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攻めのガバナンスに貢献する役員報酬
-株式報酬の法務?税務面について-
2016年12月20日(火)
弁護士 柴田 堅太郎
(総合法律研究所会社法研究部会部会員)
1
1. 役員報酬に関する最近の動き
2. 株式報酬の類型
3. 譲渡制限付株式報酬
? 事前確定届出給与
? 法務
? 手続
? 問題点
? 事例
4. 「利益連動給与」の見直しと業績連動発行型Performance Share
5. 最後に
2
3
時期 最近の動き 概要
平成27年6月1日 コーポレートガバナンス?コード適用 役員報酬に関するインセンティブ設計
及び開示の規律
平成27年7月24日 経済産業省「コーポレート?ガバナンス?システムの在り
方に関する研究会」報告書別紙「法的論点に関する解
釈指針」の公表
Performance Share及びRestricted Stock
と同様の仕組みを導入するための法
解釈を提示
平成28年4月1日 平成28年度税制改正
「所得税法等の一部を改正する法律」施行
一定の譲渡制限付株式(リストリクテッ
ドストック)について所得税法上の課税
時期と法人税法上の損金算入要件を
明確化
平成28年4月28日 「『攻めの経営』を促す役員報酬~新たな株式報酬(い
わゆる『リストリクテッド?ストック』)の導入等の手引~」
を公表
株式報酬?業績連動報酬を導入する際
の税務、会社法、会計上の論点等に関
するQ&A等を掲載
平成28年12月8日 自民党?公明党「平成29年度税制改正大綱」の公表 役員報酬の損金算入要件の大幅な見
直し
4
【原則4-2.取締役会の役割?責務(2)】
経営陣の報酬については、中長期的な会社の業績や潜在的リスクを
反映させ、健全な企業家精神の発揮に資するようなインセンティブ付
けを行うべきである。
【補充原則4-2①】
経営陣の報酬は、持続的な成長に向けた健全なインセンティブの一
つとして機能するよう、中長期的な業績と連動する報酬の割合や、現
金報酬と自社株報酬との割合を適切に設定すべきである。
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【原則3-1.情報開示の充実】
上場会社は、法令に基づく開示を適切に行うことに加え、会社の意思
決定の透明性?公正性を確保し、実効的なコーポレートガバナンスを
実現するとの観点から、(本コードの各原則において開示を求めてい
る事項のほか、)以下の事項について開示し、主体的な情報発信を行
うべきである。
(中略)
(ⅲ)取締役会が経営陣幹部?取締役の報酬を決定するに当たっての
方針と手続
6
補充原則4-10①
上場会社が監査役会設置会社または監査等委員会設置会社であっ
て、独立社外取締役が取締役会の過半数に達していない場合には、
経営陣幹部?取締役の指名?報酬などに係る取締役会の機能の独立
性?客観性と説明責任を強化するため、例えば、取締役会の下に独立
社外取締役を主要な構成員とする任意の諮問委員会を設置すること
などにより、指名?報酬などの特に重要な事項に関する検討に当たり
独立社外取締役の適切な関与?助言を得るべきである。
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? 現行法の規定
?取締役全員の報酬総額に係る株主総会決議による「お手盛り防止」のみ
?株主総会で枠取り決議を行った後、個別の報酬は取締役会又は(取締役会により委任を受
けた)代表取締役が決定している
? これからの考え方①-インセンティブ機能
?取締役会は、インセンティブとしての機能も踏まえて、適切に報酬の内容を決定すべきであ
る
?社外取締役を構成員とする委員会や社外取締役の同意や意見を得ておくことにより、社外
取締役が監督を行うことが、実務上望ましい
? これからの考え方②-決定手続における構造的な利益相反
?個々の取締役の配分決定における利益相反は完全に解消されていない
?構造的な利益相反の解消の観点からも、社外取締役を構成員とする委員会や社外取締役
の同意や意見を得ておくことにより、社外取締役による監督を行うことが、実務上望ましい
? 類型に応じた法的枠組み(後述)
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一定の要件を満たすいわゆるリストリクテッド?ストック(特定譲渡制限付株
