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社会関係資本の構築に関する理論的検討
ー市民社会組織に着目してー
荻野 亮吾
(東京大学 高齢社会総合研究機構)
中村 由香
(東京大学大学院/(公財)生協総合研究所)
日本社会教育学会 第63回研究大会
第10室(午前) 「学習方法、社会教育関係団体」
2016年9月17日(土) 9:55?10:20
弘前大学 総合教育棟 310教室
報告の目的
? 報告の目的
?本報告の目的は、社会関係資本(Social Capital、以下SC
)の醸成に関する社会教育の役割について、市民社会組織
に関する研究レビューの中から、論点を抽出し、社会教育
研究としてのアプローチの方法を考えること。
?本報告では、SC醸成に関する「社会中心アプローチ」に
関して、市民社会組織が果たす役割に注目する。さらに、
組織間関係や、それを担保する政策や制度や行政の役割に
焦点を当て、「制度中心アプローチ」との接点を探る。
【付記】本報告は、平成28年度 日本学術振興会 科学研究費補助金(若
手研究B)「生涯学習?社会参加を促す効率的?創発的なプラットフォ
ーム形成に関する実証研究」助成を受けて行われるものです。
2
目的
ソーシャル?キャピタルへの注目
? 政策におけるSC概念への注目
? 内閣府(国民生活局市民活動促進課):『ソーシャル?キャピタル:
豊かな人間関係と市民活動の好循環を求めて』の調査(2002年)等。
? 文部科学省(生涯学習政策局):2013?2014年度に「絆づくりと活
力あるコミュニティの形成」の項目において「公民館等を中心とした
社会教育活性化支援プログラム」という新規事業を実施。
? 厚生労働省:「健康日本21(第2次)」(2013年)において、「健康
を支え、守るための社会環境の整備」の中に「社会関係資本の向上」
がうたわれる。
? SC概念を社会教育研究へと接合しようとする研究
? コミュニティ?ガバナンスと、SCの「相補性」への注目と、それを支
える社会教育?生涯学習の役割(松田 2012a)。
? 地域の「集合財」として、SCを捉える視点(松田 2012b)。
? 社会教育行政による「関係基盤」の構築による、インフォーマルな学
習環境の醸成(荻野 2014)。
? ポイントは、SCを地域社会レベルで捉えること。
3
背景
ソーシャル?キャピタル論の意義
? ただし、SCの概念の利用には批判も存在する。
? 例えば、概念の正当性、既存研究と比べた時の付加価値、測定可能性
、因果関係の不明確さ、政策手段としての曖昧さ等(稲葉 2016: 75-
83)。
? 特に、社会的実践を「資本」概念に関連づける研究には慎重であるべ
きという議論も存在する(前平 2015)。
? SC論の意義とは
? 「ヒューリスティック(発見的)な機能」:「実務者たちは個別具体
的な事例の中で「人々のつながり?協力関係の充実→望ましい結果」
という現象を知ることはあっても、それを普遍的な現象として定式化
することは長らくできなかった」が、SCという汎用性の高い概念を獲
得することによって、「自らが特定場面で経験した人々のつながりや
協力関係の重要性を抽象化?普遍化して多方面に説明できるようにな
った」(坂本 2010: 53) 。
? SC論による3つの付加価値:「既存の概念の深化」「包括的なコミュ
ニティ理解の促進」「新たな学問領域の創造」(稲葉 2016: 83-92)
。
4
背景
SCの醸成に関するアプローチ
? SCの醸成に関するアプローチは端緒についたばかりである。
? 高橋(2013: 72-74)は、SCをつくるコミュニティ?アプローチのプロセ
スについて、(1)<結合型>のネットワークの存在、(2)潜在化して
いた資源の掘り起こしと社会的活動の組織化(橋渡し型のネットワークを
つくる)、(3)結合型と橋渡し型のネットワークの相乗効果の発揮と、
創発的な協同関係の生成という整理を行っている。
? 荻野(2016b)は、2自治体の比較研究を通じて、社会教育の役割は、コ
ミュニティの基礎単位である中間集団の組織化と活性化、あるいは集団の
「重層性」や「連結性」の向上を通じて、コミュニティの「持続性」を担
保することであるという理論仮説を導き出している。
? SCの醸成に関しては、大きく分けて、市民社会組織に注目する「社会中心ア
プローチ」と、SCが制度に埋め込まれていると考える「制度中心アプローチ
」が存在する(Hooghe & Stolle 2003等)。
? 社会中心アプローチは、「社会的相互行為とボランタリー?アソシエーシ
ョンの役割を重視し、アソシエーションが民主的、協力的価値や信頼を社
会全体に広げるという社会的効果を持ち、ソーシャル?キャピタルの創出
者であり、生産者であると想定する」もの(坪郷 2015: 8)。
? 制度中心アプローチは、「政府と公共的制度の能力」を重視し、政策や制
度が、協力的行動や信頼に与える影響に焦点を当てるもの(坪郷 2015: 8
)。
5
背景
市民社会組織の捉え方
? Pestoff(1998=2000: 2 章) の「福祉トライアングル」の議論は、公式/
非公式、営利/非営利、公共/民間という3つの軸により、福祉サーヒ?
スの提供主体として、国家、市場、コミュニティと、アソシエーション
(サードセクター)とを区別している。
? この議論を受けて、澤井(2004)は、アソシエーションだけでなく、地
縁的なコミュニティ組織も含む「市民社会組織」を想定し、この組織が
社会的アクターとして一定の社会的役割を担う状況を「ソーシャル?ガ
ハ?ナンス」であると定義している。
? 市民社会組織には、①社会関係資本の醸成、②公共サービスの供給、③
アドボカシー(政策提言)の3つの機能が期待されている(伊藤?近藤
2010:11-12)。
? これまで「市民社会組織」に関しては、組織の種類ごとの分析が行われ
てきた。(例)政治学や地域社会学による町内会?自治会?地縁組織の
研究、協同組合研究、社会的企業やサードセクター研究等。
? 前述の坂本(2010)や、稲葉(2016)の指摘を踏まえれば、SCの醸成と
いう観点から、「市民社会組織」の役割やその関係を横断的に問う研究
が求められる。
? 本報告では、サードセクターに属する組織と、地縁型のコミュニティ組
織を合わせて「市民社会組織」として捉える。
6
研究対象
市民社会組織とSC
? SCの創出やガバナンスの推進における市民社会組織の役割
? Putnam(2002=2013)による国際比較研究
? 過去30年間を通じ、SCが広く同時に減少したという事実は存在しない
(p. 356)が、対象とされた8ヶ国に共通する現象として、投票率の低
下、政党への人々への関わりの減少、組合加入率の低下、教会礼拝の
減少などが見られる(p. 350-354)。
? 市民社会組織は、SCの偏りを是正することに一定の役割を果たしてき
たため、人々の組織加入率への低下は、今後SCの分布の不平等を招く
可能性がある(p. 360-361)。
? ただし公式的組織に代わり、「非公式で流動的で、個人的な形態の社
会的結合の相対的な重要性の増加」によって、社会的連帯は一定程度
担保されている (p .357)。
? 坂本(2011)による日本の市民社会組織の分析
? 「SC創出型団体」と「ガバナンス推進型団体」に組織を分類。
? 「SC創出型団体」は約2割、「ガバナンス推進型団体」は約6割、双方
の充実に役立つ「両機能型」は13.2%存在している。
? なお、団体の種類、あるいは、設立年によって、団体の果たす役割は
異なる。
7
研究対象
市民社会組織の役割 ①
? 町内会?自治会は、「圧力団体機能」「行政末端補完機能」 が主たる機
能としてみなされてきたが(倉沢 1990)、近年では親睦や自治の機能に
積極的役割を求める議論が見られる(中田他 2009等)。
? 辻中他(2009)は、町内会?自治会の大規模な調査研究を実施。
? 自治会が親睦活動を行うほどSCが高く住民の付き合いも活発化する。
? 村落型の自治会ほど付き合いが深く活発であるが、近年は都市部でも
、住民関係は希薄ながら、活発化の傾向が見られる(pp.99-100)。
? 町内会?自治会は、子供会、老人クラブ、婦人会、青年団といった年
齢?性別の地縁型組織との連携率が高く、これらの組織は自治会の内
部組織となっている(p.104)。
? 町内会?自治会は、地縁団体とスポーツや文化のイベントを中心とし
て関わりを持ち、「結束型」のSCを形成(p.111)。
? 従来の地域社会では、青年団や消防団から婦人会や老人クラブに至るまで
の切れ目のない形で、地域の中間集団への参加経験が保たれていることに
よって、住民の社会的役割が維持され、地域の「参加を前提とした生活構
造」を成立させてきたとされる(高野 2013: 153)。
? ただし、これらの組織への加入率は低下傾向にある(次頁)。
論点1
8
団体加入率の推移
9
資料
