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自殺学
―自殺と自傷―
和光大学 現代人間学部 心理教育学科
准教授 末木 新
日程
第1回 自殺の現状Ⅰ
第2回 自殺の現状Ⅱ
第3回 自殺生起過程
第4回 自殺への危機介入
第5回 自殺と精神障害
第6回 自殺と自傷
第7回 自殺とメディア
第8回 自殺と文化
第9回 自殺対策Ⅰ
第10回 自殺対策Ⅱ
第11回 幸福な人生の実現に向けてⅠ
第12回 幸福な人生の実現に向けてⅡ
※ ゲスト講師の回やオリエンテーション等については除外
3
1. 前回の復習とリアクション?ペーパー
2. 本日の問題
3. 自傷とは?
4. 自傷と自殺の関連
5. 自傷への対応
本日の目次
省略
5
1. 前回の復習とリアクション?ペーパー
2. 本日の問題
3. 自傷とは?
4. 自傷と自殺の関連
5. 自傷への対応
本日の目次
本日の問題①
自傷をする人はなぜ自傷をするのだろうか?
(自傷の目的は何?)
あなたはなぜ、自傷の目的が上記のようなものだと
思ったのだろうか?(根拠は何?)
? 回答方法
‐ リアクション?ペーパーの表面の一番上から回答すること
‐ 时间は约5分
7
1. 前回の復習とリアクション?ペーパー
2. 本日の問題
3. 自傷とは?
4. 自傷と自殺の関連
5. 自傷への対応
本日の目次
自傷のイメージ
? 多様な自傷行為
‐ 自己切傷???例:リストカット
‐ 自己裂傷???皮膚を引き裂く、ひっかく
‐ 自己刺傷???鋭いもので突き刺す
‐ 自己火傷???やけどを負わせる
‐ 自己殴打???殴る、ヘッドバンキング
‐ 自己咬創???咬む
※その他 自分の身体の一部を切断する、自己の身体の一部を食べる…
リストカットだけが自傷ではない!
自傷の周辺的行為
? 自己破壊的行動
‐ 過量服薬
‐ 過食、拒食
‐ アルコールや薬物の乱用?依存
? 文化/習俗としての自傷?
‐ ピアス、刺青(タトゥー)
‐ 根性焼き
‐ 薬物吸引中に意識が飛ばないようにタバコを身体に押し付ける、
‐ 指詰め(暴力団関係者など、責任をとる、誠意を見せる)
これらの行動と自傷行為は同じ?違う?
余談|指詰めと根性焼きの歴史(林, 2007)
? 根性焼き
‐ 鎌倉時代に文書偽造への刑罰として実施
‐ 江戸幕府により廃止後、花柳界における男女間の愛情の印に
(例:遊女に告白した男性に対して、火鉢の炭を膝の上にのせる)
‐ 1960年代、シンナーの最中に煙草を腕に押し付け、意識を保つ方法に
? 指詰め
‐ 鎌倉時代に賭博への刑罰として実施
‐ 江戸幕府により廃止後、花柳界における男女間の愛情の印に
習俗としての自傷行為の歴史は古い??
● 林直樹 (2007). リストカット: 自傷行為をのりこえる. 講談社
自傷行為とは?(松本, 2014)
? ポイント
‐ 自殺以外の意図:自殺との区別
‐ 非致死性の予測:自殺との区別
‐ 直接的に:大量飲酒や常習的喫煙は自傷ではない
自殺以外の意図から、非致死性の予測をもって、故意に、
そして直接的に、自らの身体に対して、非致死的な損傷を
加えること
● 松本俊彦 (2014). 自傷?自殺する子どもたち. 合同出版.
自傷の目的
? 自傷行為の目的
‐ 苦しみや不快感情への対処 ←1番多い!
‐ 死の願望、自殺の意図
‐ 周囲へのメッセージ(苦しみの身体的表現)
‐ 自己感覚や自己コントロールの回復
※ 自傷は「かまって欲しいだけ」というのは勘違い
(∵ほとんどの自傷はこっそりと行われる)
自傷行為の多くは、苦しみや不快感情への(孤独な)対処を
目的として行われる
(かまって欲しいというサインというわけでもない)
本日の問題②
問題①の答えとして、自傷が他者へのアピール目的だと回答
した人は多いのではないでしょうか? では、我々はなぜ
自傷はアピール目的だと考えがちなのでしょうか?
? 回答方法
‐ リアクション?ペーパーの裏面の一番上から回答すること
‐ 时间は约5分
自傷は異常か!?①
? データ(山口ら, 2004; 松本, 2014)
‐ 自傷経験のある中高生は、だいたい1割前後
‐ その内、6割程度が、10回以上切ったことがある
‐ 都市部の大学生を対象とした国内のある調査では、540名中37人が
自傷を経験(=約6.8%)
‐ その内の半数は、刃物で皮膚の表面を切る、残りは多様
‐ 自傷の行われる部位は、上肢が大半。ただし、自傷者は、異なる方法
で複数回にわたる自傷行為におよぶ確率が高い
自傷行為を経験している者の割合は以下の通り。
多い?少ない?
● 山口亜希子他 (2004). 大学生における自傷行為の経験率: 自記式質問票による調査. 精神医学, 46, 473-479.
● 松本俊彦 (2014). 自傷?自殺する子どもたち. 合同出版.
自傷は異常か!?②
自傷行為の経験率に海外との差はない?
