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メソドロジー研究部会2014年度第1回研究会
反転授業方式による5パラグラフ英文エッセイ指導の試み
-リメディアル英語教育の新たな試みとして-
木村修平(立命館大生命科学部生命情報学科准教授)
kimuras@fc.ritsumei.ac.jp / @syuhei
LET関西メソドロジー研究部会2014年度第1回研究会
2014年7月12日 @関西大学 千里山キャンパス
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メソドロジー研究部会2014年度第1回研究会
アウトライン
1. 先行研究
2. 研究の背景
3. P0プロジェクトについて
4. P0の到達目標と構成
5. P0動画教材の制作フロー
6. P0の動画教材のテーマと再生時間
7. 受講生の成績データの比較
8. 受講生の正課授業理解度の変化
9. 受講生からのコメント
10. やってみてわかったこと
11. 今後の課題
12. 参考文献一覧
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先行研究:反転授業の概念と定義
? 理解度に合わせた学習支援にコンピュータを
組み込むというアイデア → Mazur and
Hilborn (1997) のPeer Instructionに起源
? Tucker (2012) による反転授業の定義
? 「特にこれといったモデルはないが,その中心的な
アイデアは一般的な指導方法を反転する事にあり,
すなわち,教員が通常教室で行う授業を,ビデオ等
の機材を使い録画して,それを学生が家にいても
見られるようにする」
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先行研究:事例報告
? Mousel (2013) :高校の数学の授業に反転授
業を取り入れた結果、大多数の生徒が数学の
学習に対して学習意欲が向上
? Toto and Nguyen (2009) :反転授業を大学の
エンジニアリング?コースの授業に応用した結
果、授業外の時間で講義のビデオで見て、対
面授業ではクラスメイトとのグループワークな
ど問題解決のための議論ができた
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メソドロジー研究部会2014年度第1回研究会
先行研究:事例報告
? Herried and Schiller (2013) :2つの問題点
? 学生が授業ビデオによる自習や予習を行わずに教
室での指導を受けるという問題
? 自習用に提供される動画教材を学習者が用いる際
に、学習したい内容を含む箇所を探すのに時間が
かかる
? Stuntz (2013):ICTやデジタル機器に対するリ
テラシーが反転授業への参加意欲を低下させ
る可能性がある
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メソドロジー研究部会2014年度第1回研究会
先行研究:おまけ
? Ustream を用いた中学英語おさらいコースの実験的試みとそ
の評価について
? 2013年度、当研究部会の研究会で発表(2013年6月15日)
? Ustreamで英文添削を生放送(録画視聴可)
? シーズン1:4月18日放送回?5月23日放送回までの計6回
? シーズン2:5月31日放送回?7月4日放送回までの計6回
? http://lcr.papiko.com/ust-eng-osarai/ にて全録画放送を公開中
? 結果:労多くして功少なし
? 敗因は?
? 1時間という放送時間が長すぎた
? 英文を投稿していない人への訴求性が低かった
? 生放送を垂れ流すだけで編集が一切入っていなかった
? 正課授業として位置づけられていなかった
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研究の背景
? プロジェクト発信型英語プログラム
? 立命館大学スポーツ健康科学部?生命科学部?薬
学部で実施
? スポーツ健康科学部では1?2回生の必修授業
? プロジェクト英語1(P1)?プロジェクト英語4(P4)
? 学生個々人の関心領域に基づいてリサーチと発表
を積み上げ、最終的にその成果を英語によるアカ
デミック?プレゼンテーションやアカデミック?ペー
パーといった形式で発表
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研究の背景
? クラスは習熟度別ではなく、TOEIC 800点を
超える学生と200点前後の学生が同じクラス
の中に存在
? 学部の性質上、体育会クラブに所属する学生
の割合が高く、試合や練習で欠席することも
? 授業や英語学習のために十分な時間を割け
ない学生が一定数存在
? 必然的に再履修率が高くなる
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P0プロジェクトについて
? P0(ぴー?ぜろ)プロジェクトが学部内で発足
? エッセイ?ライティングを中心に据えた1回生後期の
授業(プロジェクト英語2=P2)を補完するため、オ
ンライン動画教材と対面添削指導を組み合わせた
反転授業の教育環境を試験的に構築
? 英語教員3名
? 同学部職員1名
? アシスタント学生2名
? 動画教材制作および動画編集
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P0の到達目標と構成
? リサーチに基づいて5パラグラフから成る英文エッセ
イを書き上げることが目標
? 動画教材を木曜日に公開し、翌週の金曜日に対面
添削指導を受ける