0.0
10.0
20.0
30.0
40.0
50.0
60.0
70.0
1972 1976 1980 1983 1986 1990 1996 2000 2003 2007 2009
加
入
率
(
%
)
調査実施年
町内会?自治会 婦人会?青年団 PTA 老人クラブ
同好会?趣味のグループ 住民?消費者?市民団体?NPO 加入団体なし
町内会?自治会
加入団体なし
出典:2007年までの結果について辻中(2009: 134)を、2009年の結果については、明
るい選挙推進協会の実施した「選挙の意識調査」の結果を参照し、筆者が作成。
市民社会組織の役割 ②
? 協同組合を通じたSC醸成のメカニズム(羅 2008: 3章)
? 住民参加型の相互扶助組織(班、ワーカーズコープ、福祉クラブ生協
等の組織)において、個人や組織が自分の時間や努力を他の組織に捧
げる理由は「社会関係への信頼性」(義務がいずれ報われること)。
? 組織内の定期的な向かい合ったコミュニケーションの程度が、組織内
の社会関係への「信頼性」に影響を与える。
? 組織内の社会関係への「信頼性」は、組織内の文化サークルや学習サ
ークルの活動によって増す。
? 生活協同組合の役割の変化
? 団地?ニュータウンの開発期に、自治会、PTA、父母会等をきっかけ
に生協に加入したり設立する動きが進む。生協は、結束型のSC醸成だ
けでなく、生産者との交流?交渉を通じ、橋渡し型SCの機能も持ち、
「組合員意識の社会化」を生み出す(林 2015: 130)。
? しかし、1990年代以降、班組織の衰退と、個別配送の全面化、生協の
大規模化に伴い、生協のSCの有り様は変化。個配中心の都市部の生協
でも信頼感等のSCの醸成につながっているという研究が存在するが(
桜井他 2009)、生協のSCの世代的な継承や再蓄積が大きな課題にな
っているともされる(林 2015: 131-132)。
論点1
10
市民社会組織の役割 ③
? 天野(2005: 4)は、サークルやグループが形成されるつながり方に注目
し、血縁?地縁と異なり、集団への参加が自発的な選択に基づくという点
で「選べる縁」であること、その中でもNPOなどの自発的結社と異なり
、組織化の程度や基準が異なるという点で「柔らかい縁」であることを指
摘。
? サークルやグループには、SCの醸成という公共的な役割がある。
? 「一般に『公共性』が高いと認識されることの多い……、いわゆる『
現代的課題』に関する学習活動でなくても、なんらかの『団体』をと
おして行われる趣味?教養や楽しみのための学習」が、「社会関係資
本」の水準を維持、向上させる可能性がある(坂口 2003: 30)。
? 趣味やスポーツに関わるグループへの所属は友人とのネットワークを
強化する上で効果があり(佐藤 2011)、サークルやグループといっ
たインフォーマルな集団への所属は様々な社会的ネットワークの形成
に重要な役割を果たす(荻野 2011)。
? インフォーマルな団体を結びつける媒介項として、趣味型の関係の構
築が社会的活動につながることも指摘されている(浅野 2011)
論点1
11
市民社会組織のSC醸成の役割
? 市民社会組織のSC醸成の役割
? 市民社会組織は、団体の性質にかかわらず、日常的な「顔の見える関
係」や「相互の信頼関係」の中で、協調的な活動が継続されることで
、(特に)「結束型」のSCの醸成に一定の役割を果たす。
? 市民社会組織の社会関係の形成機能だけでなく、組織内での社会的陶
冶の機能も注目されている。
?政治学では、市民社会組織に所属することによる「政治的社会化
」(Almond and Verba 1963=1974;蒲島1988)、あるいは「市民
陶冶機能」(坂本 2010)が注目されてきた。
?パットナム(Putnam 1993=2001: 107-108)も、ボランティア団
体への所属は「そのメンバーに協力の習慣や連帯、公共心」を教
え込み、団体への参加は「皆で力を合わせて物事に取り組もうと
する努力に対して、責任を共有する感覚、さらには人々がその胸
中に望む目標を追求する術も養う」と述べ、市民社会組織への所
属の重要性を訴える。
? ただし、各組織におけるSC(ネットワークや信頼)醸成のプロセスの
把握については課題を残している。
論点1
12
組織間関係の視点 ①
? 市民社会組織それぞれの果たす役割に注目するのではなく、相互の関係に
注目する視点も存在する。
? 「関係基盤」の考え方:「さまざまな属性は、それを共有する人びとから
なる潜在的なソシオセントリック?ネットワークを指標する。そうした指
標機能をもつ属性」のこと(三隅 2013: 145) 。
? 「関係基盤」の「重層性」:「一本の紐帯が複数の異なる関係基盤に
所属するとき、その紐帯は重層的」でより堅固なものである。「関係
基盤の重層性は、互いに複数の縁でつながっていることから成員たち
の帰属感を揺るぎないものにし、それによって結束型の社会関係資本
の蓄積が促進される」 (三隅 2013: 156)。
? 「関係基盤」の「連結性」:異なる「関係基盤」に所属する複数の社
会的ネットワークが、ある1つの社会的ネットワークを通じて、相互
にどの程度つながっているのかを見る観点(三隅 2013: 162)。
? 「関係基盤」への「投資」の視点:SCの議論の有効性は、「投資の効
果を、投資者と投資された他者のネットワーク関係、さらにはそれら
のネットワークを含むより包括的なネットワーク構造の視点で捉える
とき」(三隅 2013: 148)。
論点2
13
組織間関係の視点 ②
? 町内会や地縁団体のつながり
? 町内会?自治会は、子供会、老人クラブ、婦人会、青年団といった年
齢?性別の組織との連携率が高く、これらの組織は自治会の内部組織
となっている場合も少なくない(辻中他 2009: 104)。
? 地縁団体は、単独(複数)の集落を単位とする活動と、より広域の連
合会的な活動によって組織され、ある集団の代表者が連合会の活動や
協議に参加することで、集落内での情報共有と、集落間のネットワー
クが形成されてきた(高野 2011)。
? ただし、各組織の活動や連合会的な活動は、市町村合併を通じ変化し
つつある(高野 2011;眞鍋 2009) 。
? 協同組合や非営利組織におけるつながり
? 羅(2008: 3章)は、小規模の相互信頼システムから生み出された橋渡
し型の人的資本を媒介に、小さな組織がより大きな組織へと発展する
過程を描いている。
? 桜井他(2009)は、既存の地域のSCに、新たな非営利?協同組織の
SCが働きかけることで、活性化が実現される過程を描いている。
? 山口(2007)は、生活協同組合が、地域の様々な組織と連携を深める
取り組みを紹介している。
論点2
14
組織間関係の視点 ③
? エバース(2004: 412)によれば、SCの醸成はサードセクター組織の目標
の1つ。
? 社会的企業を特徴づける「ハイブリッド構造」:政府からの公的資金、市
場からの事業収入、ソーシャル?キャピタルといった多元的経済を基盤と
して成り立つ組織(藤井 2013: 80)
? 社会的企業の内実は、NPO型、協同組合型、会社型と多様であるが、母体
となる活動や組織からのSCの移転や質的な転化という現象が見られる(林
2015: 136)。
? 当事者を中心とした結束型のSCから、橋渡し型のSCを構築していくこ
との必要性(藤井 2013: 98-99)。
? 工藤(2012)は、子育て支援や地域づくり活動を通じて形成されたSC
が、社会的企業の事業化や事業運営に影響を与える様子を描く。
? 社会的企業には、コミュニティ?エンパワーメントや、SCの醸成という役
割が期待される(藤井 2014)。
? 団体によっては地域のSCの醸成に寄与する場合がある。ただし、SCは
社会的企業の活動の障害となる場合もあり、これは社会的企業の挑戦
すべき課題の1つである(桜井 2014)。
15
論点2
組織を超えたSCの醸成の意味
? 市民社会組織における「結束型」SCから「橋渡し型」SCへの展開
? 小さく同質的な「結束型」のネットワークは維持?強化されやすいが
、閉鎖的な性格を持ちやすく外的な影響力を保持できないために、小
さく同質的な集団を大きな集団につなげていく仕組みが必要である(
Putnam and Feldstein 2003: 274-279)。
? 組織内の特定化された互酬性の規範や信頼から、より広域な一般的な
互酬性や信頼へと発展していくプロセスが存在する。
? この視点は、SCの「外部性」や「公共財」の議論ともつながる。
? SCの「外部性」について、Coleman(1988=2006: 233)は、大
部分のSCが「公共財的な性質を備え」ており、「社会関係資本を
創出する行為によってもたらされる利益の多くはその行為者以外
の人々によって享受される」という性質を指摘している。
? 各組織を超えたSCの醸成の中で、参加者の関係や意識がどのように変化
していくのか?
