2. 情報処理学会 第85回全国大会 セッション:論文必勝法 基調講演 ||| より効果的な論文執筆を目指して ー査読者の視点に立った論文執筆ー ||| 2023.03.04
本講演の目的
l 論文執筆に対する (よくある) 気持ち
l ツライ,時間がかかる,“タイパ”悪い
=> 正直,自分 (著者) にとっては全てわかっているこ
とをまとめるのは楽しくない?
l 論文執筆負荷を低減したい
l 知見の共有
l ポイントをおさえて効率向上
(今回の講演では)
! 主に査読者との「対話」に関する話題を中心に
3. 情報処理学会 第85回全国大会 セッション:論文必勝法 基調講演 ||| より効果的な論文執筆を目指して ー査読者の視点に立った論文執筆ー ||| 2023.03.04
本講演の目的
l 試験に向けては試験対策をしますよね?
l 合格するまで何度も試験を受ける => 効率が悪い
l 過去問を解く
l 合格に向けた/良い点を取る 方法を学ぶ
e.g., 大学受験, 資格試験,就活の筆記試験など
! 本講演の立ち位置
(少し別の観点で...)
4. 情報処理学会 第85回全国大会 セッション:論文必勝法 基調講演 ||| より効果的な論文執筆を目指して ー査読者の視点に立った論文執筆ー ||| 2023.03.04
本講演の目的
l 試験に向けては試験対策をしますよね?
l 合格するまで何度も試験を受ける => 効率が悪い
l 過去問を解く
l 合格に向けた/良い点を取る 方法を学ぶ
l 可能な限り効率的に
=> 敢えて 試験対策 と考える
e.g., 大学受験, 資格試験,就活の筆記試験など
! 本講演の立ち位置
(少し別の観点で...)
5. 情報処理学会 第85回全国大会 セッション:論文必勝法 基調講演 ||| より効果的な論文執筆を目指して ー査読者の視点に立った論文執筆ー ||| 2023.03.04
想定聴衆
l 対象
l これから論文を投稿していきたいと思っている人
l 既に投稿 (and 採録) しているが査読プロセスの全
体像があまり把握できていない人
l さらに効率よく論文を書きたいと思っている人
l 学生や若手の論文執筆指導の参考情報が欲しい人
l 対象外
l 何度も「採録あり」な人
l 何度も 査読者 になっている人
l 何度も「採録あり」な人が身近(共著者)にいる人
l 論文を投稿することに興味がない人
6. 情報処理学会 第85回全国大会 セッション:論文必勝法 基調講演 ||| より効果的な論文執筆を目指して ー査読者の視点に立った論文執筆ー ||| 2023.03.04
自己紹介
l 名前: 鈴木 潤
日本電信電話株式会社
コミュニケーション科学基礎研究所(京都)
東北大学 大学院情報科学研究科
東北大学 データ駆動科学?AI教育研究センター
大学院情報科学研究科
人工知能基礎学講座 (協力講座) 教授
l 2001.4-2018.3
l 2018.4-2020.6
l 2020.7- 現在
専門分野:人工知能,機械学習,自然言語処理
Google LLC (Visiting Researcher)
l 2020.4-2022.04
l 主に言語 (記号) データに適した機械学習 (深層学習を含む) に関して
新しい学習方式を構築する研究に従事
l 大規模データに対する機械学習法を考案するのが好き (モデル圧縮/
高速化などの効率性の向上なども含む)
l 最近は生成系AIに関するタスク (機械翻訳,文章構成,文書要約,対
話) を題材とすることが多い
15. 情報処理学会 第85回全国大会 セッション:論文必勝法 基調講演 ||| より効果的な論文執筆を目指して ー査読者の視点に立った論文執筆ー ||| 2023.03.04
典型的な論文査読手順 [論文誌]
l [著者] 論文投稿
l [EiC] Editorの決定
l [Editor] 査読者の決定
l [査読者] 査読
l [Editor] 採否判定
l (条件付き採録/再投稿)
l [著者] 論文修正/回答書作成/投稿
l [査読者] 再査読/回答書の内容精査
l [Editor] 採否判定
l [EiC] 最終決定
?登場人物
[著者] 論文を{書いた/投稿した}人
[査読者] 投稿した論文を読んで審査す
る人
2, 3人程度が割り当てられる
[Editor]査読者の査読結果から採否を
判断 条件付き採録の時に査読
者の出した採録条件から最終的
な採録条件を決定
[EiC] 採録/返戻時に最終的な決定を下
す機関
16. 情報処理学会 第85回全国大会 セッション:論文必勝法 基調講演 ||| より効果的な論文執筆を目指して ー査読者の視点に立った論文執筆ー ||| 2023.03.04
