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アキレス腱欠損を伴う踵骨開放骨折に対し 
アキレス腱再建術を行った1例
はじめに 
? アキレス腱再建術は陳旧性アキレス腱断裂や 
軟部腫瘍切除後に行われる報告が多い. 
? 今回外傷によりアキレス腱の欠損を伴う 
踵骨開放骨折に対し踵骨,アキレス腱の同時再建を 
行った症例を経験した. 
? 再建術前,術後の理学療法について若干の考察を 
加え報告する.
症例 
50歳代男性トラック運転手 
受傷時外観 
右踵骨開放骨折(Gustilo type ⅢB) 
現病歴 
仕事中2tの鉄鋼に右足を挟まれ受傷. 
当院搬送され緊急手術施行(洗浄デブリドマン,陰圧閉鎖療法). 
受傷時X線 
踵骨欠損 
デブリ後外観 
アキレス腱遠位部欠損皮膚欠損15×12㎝
受傷後2週軟部組織再建 
遊離広背筋皮弁術+ 創外固定術施行 
広背筋皮弁採取 
皮弁の安静,挙上目的に 
創外固定設置 
はめ込む 
骨欠損部には 
骨セメント充填 
Dr.指示 
? 皮弁が安定したら創外固定抜去. 
? 創外固定抜去後より足関節ROM運動開始. 
アキレス腱は後日再建予定
理学療法コンセプト 
? 広背筋皮弁術後???皮弁の生着が優先される 
不動によるROM制限の改善が重要 
? 後日アキレス腱再建???再建前の術前理学療法の時期 
十分な足関節ROM獲得が必要 
※積極的に足関節ROMの向上を図るべき 
術後3週創外固定抜去足関節ROM運動開始 
(足関節ROM:背屈10°底屈35°) 
6週荷重歩行開始 
10週アキレス腱再建術前 
(足関節ROM:背屈20°底屈50°)
受傷後3ヵ月腸骨移植+アキレス腱再建術施行 
腸骨を採取し 
トリミング 
大腿筋膜張筋筋膜で 
腸骨を二重折り 
アキレス腱再建材料として 
大腿筋膜張筋筋膜を採取 
術後Xp 
踵骨欠損部へ腸骨を移植. 
後方からscrew固定. 
筋膜は近位で腱実質部と強固に縫合. 
はめ込む 
? 術中他動運動で腸骨,アキレス腱縫合部ともに安定 
? 後療法 
当院アキレス腱縫合術後プロトコルに準じる
当院アキレス腱縫合術後プロトコル 
術直後~ 底屈位ギプス固定 
術後2週ギプス除去 
アキレス腱装具歩行開始 
術後3週自動底背屈運動 
術後4週他動背屈運動 
術後5週底屈抵抗運動(筋力強化) 
術後6週立位カーフレイズ 
術後7週アキレス腱装具除去全荷重歩行 
術後9週片脚カーフレイズ 
?腱の修復過程を考慮 
?適切な時期に 
適度な負荷を与え, 
腱の修復を促進する.
理学療法コンセプト 
? 現在再建術後の後療法に関して十分なコンセンサスは得られていない. 
再建術後の主な合併症(川瀬ら,2007) 
? 再断裂?強固な縫合を達成 
→ プロトコルに準じることで予防できると判断. 
? 足関節ROM制限 
?周囲組織との癒着による可動域制限が生じやすい 
?足関節ROMの獲得は再断裂や縫合部のストレスを最小限にする. 
→ 過度なストレスに注意し,早期から癒着予防を行うことが重要. 
? 下腿三頭筋筋力低下 
?筋長の変化や縫合部のelongationにより生じる. 
→ 縫合部の治癒過程を考慮し徐々に負荷を上げることが重要. 
プロトコルに準じる方針. 
以上の点に留意し理学療法を実施
理学療法~特に留意した点~ 
アキレス腱縫合術後はアキレス腱の 
徒手的操作を行い,癒着予防,改善を図る. 
(整形外科運動療法ナビゲーション下肢?体幹,2009) 
本症例の場合 
広背筋皮弁があるため 
アキレス腱の操作ができない 
アキレス腱近傍の筋(長母趾屈筋,長趾屈筋等)を 
伸張,滑走させることで癒着を予防
理学療法経過 
術直後~ 底屈位シーネ固定 
術後2週シーネ除去 
アキレス腱装具歩行開始 
術後3週自動運動開始 
術後4週他動背屈開始 
術後5週抵抗運動開始 
術後7週アキレス腱装具除去 
全荷重歩行開始 
立位カーフレイズ開始 
術後10週自宅退院 
診察時に外来RH継続 
(月に2回) 
足趾自他動運動開始 
他動背屈10°底屈45° 
底屈MMT 2 
皮弁周囲の痺れや 
違和感による跛行あり 
独歩で退院(跛行残存) 
両脚カーフレイズはなんとか可能 
自主練習指導
再建術後7ヵ月最終評価 
?主訴:踵骨底部が柔らかくて違和感がある. 