? 2013年11月中旬から、動画と添削を各々全6回実施
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P0動画教材の制作フロー
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1. iMac上でWordを起動し、ホワイトボードに見
立てて英語教員が実際にエッセイ?ライティン
グを行う
2. その様子をQuickTime Playerの画面収録機
能でキャプチャする
3. キャプチャ動画は学内のネットワークに接続
されたTimeCapsuleに保存する
4. 編集担当のアシスタント学生がTimeCapsule
から動画を取り出し、iMovieで編集を行う
5. 編集が完了した動画をTimeCapsuleに保存
し、英語教員が受け取り、内容を確認して
YouTubeにアップロードする
メソドロジー研究部会2014年度第1回研究会
P0の動画教材のテーマと再生時間
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回 扱ったテーマ 再生時間
1 Introductionの書き方 15分2秒
2 Bodyの書き方 21分1秒
3 本文内への図表挿入方法 14分31秒
4 参考文献への言及方法 17分51秒
5 Conclusionの書き方 25分4秒
6 エッセイ全体の仕上げ 16分50秒
平均再生時間 18分23秒
YouTube再生リスト:http://goo.gl/cRiJqE
メソドロジー研究部会2014年度第1回研究会
受講生の成績データの比較
? Active Studyグループ:n=22, 出席回数4.5±1.2回
? Project: slight improvement
? Skill Workshop: marginally significant improvement (p = 0.83)
13
2.91
2.82
2.95
3.09
2.6
2.7
2.8
2.9
3
3.1
3.2
Project Skill Workshop
1st semester
2nd semester
(Yuhaku, Yamamoto & Kimura, under review)
メソドロジー研究部会2014年度第1回研究会
受講生の成績データの比較
? Passive Studyグループ:n=37, 出席回数0.8±1.4回
? Project: significant decline (p = 0.0006)
? Skill Workshop: slight decline
14
2.35 2.32
1.76
2.05
1.3
1.5
1.7
1.9
2.1
2.3
2.5
Project Skill Workshop
1st semester
2nd semester
(Yuhaku, Yamamoto & Kimura, under review)
メソドロジー研究部会2014年度第1回研究会
受講生の正課授業理解度の変化
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大変理解しやすくなった 6名
理解しやすくなった 15名
どちらとも言えない 1名
あまり理解できてない 0名
全く理解できていない 0名
正課授業への理解度の変化に関する自己評価
大変よく理解できている 1名
よく理解できている 2名
だいたい理解できている 13名
あまり理解できてない 14名
全く理解できていない 0名
P0受講前 P0受講後
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受講生からのコメント
? 朝が大変だった。あと、ビデオの時間がもう少し短ければ少しの間に見れたと思う。
? Pの宿題とおさらいコースの宿題が2つあって大変だった。だが、わかりやすい解説は
とてもありがたかった。
? ビデオを見る時間を確保するのが大変だった。
? ビデオが長かった為、毎回後のばしにしてしまい、見ないことが多かったです。朝起き
るのは辛いけど、絶対朝のほうが良いと思います。
? 英語のおさらいコースは、英語が出来ない私にとって、とても良い補講だと思ったが、
大阪から2時間かかって通っている私は、朝8時からというのが、とても辛かった。でき
れば、空きコマや昼休み、放課後に行っていただければ嬉しかったです。ビデオの教
材は、ファイナルペーパーをやるにあたってすごく、ありがたかったです。
? 毎週金曜日の朝練の時間がとてつもなく早く、辛かったが、練習も怠らず、英語にも立
ち向かうことができ、大変良い機会を設けていただいたことに感謝です。
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メソドロジー研究部会2014年度第1回研究会
やってみてわかったこと
? 動画の編集をアシスタント学生に任せたのは大正解!
? 学生いわく、「編集には毎回3時間程度かかった」
? 専任教員が編集までやっていたら他の仕事ができない可能性
が高い
? アシスタント学生へのバイト代など、学部レベルで予算を組ん
で協力してもらったおかげ
? 動画はもっと短く作るべきだった
? Guo, Kim and Rubin (2014) は、動画1本あたりの適切な再
生時間は6分程度と指摘
? 対面添削指導の時間が朝早すぎた
? これを正課授業にできれば…?
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メソドロジー研究部会2014年度第1回研究会
今後の課題:P0正課授業の試み
? 2014年度春学期にP0を正課授業として開講
することが決定
? 4月上旬のプレイスメントテストで下位に属す
る学生を受講対象者とする
? 全15回の動画教材+対面添削指導(火曜2?