典型的な論文査読手順 [国際会議]
l [著者] 論文投稿
l [PC] 分野 (Area Chair) 毎に論文割り振り
l [査読者] Bidding
l [PC] 査読者に論文割り振り
l [査読者] 査読
l [著者] Author response / Rebuttal
l [査読者,AC] 議論
l [AC] 論文の一次評価 / ランキング
l [PC] 最終決定
?登場人物
[著者] 論文を{書いた/投稿した}人
[査読者] 投稿した論文を読んで審
査する人
一本の論文に最低3人程度が
割り当てられる
一人の査読者に3?10本程度
が割り当てられる
[AC] 同一分野の論文に対して査読
結果をみて一次評価をする人
/査読者のまとめ役
一人のACに数十本の論文が
割り当てられる
[PC] 論文の最終的な採否を決定る
する人
2,3人
17. 情報処理学会 第85回全国大会 セッション:論文必勝法 基調講演 ||| より効果的な論文執筆を目指して ー査読者の視点に立った論文執筆ー ||| 2023.03.04
査読プロセス
l 著者と査読者の対話?
l 著者と査読者のディベートバトル?
18. 情報処理学会 第85回全国大会 セッション:論文必勝法 基調講演 ||| より効果的な論文執筆を目指して ー査読者の視点に立った論文執筆ー ||| 2023.03.04
査読時に査読者がすること
l コメントを書く
l [Summary]
l [STRENGTH / REASON to ACCEPT]
l [WEAKNESS / REASON to REJECT]
l [QUESTIONS FOR THE AUTHORS]
l 採否の判定基準を選択
l 論文誌:採録,条件付き採録,返戻 (再投稿推奨/推
奨なし)
l 国際会議:スコア付け
20. 情報処理学会 第85回全国大会 セッション:論文必勝法 基調講演 ||| より効果的な論文執筆を目指して ー査読者の視点に立った論文執筆ー ||| 2023.03.04
査読の現状分析
l 査読にかかる時間的コスト 高
l First review: 真面目にやると1論文に最低でも1日
? 参考文献の精査
? Weaknessや質問の根拠を用意
l Rebuttal対応: 終了まで断続的にコスト発生
? Discussionのための根拠さがし
l 基本無償(ボランティア)
l コスパ最低ランク
l 回答期日が決まっている
l 特に国際会議論文の査読期間は短い
21. 情報処理学会 第85回全国大会 セッション:論文必勝法 基調講演 ||| より効果的な論文執筆を目指して ー査読者の視点に立った論文執筆ー ||| 2023.03.04
査読の現状分析
l 査読者の気持ち
l [一般論] 時間かかる/ 報酬ない
l 稀にキレられて精神的ショックをうけたりする
l 締切ツライ
! 積極的に頑張る気持ちは薄い (と思っておく)
[参考] http://stats.aclrollingreview.org/iterations/2021/november/
28. 情報処理学会 第85回全国大会 セッション:論文必勝法 基調講演 ||| より効果的な論文執筆を目指して ー査読者の視点に立った論文執筆ー ||| 2023.03.04
着眼点
l 査読者
=> 近い研究をしている (同分野の) 研究者
l 査読者 (同分野の研究者) の気持ち
l 査読コスト 高 / 無報酬 / コスパ (タイパ) 悪い仕事
l 他人の論文を積極的に採録にしようと頑張ってくれ
るわけではない
! 一度読むだけで内容が理解できる論文が望ましい
(読み手/査読者の負荷が低い論文が望ましい)
(前述の通り)
29. 情報処理学会 第85回全国大会 セッション:論文必勝法 基調講演 ||| より効果的な論文執筆を目指して ー査読者の視点に立った論文執筆ー ||| 2023.03.04
読み手に対する負荷
l 負荷が低い論文
l 読み直しが発生しない / 気持ちよく読める
l 読み手の負荷があがる要因
l 「察してもらう」を前提とした曖昧な記述
l 書き手の暗黙の前提に根差した記述
l エラーを含む数式やアルゴリズム
l Introduction (論文の目的) の内容が不明瞭
l 図表の数値が何を表しているかパッとわからない
l 未定義の用語や記号の使用
l 用語の統一が不十分
30. 情報処理学会 第85回全国大会 セッション:論文必勝法 基調講演 ||| より効果的な論文執筆を目指して ー査読者の視点に立った論文執筆ー ||| 2023.03.04
主なチェック項目
l 基本的な方針:読者の負荷が高い論文はネガ
ティブ評価!