?感覚:皮弁外側辺縁部に痺れ残存(3/10) 
?ROM:背屈A 20° P 25°(左右差なし) 
底屈A 50 °P 55° 
?MMT:下腿三頭筋2+ 
?下腿周径:健側比-2㎝ 
?独歩,階段昇降1足1段可能 
踵接地時に石を踏んでいるような違和感あり 
?しゃがみ動作可能 
?満足度(VAS):50/100mm 
足底部の違和感や痺れなどが影響 
?JSSF scale:98点 
外観
考察 
? 陳旧性アキレス腱断裂等に対する再建例の報告は散見され, 
良好な治療成績が報告されている.(富田ら,2012 Dhillon M.S. et al,2010) 
follow up 可動域底屈筋力機能outcome 
川瀬ら,2007 術後4ヵ月背屈15° MMT 2 JOA score 89点 
櫻田ら,2011 術後5.5ヵ月背屈5° MMT 5 記載なし 
富田ら,2012 術後1年6ヵ月背屈0° 記載なし記載なし 
本症例術後7ヵ月背屈25° MMT 2+ JSSF scale 98点 
本症例も比較的良好な成績を獲得(ROM,機能outcome) 
? 再建術前理学療法で十分な背屈ROMを獲得できた. 
? 再建術後アキレス腱と周囲組織との癒着を生じさせなかった.
まだまだ分かっていないことは多い 
? アキレス腱再建術の術式は多岐に渡る 
? アキレス腱の「欠損」に対する再建術の報告は少ない 
? 再建術後の後療法に明確なものがない 
-新鮮断裂に対する腱縫合術に準じてよい(和田ら,2007) 
-実質部の縫合術より後療法を遅らせることを推奨(櫻田ら,2011) 
本症例では再断裂はないが底屈筋力低下が残存 
近位縫合部でgapやelongationが生じている可能性も考えられる. 
考察 
後療法を遅らせていれば筋力低下の問題も解決されていたかもしれない? 
? 今後も症例数の蓄積,臨床研究の発展が必要
まとめ 
? アキレス腱の再建を伴う踵骨開放骨折に対し, 
アキレス腱再建術を施行した症例を経験. 
? 再建前に十分な足関節ROMを獲得すること, 
再建後にアキレス腱周囲組織との癒着予防を行うこと 
で良好な機能成績を得た. 
? アキレス腱再建術の後療法は,十分なエビデンスが 
不足しており,今後臨床研究の発展が必要と思われる.

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アキレス腱欠损を伴う踵骨开放骨折に対しアキレス腱再建术を行った1例

  • 2. はじめに ? アキレス腱再建術は陳旧性アキレス腱断裂や 軟部腫瘍切除後に行われる報告が多い. ? 今回外傷によりアキレス腱の欠損を伴う 踵骨開放骨折に対し踵骨,アキレス腱の同時再建を 行った症例を経験した. ? 再建術前,術後の理学療法について若干の考察を 加え報告する.
  • 3. 症例 50歳代男性トラック運転手 受傷時外観 右踵骨開放骨折(Gustilo type ⅢB) 現病歴 仕事中2tの鉄鋼に右足を挟まれ受傷. 当院搬送され緊急手術施行(洗浄デブリドマン,陰圧閉鎖療法). 受傷時X線 踵骨欠損 デブリ後外観 アキレス腱遠位部欠損皮膚欠損15×12㎝
  • 4. 受傷後2週軟部組織再建 遊離広背筋皮弁術+ 創外固定術施行 広背筋皮弁採取 皮弁の安静,挙上目的に 創外固定設置 はめ込む 骨欠損部には 骨セメント充填 Dr.指示 ? 皮弁が安定したら創外固定抜去. ? 創外固定抜去後より足関節ROM運動開始. アキレス腱は後日再建予定
  • 5. 理学療法コンセプト ? 広背筋皮弁術後???皮弁の生着が優先される 不動によるROM制限の改善が重要 ? 後日アキレス腱再建???再建前の術前理学療法の時期 十分な足関節ROM獲得が必要 ※積極的に足関節ROMの向上を図るべき 術後3週創外固定抜去足関節ROM運動開始 (足関節ROM:背屈10°底屈35°) 6週荷重歩行開始 10週アキレス腱再建術前 (足関節ROM:背屈20°底屈50°)
  • 6. 受傷後3ヵ月腸骨移植+アキレス腱再建術施行 腸骨を採取し トリミング 大腿筋膜張筋筋膜で 腸骨を二重折り アキレス腱再建材料として 大腿筋膜張筋筋膜を採取 術後Xp 踵骨欠損部へ腸骨を移植. 後方からscrew固定. 筋膜は近位で腱実質部と強固に縫合. はめ込む ? 術中他動運動で腸骨,アキレス腱縫合部ともに安定 ? 後療法 当院アキレス腱縫合術後プロトコルに準じる
  • 7. 当院アキレス腱縫合術後プロトコル 術直後~ 底屈位ギプス固定 術後2週ギプス除去 アキレス腱装具歩行開始 術後3週自動底背屈運動 術後4週他動背屈運動 術後5週底屈抵抗運動(筋力強化) 術後6週立位カーフレイズ 術後7週アキレス腱装具除去全荷重歩行 術後9週片脚カーフレイズ ?腱の修復過程を考慮 ?適切な時期に 適度な負荷を与え, 腱の修復を促進する.