4限)を行う
? 動画1本あたりの再生時間を5分程度におさえ、
ワークシートのタスクごとに分割
? 動画教材、ワークシートはWebで公開予定
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メソドロジー研究部会2014年度第1回研究会
今後の課題:P0正課授業のポイント
? 反転授業を取り入れた正課の大学授業は国
内ではまだ事例が少ない
? 高校での事例は複数ある
? 受講生ごとの個人カルテを作成し、反転授業
の妥当性を、次の3つの次元で計測するべき
? 反転授業という形式の妥当性
? 動画教材の妥当性
? 対面授業の妥当性
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メソドロジー研究部会2014年度第1回研究会
今後の課題:計測すべき妥当性
? 反転授業という形式の妥当性
? 動画教材の視聴頻度、トータル視聴時間
? 対面授業への出席頻度、参加度(発言回数など)
? 動画教材内の指示によるワークシートの進捗度
? 対面授業での追加指示が必要だったかどうか
? 受講者の総合的な満足度、達成感
? 動画教材、対面授業の両方について
? 特に対面授業でのサポート体制が十分だったかどうか
? ICTが授業参加のハードルになったかどうか
? 特に、動画教材の再生環境、対面授業でのノーパソ使用
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メソドロジー研究部会2014年度第1回研究会
今後の課題:計測すべき妥当性
? 動画教材の妥当性
? 各動画教材の視聴時間
? すべて観たか, 繰り返し観たか, 途中で止めたか繰り返し
観た場合、その箇所はどこか。また、なぜ繰り返し観たか
? 途中で視聴を中止した場合、何が原因で視聴を止めたか
? 動画教材の内容の妥当性
? 各動画教材について、再生時間、解説のわかりやすさ、
ワークシートに取り組む際に動画教材の内容が十分で
あったかどうか、不十分な場合どのように充足したのか
? 動画教材の視聴と理解度、参加度の相関性
? コースの初回と最終回で理解度確認クイズなどを行う
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メソドロジー研究部会2014年度第1回研究会
今後の課題:計測すべき妥当性
? 対面授業の妥当性
? 教員?スタッフによるワークシートのチェック体制は
万全だったか
? ワークシート上の疑問点は全て解決されたか
? 動画教材の視聴時間の差が対面授業の参加度に
及ぼす影響
? グループワークでのフリーライダー出現頻度
? 対面授業での参加度の高い受講者と低い受講者で、理
解度に差異はあるか
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メソドロジー研究部会2014年度第1回研究会
参考文献一覧
? Guo, P. J., Kim, J., and Rubin, R. How video production affects student engagement: An
empirical study of mooc videos. In Learning at Scale 2014, Unpublished manuscript (2014).
http://groups.csail.mit.edu/uid/other-pubs/las2014-pguo-engagement.pdf
? Herreid, C. F. and Schiller, N. A. “Case Studies and Flipped Classroom”, Journal of College
Science Teaching, Vol.42, No.5, pp. 62-66 (2013).
? Mazur, E., & Hilborn, R. C. "Peer instruction: A user's manual", Physics Today, 50(4), pp. 68-
69 (1997).
? Mousel, A. “Flipping the High School Mathematics Classroom”, Studies in Teaching 2013
Research Digest – Action Research Project Presented at Annual Research Forum, 61-66.
Winston-Salem, NC June 26, 2013 (2013).
? Stuntz D. F. “Flipped classrooms and CALL sustainability: A rationale for the development of
flipped classrooms for sustainable CALL”, Global perspectives on Computer-Assisted
Language Learning, pp. 323-324, Glasgow, 10-13, July, 2013 (2013).
? Toto, R. and Nguyen, H. “Flipping the Work Design in an Industrial Engineering Course”, 39th
ASEE/IEEE Frontiers in Education Conference. San Antonio, TX October pp.18-21, 2009
(2009).
? Tucker, B. "The Filliped Classroom – online instruction at home frees class time for learning –
", Education Next, winter, pp. 82-83 (2012).
? Yuhaku, A., Yamamoto, Y., and Kimura, S. (under review). “Research on the Effectiveness of
Flipped Teaching in English Education in Japanese University”. Ritsumeikan Higher
Educational Studies, No. 15.
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メソドロジー研究部会2014年度第1回研究会
次回予告
? P0、2014年度前期に全15回の正課授業へ格上げ!
? 3クラス約60名を対象とした、反転教授形式による英語プレゼン作
成基礎力養成コース!
? 動画は1本あたり10分未満!すべてYouTubeに公開!
? 立命館大学放送局元部員をスタッフに招き、本格的な機材と編集テ
クニックを導入!
? はたして結果は…!?成果報告をお楽しみに!制作絶不調!
? 動画は http://goo.gl/vYmy3Z にて公開中!
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メソドロジー研究部会2014年度第1回研究会
宣伝:電子語学教材開発研究部会より
? LET関西 電子語学教材開発研究部会 第9回研究会
「作ってナットク!デジタル動画教材 第1回 動画撮影の基本ノ
ウハウとオススメ機材」
? 3ヶ月連続で動画教材についての講座を開催します!どなた
でもご参加大歓迎、ぜひお越しください。(^O^)
? 8月2日(土) 18:10?19:40
? キャンパスプラザ京都 第4演習室
? 詳細はFacebookのイベントページからどうぞ!
http://goo.gl/nPFV9n
? ご参加お待ちしております!m(_ _)m
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