? 組織の発展と、参加者の変化を並行的に捉える視点。
? 同質的な組織との連携と、異質な組織との連携でこの変化の過程は異
なるのか?
論点2
16
組織の間のつながりを形成する方法 ①
? 「コミュニティの制度化」(名和田 2009)の動き
? 市町村合併を主たる契機として導入された「地域自治区」の制度
?「参加」(自治体の公共意思決定に関わることのできる権利)の
ルートとしての法定の「地域協議会」と、「協働」(自治体内の
公共サービスの提供を行政とともに担う責任ないし義務)を担う
任意組織によって構成される。
? これ以外にも、各自治体の条例等に基づき、市民社会組織を再編し、
住民自治組織を設置する動きも進む(中川編 2011等)。
? 近年では、「協働」に関する組織の「法人化」についての議論も進め
られている(名和田 2016)。
? これらの任意組織の設置に伴い、市民社会組織の再編も進んでいる。
?各団体による「部会制」をとる自治体(北九州市?宗像市)や、
地域の各種委員会と自治会を中心に再編を行った自治体(飯田市
)、全町型NPOの組織化(上越市)等(森 2014;江藤 2015;三
浦 2015;山崎?宗野編 2013)。
?住民自治組織や、法定の地域自治組織の設置に伴い、行政と市民
社会組織との関係や、市民社会組織相互の関係がどのように変化
するかが注目されている。
論点3
17
組織の間のつながりを形成する方法 ②
? 中間支援組織のネットワーキング機能への注目
? 中間支援組織の定義の整理を行った吉田(2004: 105)によれば、日
本では、中間支援組織の資源媒介機能は弱く、助言?相談や教育?研
修を行う“Management Support Organization”の役割や,情報提供やネ
ットワーク化を進める“Infrastructure Organization”の役割が主となっ
ているという。
? 「調整組織」としての「中間支援組織」への注目(堀野 2014)。
? 中間支援組織は、橋渡し型SCや、連結型SCを高める。
?中間支援組織は個人間の関係をつなぐよりも、「NPO などの市民
活動組織同士や、企業、自治体といった他のセクターに属する団
体と組織と市民活動組織との間に、団体間?組織間のつながりを
つくりだしたり、地域と地域との間で関係を構築したりする機能
」を有し、この意味で「組織間における橋渡し型ソーシャル?キ
ャピタル」を生み出す(三浦 2015: 140)。
?中間支援組織は「地域の中で資源や情報を多く持つ組織と地域社
会で様々な活動をする組織との間で、媒介的な役割を果たすこと
」もあり、これは「連結型ソーシャル?キャピタルをつくりだす
はたらき」である(三浦 2015: 140)。
論点3
18
組織がつながることの意味
? 市民社会組織同士のつながりは、地域における「プラットフォーム」の形
成として捉えられる。
? 荻野(2015)は、NPOが生涯学習の講座の提供を通じて、地域の団体
や企業と結びつくことによって、情報や資源が集約され、まちづくり
に関するプラットフォームを形成している事例を描いている。
? プラットフォームの意味:「多様な主体が協働する際に、協働を促進
するコミュニケーションの基盤となる道具や仕組み」をプラットフォ
ームと捉えている。プラットフォームがつながりをつくることで、「
個々の主体が持つ力が単純な和を超えて、相乗効果で二次関数的に大
きな力となる」という「ネットワーク外部性」と、「多くのプレーヤ
ーが活動をしているうちに、多様な資源が結合して予想もしなかった
新しい価値が次々に生まれる状態」である「創発的な価値創造」が行
われることが指摘される(國領 2011: 2)。
? 行政のモデルの転換:行政がサーヒ?スを提供する「住民サービス」モデ
ルではなく、多くの主体が地域サービスに参画するための基盤を準備する
「プラットフォーム提供」モデルを考える必要があるとされる(國領
2011: 3)。
論点3
19
組織をつなぐ組織の役割
? 「橋渡し組織」の議論
?八木(2015)は、長野県飯田市公民館の事例研究の中から、地
区館が有する「多様なアクターをつなぎ、関与を促す橋渡し組
織としての機能」に注目している。具体的には、「招集機能」
「解釈機能」「協働機能」「媒介機能」の4つの機能が挙げられ
ている。
?社会的企業論の文脈でも、「インフラストラクチャー組織」の
重要性が述べられている(藤井 2013)。
? 「結束型」組織と、「橋渡し型」組織の相補性
?Schneider(2009: 653-654)によれば、強固な結束型SCの基盤
の上に作られた組織の方が、効果的に他の組織や行政との橋渡
しや連結を促す。
? 公共政策との接点:「橋渡し組織」や「インフラストラクチャー組
織」を設けたり、これらの組織の活動への支援を行うことにより、
市民社会組織間の関係はどのように変化するのか?
論点3
20
SCの醸成と社会教育 ①
? 「市民社会組織」の研究を、SCの醸成に関する社会教育研究にど
のように発展させていくのか。
? 地域社会の構成の歴史的な分析:それぞれの地域における「関係基
盤」の構成や関連に、社会教育がどのように関わってきたか/埋め
込まれてきたか?
