築 さ れ， 地上5階， 地 関係者の話を総合 し て再現 し て み る。 下1階の大 き な建物 に な っ た。 3年前 に は， 念願の 10月30日土曜，ハ ミ ル ト ン図書館は午後6時に閉館 地上6階， 地下1階の3号館 （新館） が完成 し， 旧2館 し た。 保存部の職員1人が新館5階で残業 し て い た。 と 連絡橋で結ばれた。2号館部分の地階は幅6m， 深 旧館地階ではLISの授業が1ク ラ ス行われていた。LIS さ 約5mの コ ン ク リ ー ト 堀で囲 ま れてお り ， 傾斜 し の教室はAcquisitions の反対側の1 号館部分 に あ る た 立地 の 下方 に あ た る1号館部分地階 は 半地下 に （図2）。 午後7時30分ご ろ， キャンパス内の火災報知 な っ て図書館入口側の地上 に 面 し て い る。 そ れぞ 器が鳴 り ， LISの学生 と 教授はい っ たん外に出たが， れ採光の た め に 大 き な窓が付い て い る た め， 地階 警備員の許可が出て再び教室へ戻 り 授業を 再開 し で も 威圧感が なか っ た。3,900m2 の地下面積は多目 た。 そのこ ろ， 1mを越す泥水壁は生物医学セン ター 的 に 利用 さ れ て い た。 図書館管理プ ロ セ ス の中枢 を突き抜け， 図書館の堀に流れ込んでいた。 激流 と であ る コレ ク シ ョ ンサービスすべての部 水圧で地階の窓が割れ， 2号館Acquisitionsの後部に （Acquisitions, Gifts & Exchange, Catalog, Catalog あ る厚さ5cmの非常口用金属製扉が押し倒され， 館 System Services, Serials）， 10キ ャ ンパ ス図書館 と 他 内に激流が入 り 始めた。 変圧器はシ ョ ー ト し煙を上 の5教育機関のコ ン ピ ュー タ ネ ッ ト ワー ク を制御す げ全館停電し た。 オフ ィ スの壁はなぎ倒され， コレ る コ ン ピ ュ ー タ サーバ室， 政府刊行物， 地図 コ レ ク シ ョ ンサービスすべての部 と コンピュータサーバ
359 特集：情报管理と灾害対策 ●楽園を襲 っ た 「ハロ ウ ィ ーン イ ブ鉄砲水」 図2　地階の構造および鉄砲水侵入口(矢印) 室は， 登録処理中の何万 と い う書籍 ? 文献も ろ と も， な業務用ご み収集箱がい く つ も 浮い て い る のが見 注6) 2mか ら4m の濁流に埋没し た。 エレベータ の ド ア え た。 職員 は引 き 返 し1号館1階の一般出入口 に 行 は もぎ取 ら れた。 何百キロ もの重さの地図ケースは く と ， 警備員が火災報知器を止め よ う と し て い た。 押し流され， 23万枚の地図コレ ク シ ョ ンは泥水に飲 そ こ に は地階のLIS に 続 く 階段があ る。階段の そば み込まれた。 1907年以来， 寄託図書館 と し て収集 ? に 立 っ て い る と ， 館内の電気が点滅 し， 下方か ら 保存を続けてきた政府刊行物部も書架のほ と んどが 濁流の音が し， LISの通用口 に ぶつか っ て い く のが なぎ倒され， か ろ う じ て残っ た書架も上段のみを残 見 え た。 そ の瞬間真 っ 暗 に な っ た。 職員が警備員 し てすべて泥水に浸かっ た。 と と も に 図書館の外 に 出 る と ， 焦げ た臭い が一面 一方，LISの授業は再開 し たが，すぐ に教室が真 っ に 立 ち 込め て い た。 図書館入 り 口近 く の石階段の 暗 に な っ た。 停電の回復 を 待 っ て い る と ， 突然泥 上 に い る と ， 下方か ら 半地下の窓を た た く 音が し， 水が教室 に 入 っ て き た。 学生19人 と 教授 は， 学生 次 に ガ ラ ス が割れ， そ こ か ら LISの学生が這い出 し の持つキーチ ェ ーン に 付い て い た小 さ な電燈 を 照 て く る のが見え た。すで に 雨はやんでい た と い う。 ら し なが ら 教室の外 に 出た が， 「バーン」 と い う 音 が し， さ ら に 濁流が押 し 寄せ て き た 注7)。 家具や壁 3. 対応（Response） が倒れ る よ う な音が し， LIS通用口扉が水の勢い で 反対方向 に30セ ン チ ほ ど 押 し 開 き， そ こ に 瓦礫が 3.1. 災害直後：10月30日，土曜日夜 詰 ま り 始め て い た。学生の1人が ス チールの イ ス を 図書館関係者の中で最初 に 「異変」 連絡 を 受け 掴み，半地下の窓に数回た た き つけ窓ガ ラ ス を割 っ 取 っ た の は， 館内PC ? ネ ッ ト ワー ク 管理部 （DNS: た。 学生全員は ひ と り ひ と り そ こ か ら 地上 に 這い Desktop Network Services） の部長だ っ た 注9)。 前述 出 し た。 最後 に 教授が出 た と き に は すで に 水は背 し た が， ハ ミ ル ト ン 図書館 に は10キ ャ ン パ ス 図書 丈を越え る 高 さ に な っ て い た 注8)。 館 を 制御す る コ ン ピ ュ ー タ サーバ室が地階 に あ っ 新館5階 に い た保存部の職員は， 火災報知器の音 た が， 図書館内の コ ン ピ ュ ー タ と ネ ッ ト ワ ー ク は を 聞 き1階 に 降 り ， 連絡橋 を 渡 っ て2号館後部 に あ DNSが管理 し てお り ， オ フ ィ ス は2号館1階 に あ る。 る 職員専用口 に 行 っ た。そ こ か ら 新館 と 2号館の間 サーバ室 と DNSオ フ ィ ス に は セ ン サーが あ り ， 異 に あ る 資料搬入出用のプ ラ ッ ト ホーム を 通 っ て外 常が発生 し た際 に は， 登録 さ れ て い る 番号 に 自動 に 出 る こ と がで き る。 職員が専用口の扉 を 開け る 的に電話連絡が行 く よ う にプロ グ ラ ム されてい る。 と ， 泥水が1mのホーム の高 さ ま で来てお り ， 大き サーバ室 の セ ン サー は 電気， 気温， 騒音， 水 に 関
360 情報 管理 Vol. 48 No. 6 September 2005 す る 異変 を 感知す る よ う に 設定 さ れ て い た が， セ つ つ， 今後の対応 に つ い て 対策 を 話 し 合 っ た。 地 ン サーが稼働す る た め の時間が な か っ た のか， シ 元の災害復旧会社1社 と 連絡が取れ， 午前2時 に 図 ス テ ム部の誰も こ こ か ら の連絡を受信 し なか っ た。 書館前で落 ち 合い， 必要機器の見積 も り を 立 て て DNSの セ ン サーは， 電気の異常だ け を 感知す る よ も ら え る こ と に な っ た。ま ずは翌日の朝7時集合を う 設定 さ れ て い る。 災害の夜， 停電 を 察知 し た セ 約束 し， 全員が帰宅で き た時は すで に 翌日日曜の ン サー はDNS部長 に 電話 し た。 連絡先か ら 受信の 午前3時を 過ぎ て い た。 確認コー ド を 受け取 る ま で， 1人 に4回 ま で連絡 し， 次の登録番号を試す よ う に設定 さ れて い たが 注10)， 3.2. 災害翌日から2か月間の対応 部長 は 在宅 し て お り ， 受信 を 確認 し， す ぐ に キ ャ 翌日10月31日， 日曜 は， ハ ワ イ ら し い 晴天 の 日 ンパ ス 近 く に 住む同部の技術者 に 調査す る よ う 依 だ っ た。関係者が集合 し， 被害状況を視察 し た。マ 頼 し た。 部長 は こ の時点で は， 停電状態が発生 し ノ ア校校長 は， 大学災害対応委員会 を 設置 し， 早 た こ と は知 っ た が， そ の夜10時ご ろ こ の技術者が 朝か ら 対策会議 を 開い た。 図書館館長 を 含む被災 連絡 を返す ま で， 詳細は分か ら なか っ た。 施設の学部長が集 ま り ， こ の日は3時間ご と に 会議 次 に 連絡を 受け た の は， 保存部部長だ っ た。1人 を持 っ た （翌日以降は1日3回）。 被災 し た こ と で は で残業 し て い た保存部の職員は， LISの学生 と 教授 共通 し て い る が， 被災の度合い， 必要 と す る 対応 が全員無事な こ と を 確か め た後， 携帯電話で部長 は各学部で異な る 注12)。以後， 館長は， 図書館の被 宅 に 連絡 し た が， 本人 と は 話せず， 留守番電話 に 害対応 を 指揮す る だ けで な く ， 大学関係者 と の交 伝言 を残 し た。部長は6か月間の研究休暇の半分を 渉， 橋渡 し， 他学部 と の 連絡 ? 協力， ま た 後日 に 過ぎ た時だ っ た。 は， 契約会社 と の交渉 ? 連絡 も 担 う 多忙 な日々 を LISの教授 は， 鉄砲水で車が大破 し た 学生1人 を 過ご す こ と に な る。 す で に 大学幹部 に は， 米本土 家 ま で送 り ， 自宅 に 戻 っ て か ら LIS学部長 に 事の次 の災害復旧会社数社か ら 復旧請負の引 き合いが来 第を 報告 し た。図書館館長 に 連絡す る よ う 依頼 し， て い た。こ こ で は災害か ら 2か月間の対応を項目ご 着替え た後， 再びキ ャ ンパ ス に 向か っ た。 と に 紹介す る。 館長は， LIS学部長か ら の電話 を受け災害発生を 3.2.1. 災害対応チームの設置と対応目標 知 っ た。午後9時 に 近か っ た。 キ ャ ンパ ス 近隣 に 住 ま ず館長は， 総務責任者 に 実務担当者 を 加え た む館長は， 直 ち に 図書館 に 向か っ た。 図 書 館 災 害 対 応 チ ー ム （DRT: Disaster Response 大学周辺 は す で に 立 ち 入 り 禁止 に な っ て い た。 Team） を設置 し， 対策会議 を通 し て対応活動 を決 館長 は そ の場でDNSの技術者 と 遭遇 し， 包囲網 を 定 し， 指揮 を任せ た。目標は， (1)職員 ? ボ ラ ン テ ィ く ぐ っ て図書館 に た ど り 着い た。 真 っ 暗な地下 に ア の安全確保， (2)災害の状況把握 と 記録， (3)被災 降 り て い く と 注11)1m近 く 泥水が残 っ て お り ， 壊滅 文献 ? 機器の救出対策お よ び二次災害の防止， (4) 的被害 を 受け た こ と が分か っ た。 館長は い っ た ん 広報活動， (5)基本的な利用者サービ ス 機能の早期 自宅 に 戻 り ， 直 ち に 副館長 に 連絡 し， 緊急時連絡 回復， と し た。 全米研究図書館協会 （Association of 網 を 使い総務関係者 に 連絡す る よ う 指示 し た。 次 Research Libraries） が， 1997年 に 大洪水の被害 を経 に 休暇中であ っ た保存部部長宅 に 電話す る と ， 部 験 し た コ ロ ラ ド 州立大学図書館関係者 と の連絡 を 長は すで に 職員が残 し た伝言か ら 事態 を 把握 し て 取 っ て く れ た。 館長は コ ロ ラ ド 関係者か ら 貴重な お り ， 対処策 を 簡単 に 話 し 合 っ た 後， 図書館で落 指示 ? 助言 を 得 る こ と が で き， ま た 彼 ら が そ の時 ち 合 う こ と に し， 再度キ ャ ン パ ス に 向か っ た。 そ の体験を つ づ っ た600ページ も の 「図書館災害計画 の夜キ ャ ンパス に集合 し た図書館関係者は9人だ っ と 復旧ハン ド ブ ッ ク」 注13) を購入 し， 責任者全員 に た （図書館IT最高責任者， 保存部部長， 保存部部 当該事項 を読 ま せ， 準備 さ せ た。 長代理， DNS技術者， 図書館施設管理官， 政府刊 3.2.2. 職員?ボランティアの健康と安全確保 行 物部 部長 お よ び ス タ ッ フ） 。 し ば ら く す る と ， 人員の健康 と 安全の確保は最優先 し な ければ な キ ャ ンパ ス を 視察 し て い た マ ノ ア校校長 に 会 っ た ら な い。こ の点では， 迅速 に 対応で き た も の と ， 後 の で， 資料の凍結乾燥用の大型冷凍装置 と 除湿機 手 に 回 っ て し ま っ た 対応が あ っ た。 耳栓， ゴ ム 手 が直 ち に 必要で あ る こ と を 告げ た。 校長は そ の場 袋， マ ス ク 等備品の配布 は 迅速 に 行わ れ た。 手洗 で， 必要な機器を そ ろ え る よ う 許可 し た。 い の実行や水分補給への注意 も 早 く か ら 勧告 さ れ そ の後， 図書館関係者全員は館長宅 に 場所 を 移 た。 ま た ボ ラ ン テ ィ ア に よ る マ ッ サージセ ラ ピー し， 大型冷凍装置， 除湿機， 発電機等 の 手配 を し も 提供 さ れ， 疲れ た 筋肉 を ほ ぐ し て く れ た。 心の