式)について、以下の税制措置により導入を促進
? 法人税
?法人においては、譲渡制限解除日に役員等から役務提供を受けたものとされ、役
務提供に係る費用の額は、同日の属する事業年度において損金の額に算入する
?給与が損金算入できる「定期同額給与」、「事前確定届出給与」、「利益連動給与」
のうち、「事前確定届出給与」として整理かつ事前届出が不要
?※「事前確定届出給与」:事前の届出に従い、所定の時期に確定額を支給するもの
? 所得税:
?役員等における所得税の課税時期を、株式の交付日ではなく譲渡制限解除日とす
る
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? 前述の通り平成28年度税制改正により、譲渡制限付株式(リストリクテッ
ド?ストック)のうち一定の要件を満たす株式(特定譲渡制限付株式)につ
いて、所得税法上の課税時期と法人税法上の損金算入要件を明確化す
る規定が設けられた
? 前掲「解釈指針」の手法のうち、Performance Share(初年度発行―業績連
動譲渡制限解除型)とRestricted Stockについて税務上の課題が解決
? 経済産業省は、平成28年4月28日、「『攻めの経営』を促す役員報酬~
新たな株式報酬(いわゆる『リストリクテッド?ストック』)の導入等の手引
~」を公表(6月3日に更新)
? 同手引では、株式報酬?業績連動報酬を導入する際の税務、会社法、会
計上の論点等に関するQ&Aや、株式報酬に関する契約書の例、株主総
会議案の例等を掲載
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? 役員報酬に関する損金算入要件が大幅に見直されている
? ストックオプションや株式付与信託を含め整合性を図る
? 業績連動報酬は「利益連動給与」に該当しない限り損金算入できない
? 業績により譲渡制限が解除される譲渡制限付株式は、「事前確定届出給与」と
して損金算入が認められなくなる
? 施行時期
?退職給与に係る部分、譲渡制限付株式に係る部分及び新株予約権に係る部分は平成29
年10月1日以後に支給又は交付に係る決議をする給与について適用
?その他の部分は同年4月1日以後に支給又は交付に係る決議をする給与について適用
? 報酬プランの検討にあたっては、法務面だけでなく税制改正の動向に注意
? 経済産業省「平成29年度経済産業関係 税制改正について」41~43頁も参照
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名称?略称 概要 目的
Stock option (SO) 株式を予め決められた一定の価格で購入できる
権利を付与する
株価上昇へのインセンティブ
Restricted stock (RS) あらかじめ株式を交付した上で一定期間の譲渡
制限を付する
役員のリテンション
Restricted stock unit (RSU) あらかじめ定めた一定期間が経過してから株式
またはそれと同等の現金が交付される
役員のリテンション
Performance share (PS) 一定期間における業績目標の達成度合いに応
じて株式を交付する
業績目標達成へのインセンティブ
Performance share unit (PSU) 基本的にはPSと同じ仕組みによって交付される
株式数が決定されるが、現物株式の交付に代え
て同等の価値を有する金銭が交付される
業績目標達成へのインセンティブ
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名称?略称 概要
SAR
(Stock Appreciation Right)
権利行使価格と権利行使時の株式の時価の
差額を現金で支給
株価上昇へのインセンティブ
ファントムストック 仮想の株式を付与し、付与対象者が権利行使
した時点での株
価相当の現金が付与される
株価上昇へのインセンティブ
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? 様々な呼称はあるが大きく分けて主に以下の3つが採用されている
① 株式報酬型ストックオプション(1円ストックオプション)
② 株式交付信託
③ 譲渡制限付株式報酬(リストリクテッド?ストック)
? (平成29年度税制改正により業績連動発行型Performance Share?