?地域の各団体の関係性がどのように構築され、この中で公民館
がどのような役割を果たしてきたかを明らかにする研究(荻野
2016a)。(次頁)
? 統合的なアプローチ:このアプローチを発展させることで、社会教
育に関する制度や行政組織の変化が、地域の市民社会組織の構造の
変化をどのように促してきたかも考察できる。
?「社会中心アプローチ」と「制度中心アプローチ」の統合。
?政策や行政組織再編の評価は、多面的に行われる必要があるが
、SCの「持続性」(ある時点における社会的な活動が地域に累
積され、次の時点での活動へと影響を与える循環的な性質)を
担保しているかが1つの論点(荻野 2016b)。
まとめ
21
飯田市東野地区における関係の構造
22
子育て
地縁
同業者
農協生協
同窓会
学習
趣味娯楽
まちづくり委員会役員
自治会役員
組合長
本館役員
本館部長
分館部長
本館部員
分館部員
団体役員
-3
-2
-1
0
1
2
3
4
5
6
7
-4.5 -4 -3.5 -3 -2.5 -2 -1.5 -1 -0.5 0
公民館役員
地域の委員
団体所属
自治会役員
資料
出典:荻野(2016a: 86)
SCの醸成と社会教育 ②
? 市民社会組織の実践内部での、あるいは、市民社会組織の相
互の関係における「団体と市民の各々の相互関連」(宮崎
2012: 39)を丹念に読み解くアプローチ。
? 「ハイブリッド構造」を持つ、社会的起業における「正統的周辺参加
」論や「拡張的学習論」に基づく活動の展開と学びの分析(大高
2013;2015)。
? ワーカーズコレクティブにおける組織内の資源交換のシステムと、組
織間の相互信頼のシステムの構築の過程を明らかにする研究(羅
2008: 3章)。
? 地域における、地縁団体と公民館活動、自治会活動の関連構造の中で
、住民が地域への意識を高めていく過程の把握(荻野 2014)。
? 組織の活動の展開や、他の組織との関連構造の中で、市民社
会組織の参加者が意識?行動?関係をどのように変容させて
いくか、この変容が組織の活動をどのように変えていくかを
並行的に追っていく研究アプローチ。
? これらの「相互関連」の構造と変化を追うことで、地域にお
けるSCの醸成の過程を把握することができる。
まとめ
23
参考文献(1)
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Attitudes and Democracy in Five Nations. Princeton University Press.(
=1974, 石川一雄?片岡寛光?木村修三?深谷満雄訳『現代政治理論叢
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の拓く地平』吉川弘文館.
? 浅野智彦(2011) 『シリーズ若者の気分 趣味縁からはじまる社会参加
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トワーク論:家族?コミュニティ?社会関係資本』勁草書房, 205-238.
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24
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原田晃樹?大高研道編『闘う社会的企業:コミュニティ?エンパワーメ
ントの担い手』勁草書房, 79-110.
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160917社会教育学会报告レシ?ュメ

  • 1. 社会関係資本の構築に関する理論的検討 ー市民社会組織に着目してー 荻野 亮吾 (東京大学 高齢社会総合研究機構) 中村 由香 (東京大学大学院/(公財)生協総合研究所) 日本社会教育学会 第63回研究大会 第10室(午前) 「学習方法、社会教育関係団体」 2016年9月17日(土) 9:55?10:20 弘前大学 総合教育棟 310教室
  • 2. 報告の目的 ? 報告の目的 ?本報告の目的は、社会関係資本(Social Capital、以下SC )の醸成に関する社会教育の役割について、市民社会組織 に関する研究レビューの中から、論点を抽出し、社会教育 研究としてのアプローチの方法を考えること。 ?本報告では、SC醸成に関する「社会中心アプローチ」に 関して、市民社会組織が果たす役割に注目する。さらに、 組織間関係や、それを担保する政策や制度や行政の役割に 焦点を当て、「制度中心アプローチ」との接点を探る。 【付記】本報告は、平成28年度 日本学術振興会 科学研究費補助金(若 手研究B)「生涯学習?社会参加を促す効率的?創発的なプラットフォ ーム形成に関する実証研究」助成を受けて行われるものです。 2 目的
  • 3. ソーシャル?キャピタルへの注目 ? 政策におけるSC概念への注目 ? 内閣府(国民生活局市民活動促進課):『ソーシャル?キャピタル: 豊かな人間関係と市民活動の好循環を求めて』の調査(2002年)等。 ? 文部科学省(生涯学習政策局):2013?2014年度に「絆づくりと活 力あるコミュニティの形成」の項目において「公民館等を中心とした 社会教育活性化支援プログラム」という新規事業を実施。 ? 厚生労働省:「健康日本21(第2次)」(2013年)において、「健康 を支え、守るための社会環境の整備」の中に「社会関係資本の向上」 がうたわれる。 ? SC概念を社会教育研究へと接合しようとする研究 ? コミュニティ?ガバナンスと、SCの「相補性」への注目と、それを支 える社会教育?生涯学習の役割(松田 2012a)。 ? 地域の「集合財」として、SCを捉える視点(松田 2012b)。 ? 社会教育行政による「関係基盤」の構築による、インフォーマルな学 習環境の醸成(荻野 2014)。 ? ポイントは、SCを地域社会レベルで捉えること。 3 背景
  • 4. ソーシャル?キャピタル論の意義 ? ただし、SCの概念の利用には批判も存在する。 ? 例えば、概念の正当性、既存研究と比べた時の付加価値、測定可能性 、因果関係の不明確さ、政策手段としての曖昧さ等(稲葉 2016: 75- 83)。 ? 特に、社会的実践を「資本」概念に関連づける研究には慎重であるべ きという議論も存在する(前平 2015)。 ? SC論の意義とは ? 「ヒューリスティック(発見的)な機能」:「実務者たちは個別具体 的な事例の中で「人々のつながり?協力関係の充実→望ましい結果」 という現象を知ることはあっても、それを普遍的な現象として定式化 することは長らくできなかった」が、SCという汎用性の高い概念を獲 得することによって、「自らが特定場面で経験した人々のつながりや 協力関係の重要性を抽象化?普遍化して多方面に説明できるようにな った」(坂本 2010: 53) 。 ? SC論による3つの付加価値:「既存の概念の深化」「包括的なコミュ ニティ理解の促進」「新たな学問領域の創造」(稲葉 2016: 83-92) 。 4 背景
  • 5. SCの醸成に関するアプローチ ? SCの醸成に関するアプローチは端緒についたばかりである。 ? 高橋(2013: 72-74)は、SCをつくるコミュニティ?アプローチのプロセ スについて、(1)<結合型>のネットワークの存在、(2)潜在化して いた資源の掘り起こしと社会的活動の組織化(橋渡し型のネットワークを つくる)、(3)結合型と橋渡し型のネットワークの相乗効果の発揮と、 創発的な協同関係の生成という整理を行っている。 ? 荻野(2016b)は、2自治体の比較研究を通じて、社会教育の役割は、コ ミュニティの基礎単位である中間集団の組織化と活性化、あるいは集団の 「重層性」や「連結性」の向上を通じて、コミュニティの「持続性」を担 保することであるという理論仮説を導き出している。 ? SCの醸成に関しては、大きく分けて、市民社会組織に注目する「社会中心ア プローチ」と、SCが制度に埋め込まれていると考える「制度中心アプローチ 」が存在する(Hooghe & Stolle 2003等)。 ? 社会中心アプローチは、「社会的相互行為とボランタリー?アソシエーシ ョンの役割を重視し、アソシエーションが民主的、協力的価値や信頼を社 会全体に広げるという社会的効果を持ち、ソーシャル?キャピタルの創出 者であり、生産者であると想定する」もの(坪郷 2015: 8)。 ? 制度中心アプローチは、「政府と公共的制度の能力」を重視し、政策や制 度が、協力的行動や信頼に与える影響に焦点を当てるもの(坪郷 2015: 8 )。 5 背景