361 特集：情报管理と灾害対策 ●楽園を襲 っ た 「ハロ ウ ィ ーン イ ブ鉄砲水」 ケ ア も 早か っ た。 職員の中 に は， 災害後の心的外 百 に も 及ぶ記録写真 ? ビ デオ は， 後日保険会社 と 傷後 ス ト レ ス 障害 （PTSD） の 兆候が見 ら れ た。 5 の交渉やFEMAへ提出す る 災害補償金手続 き に 欠 日後 に は専門家 を 招 き， ス ト レ ス 解消の た め の グ く こ と ので き な い実態証拠 と な っ た。 ループセ ッ シ ョ ン が行われ， そ の後 も 継続 さ れた。 3.2.4. 二次災害の防止 個人的 に セ ラ ピーが必要な者 に は機会が設け ら れ 災害直後 に 連絡が取れた地元の復旧会社か ら 翌 た。 日早朝 に は， 除湿機， ポ ン プ， 小型発電機が持 ち 後手 に 回 っ て し ま っ た ケー ス と し て は， 破傷風 込 ま れ， 保存部部長 と 図書館施設管理官 を 中心 に や肝炎の予防注射が叫ばれ始め た のが， 泥 ま みれ 直 ち に カ ビ防止対策が講 じ ら れ た。 年中暖か いハ に な っ て作業 し 終わ っ た後だ っ た と い う こ と があ ワ イ で は24時間冷房が必須で あ る。 冷房機能がマ る。1か月後 に は生物医学セ ン タ ーの教授が， 災害 ヒ し， 空気の循環が な い環境で は24～48時間以内 時の汚水か ら レ プ ト ス ピ ラ 症 に 感染 し た こ と が明 に カ ビ が発生す る と い う。 早急 に 湿度 を 下げ， 上 ら か に な り ， 不安が広 ま っ た。 地階 に カ ビ が発生 階への二次災害 を 防が な ければ な ら な い。 各階 に し た後は， カ ビ の分析 を し て く れ る 機関 を 探す の 数台除湿機 を 備え， 業務用大型送風機が設置 さ れ に 時間 を 要 し た。 さ ら に， 皆が シ ョ ッ ク を 受け て た。 ま た， 地階 と 1階の連絡口はプ ラ ス チ ッ ク シー い る 間 に， 「火事場泥棒」 が現れ， 私物が地階の瓦 ト で密封 さ れ た。 通常， 館内の温度 は 摂氏18度 に 礫の中の机か ら 盗 ま れ る 事件が発覚 し， 職員が交 保 た れ て い た が， 災害後 は30度以上 に な っ た。 し 代で警備 を す る こ と に な っ た。 多 く の施設が被災 か し 湿度 を50％ ま で下げ る こ と がで き， 上階で の し 警備が手薄 に な っ た時 を 狙われ た の であ る。 こ カ ビ防止の緊急対策が講 じ ら れた。災害1週間後 に の職員 に よ る 臨時警備体制は大学警備員の増員が は， 復旧会社が調達 し た大型除湿装置， 冷却機， 中 で き る ま で続け ら れた。 型発電機が到着 し， 全館内 に プ ラ ス チ ッ ク の送風 3.2.3. 被害の確認と記録 ダ ク ト が張 り 巡 ら さ れ （図4） 上階は ほぼ安定 し た こ の大災害で幸運だ っ た こ と は， 人的被害が な 環境 と な っ た。 か っ た こ と であ る。し か し 地階は瓦礫の山 と な り ， 3.2.5. 被災図書?文献の救出 あ り と あ ら ゆ る と こ ろ に 泥水が溜 ま っ て い た （図 「48時間が勝負」 と 保存部部長は告げ た。地元の 3）。 DRT と 館長の呼びかけで災害翌日早朝か ら 有 船舶運送会社の厚意で大型冷凍 コ ン テナ機が2機， 志た ち が被害状況の詳細な写真 を 撮 り 始め， 今日 地階非常口近 く に 運ばれ た。 ま た 屋外 と ， 被害 を に 至 る ま で継続 し て い る。 ま た， 他キ ャ ン パ ス の 免れ た 新館の数か所 に 仮作業所 を 設け た。 救出被 同僚 も 駆けつけ， 詳細なデジ タ ル記録を つ づ り ， 3 災文献は， か ろ う じ て 書架の上段 に 残 っ た政府刊 日後には災害Webページを立ち上げて く れた<http:/ 行物， キ ャ ビ ネ ッ ト に 保存 さ れ て い た貴重地図類 /www2.hawaii.edu/~smurata/flood/>。 のWebページ こ と 希少航空写真 を 対象 と し た。 政府刊行物は ま ず の写真は全世界 に 発信 さ れ， 多 く の人た ち に 災害 の実情 を 映像で知 ら せ る こ と がで き た。 ま た， 何 図3　被災した地階（コレクションサービス） 図4　図書館の外から挿入された送風用ダクト S. Murata撮影 S. Tokairin撮影
362 情報 管理 Vol. 48 No. 6 September 2005 ワ ッ ク ス 紙 に 包み箱詰め に し， 直接冷凍機 に 入れ 実践 に は個人差があ り ， ま たCDやZip に バ ッ ク ア ッ 状態 を 安定 さ せ る。 地図 と 航空写真は一枚一枚水 プ し て い た者 も， そ れ を 自分の机の引 き 出 し やオ 洗い し， 泥 を 落 と し て か ら ロ ープ に つ る し て 自然 フ ィ ス に保管 し てい た。災害を経験 し てバ ッ ク ア ッ 乾燥 さ せ る。 泥 ま みれ に な っ て文献 を 地下か ら 取 プの大切 さ と 別地保管の重要性が再認識 さ れ る こ り 出 し て く る チ ー ム， 箱詰 め， 洗浄， 運搬， つ る と と な っ た。 コ レ ク シ ョ ン サービ ス は図書館機能 し な ど， 小グループ を編成 し て の肉体労働であ る。 の中枢 と な る 部署で あ る。 職員のハー ド ド ラ イ ブ 職員 と ボ ラ ン テ ィ ア が一緒 に な っ て 作業 し， カ ビ に は図書館機能 に 必要なデー タ ベー ス 等が入 っ て の発生 ま で に， 地図 コ レ ク シ ョ ン の20% に あ た る い る。 ま た， 研究論文や研究デー タ， 統計 な ど も 3万3,000枚， 9万1,000枚の航空写真， 政府刊行物の 蓄積 さ れ て い た。 DNS はIT責任者 の 指導 の下， 職 5% と な る14万点 を救出す る こ と がで き た。後日 こ 員PCのハー ド ド ラ イ ブ を泥の中か ら 取 り 出 し， 泥 れ ら の多 く はテキサス州に あ る 修復会社に送 ら れ， を 洗い流 し て ド ラ イ ブ部分を 取 り 出す作業 を 開始 処理が行わ れ て い る。 ま た 州外， 海外か ら 補修専 し た。 PCの中 に は押 し 流 さ れて， か な り 離れた場 門家が訪れ， 保存部内で補修， 復旧作業場 を 設け 所で見つ か っ た も の も あ っ た。 後日， 地階の清掃 修復活動 を 指導 し た。 ま たハ ワ イ 州の修復関係者 が進む に つれ， 瓦礫 に 埋 も れたPC も 除々 に 救出 さ を対象 に 講習会 も 行われた。 れ，最終的 に は100台近 く のPCを泥の中か ら 取 り 出 3.2.6. コンピュータサーバの再構築 す こ と が で き た。 損傷 が 激 し い よ う に 見 え た が， ハ ミ ル ト ン図書館の コ ン ピ ュ ー タ サーバ室は全 取 り 出 さ れた ド ラ イ ブ を デー タ 回復会社 に 送 り ， 1 壊 し た。マ ノ ア校だけでな く ， 制御下 に あ っ た9大 ～2か月後に は職員PCのデー タ の80%を回復す る こ 学図書館， ハワ イ 医療図書館な ど， 5教育機関の図 と がで き た。 書館シ ス テ ム も 使用不可能 と な っ た。 ハワ イ 大学 3.2.8. 復旧会社の参入 の学生だけで も5万人以上 に 影響 し， 目録， 図書注 地階の被害状況は ど こ か ら 手 を つけ て よ い のか 文， 貸 し 出 し 等， 全図書館機能がマ ヒ し て し ま い， 分か ら な い ほ ど 酷い状態だ っ た。 サブ地下 に は38 購読 し て い る300 の 電子 リ ソ ー ス も 利用 で き な く 万 リ ッ ト ル も の泥水が溜 ま り ， 旧2館の電気 ? 冷房 な っ た。 サ ーバ の 日々 の バ ッ ク ア ッ プ テ ー プ は， 機能は壊滅状態だ っ た。 大学幹部は すばや く 本土 マ ノ ア校キ ャ ンパス の数か所に保管されて いたが， の復旧会社 と 契約 し， 清掃一切 を 含む被害対応 を それ ら の施設 も 被災 し た た め， 災害翌日後半 に な 請け負 わ せ る こ と に し た。 こ の会社 は， 2001年の る ま で， ど の テープが読み取 り 可能な のか分か ら 9.11同時多発テ ロ 後の被災地清掃 を 請け負 っ た 経 な い状態だ っ た。 験 が あ り ， 会社担当者 が 直 ち に 本土 か ら 飛来 し， ITチーム は ま ずサーバ室の代替場所 を 探す こ と 必要な作業人員は地元で雇い， 大型機器すべ て も か ら 始 め ね ば な ら な か っ た。 老朽化 し て い る が， 米本土か ら 運び込 ま れ た。 サブ地下か ら 泥水 を 廃 被災 を 免れた シ ン ク レ ア図書館内の冷房設備があ 棄処理す る だけで2週間以上かか っ た。早朝か ら 保 る2階を仮サーバ室 と す る こ と に し， すべて の電話 護服 に 身 を 固め た50人余 り の作業員が瓦礫 を 運び 回線 を 迂 （う） 回 さ せ， ネ ッ ト ワ ー ク 用 の ソ ケ ッ 出 し， 壁 のパ ネ ル， 天井， 床 の リ ノ リ ウ ム を す べ ト を 整え た。 そ し て カ リ フ ォ ルニア州のサ ン マ イ て は が し， 床 か ら 天井 ま で 清掃 し 消毒 を 施 し た。 ク ロ シ ス テ ム社か ら 図書館シ ス テ ム の借用サーバ 地階の清掃 に は2か月を要 し， 空調ダ ク ト 内の清掃 を空輸 し て も ら う 手続き を し た 注14)。同時 に 米本土 を終え た の は年明け て2005年の1月末だ っ た。 のデー タ復旧会社にバ ッ ク ア ッ プテープを空輸 し， 3.2.9. コミュニケーションとメディア対応 デー タ 回復作業 を 依頼 し た。 後日， バ ッ ク ア ッ プ い つ の時 に も ス タ ッ フ 間の コ ミ ュ ニケーシ ョ ン テープのデータ99％が回復可能であ る こ と が分か っ は大切な も の であ る が， 大災害の際 に は日常の伝 た。借用サーバが空輸 さ れて来た の は依頼か ら2日 達方法が遮断 さ れた環境で， 120人以上の職員間の 後であ っ た。ITチーム は文字 ど お り 寝食を 忘れて， コ ミ ュ ニケーシ ョ ン を 維持 し て いか な ければ な ら 仮サーバ室でのサーバ再構築 と ， デー タ の回復 に ず， 容易 な こ と で は な い。 情報の欠如 は憶測や流 専念 し た。 言 を 生み， ス タ ッ フ の不安 を 増 し， さ ま ざ ま な 支 3.2.7. 職員のPC救出 障 を 来す こ と に な る。 館長 と DRT メ ン バー は多様 ハ ミ ル ト ン図書館ではLANを利用 し た職員用PC な方法を 用い て こ の難 し い課題 に 挑戦 し た。 の集中バ ッ ク ア ッ プ体制が な か っ た。 各人が自分 ま ず， 職員専用通用口近 く に 机 を 置 き， ス タ ッ のハー ド ド ラ イ ブのバ ッ ク ア ッ プを し て いた ため， フ を 常置 し て 連絡本部 と し た。 そ の横 に あ る 掲示