● Swannell, S. V., Martin, G. E., Page, A., Hasking, P., & St John, N. J. (2014). Prevalence of nonsuicidal self‐injury in nonclinical
samples: Systematic review, meta‐analysis and meta‐regression. Suicide & Life-Threatening Behavior, 44, 273-303.
? データ(Swannell et al., 2014)
‐ 自傷行為の有病率に関する研究のシステマティック?レビュー
※システマティック?レビューとは?
‐ 99の論文、128の推定値をまとめたもの
‐ 自傷行為の経験率は、思春期で17.2%、若年成人期で13.4%、
成人で5.5%
‐ 自傷行為歴があるか否かに関する回答は、調査方法によって異なる
(単純な「はい」「いいえ」の質問だと有病率が下がる)
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1. 前回の復習とリアクション?ペーパー
2. 本日の問題
3. 自傷とは?
4. 自傷と自殺の関連
5. 自傷への対応
本日の目次
自傷の多くを占める自己切傷で自殺できるか?
自傷行為で死ぬことはほとんどない
(≒自傷と自殺は関係ない?)
? 統計的事実
‐ 刃物自殺をしている人は自殺者全体の約1%
‐ これらは身体の中心部を切りつけているのであって(腹部、首など)、
上肢を切ってない
? 疑問
‐ はたしてリストカットは自殺企図(未遂)だろうか?
‐ 用意周到に準備をして首をつった人の行動とは別物?
‐ やはり、自傷と自殺は違うもの?
自傷と自殺は連続的なものとしてとらえる
方法の致死性の高さ(結果の予測性)
自殺の意図の明確さ
間接的に
自分を害する行動
例:拒食、物質依存?乱用
意図的に
自分を害する行動
( Deliberate Self-harm)
自殺企図
(Suicide attempt)
→ 既遂 or 未遂
自殺関連行動
(Suicidal Behavior)
※目的の違い:
自殺は最終的問題解決、自傷は一時的問題解決
なぜ連続的にとらえる考えが優勢か?
周囲の耐性↑ → 自傷による疎外?孤立
自傷のエスカレート → 自殺潜在能力
耐性
エンケファリン(脳内麻薬)の分泌量↑
心の痛みと対処行動としての自傷
自傷はなぜ自殺と関連するか?|自殺の対人関係理論から考える
自殺
潜在能力
負担感の
知覚
所属感の
減弱
周囲の慣れ
かまって
欲しいだけと
いった視線
自傷行為
自傷行為
自殺と自傷の関係|まとめ
自傷行為で死ぬことはほとんどないが、自傷は自殺のリスク
を高めるという関係がある
? まとめ
‐ 自傷と自殺は、連続的にとらえるべきものであるが、細部において
特徴が異なる
‐ 自傷は即自殺につながるものではないかもしれない
‐ しかし、非致死的な自傷行為をしている者は、将来の自殺のリスクが
高くなる(自殺の対人関係理論から考えてみよう!)
‐ 自殺予防を考えるのであれば、自傷への対応をしっかりとやるべき
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1. 前回の復習とリアクション?ペーパー
2. 本日の問題
3. 自傷とは?
4. 自傷と自殺の関連
5. 自傷への対応
本日の目次
基本的な態度①
自殺への危機介入の際と基本は同じ
? 共感?傾聴
‐ 批難、叱る → ×
‐ 過度の同情 → 依存やさらなる自傷を引き出す → ×
‐ 現状を把握する、関係性を作る、自尊心を高める → ○
? 自傷をSOSととらえる
‐ 自傷も、あまり上手ではないSOSととらえた方が建設的
? 傷の手当はしっかりと
‐ 身体を傷つけてもかまわない、という考え方が修正されるきっかけに
なることも
基本的な態度②
自殺への危機介入の際と基本は同じ
? 頑張りすぎない/振り回されない
‐ 頑張りすぎると理想化される
→ ほとんどの場合、その後、失望に変わる(継続性が大事)
‐ 「○○してくれないと自傷する」と言われた場合、個人の行動の責任
は個人にある、という原則を守る
→ 自分の限界を伝えながら、それでも付き合う
→ 「自傷するなら別れる」とかやってはいけない
(比較的)簡単にできる対処法①
長期的には、気分改善の方法の取得+不快気分を生む環境
そのものの改善が必要。しかし、短期的には(小手先の)
技術によって改善可能な部分もある
? 代替技法
‐ 自傷に類似した効果を生じる手段を用いる方法を代替技法と呼ぶ
‐ 皮膚に赤いペンで色を塗る(視覚の代替)
‐ 傷を皮膚に描く(視覚の代替)
‐ 輪ゴムで皮膚をはじく(痛覚の代替)
‐ 氷などを皮膚にあてる(痛覚の代替)
→ これらの方法に頼りすぎるのは良くない
(比較的)簡単にできる対処法②
? リラクゼーション
‐ 呼吸法
‐ ストレッチ
‐ イメージ法(快適な光景をイメージする等)
? 身体イメージへの働きかけ
‐ 健康感覚を高める(例:カフェインやアルコールの制限)
‐ 身体的魅力を高める(例:化粧、筋トレ)
‐ 身体有効感(例:スポーツ後の充足感)
リアクション?ペーパーの書式
リアクション?ペーパーを提出して終了
? 書式
‐ 用紙を縦向きに置き横書き
‐ ボールペン?鉛筆、いずれで書いても良いが色は黒
‐ リアクション?ペーパーを上下に区切り
①上半分に本日の問題への答えを、
②下半分に質問?感想?意見?得られた示唆を
書いて下さい(②はない場合は書かなくても可)
‐ 質問は次の授業で回答

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