  • 6. 市民社会組織の捉え方 ? Pestoff(1998=2000: 2 章) の「福祉トライアングル」の議論は、公式/ 非公式、営利/非営利、公共/民間という3つの軸により、福祉サーヒ? スの提供主体として、国家、市場、コミュニティと、アソシエーション (サードセクター)とを区別している。 ? この議論を受けて、澤井(2004)は、アソシエーションだけでなく、地 縁的なコミュニティ組織も含む「市民社会組織」を想定し、この組織が 社会的アクターとして一定の社会的役割を担う状況を「ソーシャル?ガ ハ?ナンス」であると定義している。 ? 市民社会組織には、①社会関係資本の醸成、②公共サービスの供給、③ アドボカシー(政策提言)の3つの機能が期待されている(伊藤?近藤 2010:11-12)。 ? これまで「市民社会組織」に関しては、組織の種類ごとの分析が行われ てきた。(例)政治学や地域社会学による町内会?自治会?地縁組織の 研究、協同組合研究、社会的企業やサードセクター研究等。 ? 前述の坂本(2010)や、稲葉(2016)の指摘を踏まえれば、SCの醸成と いう観点から、「市民社会組織」の役割やその関係を横断的に問う研究 が求められる。 ? 本報告では、サードセクターに属する組織と、地縁型のコミュニティ組 織を合わせて「市民社会組織」として捉える。 6 研究対象
  • 7. 市民社会組織とSC ? SCの創出やガバナンスの推進における市民社会組織の役割 ? Putnam(2002=2013)による国際比較研究 ? 過去30年間を通じ、SCが広く同時に減少したという事実は存在しない (p. 356)が、対象とされた8ヶ国に共通する現象として、投票率の低 下、政党への人々への関わりの減少、組合加入率の低下、教会礼拝の 減少などが見られる(p. 350-354)。 ? 市民社会組織は、SCの偏りを是正することに一定の役割を果たしてき たため、人々の組織加入率への低下は、今後SCの分布の不平等を招く 可能性がある(p. 360-361)。 ? ただし公式的組織に代わり、「非公式で流動的で、個人的な形態の社 会的結合の相対的な重要性の増加」によって、社会的連帯は一定程度 担保されている (p .357)。 ? 坂本(2011)による日本の市民社会組織の分析 ? 「SC創出型団体」と「ガバナンス推進型団体」に組織を分類。 ? 「SC創出型団体」は約2割、「ガバナンス推進型団体」は約6割、双方 の充実に役立つ「両機能型」は13.2%存在している。 ? なお、団体の種類、あるいは、設立年によって、団体の果たす役割は 異なる。 7 研究対象
  • 8. 市民社会組織の役割 ① ? 町内会?自治会は、「圧力団体機能」「行政末端補完機能」 が主たる機 能としてみなされてきたが(倉沢 1990)、近年では親睦や自治の機能に 積極的役割を求める議論が見られる(中田他 2009等)。 ? 辻中他(2009)は、町内会?自治会の大規模な調査研究を実施。 ? 自治会が親睦活動を行うほどSCが高く住民の付き合いも活発化する。 ? 村落型の自治会ほど付き合いが深く活発であるが、近年は都市部でも 、住民関係は希薄ながら、活発化の傾向が見られる(pp.99-100)。 ? 町内会?自治会は、子供会、老人クラブ、婦人会、青年団といった年 齢?性別の地縁型組織との連携率が高く、これらの組織は自治会の内 部組織となっている(p.104)。 ? 町内会?自治会は、地縁団体とスポーツや文化のイベントを中心とし て関わりを持ち、「結束型」のSCを形成(p.111)。 ? 従来の地域社会では、青年団や消防団から婦人会や老人クラブに至るまで の切れ目のない形で、地域の中間集団への参加経験が保たれていることに よって、住民の社会的役割が維持され、地域の「参加を前提とした生活構 造」を成立させてきたとされる(高野 2013: 153)。 ? ただし、これらの組織への加入率は低下傾向にある(次頁)。 論点1 8
  • 9. 団体加入率の推移 9 資料 0.0 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0 60.0 70.0 1972 1976 1980 1983 1986 1990 1996 2000 2003 2007 2009 加 入 率 ( % ) 調査実施年 町内会?自治会 婦人会?青年団 PTA 老人クラブ 同好会?趣味のグループ 住民?消費者?市民団体?NPO 加入団体なし 町内会?自治会 加入団体なし 出典:2007年までの結果について辻中(2009: 134)を、2009年の結果については、明 るい選挙推進協会の実施した「選挙の意識調査」の結果を参照し、筆者が作成。
  • 10. 市民社会組織の役割 ② ? 協同組合を通じたSC醸成のメカニズム(羅 2008: 3章) ? 住民参加型の相互扶助組織(班、ワーカーズコープ、福祉クラブ生協 等の組織)において、個人や組織が自分の時間や努力を他の組織に捧 げる理由は「社会関係への信頼性」(義務がいずれ報われること)。 ? 組織内の定期的な向かい合ったコミュニケーションの程度が、組織内 の社会関係への「信頼性」に影響を与える。 ? 組織内の社会関係への「信頼性」は、組織内の文化サークルや学習サ ークルの活動によって増す。 ? 生活協同組合の役割の変化 ? 団地?ニュータウンの開発期に、自治会、PTA、父母会等をきっかけ に生協に加入したり設立する動きが進む。生協は、結束型のSC醸成だ けでなく、生産者との交流?交渉を通じ、橋渡し型SCの機能も持ち、 「組合員意識の社会化」を生み出す(林 2015: 130)。 ? しかし、1990年代以降、班組織の衰退と、個別配送の全面化、生協の 大規模化に伴い、生協のSCの有り様は変化。個配中心の都市部の生協 でも信頼感等のSCの醸成につながっているという研究が存在するが( 桜井他 2009)、生協のSCの世代的な継承や再蓄積が大きな課題にな っているともされる(林 2015: 131-132)。 論点1 10
  • 11. 市民社会組織の役割 ③ ? 天野(2005: 4)は、サークルやグループが形成されるつながり方に注目 し、血縁?地縁と異なり、集団への参加が自発的な選択に基づくという点 で「選べる縁」であること、その中でもNPOなどの自発的結社と異なり 、組織化の程度や基準が異なるという点で「柔らかい縁」であることを指 摘。 ? サークルやグループには、SCの醸成という公共的な役割がある。 ? 「一般に『公共性』が高いと認識されることの多い……、いわゆる『 現代的課題』に関する学習活動でなくても、なんらかの『団体』をと おして行われる趣味?教養や楽しみのための学習」が、「社会関係資 本」の水準を維持、向上させる可能性がある(坂口 2003: 30)。 ? 趣味やスポーツに関わるグループへの所属は友人とのネットワークを 強化する上で効果があり(佐藤 2011)、サークルやグループといっ たインフォーマルな集団への所属は様々な社会的ネットワークの形成 に重要な役割を果たす(荻野 2011)。 ? インフォーマルな団体を結びつける媒介項として、趣味型の関係の構 築が社会的活動につながることも指摘されている(浅野 2011) 論点1 11
  • 12. 市民社会組織のSC醸成の役割 ? 市民社会組織のSC醸成の役割 ? 市民社会組織は、団体の性質にかかわらず、日常的な「顔の見える関 係」や「相互の信頼関係」の中で、協調的な活動が継続されることで 、(特に)「結束型」のSCの醸成に一定の役割を果たす。 ? 市民社会組織の社会関係の形成機能だけでなく、組織内での社会的陶 冶の機能も注目されている。 ?政治学では、市民社会組織に所属することによる「政治的社会化 」(Almond and Verba 1963=1974;蒲島1988)、あるいは「市民 陶冶機能」(坂本 2010)が注目されてきた。 ?パットナム(Putnam 1993=2001: 107-108)も、ボランティア団 体への所属は「そのメンバーに協力の習慣や連帯、公共心」を教 え込み、団体への参加は「皆で力を合わせて物事に取り組もうと する努力に対して、責任を共有する感覚、さらには人々がその胸 中に望む目標を追求する術も養う」と述べ、市民社会組織への所 属の重要性を訴える。 ? ただし、各組織におけるSC(ネットワークや信頼)醸成のプロセスの 把握については課題を残している。 論点1 12