363 特集：情报管理と灾害対策 ●楽園を襲 っ た 「ハロ ウ ィ ーン イ ブ鉄砲水」 板 に は連絡事項， 伝達 メ モ な ど を 掲示す る。 館内 サービ ス 再開への対応が迫 ら れ た。 幸い こ こ で も では携帯電話 も 使え な い た め 注15)， 掲示 ? 伝言板は 被災 を 免れた新館 と シ ン ク レ ア図書館の設備 を 最 基本的な情報伝達手段 と な っ た。2日後か ら は， 午 大限 に 活用す る こ と に な っ た。災害か ら 5日目 に は 前 と 午後 に 全職員の集会を行 っ た 注16)。刻々変化す ITチームの努力で図書館のホームページが再開 し， る 情報 を 伝え る た め と ， 質疑応答 を 直接行 う た め 図書館サービスの最新状況を発信でき る よ う にな っ であ る。 た。 本の返却は シ ン ク レ ア図書館で手動で行 う よ 利用者サービ ス 局長の発案で始め ら れ た災害 う 設定 し た。 ま た， 返却期間 も 延長 し， 遅滞罰金 ニュース レ ターの発行も4日後に始ま っ た。Appriser も 免除す る こ と と し た。8日目 に は， 読み出 し 専用 注17) と 呼ばれ る ニ ュ ー ス レ タ ー は 災害 に 関す る 情 （read only） であ る が， 災害前日 ま でのデー タ 回復 報を毎日記録 し た も ので， 12月 ま で は副館長が， 1 がで き た図書館シ ス テ ム を 稼動 さ せ る こ と に 成功 月か ら 現在 ま で は コ レ ク シ ョ ン サービ ス 局長が執 し， 利用者はOPACで所蔵検索 を す る こ と がで き る 筆 し て い る。 そ の日 に 進展 し た こ と ， DRT委員会 よ う に な っ た。 こ で人員を動員し，手動でのpaging そ や他の小委員会の議事録， 全職員集会の要旨な ど （図書出納） サービ ス を 新館1階で開始 し た。 利用 を 詳細 に 記録 し， 翌日の朝 に は コ ピー を 連絡本部 者は新館 に 設置 さ れた仮カ ウ ン タ ー に 出納依頼申 で受け取 る こ と がで き た。 ま た， 電子 メ ールが復 込書 を 提出す る。 それ を 基 に 職員 と 学生アルバ イ 旧 し て か ら は， そ の日の夜 に メ ールで も 伝達 さ れ ト が リ ュ ッ ク を 背負い， 懐中電灯 を 片手 に 書架 に 始め た。すで に200ページ以上 に な るAppriserは， 職 行 き， 依頼文献 を運び出す， と い う も のであ る。エ 員への情報伝達手段だ けで な く ， ま さ に 日々刻々 レ ベー タ ー も 使え な い， 真 っ 暗な書架での作業で を記 し た災害記録 ド キ ュ メ ン ト と な っ て い る 注18)。 あ る。 ま た， こ の 仮 カ ウ ン タ ーで， 職員が交代で 「ハ ロ ウ ィ ーン イ ブ鉄砲水災害」 は地元 メ デ ィ ア レ フ ァ レ ン ス サービ ス も 提供 し， 少 し ずつ利用者 を 中心 に 対外的 に も 注目 さ れ た。 災害直後や翌日 サービ ス の種類 も 増や し て い っ た。 11月末 に は借 の早朝 に は， 新聞， テ レ ビ の取材陣が押 し 寄せ た。 り サーバを利用 し てのITシ ス テ ムが完全に回復 し， 大学だ けで は な く ， 図書館 と し て も メ デ ィ ア対応 paging も オ ン ラ イ ン で リ ク エ ス ト で き る よ う に な が必要であ っ た。 災害対応の陣頭指揮 を 執 る 館長 り ， サービ ス 利用時間帯 も 大幅 に 拡張 さ れ た。 ま は， 当館 に 来て3年であ り ， 日々対策会議や外渉で たILL ? Document Delivery サービ ス も 再開 さ れた。 缶詰め状態だ っ た。 そ こ で， 館長の次 に 図書館 を pagingの依頼は1日平均600～700件， 最高は1,200件 代表 し て正確な情報 を 発信す る こ と がで き る 大役 で あ る。 完璧で は な い が， 文献への ア ク セ ス がで に は， 30年以上の勤続経験の持 ち 主で， 過去 に も き る よ う に な っ た。 ス ポー ク ス パーソ ン の経験 を 持つ副館長が選ばれ た。 図書館の詳細 に 精通 し て い る 副館長は突然の 4. 復旧(Recovery)段階へ イ ン タ ビ ュ ー に も 的確 に 対応 し 大役を果た し た。 ま た， 報道陣 と の連絡， 大学PR課 と の調整， 対 災害後1か月を過ぎ る こ ろ （12月上旬） か ら 復旧 外情報発信 ま と め役兼一括窓口役 に は， 総務部PR への準備が始 ま っ た。 サブ地下の被災状況がひ ど 担当者が任命 さ れ た。 報道陣 を 被災場所 に 案内 し く ， 旧2館の電源を 再構築す る に は， 1年半～2年か た り ， プ レ ス リ リ ース を準備す る こ と は も ち ろ ん， か る こ と が明 ら か に な っ た。 そ の間の電源は大型 以前報道機関で働い た経験の あ る こ の職員は， 州 コ ンテナ級の発電機2台を外部に備え付けて供給す 民の理解 と 支援 を 得 る た め に， な る べ く 図書館災 る こ と に な っ た （図5） 。 し か し ハワ イ に は こ の規 害のニュースが地元紙の1面に載 る よ う 努力 し た と 模の発電機が な い た め， 米本土か ら 取 り 寄せ な け い う。最初の7日を過ぎ る と 失われて い く と い う ア れば な ら な い。 旧館の停電状態 は， そ れが届 く ま メ リ カ人の報道への関心 を 持続 さ せ る た め に， 周 で解消 さ れな い。100人以上の職員が働け る 場所 を 期的 に 話題性のあ る ニ ュ ー ス を タ イ ミ ン グ よ く 流 用意す る こ と が急務で あ る。 そ こ でDRTの下 に 臨 す必要があ る。 図書館災害関係のニ ュ ー ス は地元 時小委員会 （職員仮事務所検討， 臨時役割分担 ? 新聞 ? TVで取 り 上げ ら れ， 州民 に 広報 さ れた 注19) 。 作業検討， 家具 ? 備品類調達， 職員の健康管理， 治 3.2.10. 利用者サービスへの対応 安 ? 安全管理， 広報， 職員のモ ラ ル向上促進等） を 災害発生は秋学期終了の1か月半前だ っ た。ハワ 結成 し 準備 を 進め る こ と と な っ た。 地階再構築の イ 州最大の研究図書館の利用がで き な く な っ た学 案 を 検討す る た め の委員会 と 全職員参加の再構築 生 ? 研究者の不安 は計 り 知れ な い。 早急 に 利用者 構想会 も 開かれ る こ と に な っ た。 ま た， 災害復旧
364 情報 管理 Vol. 48 No. 6 September 2005 図5　大型発電機　筆者撮影 請負会社 も， 環境の正常化 を 専門 と す る 会社が新 4.2. 災害復旧費用 た に 加わ り ， 清掃が完了 し た 後 は， こ の会社が中 大型発電機の稼動 に は， 借用料 と 燃料 を 合わ せ 心 に な り 復旧活動 を す る こ と に な っ た。 災害への て1日70万円以上かか る。マ ノ ア校全体の復旧 に は 緊急対応段階か ら 長期復旧へのマラソン段階へ入っ 約81億円かか る と 推測 さ れ て い る。 ハ ミ ル ト ン 図 た のであ る。 書館の復旧 に は， 20億円以上が必要であ る と 予想 さ れ る。災害保険か ら 25億円が下 り ， FEMAか ら31 4.1. 日々変化する環境 億円の補助金交付が決定 さ れ た。 残 り 25億円は州 12月下旬 に な る と ， ほ ぼ全員が新館， シ ン ク レ 政府か ら の捻出 に な る と い う。 膨大な金額で あ る ア図書館， ま た はキ ャ ンパス 内の別施設 に 移動 し， が， こ れ に は 研究中断 に よ る 知的収入 の 損失 や， 徐々 に 仕事 を 再開 し た。 年が明け て か ら は待望の 再購入や代替が不可能な文献の被害相当額は含 ま 大型発電機が届 き， テ ス ト が繰 り 返 さ れ た。 冬休 れ て い な い。 救済で き な か っ た政府刊行物文献は み明けの1月10日 に は，全体の1/3の文献を所蔵す る 280万点 に 及ぶが， そ の中 に は， ハワ イ 王朝時代の 新館全館 を 利用者 に 開放す る こ と がで き， 確実 に 文献や戦後日本や沖縄 に 駐留 し た米軍軍事関係文 復旧が進展 し て い る あか し と な っ た。1月末 に は発 書， 戦時中日系人収容所で発刊 さ れ た 印刷物， 歴 電機か ら2号館への電源供給が可能 と な っ た が， 1 史的な太平洋航海図な ど， 貴重文献が多 く 含 ま れ 号館への供給 と 7台のエレベー タ の う ち2号館の3台 て い た。 た く さ ん の古地図 も16万枚以上の地図類 だけが稼動で き る よ う に な る の は， 3月 ま で待たね と と も に 失われ た。 ア ジ ア コ レ ク シ ョ ン 関係は約 ば な ら な か っ た。 よ う や く 旧館 に 職員が戻 り ， 全 1万点以上が失われた が， 地元日系人 を は じ め， 初 館開館 に た ど り つ い た の は災害後5か月た っ た3月 期のハワ イ 移民の家族か ら 寄贈された文書や資料， 末 だ っ た。 そ れ ま で 開館へ の 準備 で 明 け 暮 れ た。 太平洋諸島やアジア諸国を回 っ て集めた文献な ど， 発電機の電気は不安定な た め， すべ て の精密機器 購入や代替で き な い も のが多 く あ っ た。 こ れ ら は （特 に コ ン ピ ュ ー タ 類） に は無停電電源装置 （UPS: 価値判断が難 し く ， 明確 に 金額 を は じ き 出す こ と Uninterruptible Power Supply） を付け た。ま た， 自動 が で き な い た め， 災害保険やFEMA の 損害補償 の 火災報知器が稼動す る ま での手動 に よ る 火災 ? 緊 対象 と は な ら な い。2月 に 主要災害宣言を受け て以 急事態対応の準備 も 行 っ た。 し か し， 開館後2週間 来FEMAか ら 担当官 が視察 ? 指導 に 来館 し て い る 余 り の間 に 起 こ っ た放火 に よ る20件のボヤ騒ぎ は が， 提出 を 義務付け ら れ た 緻 （ち） 密 な 書類 の 山 皆 を 震撼 （し んか ん） さ せ た 注20)。 事件 を 公 に し， は高 く な る ばか り であ る。 警備員 を 増や し， モニ タ ー を 導入す る こ と で事件 の拡大を食い止め る こ と がで き た。 5. おわりに 「災害か ら の教訓」 を ま と め よ う と 思 っ たが保留