  • 8. 理学療法コンセプト ? 現在再建術後の後療法に関して十分なコンセンサスは得られていない. 再建術後の主な合併症(川瀬ら,2007) ? 再断裂?強固な縫合を達成 → プロトコルに準じることで予防できると判断. ? 足関節ROM制限 ?周囲組織との癒着による可動域制限が生じやすい ?足関節ROMの獲得は再断裂や縫合部のストレスを最小限にする. → 過度なストレスに注意し,早期から癒着予防を行うことが重要. ? 下腿三頭筋筋力低下 ?筋長の変化や縫合部のelongationにより生じる. → 縫合部の治癒過程を考慮し徐々に負荷を上げることが重要. プロトコルに準じる方針. 以上の点に留意し理学療法を実施
  • 9. 理学療法~特に留意した点~ アキレス腱縫合術後はアキレス腱の 徒手的操作を行い,癒着予防,改善を図る. (整形外科運動療法ナビゲーション下肢?体幹,2009) 本症例の場合 広背筋皮弁があるため アキレス腱の操作ができない アキレス腱近傍の筋(長母趾屈筋,長趾屈筋等)を 伸張,滑走させることで癒着を予防
  • 10. 理学療法経過 術直後~ 底屈位シーネ固定 術後2週シーネ除去 アキレス腱装具歩行開始 術後3週自動運動開始 術後4週他動背屈開始 術後5週抵抗運動開始 術後7週アキレス腱装具除去 全荷重歩行開始 立位カーフレイズ開始 術後10週自宅退院 診察時に外来RH継続 (月に2回) 足趾自他動運動開始 他動背屈10°底屈45° 底屈MMT 2 皮弁周囲の痺れや 違和感による跛行あり 独歩で退院(跛行残存) 両脚カーフレイズはなんとか可能 自主練習指導
  • 11. 再建術後7ヵ月最終評価 ?主訴:踵骨底部が柔らかくて違和感がある. ?感覚:皮弁外側辺縁部に痺れ残存(3/10) ?ROM:背屈A 20° P 25°(左右差なし) 底屈A 50 °P 55° ?MMT:下腿三頭筋2+ ?下腿周径:健側比-2㎝ ?独歩,階段昇降1足1段可能 踵接地時に石を踏んでいるような違和感あり ?しゃがみ動作可能 ?満足度(VAS):50/100mm 足底部の違和感や痺れなどが影響 ?JSSF scale:98点 外観
  • 12. 考察 ? 陳旧性アキレス腱断裂等に対する再建例の報告は散見され, 良好な治療成績が報告されている.(富田ら,2012 Dhillon M.S. et al,2010) follow up 可動域底屈筋力機能outcome 川瀬ら,2007 術後4ヵ月背屈15° MMT 2 JOA score 89点 櫻田ら,2011 術後5.5ヵ月背屈5° MMT 5 記載なし 富田ら,2012 術後1年6ヵ月背屈0° 記載なし記載なし 本症例術後7ヵ月背屈25° MMT 2+ JSSF scale 98点 本症例も比較的良好な成績を獲得(ROM,機能outcome) ? 再建術前理学療法で十分な背屈ROMを獲得できた. ? 再建術後アキレス腱と周囲組織との癒着を生じさせなかった.
  • 13. まだまだ分かっていないことは多い ? アキレス腱再建術の術式は多岐に渡る ? アキレス腱の「欠損」に対する再建術の報告は少ない ? 再建術後の後療法に明確なものがない -新鮮断裂に対する腱縫合術に準じてよい(和田ら,2007) -実質部の縫合術より後療法を遅らせることを推奨(櫻田ら,2011) 本症例では再断裂はないが底屈筋力低下が残存 近位縫合部でgapやelongationが生じている可能性も考えられる. 考察 後療法を遅らせていれば筋力低下の問題も解決されていたかもしれない? ? 今後も症例数の蓄積,臨床研究の発展が必要
  • 14. まとめ ? アキレス腱の再建を伴う踵骨開放骨折に対し, アキレス腱再建術を施行した症例を経験. ? 再建前に十分な足関節ROMを獲得すること, 再建後にアキレス腱周囲組織との癒着予防を行うこと で良好な機能成績を得た. ? アキレス腱再建術の後療法は,十分なエビデンスが 不足しており,今後臨床研究の発展が必要と思われる.