=> 初見の人がスラスラ読めるか?が基準
l 説明なしに新概念を当たり前のよう書いていないか
? 読者は著者のもつ知識/前提条件を共有していない
l 専門用語の統一
? 同じ事象を様々な言い方で表記すると読み手は混乱
l 文単位での論理の飛躍はないか
? 文と文の繋がりを重視
l 一文で複数の事象を表現しようとしていないか
? 基本読みにくい文になる => 複数の文に分割する
38. 情報処理学会 第85回全国大会 セッション:論文必勝法 基調講演 ||| より効果的な論文執筆を目指して ー査読者の視点に立った論文執筆ー ||| 2023.03.04
[参考] 査読結果がきたらすぐにやること
l ランキング結果により場合分け
l すぐに答えられる (①②)
? 回答をパッとメモ書きして終了
l 重要 かつ 回答が難しい (③)
? 共著者と相談の上 方針を決定
l 重要ではない かつ 回答が難しい (④)
? 論文には反映させないことも検討
(回答文のみですますことを考える)
l 判別不能 / 分類が微妙なもの
? 個別に対応
回答が難しい
回答が容易
重要
重要で
はない
① ②
③
④
39. 情報処理学会 第85回全国大会 セッション:論文必勝法 基調講演 ||| より効果的な論文執筆を目指して ー査読者の視点に立った論文執筆ー ||| 2023.03.04
あるある事例1
l 意味不明 (具体的な対応方法が不明/不明瞭) な照会
l 書いてある照会事項が抽象的でどう対応したらよい
かわからない
l 具体的にどのように修正すべき (と査読者が考えて
いるか) 書いてない
l 複数の解釈があり得る
l 対応策
l 「自分はこう解釈した」と明確に述べる
l その上でその解釈に従って回答
ある意味でおいしいと言う見方も ??
40. 情報処理学会 第85回全国大会 セッション:論文必勝法 基調講演 ||| より効果的な論文執筆を目指して ー査読者の視点に立った論文執筆ー ||| 2023.03.04
あるある事例2
l 査読者の主観/独断に基づく照会
l 「手法の新規性がない」とだけ記載 (根拠が示され
ていない)
l 対応策
l 査読者の指摘に対して根拠/客観的事実 (参考文献情
報や統計など) を提示して反論すればよい
41. 情報処理学会 第85回全国大会 セッション:論文必勝法 基調講演 ||| より効果的な論文執筆を目指して ー査読者の視点に立った論文執筆ー ||| 2023.03.04
あるある事例3
l (主にマイナー論文誌などに掲載されている論
文の) 参考文献が抜けているという指摘
l 特にタイトルやアブストからは関連研究であること
が推測できないものも多い
l 対応策
l 本来は参照されているべき
? ただし昨今の論文数に対して完全網羅は難しい状況
l シンプルに不手際を認めて追記
42. 情報処理学会 第85回全国大会 セッション:論文必勝法 基調講演 ||| より効果的な論文執筆を目指して ー査読者の視点に立った論文執筆ー ||| 2023.03.04
やってはいけないこと
l 答えない/ごまかす
l 指摘されていないことまで勝手に修正
l そもそも論文が間違っていたことを認めることに
l 本来,取り下げ/再投稿 すべき案件
43. 情報処理学会 第85回全国大会 セッション:論文必勝法 基調講演 ||| より効果的な論文執筆を目指して ー査読者の視点に立った論文執筆ー ||| 2023.03.04
[参考] 意見を述べてみる
l 回答した結果どうなった (と思っている) のか
も具体的に書く
l 「これで全ての疑問点は解決したはず」
l 「このことから照会事項であるxxに関する懸念点は
解消されたと考える」
l ただし,これはあまりやりすぎると逆効果
l => 査読者は神様
l => 査読者コストが上がる
44. 情報処理学会 第85回全国大会 セッション:論文必勝法 基調講演 ||| より効果的な論文執筆を目指して ー査読者の視点に立った論文執筆ー ||| 2023.03.04
困った時のテクニック1
l 追加実験したくない!
l 正直その実験はいらないのでは... ?
l 時間 and/or お金がかかりすぎる
l (面倒なのでやりたくない...)
l 対応策
l 追加実験しない理由を超丁寧に書く
? ある意味で査読者との根比べ?