365 特集：情报管理と灾害対策 ●楽園を襲 っ た 「ハロ ウ ィ ーン イ ブ鉄砲水」 す る こ と に し た。 現在 ま だ災害復旧作業の真 っ た 者サービ ス 局長 は， 積み重 な る 肉体的 ? 精神的 ス だ中 に い る か ら であ る。 ハ ミ ル ト ン 図書館 に は防 ト レ ス か ら， 災害1 か 月後 に は 局長 の 職 を 辞任 し 災計画書 が あ り ， 災害対応準備委員会 も あ っ た。 た。 十分 に 責任 を 果 た す だ け の体力 と 気力が消耗 熟知 し た 指導者 も お り ， 振 り 返 っ て み る と ， 実践 し て し ま っ た， と 後日語 っ て い る。 間一髪避難 し し た対応は ガ イ ド ラ イ ン に 近い も のであ っ た よ う たLISの学生の う ち3人は単位習得 を保留 し， 1人は に 見え る。 し か し， こ れ だ け の大災害がひ と り ひ 中退 し た。 水 の 音 を 聞 く た び に 災害 を 思 い 出 し， と り に 及ぼす影響は ま だ未知数であ る。「次か ら 次 勉学 に 集中で き な い と い う。 前述 し た州立 コ ロ ラ と 新た な局面が発生 し， そ の場で重大な決断 を し ド 大学図書館の人た ち は 「すべて が正常 に 戻 っ た， な ければ な ら ず， そ の時は妥当だ と 思 っ て 下 し た と 感じ始めたのは2003年 く ら いか ら だ っ た」と ，語っ 判断が， 後 に な っ て み る と 悔や ま れ る こ と があ る」 て い る。災害か ら 実 に6年後であ る。ハ ミ ル ト ン図 と ， 語 っ た の は ひ と り だ け で は な か っ た。 大災害 書館の災害復旧マ ラ ソ ン は ス タ ー ト を 切 っ た ばか 後， 10日目 に はpagingサービ ス を 始め， 5か月で全 り で あ る。 日本 を は じ め， 多 く の友人か ら 暖か い 館開館 を 達成 し た 背後 に は， 多 く の努力 と 英雄的 支援 を 頂い た。 そ れ に 応え ら れ る よ う な レ ー ス を 行動が あ り ， 指導力が発揮 さ れ た。 一方， 一触即 展開 し， 我々の体験が共通の教訓 と な っ て生か さ 発の状況 も あ っ た。 災害対応 に 奔走 し て い た利用 れ る よ う 期待 さ れ よ う。 本文の注 注1) 災害直後は開催のめ ど が ま っ た く 立 っ て い なか っ 注11) 警備員は地階 に降 り な い よ う 警告 し た。 技術者は た 「図書館の至宝展」 は， 大学アー ト ギ ャ ラ リ ー 真 っ 暗で階段下方が水中下 に あ る こ と が見 え ず， で災害1周年 と な る 今年9月18日か ら11月8日 に 行 足を滑 ら せ て右足首を骨折 し た。 われ る こ と と な っ た。当初展示が予定 さ れ て い た 注12) 例えば生物医学セ ン タ ーでは実験を保護す る ため 政府刊行物の貴重文献 は 破壊 さ れ て し ま っ た が， に 大量の ド ラ イ ア イ ス を 必要 と し た。 最終的に 選別 さ れた300点以上の展示品の中に は， 注13) ALIRE, Camila, ed. Library Disaster Planning and 泥の中か ら 救済 さ れ， 見事 に 修復 さ れ た貴重地図 Recovery Handbook. New York, Neal-Schuman, 2000, ５ 枚が含 ま れ て い る。 614p. 注2) FEMA. “Total Major Disaster Declarations.” (online), 注14) サーバの契約書に は， 緊急事態に おけ る サーバの available from <http://www.fema.gov/library/ 無料提供が明記 さ れ て い る。 dis_graph.shtm >, (accessed 2005-06-23). 注15) 災害の影響では な く ， 館内では も と も と 携帯電話 注3) 大統領の災害宣言は実際に災害が起 こ っ た日では 間の電波受信が難 し い。 な い。 マ ノ ア 鉄砲水災害 の 大統領宣言 は2005年2 注16) 1 日 2 回の集会は被災後 9 日間行い， 以後は 1 月まで 月7日 に 出 さ れた。 午前1回， ほぼ毎日継続 し た。 注4) 以下の人たちの協力を得た。 DeeDee Acosta , James 注17) 「知 ら せ る」 と い う意味の動詞 apprise か ら 命名し た Adamson, David Bruner, Martha Chantiniy, Jean も の。 Ehrhorn, 工 藤庸 子, Marylyn Lee, Sara McBride, 注18) 当館Web上で公開。 <http://libweb.hawaii.edu/intranet/ Sandra Ohashi, Diane Perushek, Steve Pickering, Scott flood.html> Reinke, Robert Schwarzwalder, Beth Tillinghast, 注19) 本校 ALA 学生分会の災害関係新聞記事 リ ン クか ら Andrew Wertheimer, Jerard Yagi. ま たSara McBrideの ア ク セ ス で き る。 <http://www.hawaii.edu/ala/flood. 記録Anatomy of an Academic Disaster (未刊) も 参照 php> さ せ て頂い た。 注20) 自動火災報知器が稼動 し な い ま ま 開館す る こ と に 注5) NOAA. “Manoa Valley Flood.” (online), available from は， 大学 ?図書館関係者内で も 賛否両論があ っ た。 < h t t p : / / w w w . p r h . n oa a .g ov / h n l / p a g e s / e v e n t s / 開館の際 に 「利用者の利便を 優先 し， 主導での緊 ManoaFlood20041030/>, (accessed 2005-06-23). 急?火災対策を十分講 じ た ので安全は確保で き た」 注6) 地階の壁に残された泥水の跡か ら の推測。 と の見解が地元紙やTVで報道 さ れた。し か し そ の 注7) 濁流が非常口扉を押し倒し た音か と 推測される。 直後か ら2週間の間 に， 購読新聞の束が焼かれ， 開 注8) 教授は災害直後 に は， 腰 ま での水， と 発言 し て い 架書棚の書籍背表紙が焦が さ れ て い た り ， 学習机 た が， 後日， 椅子の上 に 立 っ て い た こ と を思い出 の表面が焦げ， 灰や ラ イ タ ー， マ ッ チ等が残 さ れ し た。 て い た り と い う 事件が計20件発生 し た。 事件の拡 注9) 関係者の イ ン タヴューを基に筆者が推測。 張は防止で き た が， 結局犯人は わか ら な い ま ま で 注10) 最高255回まで設定でき る。 あ る。

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  • 1. 特集：情报管理と灾害対策 楽園を襲った 「ハロウ ィーンイブ鉄砲水」： ハワイ大学マノア校ハミルト ン図書館災害復旧報告 バゼル山本登紀子1 著者抄録： 2004年10月30日， 米国ハワ イ 州オア フ島にあ る マ ノ ア渓谷に観測史上最悪の集中豪雨が 襲っ た。 流木や瓦礫 （がれき） でふさがれたマ ノ ア川の橋が流れをせき止め， 鉄砲水がハワ イ 大学 マ ノ ア校キャ ンパス を直撃し， 40施設が多大な被害を被っ た。 中でも太平洋地域最大の研究図書館 であ るハ ミ ル ト ン図書館の受けた被害は20億円以上 と い う大惨事 と な っ た。 図書館機能を担う中枢 部が全壊し， 1世紀近 く の年月をかけ収集し， 保存し てきた政府刊行物， 地図， 航空写真は泥水の中 に埋没し た。 本稿はハ ミ ル ト ン図書館が体験し た こ の大災害の記録であ る。 災害の実態， 対応， 復 旧の実体験を関係者の イ ン タ ビュー， 災害記録等を基に紹介す る。 キーワード：図書館災害， 鉄砲水， 被害， 災害対策， 対応， 復旧， 救出， 防災 Halloween Eve Flash Flood Disaster in paradise: Disaster recovery report for Hamilton Library of the University of Hawaii at Manoa BAZZELL Tokiko Yamamoto1 Author Abstract: This article is a chronological account of the flood disaster, response, and recovery aftermath at Hamilton Library of the University of Hawaii (UH) at Manoa. The heaviest rains since 1905 hit Manoa Valley in Honolulu on October 30, 2004. The rain gauge recorded 5 inches per hour at the storm’s peak. The normally sedate Manoa Stream became a raging torrent. Debris clogged the bridges and diverted the waters directly into the UH campus, with Hamilton Library suffering the heaviest damage. The Collection Services Division was completely destroyed. Nearly a century’s-worth of government documents, maps, and aerial photos were submerged under 12 feet of muddy water. Key words: library disaster, flash flood, damages, disaster planning, mitigation, response, recovery, salvage, disaster preparedness 原稿受理 （2005-07-11） （情報管理　48 (6): 356-365） 1. はじめに ク レアの2つの図書館があ る。マ ノ ア校の学生， 研究 者のみな ら ず， 全ハワ イ州民たち に研究の場を提供 穏やかな気候と美しい自然に恵まれたハワ イは「太 し， 太平洋地域最大の高等研究図書館 と し て世界中 平洋の楽園」 と 呼ばれてい る。 州立ハワ イ大学マ ノ の研究者の利用に供し てきた。 ア校校内には， 南国の花が咲き誇 り ， 時折， 霧雨の ハ ワ イ 大学 は， 2007年 に 開校100周年 を 迎 え る。 中に大学のシンボルであ る大きな虹がかか る。 マ ノ 2005年3月 に は， 1世紀近 く の年月 を か け， 収集 さ ア校はハワ イ諸島に散在す る10キャ ンパスの1つで， れ保存 さ れて き た貴重文献 を集め， 「図書館の至宝 2万人の学生を有する研究 ? 学問の中心地であ る。ワ 展」 を 大学アー ト ギ ャ ラ リ ーで開催す る 予定だ っ イ キキか ら， 3キロほど山の手に上っ たマ ノ ア渓谷を た 注1)。 2004年10月30日土曜日， ハ ミ ル ト ン図書館 背景に， 122万m2 のキ ャ ンパスが広が る。 中心部に 全館の時計は， 午後7時56分 を指 し 停止 し て し ま っ は300万冊を超える文献を所蔵するハミル ト ン と シン た （図1）。 1 州立ハワ イ大学マ ノ ア校図書館 ? アジアコレ ク シ ョ ン 1 University of Hawaii at Manoa Library, Asia Collection (2550 McCarthy Mall, Honolulu, HI 96822 USA) E-mail: tokiko@hawaii.edu