PSUの普及もありうる)
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? 当初は廃止された従来の退職慰労金に代わるものとして普及
? 業績連動型報酬としては、通常型ストックオプション(適格ストックオプション)があるが下記の問
題があった
? 株価が安定している成熟した企業や、株価が権利行使価額を下回り続けている企業では株価向上のインセ
ンティブが働かない
? 過大なリスクをとって株価を回復させようとするインセンティブが働いてしまう
? 行使価額を1円とする(通常型は付与時の株価を行使価額とする)
? 退任後、短期間に限り行使を認める行使条件を設定するなどにより、権利行使時に(税制非適
格)退職所得として課税
? 逆インセンティブの問題
? 役員報酬の一部として固定金額相当の新株予約権を毎年付与
? 在任期間中に株価が上がると、付与される新株予約権が減少
? 在任期間中に株価が下がると、付与される新株予約権が増加
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(1) 発行会社は受益者要件を充足する取締役等を
受益者とするBIP信託を金銭で設定する。
(2) 本信託は、信託管理人の指図に従い、本件株
式を発行会社または株式市場から取得する。
(3) 発行会社は、本信託内の本件株式に係る剰余
金の分配を行う。
(4) 本信託内の本件株式については、信託期間を
通じ、議決権を行使しないものとする。
(5) 信託期間中、株式交付規程に従い、一定の受
益者要件を満たす取締役等は、本件株式を受
領する(例外的に、信託内で本件株式を換価し
て金銭で受領することもある)。
(6) 本信託の清算時に、受益者に分配された後の
残余財産は、一定金額の範囲内で発行会社に
帰属する。※ 図表?説明ともに三菱UFJ信託銀行ウェブサイト
「役員インセンティブプラン『役員報酬BIP信託』のご
案内」より
? 信託を利用
? 信託内株式の議決権は不行使とするのが一般的
? 株式交付規程に従い、役員には役位や経営計画の達成度に応じてポイ
ントが付与される
? 役員は付与ポイントに応じた株式が交付される
? 市場買付けによる株式取得が可能である
? 信託による管理のため導入企業の管理負担は軽減される
?ポイント制による一括管理、期間中の役員の変動にも柔軟な設計が可能
? 口座分離により株式譲渡制限の実効性が確保できる
? 他方で信託組成?管理コストがかかる
? プラン廃止時の取り扱い?
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経産省「リストリクテッド?ストックの導入等の手
引」14頁より引用メリット
? 無償取得事由の設定によりパフォーマンスシェアとして活用
? 交付時から役員は株主となり、自社株保有をアピールできる(信託型や株式報酬型S/Oとの違い)
? 海外で一般的な株式报酬のため理解が得られやすい(信託型や株式报酬型厂/翱との比较)
譲渡制限株式報酬 1円ストックオプション 株式交付信託
海外機関投資家への
説明のしやすさ
グローバルスタンダードに添っ
ており、説明しやすい
日本独自のストラクチャーの
ため説明が難しい
日本独自のストラクチャーのた
め説明が難しい
インセンティブ 無償取得事由の設計次第 逆インセンティブ問題 ポイント付与条件の設計次第
希薄化が起きるか 新株発行又は自己株式処分を
伴うため、希薄化が起きる
(但し事前に自己株式取得を行
う場合には希薄化は起きない)
行使時に新株発行又は自己
株式処分を伴うため、希薄化
が起きる
市場から株式を取得する場合
には希薄化は起きない
期中の株式保有
(セイムボート性)
取締役は株式を保有する 取締役は株式を保有しない 取締役は株式を保有しない
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譲渡制限株式報酬 1円ストックオプション 株式交付信託
総会決議の要否 必要 必要 必要
キャッシュアウト 不要 不要 受託者への取得資金の拠出
が必要(市場からの株式取得
の場合)
コスト 低(プラン設計費用のみ) 中(プラン設計費用に加えて
新株予約権の価値算定費用)
高(プラン設計費用に加えて信
託の組成?運営費用)
継続開示 有価証券報告書 有価証券報告書
(発行回ごとの開示が必要)
有価証券報告書
損金算入 可能 可能 不可(在任時給付の場合)
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譲渡制限株式報酬 1円ストックオプション 株式交付信託
期中の議決権 あり なし なし
期中の配当 あり なし 信託からの交付後(但し設計
次第では信託報酬が控除され
ることもある)
有価証券報告書上の
所有株式数
最初から増加 行使後にはじめて増加 信託からの交付後に初めて増
加
所得税課税時期 譲渡制限解除時 権利行使時 株式交付時