  • 13. 組織間関係の視点 ① ? 市民社会組織それぞれの果たす役割に注目するのではなく、相互の関係に 注目する視点も存在する。 ? 「関係基盤」の考え方:「さまざまな属性は、それを共有する人びとから なる潜在的なソシオセントリック?ネットワークを指標する。そうした指 標機能をもつ属性」のこと(三隅 2013: 145) 。 ? 「関係基盤」の「重層性」:「一本の紐帯が複数の異なる関係基盤に 所属するとき、その紐帯は重層的」でより堅固なものである。「関係 基盤の重層性は、互いに複数の縁でつながっていることから成員たち の帰属感を揺るぎないものにし、それによって結束型の社会関係資本 の蓄積が促進される」 (三隅 2013: 156)。 ? 「関係基盤」の「連結性」:異なる「関係基盤」に所属する複数の社 会的ネットワークが、ある1つの社会的ネットワークを通じて、相互 にどの程度つながっているのかを見る観点(三隅 2013: 162)。 ? 「関係基盤」への「投資」の視点:SCの議論の有効性は、「投資の効 果を、投資者と投資された他者のネットワーク関係、さらにはそれら のネットワークを含むより包括的なネットワーク構造の視点で捉える とき」(三隅 2013: 148)。 論点2 13
  • 14. 組織間関係の視点 ② ? 町内会や地縁団体のつながり ? 町内会?自治会は、子供会、老人クラブ、婦人会、青年団といった年 齢?性別の組織との連携率が高く、これらの組織は自治会の内部組織 となっている場合も少なくない(辻中他 2009: 104)。 ? 地縁団体は、単独(複数)の集落を単位とする活動と、より広域の連 合会的な活動によって組織され、ある集団の代表者が連合会の活動や 協議に参加することで、集落内での情報共有と、集落間のネットワー クが形成されてきた(高野 2011)。 ? ただし、各組織の活動や連合会的な活動は、市町村合併を通じ変化し つつある(高野 2011;眞鍋 2009) 。 ? 協同組合や非営利組織におけるつながり ? 羅(2008: 3章)は、小規模の相互信頼システムから生み出された橋渡 し型の人的資本を媒介に、小さな組織がより大きな組織へと発展する 過程を描いている。 ? 桜井他(2009)は、既存の地域のSCに、新たな非営利?協同組織の SCが働きかけることで、活性化が実現される過程を描いている。 ? 山口(2007)は、生活協同組合が、地域の様々な組織と連携を深める 取り組みを紹介している。 論点2 14
  • 15. 組織間関係の視点 ③ ? エバース(2004: 412)によれば、SCの醸成はサードセクター組織の目標 の1つ。 ? 社会的企業を特徴づける「ハイブリッド構造」:政府からの公的資金、市 場からの事業収入、ソーシャル?キャピタルといった多元的経済を基盤と して成り立つ組織(藤井 2013: 80) ? 社会的企業の内実は、NPO型、協同組合型、会社型と多様であるが、母体 となる活動や組織からのSCの移転や質的な転化という現象が見られる(林 2015: 136)。 ? 当事者を中心とした結束型のSCから、橋渡し型のSCを構築していくこ との必要性(藤井 2013: 98-99)。 ? 工藤(2012)は、子育て支援や地域づくり活動を通じて形成されたSC が、社会的企業の事業化や事業運営に影響を与える様子を描く。 ? 社会的企業には、コミュニティ?エンパワーメントや、SCの醸成という役 割が期待される(藤井 2014)。 ? 団体によっては地域のSCの醸成に寄与する場合がある。ただし、SCは 社会的企業の活動の障害となる場合もあり、これは社会的企業の挑戦 すべき課題の1つである(桜井 2014)。 15 論点2
  • 16. 組織を超えたSCの醸成の意味 ? 市民社会組織における「結束型」SCから「橋渡し型」SCへの展開 ? 小さく同質的な「結束型」のネットワークは維持?強化されやすいが 、閉鎖的な性格を持ちやすく外的な影響力を保持できないために、小 さく同質的な集団を大きな集団につなげていく仕組みが必要である( Putnam and Feldstein 2003: 274-279)。 ? 組織内の特定化された互酬性の規範や信頼から、より広域な一般的な 互酬性や信頼へと発展していくプロセスが存在する。 ? この視点は、SCの「外部性」や「公共財」の議論ともつながる。 ? SCの「外部性」について、Coleman(1988=2006: 233)は、大 部分のSCが「公共財的な性質を備え」ており、「社会関係資本を 創出する行為によってもたらされる利益の多くはその行為者以外 の人々によって享受される」という性質を指摘している。 ? 各組織を超えたSCの醸成の中で、参加者の関係や意識がどのように変化 していくのか? ? 組織の発展と、参加者の変化を並行的に捉える視点。 ? 同質的な組織との連携と、異質な組織との連携でこの変化の過程は異 なるのか? 論点2 16
  • 17. 組織の間のつながりを形成する方法 ① ? 「コミュニティの制度化」(名和田 2009)の動き ? 市町村合併を主たる契機として導入された「地域自治区」の制度 ?「参加」(自治体の公共意思決定に関わることのできる権利)の ルートとしての法定の「地域協議会」と、「協働」(自治体内の 公共サービスの提供を行政とともに担う責任ないし義務)を担う 任意組織によって構成される。 ? これ以外にも、各自治体の条例等に基づき、市民社会組織を再編し、 住民自治組織を設置する動きも進む(中川編 2011等)。 ? 近年では、「協働」に関する組織の「法人化」についての議論も進め られている(名和田 2016)。 ? これらの任意組織の設置に伴い、市民社会組織の再編も進んでいる。 ?各団体による「部会制」をとる自治体(北九州市?宗像市)や、 地域の各種委員会と自治会を中心に再編を行った自治体(飯田市 )、全町型NPOの組織化(上越市)等(森 2014;江藤 2015;三 浦 2015;山崎?宗野編 2013)。 ?住民自治組織や、法定の地域自治組織の設置に伴い、行政と市民 社会組織との関係や、市民社会組織相互の関係がどのように変化 するかが注目されている。 論点3 17
  • 18. 組織の間のつながりを形成する方法 ② ? 中間支援組織のネットワーキング機能への注目 ? 中間支援組織の定義の整理を行った吉田(2004: 105)によれば、日 本では、中間支援組織の資源媒介機能は弱く、助言?相談や教育?研 修を行う“Management Support Organization”の役割や,情報提供やネ ットワーク化を進める“Infrastructure Organization”の役割が主となっ ているという。 ? 「調整組織」としての「中間支援組織」への注目(堀野 2014)。 ? 中間支援組織は、橋渡し型SCや、連結型SCを高める。 ?中間支援組織は個人間の関係をつなぐよりも、「NPO などの市民 活動組織同士や、企業、自治体といった他のセクターに属する団 体と組織と市民活動組織との間に、団体間?組織間のつながりを つくりだしたり、地域と地域との間で関係を構築したりする機能 」を有し、この意味で「組織間における橋渡し型ソーシャル?キ ャピタル」を生み出す(三浦 2015: 140)。 ?中間支援組織は「地域の中で資源や情報を多く持つ組織と地域社 会で様々な活動をする組織との間で、媒介的な役割を果たすこと 」もあり、これは「連結型ソーシャル?キャピタルをつくりだす はたらき」である(三浦 2015: 140)。 論点3 18