  • 2. 357 特集：情报管理と灾害対策 ●楽園を襲 っ た 「ハロ ウ ィ ーン イ ブ鉄砲水」 間 に 瓦礫が詰 ま っ た2つ の橋は， 完全 に 川の流れ を せ き 止め て し ま っ た。 行 き 場の な く な っ た水は ダ ム 状態 と な り ， 決壊 し， 一気 に 流れ出 し た （地図 1） 。 激流は さ ら に 勢い を増 し， 大学キ ャ ンパ ス の 生物医学セ ン タ ー に 達 し た時 に は， すで に1m以上 の泥水壁 と な っ て い た。 鉄砲水 は 次 に 農学部， 実 験セ ン タ ー， ハ ミ ル ト ン 図書館 を 突 き 抜け さ ら に 下 り ， ド ール通 り を 超え て キ ャ ンパ ス 最南端の運 動場 ま でい っ て分散 し た （地図2） 。 40の大学施設 が被害 を 受け た が， そ の中で も ハ ミ ル ト ン 図書館 を 含め た5施設の被害は最悪だ っ た。真 っ 暗なキ ャ ン パ ス に は押 し 流 さ れ た車や瓦礫が散乱 し， 懐中 電灯 に 照 ら し だ さ れ る 鉄砲水の跡 に は， 一面15cm 図1　災害時に停止した時計 S. Tokairin撮影 2004年は自然災害の多い年だ っ た。 米国連邦危 機管理庁 （FEMA） の 統計 注2) に よ る と ， こ の 年全 米で68件の主要災害宣言が あ り ， 1953年か ら52年 間 の 年間平均値30.8件 を 大 き く 上回 っ て い る。 マ ノ ア渓谷の集中豪雨 に よ る 鉄砲水災害 も ブ ッ シ ュ 大統領か ら 主要災害宣言 を受け た 注3)。 本稿はハ ミ ル ト ン 図書館が遭遇 し た 大災害， 通 称 「ハ ロ ウ ィ ー ン イ ブ鉄砲水災害」 の体験 を 報告 す る も の であ る。 災害か ら す で に8か月が経過 し， 発電機を 利用 し て図書館機能の多 く が再開 さ れた が， 完全復旧 ま で に は 数年 か か る 見通 し で あ る。 本稿は， 主 に 災害 に 直接かか わ っ て き た図書館関 係者への イ ン タ ビ ュ ー 注4)， 災害記録報告， 図書館 災害ニ ュ ー ス レ タ ー を 基 に， 筆者の個人的体験 を 加え て報告す る も の で あ る。 現在なお復旧作業中 であ り ， 本稿 に 引用 し た統計類は執筆時点で入手 で き た も ので， 最終的な も の で は な い こ と を お断 り し てお く 。 2. 災害の実態 2.1.「ハロウィーンイブ鉄砲水」の正体 ハワ イ の秋 に は珍 し く ， 2004年10月最後の1週間 は ほ と ん ど 毎日雨が降 っ た。 オ ア フ 島の中央 に 横 た わ る コ オ ラ ウ 山脈 の 南東 に あ る マ ノ ア 渓谷 は， 他の地区 と 比べ る と 雨量が多 い。 し か し， 10月30 日は特異だ っ た。朝か ら 強い雨が降 り 続き， 午後6 時30 分 に は1 時 間 に12.5cm の 降 雨 量 を 記 録 し 注5) ， 地図1　マノアの洪水 1905年以来 の 観測史上最悪 の 集中豪雨 と な っ た。 （Honolulu Advertiser紙より許可を得て転載。日本語は 豪雨は流木や瓦礫 を マ ノ ア川 に 押 し 流 し， 橋脚の 筆者加筆）
  • 3. 358 情報 管理 Vol. 48 No. 6 September 2005 地図2　キャンパス内の鉄砲水の道筋 以上の泥が残 さ れ て い た。 翌日31日はハ ロ ウ ィ ー ク シ ョ ン， ハワ イ 大学図書館情報学部 （LIS） ， そ ン と 呼ばれ る 米国のお祭 り で， 子供た ち が仮装 し し て ス タ ッ フ 休憩室が あ っ た。 図書館関係者， 教 て， キ ャ ン デ ィ ー を も ら い に 各家 を 回 る 楽 し い年 員， 学生， 利用者な ど， 常 に100人近 く が利用す る 中行事で あ る。 そ のハ ロ ウ ィ ー ン 前夜 （イ ブ） に 職場で あ り ， 学問 の 場 だ っ た。 ま た， 普段 は 人目 起 こ っ た瞬時の災害だ っ た。 に 触れ る こ と は な い が， サブ地下 と 呼ばれ る さ ら な る 地階が あ り ， 1号館 と 2号館の電話 ? 電気 ケ ー 2.2. ハミルトン図書館 ブル と 制御装置， 館内冷房用の冷却装置が備え ら ハ ミ ル ト ン図書館は3つの建物が連結し た総合図 れて い た。 書館であ る。 地上3階， 地下1階の1号館は， 1968年 に 新築 さ れ た。 少 し 離れ た場所 に あ る シ ン ク レ ア 2.3. 図書館を駆け抜けた鉄砲水 図書館は1954年建造であ る。蔵書増加 に 伴い， 1977 鉄砲水 は ど の よ う に 図書館 を 駆 け 抜 け た の か， 年 に は2号館が1号館 に 隣接増築 さ れ， 地上5階， 地 関係者の話を総合 し て再現 し て み る。 下1階の大 き な建物 に な っ た。 3年前 に は， 念願の 10月30日土曜，ハ ミ ル ト ン図書館は午後6時に閉館 地上6階， 地下1階の3号館 （新館） が完成 し， 旧2館 し た。 保存部の職員1人が新館5階で残業 し て い た。 と 連絡橋で結ばれた。2号館部分の地階は幅6m， 深 旧館地階ではLISの授業が1ク ラ ス行われていた。LIS さ 約5mの コ ン ク リ ー ト 堀で囲 ま れてお り ， 傾斜 し の教室はAcquisitions の反対側の1 号館部分 に あ る た 立地 の 下方 に あ た る1号館部分地階 は 半地下 に （図2）。 午後7時30分ご ろ， キャンパス内の火災報知 な っ て図書館入口側の地上 に 面 し て い る。 そ れぞ 器が鳴 り ， LISの学生 と 教授はい っ たん外に出たが， れ採光の た め に 大 き な窓が付い て い る た め， 地階 警備員の許可が出て再び教室へ戻 り 授業を 再開 し で も 威圧感が なか っ た。3,900m2 の地下面積は多目 た。 そのこ ろ， 1mを越す泥水壁は生物医学セン ター 的 に 利用 さ れ て い た。 図書館管理プ ロ セ ス の中枢 を突き抜け， 図書館の堀に流れ込んでいた。 激流 と であ る コレ ク シ ョ ンサービスすべての部 水圧で地階の窓が割れ， 2号館Acquisitionsの後部に （Acquisitions, Gifts & Exchange, Catalog, Catalog あ る厚さ5cmの非常口用金属製扉が押し倒され， 館 System Services, Serials）， 10キ ャ ンパ ス図書館 と 他 内に激流が入 り 始めた。 変圧器はシ ョ ー ト し煙を上 の5教育機関のコ ン ピ ュー タ ネ ッ ト ワー ク を制御す げ全館停電し た。 オフ ィ スの壁はなぎ倒され， コレ る コ ン ピ ュ ー タ サーバ室， 政府刊行物， 地図 コ レ ク シ ョ ンサービスすべての部 と コンピュータサーバ
  • 4. 359 特集：情报管理と灾害対策 ●楽園を襲 っ た 「ハロ ウ ィ ーン イ ブ鉄砲水」 図2　地階の構造および鉄砲水侵入口(矢印) 室は， 登録処理中の何万 と い う書籍 ? 文献も ろ と も， な業務用ご み収集箱がい く つ も 浮い て い る のが見 注6) 2mか ら4m の濁流に埋没し た。 エレベータ の ド ア え た。 職員 は引 き 返 し1号館1階の一般出入口 に 行 は もぎ取 ら れた。 何百キロ もの重さの地図ケースは く と ， 警備員が火災報知器を止め よ う と し て い た。 押し流され， 23万枚の地図コレ ク シ ョ ンは泥水に飲 そ こ に は地階のLIS に 続 く 階段があ る。階段の そば み込まれた。 1907年以来， 寄託図書館 と し て収集 ? に 立 っ て い る と ， 館内の電気が点滅 し， 下方か ら 保存を続けてきた政府刊行物部も書架のほ と んどが 濁流の音が し， LISの通用口 に ぶつか っ て い く のが なぎ倒され， か ろ う じ て残っ た書架も上段のみを残 見 え た。 そ の瞬間真 っ 暗 に な っ た。 職員が警備員 し てすべて泥水に浸かっ た。 と と も に 図書館の外 に 出 る と ， 焦げ た臭い が一面 一方，LISの授業は再開 し たが，すぐ に教室が真 っ に 立 ち 込め て い た。 図書館入 り 口近 く の石階段の 暗 に な っ た。 停電の回復 を 待 っ て い る と ， 突然泥 上 に い る と ， 下方か ら 半地下の窓を た た く 音が し， 水が教室 に 入 っ て き た。 学生19人 と 教授 は， 学生 次 に ガ ラ ス が割れ， そ こ か ら LISの学生が這い出 し の持つキーチ ェ ーン に 付い て い た小 さ な電燈 を 照 て く る のが見え た。すで に 雨はやんでい た と い う。 ら し なが ら 教室の外 に 出た が， 「バーン」 と い う 音 が し， さ ら に 濁流が押 し 寄せ て き た 注7)。 家具や壁 3. 対応（Response） が倒れ る よ う な音が し， LIS通用口扉が水の勢い で 反対方向 に30セ ン チ ほ ど 押 し 開 き， そ こ に 瓦礫が 3.1. 災害直後：10月30日，土曜日夜 詰 ま り 始め て い た。学生の1人が ス チールの イ ス を 図書館関係者の中で最初 に 「異変」 連絡 を 受け 掴み，半地下の窓に数回た た き つけ窓ガ ラ ス を割 っ 取 っ た の は， 館内PC ? ネ ッ ト ワー ク 管理部 （DNS: た。 学生全員は ひ と り ひ と り そ こ か ら 地上 に 這い Desktop Network Services） の部長だ っ た 注9)。 前述 出 し た。 最後 に 教授が出 た と き に は すで に 水は背 し た が， ハ ミ ル ト ン 図書館 に は10キ ャ ン パ ス 図書 丈を越え る 高 さ に な っ て い た 注8)。 館 を 制御す る コ ン ピ ュ ー タ サーバ室が地階 に あ っ 新館5階 に い た保存部の職員は， 火災報知器の音 た が， 図書館内の コ ン ピ ュ ー タ と ネ ッ ト ワ ー ク は を 聞 き1階 に 降 り ， 連絡橋 を 渡 っ て2号館後部 に あ DNSが管理 し てお り ， オ フ ィ ス は2号館1階 に あ る。 る 職員専用口 に 行 っ た。そ こ か ら 新館 と 2号館の間 サーバ室 と DNSオ フ ィ ス に は セ ン サーが あ り ， 異 に あ る 資料搬入出用のプ ラ ッ ト ホーム を 通 っ て外 常が発生 し た際 に は， 登録 さ れ て い る 番号 に 自動 に 出 る こ と がで き る。 職員が専用口の扉 を 開け る 的に電話連絡が行 く よ う にプロ グ ラ ム されてい る。 と ， 泥水が1mのホーム の高 さ ま で来てお り ， 大き サーバ室 の セ ン サー は 電気， 気温， 騒音， 水 に 関