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1. Performance Share(業績連動発行型)
① 役員に業績等に連動した金銭報酬債権を付与する。
② 業績等の連動期間として定めた一定期間経過後、当該金銭報酬債権を、現物出資財産(会社法199条1項3号)として
払い込み、役員に対して株式を発行する。
③ 取締役会設置会社では、払込金額を「特に有利な金額」(会社法199条3項)ではない金額に設定して、取締役会の決
議で発行することができる。
2. Performance Share(初年度発行―業績連動譲渡制限解除型)
① 役員に対して金銭報酬債権を付与する。
? いわゆる労務出資が認められるか明らかでないため、金銭報酬債権を付与して、当該金銭報酬債権を払い込む方法をとる必要があ
る。金銭報酬債権の弁済期が到来している場合等の会社法の規定する要件を満たせば、検査役の調査は不要となる(会社法207条
9項各号)。
② 当該金銭報酬債権を、現物出資財産として払い込み、役員に対して株式を発行する(初年度発行)。
③ 取締役会設置会社では、払込金額を「特に有利な金額」(会社法199条3項)ではない金額に設定して、取締役会の決
議で発行することができる。
④ 上記②で付与した株式に譲渡制限を付す。譲渡制限を付す方法については、下記3参照。
⑤ 業績等の連動期間として定めた一定期間経過後、種類株式(普通株式を対価とする取得請求権?取得条項)又は会社
と役員との間の契約により譲渡制限を解除する(譲渡制限解除)。
3. Restricted Stock
? 株式に譲渡制限を付ける方法として、種類株式を用いる方法(譲渡制限付株式+取得請求権?取得条項)と会社と役員と
の間の契約により譲渡制限を付す方法が考えられる
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? 次の①及び②の各要件を満たす株式(譲渡制限付株式) であって、次の
③及び④の各要件を満たすものは、「特定譲渡制限付株式」に該当
① 一定期間の譲渡制限が設けられている株式であること
② 法人により無償取得(没収)される事由(無償取得事由)として勤務条件又は業
績条件が達成されないこと等が定められている株式であること
③ 役務提供の対価として役員等に生ずる債権の給付と引換えに交付される株式等
であること
④ 役務提供を受ける法人又はその法人の株式等の全部を直接に保有する親法人
の株式であること
? 非居住者である役員は損金算入不可
?自民党?公明党「平成29年度税制改正大綱」: 非居住者でも損金算入可能に
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? 「譲渡(担保権の設定その他の処分を含む)についての制限がされており、
かつ、当該譲渡についての制限に係る期間(「譲渡制限期間」)が設けら
れていること」
? 譲渡制限期間は、中期経営計画の対象期間のサイクルと一致させて 3
年~5年といった期間を設定すること等が考えられる
?これまでの実例では、1年~10年の間で、2年間とする例が多い
? 譲渡制限の手法としては、種類株式を用いるほか、普通株式を用いた上
で、法人とその役員等との契約において制限することが考えられる
?契約による譲渡制限が実務上一般的となると思われる
?種類株式では株主総会特別決議による定款変更を要する上、少しでも内容が異な
れば別個の種類株式となるため
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? 「法人が無償で取得することとなる事由(「無償取得事由」)が定められているこ
と」
? 無償取得事由(以下の2つの事由に限る)
① 役員等の勤務の状況に基づく事由: 役員等が「譲渡制限期間内の所定の期間勤務を継
続しないこと」、「勤務実績が良好でないこと」など
② 法人の業績等の指標の状況に基づく事由: 「法人の業績があらかじめ定めた基準に達
しないこと」など→業績の達成度に応じて一部のみ譲渡制限を解除し、残部は無償取得
することでパフォーマンスシェアとして活用
?【注意】与党「平成29年度税制改正大綱」: 平成29年10月1日以後に支給又は交付に係る
決議をするものについて、利益その他の指標を基礎として譲渡制限が解除される数が算定
される譲渡制限付株式については、事前確定届出給与の対象から除外される予定
? 無償取得の手法としては、種類株式を用いるほか、普通株式を用いた上で、法
人とその役員等との契約において無償取得事由を定めることが考えられる
?振替株式は別途振替手続が必要→契約で取締役の関与なく実施できるよう手当て
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? 対象となる譲渡制限付株式
?役務提供の対価として役員等に生ずる債権の給付と引換えにその役員等
に交付される譲渡制限付株式
?その役員等に給付されることに伴ってその債権が消滅する場合のその給付