45. 情報処理学会 第85回全国大会 セッション:論文必勝法 基調講演 ||| より効果的な論文執筆を目指して ー査読者の視点に立った論文執筆ー ||| 2023.03.04
困った時のテクニック2
l 理不尽に感じる条件を出された時
l 論文の論旨に直接関係ない指摘
? 例:「提案法は効率が悪い」
=> 効率の議論はしていない,良いと主張もしていない
l 査読者の主観であって客観的な事実/根拠がない
l 対応策
l 最終手段的に編集委員 (meta-reviewer)を味方につける
? 理不尽である理由をきっちり説明して相談
– (マトモな編集者かどうかによるけど...)
? 採録条件から外してもらう
46. 情報処理学会 第85回全国大会 セッション:論文必勝法 基調講演 ||| より効果的な論文執筆を目指して ー査読者の視点に立った論文執筆ー ||| 2023.03.04
まとめ:査読者からの照会対応
l 全てのコメントは一旦真摯に受け止める
l 対応方法を紹介
l 色付け => ランキング => 分類して回答
l よくある事例の紹介
l 困った時のテクニック紹介
48. 情報処理学会 第85回全国大会 セッション:論文必勝法 基調講演 ||| より効果的な論文執筆を目指して ー査読者の視点に立った論文執筆ー ||| 2023.03.04
全体のまとめ
l 論文執筆の関して知見やテクニックを共有
l 主に査読者の視点に立って
l 査読者の気持ち
l 査読は非常に高コスト
l できるだけ楽におわらせたい?
l 論文執筆の基本方針
l 読み手 (査読者) の負荷が低くなるように心がける
l 防御力を高める(ツッコミどころをなくす)
l 査読者からの照会対応の取り组み方
l 根拠/客観的な事実 がキモ
50. 情報処理学会 第85回全国大会 セッション:論文必勝法 基調講演 ||| より効果的な論文執筆を目指して ー査読者の視点に立った論文執筆ー ||| 2023.03.04
推敲重要
l 初稿 => 投稿版 ではない
l 初稿版では慣れた人でも落ちる可能性が高い
l 何度も推敲
l 初稿が書き終わってから最低でも5回できれば10回
ぐらい?
l 最後は音読
l 自分がスラスラ読めない論文は他の人では絶対に読
めない (高負荷) と思うこと
51. 情報処理学会 第85回全国大会 セッション:論文必勝法 基調講演 ||| より効果的な論文執筆を目指して ー査読者の視点に立った論文執筆ー ||| 2023.03.04
数式(notation)重要
l 数式?notationにはこだわる,そして,絶対に
間違えないようにする
l => 数式を間違えている論文は内容も間違えている
可能性があると疑われる
53. 情報処理学会 第85回全国大会 セッション:論文必勝法 基調講演 ||| より効果的な論文執筆を目指して ー査読者の視点に立った論文執筆ー ||| 2023.03.04
参考文献重要
l 参考文献をきちんと入れる.参考文献のセク
ションを軽視しない
=> 間違えると「わかってない」と思われる
l 関連研究との関係を明確化
l 研究の立ち位置を明確化
l 対象/非対象の研究を明確化
l サーベイを (何度でも) きっちりやる
l 最低でも研究開始時,執筆開始時,投稿直前
54. 情報処理学会 第85回全国大会 セッション:論文必勝法 基調講演 ||| より効果的な論文執筆を目指して ー査読者の視点に立った論文執筆ー ||| 2023.03.04
概略図重要
l 直感的にわかりやすい図
l 典型的な読者の負荷を下げる方法の一つ
l 特に取り組む課題を示す概要図
l 見やすい文字サイズや色
55. 情報処理学会 第85回全国大会 セッション:論文必勝法 基調講演 ||| より効果的な論文執筆を目指して ー査読者の視点に立った論文執筆ー ||| 2023.03.04
フリオチ (内容の一貫性) 重要
l 何を目的とした論文なのか
l Introductionで述べる
l 主張(claim) / 貢献(contribution)を明確に述べる
l 論文全体で示したい内容を正確に記載できてい
るか?
l 実験/分析は主張/貢献をサポートしているか?
l 仮説の回収など