  • 5. 360 情報 管理 Vol. 48 No. 6 September 2005 す る 異変 を 感知す る よ う に 設定 さ れ て い た が， セ つ つ， 今後の対応 に つ い て 対策 を 話 し 合 っ た。 地 ン サーが稼働す る た め の時間が な か っ た のか， シ 元の災害復旧会社1社 と 連絡が取れ， 午前2時 に 図 ス テ ム部の誰も こ こ か ら の連絡を受信 し なか っ た。 書館前で落 ち 合い， 必要機器の見積 も り を 立 て て DNSの セ ン サーは， 電気の異常だ け を 感知す る よ も ら え る こ と に な っ た。ま ずは翌日の朝7時集合を う 設定 さ れ て い る。 災害の夜， 停電 を 察知 し た セ 約束 し， 全員が帰宅で き た時は すで に 翌日日曜の ン サー はDNS部長 に 電話 し た。 連絡先か ら 受信の 午前3時を 過ぎ て い た。 確認コー ド を 受け取 る ま で， 1人 に4回 ま で連絡 し， 次の登録番号を試す よ う に設定 さ れて い たが 注10)， 3.2. 災害翌日から2か月間の対応 部長 は 在宅 し て お り ， 受信 を 確認 し， す ぐ に キ ャ 翌日10月31日， 日曜 は， ハ ワ イ ら し い 晴天 の 日 ンパ ス 近 く に 住む同部の技術者 に 調査す る よ う 依 だ っ た。関係者が集合 し， 被害状況を視察 し た。マ 頼 し た。 部長 は こ の時点で は， 停電状態が発生 し ノ ア校校長 は， 大学災害対応委員会 を 設置 し， 早 た こ と は知 っ た が， そ の夜10時ご ろ こ の技術者が 朝か ら 対策会議 を 開い た。 図書館館長 を 含む被災 連絡 を返す ま で， 詳細は分か ら なか っ た。 施設の学部長が集 ま り ， こ の日は3時間ご と に 会議 次 に 連絡を 受け た の は， 保存部部長だ っ た。1人 を持 っ た （翌日以降は1日3回）。 被災 し た こ と で は で残業 し て い た保存部の職員は， LISの学生 と 教授 共通 し て い る が， 被災の度合い， 必要 と す る 対応 が全員無事な こ と を 確か め た後， 携帯電話で部長 は各学部で異な る 注12)。以後， 館長は， 図書館の被 宅 に 連絡 し た が， 本人 と は 話せず， 留守番電話 に 害対応 を 指揮す る だ けで な く ， 大学関係者 と の交 伝言 を残 し た。部長は6か月間の研究休暇の半分を 渉， 橋渡 し， 他学部 と の 連絡 ? 協力， ま た 後日 に 過ぎ た時だ っ た。 は， 契約会社 と の交渉 ? 連絡 も 担 う 多忙 な日々 を LISの教授 は， 鉄砲水で車が大破 し た 学生1人 を 過ご す こ と に な る。 す で に 大学幹部 に は， 米本土 家 ま で送 り ， 自宅 に 戻 っ て か ら LIS学部長 に 事の次 の災害復旧会社数社か ら 復旧請負の引 き合いが来 第を 報告 し た。図書館館長 に 連絡す る よ う 依頼 し， て い た。こ こ で は災害か ら 2か月間の対応を項目ご 着替え た後， 再びキ ャ ンパ ス に 向か っ た。 と に 紹介す る。 館長は， LIS学部長か ら の電話 を受け災害発生を 3.2.1. 災害対応チームの設置と対応目標 知 っ た。午後9時 に 近か っ た。 キ ャ ンパ ス 近隣 に 住 ま ず館長は， 総務責任者 に 実務担当者 を 加え た む館長は， 直 ち に 図書館 に 向か っ た。 図 書 館 災 害 対 応 チ ー ム （DRT: Disaster Response 大学周辺 は す で に 立 ち 入 り 禁止 に な っ て い た。 Team） を設置 し， 対策会議 を通 し て対応活動 を決 館長 は そ の場でDNSの技術者 と 遭遇 し， 包囲網 を 定 し， 指揮 を任せ た。目標は， (1)職員 ? ボ ラ ン テ ィ く ぐ っ て図書館 に た ど り 着い た。 真 っ 暗な地下 に ア の安全確保， (2)災害の状況把握 と 記録， (3)被災 降 り て い く と 注11)1m近 く 泥水が残 っ て お り ， 壊滅 文献 ? 機器の救出対策お よ び二次災害の防止， (4) 的被害 を 受け た こ と が分か っ た。 館長は い っ た ん 広報活動， (5)基本的な利用者サービ ス 機能の早期 自宅 に 戻 り ， 直 ち に 副館長 に 連絡 し， 緊急時連絡 回復， と し た。 全米研究図書館協会 （Association of 網 を 使い総務関係者 に 連絡す る よ う 指示 し た。 次 Research Libraries） が， 1997年 に 大洪水の被害 を経 に 休暇中であ っ た保存部部長宅 に 電話す る と ， 部 験 し た コ ロ ラ ド 州立大学図書館関係者 と の連絡 を 長は すで に 職員が残 し た伝言か ら 事態 を 把握 し て 取 っ て く れ た。 館長は コ ロ ラ ド 関係者か ら 貴重な お り ， 対処策 を 簡単 に 話 し 合 っ た 後， 図書館で落 指示 ? 助言 を 得 る こ と が で き， ま た 彼 ら が そ の時 ち 合 う こ と に し， 再度キ ャ ン パ ス に 向か っ た。 そ の体験を つ づ っ た600ページ も の 「図書館災害計画 の夜キ ャ ンパス に集合 し た図書館関係者は9人だ っ と 復旧ハン ド ブ ッ ク」 注13) を購入 し， 責任者全員 に た （図書館IT最高責任者， 保存部部長， 保存部部 当該事項 を読 ま せ， 準備 さ せ た。 長代理， DNS技術者， 図書館施設管理官， 政府刊 3.2.2. 職員?ボランティアの健康と安全確保 行 物部 部長 お よ び ス タ ッ フ） 。 し ば ら く す る と ， 人員の健康 と 安全の確保は最優先 し な ければ な キ ャ ンパ ス を 視察 し て い た マ ノ ア校校長 に 会 っ た ら な い。こ の点では， 迅速 に 対応で き た も の と ， 後 の で， 資料の凍結乾燥用の大型冷凍装置 と 除湿機 手 に 回 っ て し ま っ た 対応が あ っ た。 耳栓， ゴ ム 手 が直 ち に 必要で あ る こ と を 告げ た。 校長は そ の場 袋， マ ス ク 等備品の配布 は 迅速 に 行わ れ た。 手洗 で， 必要な機器を そ ろ え る よ う 許可 し た。 い の実行や水分補給への注意 も 早 く か ら 勧告 さ れ そ の後， 図書館関係者全員は館長宅 に 場所 を 移 た。 ま た ボ ラ ン テ ィ ア に よ る マ ッ サージセ ラ ピー し， 大型冷凍装置， 除湿機， 発電機等 の 手配 を し も 提供 さ れ， 疲れ た 筋肉 を ほ ぐ し て く れ た。 心の
  • 6. 361 特集：情报管理と灾害対策 ●楽園を襲 っ た 「ハロ ウ ィ ーン イ ブ鉄砲水」 ケ ア も 早か っ た。 職員の中 に は， 災害後の心的外 百 に も 及ぶ記録写真 ? ビ デオ は， 後日保険会社 と 傷後 ス ト レ ス 障害 （PTSD） の 兆候が見 ら れ た。 5 の交渉やFEMAへ提出す る 災害補償金手続 き に 欠 日後 に は専門家 を 招 き， ス ト レ ス 解消の た め の グ く こ と ので き な い実態証拠 と な っ た。 ループセ ッ シ ョ ン が行われ， そ の後 も 継続 さ れた。 3.2.4. 二次災害の防止 個人的 に セ ラ ピーが必要な者 に は機会が設け ら れ 災害直後 に 連絡が取れた地元の復旧会社か ら 翌 た。 日早朝 に は， 除湿機， ポ ン プ， 小型発電機が持 ち 後手 に 回 っ て し ま っ た ケー ス と し て は， 破傷風 込 ま れ， 保存部部長 と 図書館施設管理官 を 中心 に や肝炎の予防注射が叫ばれ始め た のが， 泥 ま みれ 直 ち に カ ビ防止対策が講 じ ら れ た。 年中暖か いハ に な っ て作業 し 終わ っ た後だ っ た と い う こ と があ ワ イ で は24時間冷房が必須で あ る。 冷房機能がマ る。1か月後 に は生物医学セ ン タ ーの教授が， 災害 ヒ し， 空気の循環が な い環境で は24～48時間以内 時の汚水か ら レ プ ト ス ピ ラ 症 に 感染 し た こ と が明 に カ ビ が発生す る と い う。 早急 に 湿度 を 下げ， 上 ら か に な り ， 不安が広 ま っ た。 地階 に カ ビ が発生 階への二次災害 を 防が な ければ な ら な い。 各階 に し た後は， カ ビ の分析 を し て く れ る 機関 を 探す の 数台除湿機 を 備え， 業務用大型送風機が設置 さ れ に 時間 を 要 し た。 さ ら に， 皆が シ ョ ッ ク を 受け て た。 ま た， 地階 と 1階の連絡口はプ ラ ス チ ッ ク シー い る 間 に， 「火事場泥棒」 が現れ， 私物が地階の瓦 ト で密封 さ れ た。 通常， 館内の温度 は 摂氏18度 に 礫の中の机か ら 盗 ま れ る 事件が発覚 し， 職員が交 保 た れ て い た が， 災害後 は30度以上 に な っ た。 し 代で警備 を す る こ と に な っ た。 多 く の施設が被災 か し 湿度 を50％ ま で下げ る こ と がで き， 上階で の し 警備が手薄 に な っ た時 を 狙われ た の であ る。 こ カ ビ防止の緊急対策が講 じ ら れた。災害1週間後 に の職員 に よ る 臨時警備体制は大学警備員の増員が は， 復旧会社が調達 し た大型除湿装置， 冷却機， 中 で き る ま で続け ら れた。 型発電機が到着 し， 全館内 に プ ラ ス チ ッ ク の送風 3.2.3. 被害の確認と記録 ダ ク ト が張 り 巡 ら さ れ （図4） 上階は ほぼ安定 し た こ の大災害で幸運だ っ た こ と は， 人的被害が な 環境 と な っ た。 か っ た こ と であ る。し か し 地階は瓦礫の山 と な り ， 3.2.5. 被災図書?文献の救出 あ り と あ ら ゆ る と こ ろ に 泥水が溜 ま っ て い た （図 「48時間が勝負」 と 保存部部長は告げ た。地元の 3）。 DRT と 館長の呼びかけで災害翌日早朝か ら 有 船舶運送会社の厚意で大型冷凍 コ ン テナ機が2機， 志た ち が被害状況の詳細な写真 を 撮 り 始め， 今日 地階非常口近 く に 運ばれ た。 ま た 屋外 と ， 被害 を に 至 る ま で継続 し て い る。 ま た， 他キ ャ ン パ ス の 免れ た 新館の数か所 に 仮作業所 を 設け た。 救出被 同僚 も 駆けつけ， 詳細なデジ タ ル記録を つ づ り ， 3 災文献は， か ろ う じ て 書架の上段 に 残 っ た政府刊 日後には災害Webページを立ち上げて く れた<http:/ 行物， キ ャ ビ ネ ッ ト に 保存 さ れ て い た貴重地図類 /www2.hawaii.edu/~smurata/flood/>。 のWebページ こ と 希少航空写真 を 対象 と し た。 政府刊行物は ま ず の写真は全世界 に 発信 さ れ， 多 く の人た ち に 災害 の実情 を 映像で知 ら せ る こ と がで き た。 ま た， 何 図3　被災した地階（コレクションサービス） 図4　図書館の外から挿入された送風用ダクト S. Murata撮影 S. Tokairin撮影