された譲渡制限付株式
? 将来の報酬債権の現物出資
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? その役務提供を受ける法人の完全親法人の株式についても対象
? 役員が業務に従事する法人の親会社が純粋持株会社の場合など、親子会社が事実上一体と
なっている場合に、子会社の役員に親会社の株式を交付するニーズがあるため
? 直接の親子関係のみ→孫会社の役員?従業員への交付は対象外
? 完全親法人の株式を交付する場合、原則として、その交付の時点において、「譲渡制
限期間中は子法人の株式等の全部を直接に保有する関係が継続することが見込まれ
ていること」が要件
? 方法
? 完全子会社役員が役務の提供を受ける子会社に対する報酬債権を、その完全親会社に対して
現物出資する→その結果、その完全親会社が完全子会社に対する報酬債権を取得することに
なる
? 役務の提供を受ける完全子会社がその役員に対して負う報酬債務について、その完全親会社
が債務引受けをした上で、その債務引受けによりその完全親法人に対する債権となった債権を、
役員がその完全親法人に対して現物出資する
? 与党「平成29年度税制改正大綱」: 直接の完全子会社以外の子会社役員も付与対象
に
29
? 「その役員の職務につき所定の時期に確定額を支給する旨の定め」に基
づいて「特定譲渡制限付株式による給与」が支給されることが必要
? すなわち、その役員の職務執行開始当初に、その役員の職務執行期間
(=将来の役務提供)に係る報酬債権の額(支給額)が確定し、所定の時
期までにその役員によるその報酬債権の現物出資と引換えに譲渡制限
付株式が交付されることが必要
?解釈指針におけるPerformance Share(初年度発行―業績連動譲渡制限解除型)→
当初時点で支給額が確定しているため、事前確定届出給与に該当する余地あり
?解釈指針におけるPerformance Share(業績連動発行型)→当初時点で支給額が確
定しないため、事前確定届出給与には該当せず
?但し、業績連動発行型PSも平成29年度税制改正大綱により「利益連動給与」の要件を満た
せば損金算入の余地
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? 「届出が不要となる事前確定届出給与」の要件として、報酬決議及
び特定譲渡制限付株式の交付に係る期限が設けられている
① 決議時期: 職務の執行の開始の日(原則、定時株主総会の日)
から1 月を経過する日までに株主総会等(株主総会の委任を受け
た取締役会を含む)の決議により取締役個人別の確定額報酬に
ついて定める
② 交付時期: その決議の日からさらに1月を経過する日までに、そ
の職務につきその役員に生ずる債権の額に相当する特定譲渡制
限付株式を交付する旨の定めがあること
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① 株主総会において取締役全体に対する報酬総額を決議
? 会社法361条1項1号に基づく
? 金銭報酬債権が譲渡制限付株式と引換えに現物出資されるという実質を踏まえ、既存の金銭報酬の枠を
利用するのではなく、改めて金銭報酬としての株主総会決議による承認を得ることとし、その際には、その
金銭報酬債権が譲渡制限付株式と引換えに現物出資されることや、その譲渡制限付株式の概要について
も説明することが望ましい
② 取締役会において取締役個人に対する金銭報酬債権の付与を決議
? 損金算入するには職務執行開始日(株主総会決議の日)から1か月以内に報酬債権額の決議が必要
③ 取締役会において株式の第三者割当てを決議
? 公開会社は有利発行でないかぎり取締役会決議で可能
? 発行価額総額1億円以上の場合に有価証券届出書(但し、開示府令改正により「第三者割当の場合の特記
事項」の記載は不要)
④ 会社と各取締役との間で割当契約を締結
⑤ 払込期日において、各取締役による上記②の金銭報酬債権の現物出資と引換えに、各取締
役に特定譲渡制限付株式を交付
? 損金算入するには②の決議から1か月以内に特定譲渡制限付株式の交付が必要
32
? 前提:株式報酬の可否?従来の問題意識
?株式の無償発行ができないと解されていること
?労務出資が認められるか明らかでないこと
?そこで、金銭報酬債権の現物出資という方法(在り方研究会解釈指針)
? 検査役調査の要否
?割当株式の総数が発行済株式総数10分の1を超えない場合の例外(会社法207
条9項1号)により不要
? 完全子会社取締役に完全親会社の譲渡制限株式を交付する方法
?完全子会社への金銭報酬債権を現物出資→その結果、完全親会社がその債権を
取得
?完全親会社が完全子会社がその取締役に対して負う金銭報酬債務を債務引受け
→取締役は親会社が引き受けた金銭報酬債権を現物出資
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? リストリクテッドストックにパフォーマンスシェアとしての性質をもたせる場合の譲渡制限解除条件をどのよう