  • 19. 組織がつながることの意味 ? 市民社会組織同士のつながりは、地域における「プラットフォーム」の形 成として捉えられる。 ? 荻野(2015)は、NPOが生涯学習の講座の提供を通じて、地域の団体 や企業と結びつくことによって、情報や資源が集約され、まちづくり に関するプラットフォームを形成している事例を描いている。 ? プラットフォームの意味:「多様な主体が協働する際に、協働を促進 するコミュニケーションの基盤となる道具や仕組み」をプラットフォ ームと捉えている。プラットフォームがつながりをつくることで、「 個々の主体が持つ力が単純な和を超えて、相乗効果で二次関数的に大 きな力となる」という「ネットワーク外部性」と、「多くのプレーヤ ーが活動をしているうちに、多様な資源が結合して予想もしなかった 新しい価値が次々に生まれる状態」である「創発的な価値創造」が行 われることが指摘される(國領 2011: 2)。 ? 行政のモデルの転換:行政がサーヒ?スを提供する「住民サービス」モデ ルではなく、多くの主体が地域サービスに参画するための基盤を準備する 「プラットフォーム提供」モデルを考える必要があるとされる(國領 2011: 3)。 論点3 19
  • 20. 組織をつなぐ組織の役割 ? 「橋渡し組織」の議論 ?八木(2015)は、長野県飯田市公民館の事例研究の中から、地 区館が有する「多様なアクターをつなぎ、関与を促す橋渡し組 織としての機能」に注目している。具体的には、「招集機能」 「解釈機能」「協働機能」「媒介機能」の4つの機能が挙げられ ている。 ?社会的企業論の文脈でも、「インフラストラクチャー組織」の 重要性が述べられている(藤井 2013)。 ? 「結束型」組織と、「橋渡し型」組織の相補性 ?Schneider(2009: 653-654)によれば、強固な結束型SCの基盤 の上に作られた組織の方が、効果的に他の組織や行政との橋渡 しや連結を促す。 ? 公共政策との接点:「橋渡し組織」や「インフラストラクチャー組 織」を設けたり、これらの組織の活動への支援を行うことにより、 市民社会組織間の関係はどのように変化するのか? 論点3 20
  • 21. SCの醸成と社会教育 ① ? 「市民社会組織」の研究を、SCの醸成に関する社会教育研究にど のように発展させていくのか。 ? 地域社会の構成の歴史的な分析:それぞれの地域における「関係基 盤」の構成や関連に、社会教育がどのように関わってきたか/埋め 込まれてきたか? ?地域の各団体の関係性がどのように構築され、この中で公民館 がどのような役割を果たしてきたかを明らかにする研究(荻野 2016a)。(次頁) ? 統合的なアプローチ:このアプローチを発展させることで、社会教 育に関する制度や行政組織の変化が、地域の市民社会組織の構造の 変化をどのように促してきたかも考察できる。 ?「社会中心アプローチ」と「制度中心アプローチ」の統合。 ?政策や行政組織再編の評価は、多面的に行われる必要があるが 、SCの「持続性」(ある時点における社会的な活動が地域に累 積され、次の時点での活動へと影響を与える循環的な性質)を 担保しているかが1つの論点(荻野 2016b)。 まとめ 21
  • 23. SCの醸成と社会教育 ② ? 市民社会組織の実践内部での、あるいは、市民社会組織の相 互の関係における「団体と市民の各々の相互関連」(宮崎 2012: 39)を丹念に読み解くアプローチ。 ? 「ハイブリッド構造」を持つ、社会的起業における「正統的周辺参加 」論や「拡張的学習論」に基づく活動の展開と学びの分析(大高 2013;2015)。 ? ワーカーズコレクティブにおける組織内の資源交換のシステムと、組 織間の相互信頼のシステムの構築の過程を明らかにする研究(羅 2008: 3章)。 ? 地域における、地縁団体と公民館活動、自治会活動の関連構造の中で 、住民が地域への意識を高めていく過程の把握(荻野 2014)。 ? 組織の活動の展開や、他の組織との関連構造の中で、市民社 会組織の参加者が意識?行動?関係をどのように変容させて いくか、この変容が組織の活動をどのように変えていくかを 並行的に追っていく研究アプローチ。 ? これらの「相互関連」の構造と変化を追うことで、地域にお けるSCの醸成の過程を把握することができる。 まとめ 23
  • 24. 参考文献(1) ? Almond, G. A. and S. Verba(1963) The Civic Culture: Political Attitudes and Democracy in Five Nations. Princeton University Press.( =1974, 石川一雄?片岡寛光?木村修三?深谷満雄訳『現代政治理論叢 書3 現代市民の政治文化』勁草書房.) ? 天野正子(2005)『「つきあい」の戦後史:サークル?ネットワーク の拓く地平』吉川弘文館. ? 浅野智彦(2011) 『シリーズ若者の気分 趣味縁からはじまる社会参加 』岩波書店. ? Coleman, J. S. (1988)“Social Capital in the Creation of Human Capital,” American Journal of Sociology, 94.(=2006, 金光淳訳「人的 資本の形成における社会関係資本」野沢慎司編『リーディングス ネッ トワーク論:家族?コミュニティ?社会関係資本』勁草書房, 205-238. ) ? 江藤俊昭(2015)「地域自治組織と議会の新たな関係」『コミュニテ ィ政策』13, 40-63. ? エバース, アダルベート/柳沢敏勝訳(2004)「社会的企業と社会的資 本」ボルサガ, カルロ?ドゥフルニ, ジャック編『社会的企業:福祉? 雇用のEUサードセクター』日本経済評論社. 24
  • 25. 参考文献(2) ? 藤井敦史(2013)「ハイブリッド構造としての社会的企業」藤井敦史? 原田晃樹?大高研道編『闘う社会的企業:コミュニティ?エンパワーメ ントの担い手』勁草書房, 79-110. ? 藤井敦史(2014)「社会的企業とコミュニティ?エンパワーメント」坂 田周一監修『コミュニティ政策学入門』誠信書房, 106-124. ? 林和孝(2015)「ソーシャル?キャピタルと協同組合?社会的企業」坪 郷實編『ソーシャル?キャピタル』ミネルヴァ書房,128-138. ? Hooghe, M. and D. Stolle, eds.(2003)Generating Social Capital: Civil Society and Institutions in Comparative Perspective, Palgrave Macmillan. ? 堀野亘求(2014)「NPOを支援する中間支援組織についての考察:組織 間関係からの接近」『経営教育研究』17(2), 55-63. ? 稲葉陽二(2016)「ソーシャル?キャピタル研究による社会貢献の可能 性:批判をめぐる議論から」稲葉陽二?吉野諒三『ソーシャル?キャピ タルの世界:学術的有効性?政策的含意と統計?解析手法の検証』ミネ ルヴァ書房, 73-105. ? 伊藤修一郎?近藤康史(2010)「ガバナンス論の展開と地方政府?市民 社会:理論的検討と実証に向けた操作化」辻中豊?伊藤修一郎編『現代 市民社会叢書3 ローカル?ガバナンス:地方政府と市民社会』木鐸社, 19- 38. 25
  • 26. 参考文献(3) ? 蒲島郁夫(1988)『現代政治学叢書6 政治参加』東京大学出版会. ? 工藤順(2012)「地域社会における社会的企業の可能性:コミュニテ ィカフェでる?そーれの事例から」『青森保健大雑誌』13, 23-32. ? 国領二郎(2011)「プラットフォームが世界を変える」國領二郎?プ ラットフォームデサ?イン?ラボ編『創発経営のプラットフォーム:協 働の情報基盤づくり』日本経済出版社, 1-12. ? 倉沢進(1990)「町内会と日本の地域社会」倉沢 進?秋元律郎編『都 市社会学研究叢書2 町内会と地域集団』ミネルヴァ書房, 2-26. ? 前平泰志(2015)「<ソーシャル?キャピタル>批判の視座に関する ノート:生涯学習論との関連で」『京都大学生涯教育フィールド研究 』3: 3-9. ? 眞鍋知子(2009)「地域社会の再編と地域婦人会の変容」松野 弘?土 岐 寛?徳田賢二編『現代地域問題の研究:対立的位相から協働的位相 へ』ミネルヴァ書房, 187-203. ? 松田武雄(2012a)「社会教育?生涯学習の再編とソーシャル?キャピ タル」松田武雄編『社会教育?生涯学習の再編とソーシャル?キャピ タル』大学教育出版, 2-23. 26