  • 7. 362 情報 管理 Vol. 48 No. 6 September 2005 ワ ッ ク ス 紙 に 包み箱詰め に し， 直接冷凍機 に 入れ 実践 に は個人差があ り ， ま たCDやZip に バ ッ ク ア ッ 状態 を 安定 さ せ る。 地図 と 航空写真は一枚一枚水 プ し て い た者 も， そ れ を 自分の机の引 き 出 し やオ 洗い し， 泥 を 落 と し て か ら ロ ープ に つ る し て 自然 フ ィ ス に保管 し てい た。災害を経験 し てバ ッ ク ア ッ 乾燥 さ せ る。 泥 ま みれ に な っ て文献 を 地下か ら 取 プの大切 さ と 別地保管の重要性が再認識 さ れ る こ り 出 し て く る チ ー ム， 箱詰 め， 洗浄， 運搬， つ る と と な っ た。 コ レ ク シ ョ ン サービ ス は図書館機能 し な ど， 小グループ を編成 し て の肉体労働であ る。 の中枢 と な る 部署で あ る。 職員のハー ド ド ラ イ ブ 職員 と ボ ラ ン テ ィ ア が一緒 に な っ て 作業 し， カ ビ に は図書館機能 に 必要なデー タ ベー ス 等が入 っ て の発生 ま で に， 地図 コ レ ク シ ョ ン の20% に あ た る い る。 ま た， 研究論文や研究デー タ， 統計 な ど も 3万3,000枚， 9万1,000枚の航空写真， 政府刊行物の 蓄積 さ れ て い た。 DNS はIT責任者 の 指導 の下， 職 5% と な る14万点 を救出す る こ と がで き た。後日 こ 員PCのハー ド ド ラ イ ブ を泥の中か ら 取 り 出 し， 泥 れ ら の多 く はテキサス州に あ る 修復会社に送 ら れ， を 洗い流 し て ド ラ イ ブ部分を 取 り 出す作業 を 開始 処理が行わ れ て い る。 ま た 州外， 海外か ら 補修専 し た。 PCの中 に は押 し 流 さ れて， か な り 離れた場 門家が訪れ， 保存部内で補修， 復旧作業場 を 設け 所で見つ か っ た も の も あ っ た。 後日， 地階の清掃 修復活動 を 指導 し た。 ま たハ ワ イ 州の修復関係者 が進む に つれ， 瓦礫 に 埋 も れたPC も 除々 に 救出 さ を対象 に 講習会 も 行われた。 れ，最終的 に は100台近 く のPCを泥の中か ら 取 り 出 3.2.6. コンピュータサーバの再構築 す こ と が で き た。 損傷 が 激 し い よ う に 見 え た が， ハ ミ ル ト ン図書館の コ ン ピ ュ ー タ サーバ室は全 取 り 出 さ れた ド ラ イ ブ を デー タ 回復会社 に 送 り ， 1 壊 し た。マ ノ ア校だけでな く ， 制御下 に あ っ た9大 ～2か月後に は職員PCのデー タ の80%を回復す る こ 学図書館， ハワ イ 医療図書館な ど， 5教育機関の図 と がで き た。 書館シ ス テ ム も 使用不可能 と な っ た。 ハワ イ 大学 3.2.8. 復旧会社の参入 の学生だけで も5万人以上 に 影響 し， 目録， 図書注 地階の被害状況は ど こ か ら 手 を つけ て よ い のか 文， 貸 し 出 し 等， 全図書館機能がマ ヒ し て し ま い， 分か ら な い ほ ど 酷い状態だ っ た。 サブ地下 に は38 購読 し て い る300 の 電子 リ ソ ー ス も 利用 で き な く 万 リ ッ ト ル も の泥水が溜 ま り ， 旧2館の電気 ? 冷房 な っ た。 サ ーバ の 日々 の バ ッ ク ア ッ プ テ ー プ は， 機能は壊滅状態だ っ た。 大学幹部は すばや く 本土 マ ノ ア校キ ャ ンパス の数か所に保管されて いたが， の復旧会社 と 契約 し， 清掃一切 を 含む被害対応 を それ ら の施設 も 被災 し た た め， 災害翌日後半 に な 請け負 わ せ る こ と に し た。 こ の会社 は， 2001年の る ま で， ど の テープが読み取 り 可能な のか分か ら 9.11同時多発テ ロ 後の被災地清掃 を 請け負 っ た 経 な い状態だ っ た。 験 が あ り ， 会社担当者 が 直 ち に 本土 か ら 飛来 し， ITチーム は ま ずサーバ室の代替場所 を 探す こ と 必要な作業人員は地元で雇い， 大型機器すべ て も か ら 始 め ね ば な ら な か っ た。 老朽化 し て い る が， 米本土か ら 運び込 ま れ た。 サブ地下か ら 泥水 を 廃 被災 を 免れた シ ン ク レ ア図書館内の冷房設備があ 棄処理す る だけで2週間以上かか っ た。早朝か ら 保 る2階を仮サーバ室 と す る こ と に し， すべて の電話 護服 に 身 を 固め た50人余 り の作業員が瓦礫 を 運び 回線 を 迂 （う） 回 さ せ， ネ ッ ト ワ ー ク 用 の ソ ケ ッ 出 し， 壁 のパ ネ ル， 天井， 床 の リ ノ リ ウ ム を す べ ト を 整え た。 そ し て カ リ フ ォ ルニア州のサ ン マ イ て は が し， 床 か ら 天井 ま で 清掃 し 消毒 を 施 し た。 ク ロ シ ス テ ム社か ら 図書館シ ス テ ム の借用サーバ 地階の清掃 に は2か月を要 し， 空調ダ ク ト 内の清掃 を空輸 し て も ら う 手続き を し た 注14)。同時 に 米本土 を終え た の は年明け て2005年の1月末だ っ た。 のデー タ復旧会社にバ ッ ク ア ッ プテープを空輸 し， 3.2.9. コミュニケーションとメディア対応 デー タ 回復作業 を 依頼 し た。 後日， バ ッ ク ア ッ プ い つ の時 に も ス タ ッ フ 間の コ ミ ュ ニケーシ ョ ン テープのデータ99％が回復可能であ る こ と が分か っ は大切な も の であ る が， 大災害の際 に は日常の伝 た。借用サーバが空輸 さ れて来た の は依頼か ら2日 達方法が遮断 さ れた環境で， 120人以上の職員間の 後であ っ た。ITチーム は文字 ど お り 寝食を 忘れて， コ ミ ュ ニケーシ ョ ン を 維持 し て いか な ければ な ら 仮サーバ室でのサーバ再構築 と ， デー タ の回復 に ず， 容易 な こ と で は な い。 情報の欠如 は憶測や流 専念 し た。 言 を 生み， ス タ ッ フ の不安 を 増 し， さ ま ざ ま な 支 3.2.7. 職員のPC救出 障 を 来す こ と に な る。 館長 と DRT メ ン バー は多様 ハ ミ ル ト ン図書館ではLANを利用 し た職員用PC な方法を 用い て こ の難 し い課題 に 挑戦 し た。 の集中バ ッ ク ア ッ プ体制が な か っ た。 各人が自分 ま ず， 職員専用通用口近 く に 机 を 置 き， ス タ ッ のハー ド ド ラ イ ブのバ ッ ク ア ッ プを し て いた ため， フ を 常置 し て 連絡本部 と し た。 そ の横 に あ る 掲示
  • 8. 363 特集：情报管理と灾害対策 ●楽園を襲 っ た 「ハロ ウ ィ ーン イ ブ鉄砲水」 板 に は連絡事項， 伝達 メ モ な ど を 掲示す る。 館内 サービ ス 再開への対応が迫 ら れ た。 幸い こ こ で も では携帯電話 も 使え な い た め 注15)， 掲示 ? 伝言板は 被災 を 免れた新館 と シ ン ク レ ア図書館の設備 を 最 基本的な情報伝達手段 と な っ た。2日後か ら は， 午 大限 に 活用す る こ と に な っ た。災害か ら 5日目 に は 前 と 午後 に 全職員の集会を行 っ た 注16)。刻々変化す ITチームの努力で図書館のホームページが再開 し， る 情報 を 伝え る た め と ， 質疑応答 を 直接行 う た め 図書館サービスの最新状況を発信でき る よ う にな っ であ る。 た。 本の返却は シ ン ク レ ア図書館で手動で行 う よ 利用者サービ ス 局長の発案で始め ら れ た災害 う 設定 し た。 ま た， 返却期間 も 延長 し， 遅滞罰金 ニュース レ ターの発行も4日後に始ま っ た。Appriser も 免除す る こ と と し た。8日目 に は， 読み出 し 専用 注17) と 呼ばれ る ニ ュ ー ス レ タ ー は 災害 に 関す る 情 （read only） であ る が， 災害前日 ま でのデー タ 回復 報を毎日記録 し た も ので， 12月 ま で は副館長が， 1 がで き た図書館シ ス テ ム を 稼動 さ せ る こ と に 成功 月か ら 現在 ま で は コ レ ク シ ョ ン サービ ス 局長が執 し， 利用者はOPACで所蔵検索 を す る こ と がで き る 筆 し て い る。 そ の日 に 進展 し た こ と ， DRT委員会 よ う に な っ た。 こ で人員を動員し，手動でのpaging そ や他の小委員会の議事録， 全職員集会の要旨な ど （図書出納） サービ ス を 新館1階で開始 し た。 利用 を 詳細 に 記録 し， 翌日の朝 に は コ ピー を 連絡本部 者は新館 に 設置 さ れた仮カ ウ ン タ ー に 出納依頼申 で受け取 る こ と がで き た。 ま た， 電子 メ ールが復 込書 を 提出す る。 それ を 基 に 職員 と 学生アルバ イ 旧 し て か ら は， そ の日の夜 に メ ールで も 伝達 さ れ ト が リ ュ ッ ク を 背負い， 懐中電灯 を 片手 に 書架 に 始め た。すで に200ページ以上 に な るAppriserは， 職 行 き， 依頼文献 を運び出す， と い う も のであ る。エ 員への情報伝達手段だ けで な く ， ま さ に 日々刻々 レ ベー タ ー も 使え な い， 真 っ 暗な書架での作業で を記 し た災害記録 ド キ ュ メ ン ト と な っ て い る 注18)。 あ る。 ま た， こ の 仮 カ ウ ン タ ーで， 職員が交代で 「ハ ロ ウ ィ ーン イ ブ鉄砲水災害」 は地元 メ デ ィ ア レ フ ァ レ ン ス サービ ス も 提供 し， 少 し ずつ利用者 を 中心 に 対外的 に も 注目 さ れ た。 災害直後や翌日 サービ ス の種類 も 増や し て い っ た。 11月末 に は借 の早朝 に は， 新聞， テ レ ビ の取材陣が押 し 寄せ た。 り サーバを利用 し てのITシ ス テ ムが完全に回復 し， 大学だ けで は な く ， 図書館 と し て も メ デ ィ ア対応 paging も オ ン ラ イ ン で リ ク エ ス ト で き る よ う に な が必要であ っ た。 災害対応の陣頭指揮 を 執 る 館長 り ， サービ ス 利用時間帯 も 大幅 に 拡張 さ れ た。 ま は， 当館 に 来て3年であ り ， 日々対策会議や外渉で たILL ? Document Delivery サービ ス も 再開 さ れた。 缶詰め状態だ っ た。 そ こ で， 館長の次 に 図書館 を pagingの依頼は1日平均600～700件， 最高は1,200件 代表 し て正確な情報 を 発信す る こ と がで き る 大役 で あ る。 完璧で は な い が， 文献への ア ク セ ス がで に は， 30年以上の勤続経験の持 ち 主で， 過去 に も き る よ う に な っ た。 ス ポー ク ス パーソ ン の経験 を 持つ副館長が選ばれ た。 図書館の詳細 に 精通 し て い る 副館長は突然の 4. 復旧(Recovery)段階へ イ ン タ ビ ュ ー に も 的確 に 対応 し 大役を果た し た。 ま た， 報道陣 と の連絡， 大学PR課 と の調整， 対 災害後1か月を過ぎ る こ ろ （12月上旬） か ら 復旧 外情報発信 ま と め役兼一括窓口役 に は， 総務部PR への準備が始 ま っ た。 サブ地下の被災状況がひ ど 担当者が任命 さ れ た。 報道陣 を 被災場所 に 案内 し く ， 旧2館の電源を 再構築す る に は， 1年半～2年か た り ， プ レ ス リ リ ース を準備す る こ と は も ち ろ ん， か る こ と が明 ら か に な っ た。 そ の間の電源は大型 以前報道機関で働い た経験の あ る こ の職員は， 州 コ ンテナ級の発電機2台を外部に備え付けて供給す 民の理解 と 支援 を 得 る た め に， な る べ く 図書館災 る こ と に な っ た （図5） 。 し か し ハワ イ に は こ の規 害のニュースが地元紙の1面に載 る よ う 努力 し た と 模の発電機が な い た め， 米本土か ら 取 り 寄せ な け い う。最初の7日を過ぎ る と 失われて い く と い う ア れば な ら な い。 旧館の停電状態 は， そ れが届 く ま メ リ カ人の報道への関心 を 持続 さ せ る た め に， 周 で解消 さ れな い。100人以上の職員が働け る 場所 を 期的 に 話題性のあ る ニ ュ ー ス を タ イ ミ ン グ よ く 流 用意す る こ と が急務で あ る。 そ こ でDRTの下 に 臨 す必要があ る。 図書館災害関係のニ ュ ー ス は地元 時小委員会 （職員仮事務所検討， 臨時役割分担 ? 新聞 ? TVで取 り 上げ ら れ， 州民 に 広報 さ れた 注19) 。 作業検討， 家具 ? 備品類調達， 職員の健康管理， 治 3.2.10. 利用者サービスへの対応 安 ? 安全管理， 広報， 職員のモ ラ ル向上促進等） を 災害発生は秋学期終了の1か月半前だ っ た。ハワ 結成 し 準備 を 進め る こ と と な っ た。 地階再構築の イ 州最大の研究図書館の利用がで き な く な っ た学 案 を 検討す る た め の委員会 と 全職員参加の再構築 生 ? 研究者の不安 は計 り 知れ な い。 早急 に 利用者 構想会 も 開かれ る こ と に な っ た。 ま た， 災害復旧