に設定するか?(但し、前述のとおり平成29年度税制改正後は事前確定届出給与として損金算入不可)
? 指標: ROE(株主資本利益率)、EPS(1株あたり利益)、EBITDA(税引前当期純利益 + 支払利息 + 減価償却費)、T
SR(株価の上昇額と配当額の合計/当初株価)など→「利益連動給与」と異なり指標の限定なし
? 業績以外のKPI:顧客満足度、ESGの取組み、インフラ企業における安全運営
? 時期の問題:事業再構築期間中にあえて固定報酬割合を増やした資生堂の事例
? もっとも、譲渡制限解除条件に業績条件?株式条件を定めている会社は8社中3社(2016年10月総会まで)
と多くない
? 譲渡制限解除条件を在籍条件のみとしている事例: 市光工業、ネクストジェン、フォーバル、ブロードバンドタワー、日本
社宅サービス
? 譲渡制限解除条件に業績条件?株式条件を定めている事例: 三菱地所、横河電機、デジタルガレージ
? マルスの仕組み
? 発動事由:決算修正時など
? 取り戻し(無償取得)株数の定め方
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? 譲渡制限の実効性の確保(野村證券に開設される専用口座による管理の事
例)
? 納税資金の確保の際のインサイダー取引規制の制約
?平成27年9月「有価証券の取引等の規制に関する内閣府令」(取引規制府令)の改正に基
づくインサイダー取引規制適用除外としての「知る前契約?計画」の活用により、譲渡制限解
除日に一定比率の株式を売却する旨を事前に定めておくことが考えられる
35
? 任意の報酬諮問委員会
?追認機関にならないためには>構成、運用、議題…
?独自の経営者報酬アドバイザーの登用
? 実現可能性の低い事業計画を前提として譲渡制限付株式を付与す
ると、取締役は過大に株式を取得できてしまう(経営者支配の懸念)
という指摘について
?条件の開示+報酬委員会等によるガバナンスなどCGコードのコンプライで
対応
36
? 三菱地所(7/21公表)の例(指標: TSRの相対評価)
?譲渡制限期間3年
37
? 横河電機(9/6公表)の例(指標: 中期経営計画終了時の実績ROE)
?中期経営計画が2事業年度目となっていることから対象期間は2年間
?「TF2017 終了時(2018 年3月期決算、第 142 期)に係る有価証券報告書に記載された連結
自己資本利益率(ROE)(以下「実績 ROE」という。)が『実績ROE』欄記載の各値に該当する
場合、当該値に対応する「解除率」欄記載の割合を割当株式数に乗じた株数」
38
? デジタルガレージ(9/29公表)の例(指標: 連結税引前純利益)
?中期経営計画が2事業年度目となっていることから対象期間は2年間
?1年目分(22期)と2年目分(23期)で譲渡制限期間と解除率の計算を分ける
① 対象株式(1年目分)
② 対象株式(2 年目分)
39
税引前純利益 解除率
71億円以上 100%
49.7億円以上~71億円未満 税引前純利益÷71億?100%
49.7億円未満 0%
税引前純利益 解除率
150億円以上 100%
105億円以上~150億円未満 税引前純利益÷150億?100%
105億円未満 0%
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? 平成28年度税制改正
? 損金算入となる「利益連動給与」の算定の基礎となる利益の状況を示す指標の範囲について、純粋な利益
指標(営業利益、経常利益等)に加え、ROE、ROA等の一定の利益関連指標が含まれることの明確化
? 自民党?公明党「平成29年度税制改正大綱」
? 算定指標の範囲のさらなる追加
? 株式の市場価格の状況を示す指標→TSRも含まれるか?
? 売上高の状況を示す指標(利益の状況を示す指標又は株式の市場価格の状況を示す指標と同時に用いられるものに限る)
? 当該事業年度後の事業年度又は将来の所定の時点若しくは期間の指標を用いることができることとする
? 業績連動指標を基礎として算定される数の市場価格のある株式を交付する給与で確定した数を限度とする
ものを対象に追加
? PS、PSU、株式付与信託、ストックオプションともに対象
? 初年度発行?業績連動譲渡制限解除型PSは対象外
? 同族会社のうち非同族法人との間に完全支配関係がある法人の支給する給与を対象に追加
? 直接又は間接の100%子会社の役員にも付与可能
? 平成29年4月1日以後に支給又は交付に係る決議をする給与について適用
41
? 利益連動給与に該当するには依然として以下の点を満たす必要
?算定方法が、一定の指標(前述)を基礎とした「客観的なもの」であること
?経営者の恣意性を認めない趣旨
?報酬委員会(業務執行役員等が委員となっているものを除く。)が決定して
いることその他これに準ずる適正な手続を経ていること
? 「決定」とあるが、実務で普及している任意の諮問機能を持つ委員会で良いか?