  • 27. 参考文献(4) ? 松田武雄(2012b)「社会教育学研究におけるソーシャル?キャピタル 論の枠組み」『生涯学習政策研究1 生涯学習をとらえなおす:ソーシャ ル?キャピタルの視点から』文部科学省生涯学習政策局, 21-29. ? 三隅一人(2013)『叢書?現代社会学6 社会関係資本:理論統合の挑 戦』ミネルヴァ書房. ? 三浦一浩(2015)「地域自治、市民活動とソーシャル?キャピタル: くびき野の事例から」坪郷實編『ソーシャル?キャピタル』ミネルヴ ァ書房, 139-152. ? 宮崎隆志(2012)「ソーシャル?キャピタル論の批判的再構成の課題 」松田武雄編『社会教育?生涯学習の再編とソーシャル?キャピタル 』大学教育出版, 24-47. ? 森裕亮(2014)「コミュニティ政策と地域自治組織ー北九州市、福岡 市、宗像市の事例を対象に」『コミュニティ政策』12, 5-20. ? 中川幾郎編(2011)『コミュニティ再生のための地域自治のしくみと 実践』学芸出版社. ? 中田実?山崎丈夫?小木曽洋司(2009)『増補版 地域再生と町内会? 自治会』自治体研究社. 27
  • 28. 参考文献(5) ? 名和田是彦(2009)「現代コミュニティ制度論の視角」名和田是彦編 『コミュニティの自治:自治体内分権と協働の国際比較』日本評論社, 1-14. ? 名和田是彦(2016)「地域自治組織の法人化問題」『コミュニティ政 策』14, 70-85. ? 荻野亮吾(2011)「社会的ネットワークの形成に中間集団が果たす役 割:JGSS-2003を用いた分析」『日本生涯教育学会年報』32: 125-141. ? 荻野亮吾(2014)『社会教育とコミュニティの構築に関する理論的? 実証的研究:社会教育行政の再編と社会関係資本の構築過程に着目し て―』東京大学大学院教育学研究科 博士学位論文. ? 荻野亮吾(2015)「シブヤ大学における生涯学習とまちづくりをつな ぐ論理:企業との連携を中心にして」『社会教育』827, 54-64. ? 荻野亮吾(2016a)「地域の活動はどのように関連しているのか?:団 体所属と役員経験の分析」牧野篤?荻野亮吾?中村由香編『学習基盤 社会研究?調査モノグラフ6 地域社会への参加と公民館活動:飯田市の 千代?東野地区におけるアンケート調査の分析から』東京大学大学院 教育学研究科社会教育学?生涯学習論研究室, 80-86. 28
  • 29. 参考文献(6) ? 荻野亮吾(2016b)「社会教育とコミュニティ構築に関する比較事例研 究の方法:社会関係資本論に基づくアプローチ」日本社会教育学会編 『社会教育研究における方法論』(日本の社会教育第60集)東洋館出 版社. ? 大高研道(2013)「社会的企業が提起する正統的周辺参加アプローチ :ワークフェア型社会的包摂を超えて」藤井敦史?原田晃樹?大高研 道編『闘う社会的企業:コミュニティ?エンパワーメントの担い手』 勁草書房, 278-302. ? 大高研道(2015)「社会的企業から地域の協同へ」佐藤一子編『地域 学習の創造:地域再生への学びを拓く』東京大学出版会, 127-151. ? Pestoff, V. A.(1998) Beyond the Market and State: Social Enterprises and Civil Democracy in a Welfare State, Ashgate Publishing Limited. (=2000, 藤田暁男?川口清史?石塚秀雄?北島健一? 的場信 樹訳『福祉社会と市民民主主義:協同組合と社会的企業の役割』日本 経済評論社.) ? Putnam, R. D.(1993)Making Democracy Work:Civic Traditions in Modern Italy, Princeton University Press.(=2001, 河田潤一訳『哲学す る民主主義:伝統と改革の市民的構造』NTT出版.) 29
  • 30. 参考文献(7) ? Putnam, R. D., ed. (2002) Democracies in Flux: The Evolution of Social Capital in Contemporary Society, Oxford University Press.(= 2013, 猪口孝訳『流動化する民主主義:先進8カ国におけるソーシャル ?キャピタル』ミネルヴァ書房.) ? Putnam, R. D. and L. M. Feldstein(2003) Better Together: Restoring the American Community, Simon & Schuster. ? 羅一慶(2008)『日本の市民社会におけるNPOと市民参加』慶應義塾 大学出版会. ? 坂本治也(2010)『ソーシャル?キャピタルと活動する市民:新時代 日本の市民政治』有斐閣. ? 坂本治也(2011)「ソーシャル?キャピタル論とガバナンス」岩崎正 洋編『ガバナンス論の現在』勁草書房, 119-139. ? 桜井政成(2014)「社会的企業とソーシャル?キャピタル」山本隆編 『社会的企業論:もう1つの経済』 法律文化社, 68-77. ? 桜井政成?山田一隆?角谷嘉則?斎藤進也(2009)「非営利?協働組 織によるソーシャルキャピタルの醸成?活用:地域活性化への示唆」 財団法人生協総合研究所『第5回生協総研賞 研究奨励助成事業 研究論 文集』59-71. 30
  • 31. 参考文献(8) ? 佐藤智子(2011)「社会関係資本に対する成人学習機会の効果:教育 は社会的ネットワークを促進するか?」『日本社会教育学会紀要』47: 31-40. ? 澤井安勇(2004)「ソーシャル?ガバナンスの概念とその成立条件」 神野直彦?澤井安勇編『ソーシャル?ガバナンス:新しい分権?市民 社会の構図』東洋経済新報社, 40-55. ? Schneider, J. A.(2009)“Organizational Social Capital and Non- Profits,” Nonprofit and Voluntary Sector Quarterly, 38(4), 643-662. ? 高野和良 (2011)「過疎高齢社会における地域集団の現状と課題」『 福祉社会学研究』8, 12-24. ? 高野和良(2013)「過疎地域の二重の孤立」藤村正之編『シリーズ福 祉社会学3 協働性の福祉社会学:個人化社会の連帯』東京大学出版会, 139-156. ? 高橋満(2013)『コミュニティワークの教育的実践:教育と福祉とを 結ぶ』東信堂. ? 坪郷實(2015)「ソーシャル?キャピタルの意義と射程」坪郷實編『 ソーシャル?キャピタル』ミネルヴァ書房, 1-17. 31
  • 32. 参考文献(9) ? 辻中豊(2009)「変わる「コネ」社会日本:ネットワーク社会の政治 と利益団体」伊藤光利編『ポリティカル?サイエンス事始め〔第3版〕』 有斐閣, 115-135. ? 辻中豊?ロバート?ペッカネン?山本英弘(2009)『現代市民社会叢 書1 現代日本の町内会?自治会:第1回全国調査にみる自治力?ネット ワーク?ガバナンス』木鐸社. ? 八木信一(2015)「再生可能エネルギーの地域ガバナンス:長野県飯 田市を事例として」諸富徹編『再生可能エネルギーと地域再生』日本 評論社, 149-170. ? 山岡義典(2004)「市民活動団体の役割と課題」神野直彦?澤井安勇 編『ソーシャル?ガバナンス:新しい分権?市民社会の構図』東洋経 済新報社, 204-215. ? 山口浩平(2007)「生協と地域社会の連携:コープこうべとコープや まぐちの事例にみる「組合員活動」の進化と深化」『生活協同組合研 究』373, 21-32. ? 山崎仁朗?宗野隆俊編(2013)『地域自治の最前線:新潟県上越市の 挑戦』ナカニシヤ出版. ? 吉田忠彦(2004)「NPO中間支援組織の類型と課題」『龍谷大学経営 学論集』44(2), 104-113. 32