  • 9. 364 情報 管理 Vol. 48 No. 6 September 2005 図5　大型発電機　筆者撮影 請負会社 も， 環境の正常化 を 専門 と す る 会社が新 4.2. 災害復旧費用 た に 加わ り ， 清掃が完了 し た 後 は， こ の会社が中 大型発電機の稼動 に は， 借用料 と 燃料 を 合わ せ 心 に な り 復旧活動 を す る こ と に な っ た。 災害への て1日70万円以上かか る。マ ノ ア校全体の復旧 に は 緊急対応段階か ら 長期復旧へのマラソン段階へ入っ 約81億円かか る と 推測 さ れ て い る。 ハ ミ ル ト ン 図 た のであ る。 書館の復旧 に は， 20億円以上が必要であ る と 予想 さ れ る。災害保険か ら 25億円が下 り ， FEMAか ら31 4.1. 日々変化する環境 億円の補助金交付が決定 さ れ た。 残 り 25億円は州 12月下旬 に な る と ， ほ ぼ全員が新館， シ ン ク レ 政府か ら の捻出 に な る と い う。 膨大な金額で あ る ア図書館， ま た はキ ャ ンパス 内の別施設 に 移動 し， が， こ れ に は 研究中断 に よ る 知的収入 の 損失 や， 徐々 に 仕事 を 再開 し た。 年が明け て か ら は待望の 再購入や代替が不可能な文献の被害相当額は含 ま 大型発電機が届 き， テ ス ト が繰 り 返 さ れ た。 冬休 れ て い な い。 救済で き な か っ た政府刊行物文献は み明けの1月10日 に は，全体の1/3の文献を所蔵す る 280万点 に 及ぶが， そ の中 に は， ハワ イ 王朝時代の 新館全館 を 利用者 に 開放す る こ と がで き， 確実 に 文献や戦後日本や沖縄 に 駐留 し た米軍軍事関係文 復旧が進展 し て い る あか し と な っ た。1月末 に は発 書， 戦時中日系人収容所で発刊 さ れ た 印刷物， 歴 電機か ら2号館への電源供給が可能 と な っ た が， 1 史的な太平洋航海図な ど， 貴重文献が多 く 含 ま れ 号館への供給 と 7台のエレベー タ の う ち2号館の3台 て い た。 た く さ ん の古地図 も16万枚以上の地図類 だけが稼動で き る よ う に な る の は， 3月 ま で待たね と と も に 失われ た。 ア ジ ア コ レ ク シ ョ ン 関係は約 ば な ら な か っ た。 よ う や く 旧館 に 職員が戻 り ， 全 1万点以上が失われた が， 地元日系人 を は じ め， 初 館開館 に た ど り つ い た の は災害後5か月た っ た3月 期のハワ イ 移民の家族か ら 寄贈された文書や資料， 末 だ っ た。 そ れ ま で 開館へ の 準備 で 明 け 暮 れ た。 太平洋諸島やアジア諸国を回 っ て集めた文献な ど， 発電機の電気は不安定な た め， すべ て の精密機器 購入や代替で き な い も のが多 く あ っ た。 こ れ ら は （特 に コ ン ピ ュ ー タ 類） に は無停電電源装置 （UPS: 価値判断が難 し く ， 明確 に 金額 を は じ き 出す こ と Uninterruptible Power Supply） を付け た。ま た， 自動 が で き な い た め， 災害保険やFEMA の 損害補償 の 火災報知器が稼動す る ま での手動 に よ る 火災 ? 緊 対象 と は な ら な い。2月 に 主要災害宣言を受け て以 急事態対応の準備 も 行 っ た。 し か し， 開館後2週間 来FEMAか ら 担当官 が視察 ? 指導 に 来館 し て い る 余 り の間 に 起 こ っ た放火 に よ る20件のボヤ騒ぎ は が， 提出 を 義務付け ら れ た 緻 （ち） 密 な 書類 の 山 皆 を 震撼 （し んか ん） さ せ た 注20)。 事件 を 公 に し， は高 く な る ばか り であ る。 警備員 を 増や し， モニ タ ー を 導入す る こ と で事件 の拡大を食い止め る こ と がで き た。 5. おわりに 「災害か ら の教訓」 を ま と め よ う と 思 っ たが保留
  • 10. 365 特集：情报管理と灾害対策 ●楽園を襲 っ た 「ハロ ウ ィ ーン イ ブ鉄砲水」 す る こ と に し た。 現在 ま だ災害復旧作業の真 っ た 者サービ ス 局長 は， 積み重 な る 肉体的 ? 精神的 ス だ中 に い る か ら であ る。 ハ ミ ル ト ン 図書館 に は防 ト レ ス か ら， 災害1 か 月後 に は 局長 の 職 を 辞任 し 災計画書 が あ り ， 災害対応準備委員会 も あ っ た。 た。 十分 に 責任 を 果 た す だ け の体力 と 気力が消耗 熟知 し た 指導者 も お り ， 振 り 返 っ て み る と ， 実践 し て し ま っ た， と 後日語 っ て い る。 間一髪避難 し し た対応は ガ イ ド ラ イ ン に 近い も のであ っ た よ う たLISの学生の う ち3人は単位習得 を保留 し， 1人は に 見え る。 し か し， こ れ だ け の大災害がひ と り ひ 中退 し た。 水 の 音 を 聞 く た び に 災害 を 思 い 出 し， と り に 及ぼす影響は ま だ未知数であ る。「次か ら 次 勉学 に 集中で き な い と い う。 前述 し た州立 コ ロ ラ と 新た な局面が発生 し， そ の場で重大な決断 を し ド 大学図書館の人た ち は 「すべて が正常 に 戻 っ た， な ければ な ら ず， そ の時は妥当だ と 思 っ て 下 し た と 感じ始めたのは2003年 く ら いか ら だ っ た」と ，語っ 判断が， 後 に な っ て み る と 悔や ま れ る こ と があ る」 て い る。災害か ら 実 に6年後であ る。ハ ミ ル ト ン図 と ， 語 っ た の は ひ と り だ け で は な か っ た。 大災害 書館の災害復旧マ ラ ソ ン は ス タ ー ト を 切 っ た ばか 後， 10日目 に はpagingサービ ス を 始め， 5か月で全 り で あ る。 日本 を は じ め， 多 く の友人か ら 暖か い 館開館 を 達成 し た 背後 に は， 多 く の努力 と 英雄的 支援 を 頂い た。 そ れ に 応え ら れ る よ う な レ ー ス を 行動が あ り ， 指導力が発揮 さ れ た。 一方， 一触即 展開 し， 我々の体験が共通の教訓 と な っ て生か さ 発の状況 も あ っ た。 災害対応 に 奔走 し て い た利用 れ る よ う 期待 さ れ よ う。 本文の注 注1) 災害直後は開催のめ ど が ま っ た く 立 っ て い なか っ 注11) 警備員は地階 に降 り な い よ う 警告 し た。 技術者は た 「図書館の至宝展」 は， 大学アー ト ギ ャ ラ リ ー 真 っ 暗で階段下方が水中下 に あ る こ と が見 え ず， で災害1周年 と な る 今年9月18日か ら11月8日 に 行 足を滑 ら せ て右足首を骨折 し た。 われ る こ と と な っ た。当初展示が予定 さ れ て い た 注12) 例えば生物医学セ ン タ ーでは実験を保護す る ため 政府刊行物の貴重文献 は 破壊 さ れ て し ま っ た が， に 大量の ド ラ イ ア イ ス を 必要 と し た。 最終的に 選別 さ れた300点以上の展示品の中に は， 注13) ALIRE, Camila, ed. Library Disaster Planning and 泥の中か ら 救済 さ れ， 見事 に 修復 さ れ た貴重地図 Recovery Handbook. New York, Neal-Schuman, 2000, ５ 枚が含 ま れ て い る。 614p. 注2) FEMA. “Total Major Disaster Declarations.” (online), 注14) サーバの契約書に は， 緊急事態に おけ る サーバの available from <http://www.fema.gov/library/ 無料提供が明記 さ れ て い る。 dis_graph.shtm >, (accessed 2005-06-23). 注15) 災害の影響では な く ， 館内では も と も と 携帯電話 注3) 大統領の災害宣言は実際に災害が起 こ っ た日では 間の電波受信が難 し い。 な い。 マ ノ ア 鉄砲水災害 の 大統領宣言 は2005年2 注16) 1 日 2 回の集会は被災後 9 日間行い， 以後は 1 月まで 月7日 に 出 さ れた。 午前1回， ほぼ毎日継続 し た。 注4) 以下の人たちの協力を得た。 DeeDee Acosta , James 注17) 「知 ら せ る」 と い う意味の動詞 apprise か ら 命名し た Adamson, David Bruner, Martha Chantiniy, Jean も の。 Ehrhorn, 工 藤庸 子, Marylyn Lee, Sara McBride, 注18) 当館Web上で公開。 <http://libweb.hawaii.edu/intranet/ Sandra Ohashi, Diane Perushek, Steve Pickering, Scott flood.html> Reinke, Robert Schwarzwalder, Beth Tillinghast, 注19) 本校 ALA 学生分会の災害関係新聞記事 リ ン クか ら Andrew Wertheimer, Jerard Yagi. ま たSara McBrideの ア ク セ ス で き る。 <http://www.hawaii.edu/ala/flood. 記録Anatomy of an Academic Disaster (未刊) も 参照 php> さ せ て頂い た。 注20) 自動火災報知器が稼動 し な い ま ま 開館す る こ と に 注5) NOAA. “Manoa Valley Flood.” (online), available from は， 大学 ?図書館関係者内で も 賛否両論があ っ た。 < h t t p : / / w w w . p r h . n oa a .g ov / h n l / p a g e s / e v e n t s / 開館の際 に 「利用者の利便を 優先 し， 主導での緊 ManoaFlood20041030/>, (accessed 2005-06-23). 急?火災対策を十分講 じ た ので安全は確保で き た」 注6) 地階の壁に残された泥水の跡か ら の推測。 と の見解が地元紙やTVで報道 さ れた。し か し そ の 注7) 濁流が非常口扉を押し倒し た音か と 推測される。 直後か ら2週間の間 に， 購読新聞の束が焼かれ， 開 注8) 教授は災害直後 に は， 腰 ま での水， と 発言 し て い 架書棚の書籍背表紙が焦が さ れ て い た り ， 学習机 た が， 後日， 椅子の上 に 立 っ て い た こ と を思い出 の表面が焦げ， 灰や ラ イ タ ー， マ ッ チ等が残 さ れ し た。 て い た り と い う 事件が計20件発生 し た。 事件の拡 注9) 関係者の イ ン タヴューを基に筆者が推測。 張は防止で き た が， 結局犯人は わか ら な い ま ま で 注10) 最高255回まで設定でき る。 あ る。
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