? 業務執行役員を含まないのであれば委員3名が社外取締役である必要はない?(社外
取締役2名+社外監査役1名など)
?その内容が、上記の決定又は手続の終了の日以後遅滞なく、有価証券報
告書等により開示されていること
42
? 平成29年度税制改正大綱より「利益連動給与」の要件を満たせば損金算入の
余地
① 業績目標達成時に初めて報酬債権を付与
② 当該報酬債権を現物出資することにより株式の交付を受ける
? 導入事例1件(ツムラ 5/12公表)
? メリット
?シンプルな仕組み
?条件成就前には株式の交付を受けないため、実現可能性の低い事業計画を前提とした過
剰な譲渡制限付株式の付与という問題を回避
?金銭交付の選択も可能(PSU)
? デメリット
?新株発行時に株価が急騰した場合、金銭報酬債権(株式報酬費用)の額が増加
?業績条件成就前に役員は株式を取得できないためセイムボート性が図れない
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? わが国において役員報酬改革の実効性はどこまで期待できるか(換
言すればアップサイドをとれるという経済的インセンティブで業績向
上に誘導するという考え方は日本の会社の役員に通用するのか)?
?高い割合で固定報酬を減額することの困難性
?有形?無形のフリンジ?ベネフィットの存在
?特に退任後の顧問?相談役の条件との関係性(経済産業省が実態調査を開始)
?低水準報酬を受け入れる土壌(お金の問題ではないという価値観)
?経営者市場の確立とセットではないか
? 業績連動報酬は「利益連動給与」に一本化されることに伴う報酬委
員会強化の必要性
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? 新木伸一「『業績連動発行型』の株式報酬の導入-シンプルで透明性の高いパフォーマンス?シェアの普及のために-」旬刊商事法務2119号
? 松尾拓也「4種型でメリット?デメリットを考える 業績連動型株式報酬を導入する際の選択ポイント」旬刊経理情報No.1458
? 神田秀樹?武井一浩?内ヶ﨑茂編著「日本経済復活の処方箋 役員報酬改革論」〔増補改訂版〕商事法務、2016年9月
? 田辺総合法律事務所、至誠清新監査法人、至誠清新税理士法人編著「役員報酬をめぐる法務?会計?税務」〔第3版〕清文社、2016年8月
? 髙木弘明「役員報酬改革における自社株報酬の選択肢と実務上の留意点」旬刊商事法務2108号
? 石綿学ほか「日本版リストリクテッド?ストックの導入〔上〕 〔下〕-譲渡制限付株式報酬導入に係る実務上の留意点-」旬刊商事法務2102、2103号
? 黒田嘉彰ほか「攻めの経営」を促すインセンティブ報酬-新たな株式報酬(いわゆるリストリクテッド?ストック)を中心に-」旬刊商事法務2100号
? 大石篤史ほか「インセンティブ報酬の設計をめぐる法務?税務の留意点〔上〕 〕 〔下〕」旬刊商事法務2077、2078号
? 伊藤靖史ほか「座談会 役員報酬の再検証-コーポレートガバナンス?コードを踏まえて-」旬刊商事法務2075号
? 阿部直彦「役員報酬ガバナンス見直しのアプローチ-コーポレートガバナンス?コード対応を踏まえて-」旬刊商事法務2073号
? 阿部直彦「コーポレート?ガバナンスの視点からみた経営者報酬のあり方」旬刊商事法務2048号
? 一般財団法人比較法研究センター「役員報酬の在り方に関する会社法上の論点の調査研究業務報告書」(2015年1月)
? 経済産業省(経済産業政策之b業組織課)委託調査「日本と海外の役員報酬の実態及び制度等に関する調査報告書」(2015 年3月)
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