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自殺学
第10回 自殺と文化
和光大学 現代人間学部 心理教育学科
准教授 末木 新
日程
第1回 自殺の現状Ⅰ
第2回 自殺の現状Ⅱ
第3回 自殺生起過程
第4回 自殺への危機介入
第5回 自殺と精神障害
第6回 自殺と自傷
第7回 自殺とメディア
第8回 自殺と文化
第9回 自殺対策Ⅰ
第10回 自殺対策Ⅱ
第11回 幸福な人生の実現に向けてⅠ
第12回 幸福な人生の実現に向けてⅡ
※ ゲスト講師の回やオリエンテーション等については除外
3
1. 前回の復習とリアクション?ペーパー
2. 本日の問題
3. 西欧における自殺観
4. 日本における自殺観
本日の目次
省略
5
1. 前回の復習とリアクション?ペーパー
2. 本日の問題
3. 西欧における自殺観
4. 日本における自殺観
本日の目次
地域?文化?宗教から自殺率を考える
● 世界自殺レポート参照 http://apps.who.int/iris/bitstream/10665/131056/5/9789241564779_jpn.pdf
本日の問題①
前のスライドを元に、地域?文化?宗教が自殺率に与える
影響について何が読み取れるか答えなさい。
? 回答方法
‐ リアクション?ペーパーの表面の一番上から回答すること
‐ 时间は约5分
8
1. 前回の復習とリアクション?ペーパー
2. 本日の問題
3. 西欧における自殺観
4. 日本における自殺観
本日の目次
西欧/キリスト教編の流れ
宗教的/思想的背景は自殺率に影響を与える
? ギリシャ?ローマ時代(古代)
‐ 古代都市国家では自殺は容認されていた
? (統治装置としての)キリスト教の影響(中世)
‐ 自殺はキリスト教における宗教的な罪となった
→ 自殺は罰するべきもの、処罰の対象
? 市民法における変遷(近代へ)
‐ 自殺は法的な罪となり、その後、罪ではなくなった
‐ 現代においては、予防されるべきものとなった
超簡単なキリスト教誕生過程のおさらい
? 前13世紀頃 出エジプト+カナンへの定着
→ ヤーヴェを信仰するイスラエルの民の誕生
→ c.f. モーセの十戒
? 前11世紀頃 中央集権的なイスラエル国家の成立
? 前10世紀後半 イスラエルの分裂(北:イスラエル王国 南:ユダ王国)
? アッシリアによって北王国滅亡、バビロン捕囚
→ 罪の概念の成立、ユダヤ人は多神教から一神教へ
? ディアスポラによって民族宗教から普遍宗教的に
→ シナゴーク(教育+社会保障)の存在感の拡大
→ 律法主義の重要性の拡大
? イエスによる改革活動(1~数年?)とその処刑(30年)
? ユダヤ戦争(66-70年)を契機にユダヤ教主流派(ファリサイ派)と
初期キリスト教共同体の対立が決定的に
宗教は所与のもので
はなく、変化する!
教会神学と自殺①
もともと、キリスト教は自殺を禁じていたわけではない
? アウグスティヌス:「神の国」(413-426年)
‐ 古代キリスト教の神学者(354-430年)
‐ モーゼ(預言者)の十戒のひとつ「汝殺すなかれ」という
掟を他殺のみならず自殺にも当てはまると解釈した
→ 容認されていた自殺は宗教上の罪へ
? 変化の背景
313年:ミラノ勅令によるローマ帝国内での公認
392年:テオドシウス帝によりローマ帝国での国教化
教会神学と自殺②
自殺を禁じる論理は以下の通り
? トマス?アクィナス:「神学大全」(13世紀)
‐ 中世ヨーロッパの神学者、哲学者(1225年頃-1274年)
‐ アウグスティヌスの見解を継承
? 禁止の理由(主に3点)
‐ 人間は共同体の一部であり、自殺は共同体を棄損する
(アリストテレス以来の伝統)
‐ 生命は神によって人間に与えられたものであり(人間は神の所有物)、
自殺は神への罪である(プラトン以来の伝統)
‐ いかなるものも自然本性的に自らを愛するはずであり、
自殺は自然法と愛徳に背く
自殺の生起に関するキリスト教的視点①
自殺の動機は悪魔によって引き起こされた「絶望」とした
? 絶望とは?
‐ 絶望(despair)の語源はラテン語のdesperatio
‐ Desperatioはもともと医者に「回復の見込みなし」と
見放された患者の病状を形容する語
‐ アウグスティヌス以降、desperatioは神の恩寵に希望を
抱くことができない状態とされる
(c.f. 所属感の減弱)
‐ 人が絶望に陥ってしまうのは、「悪魔」の仕業
自殺の生起に関するキリスト教的視点②
自殺の原因の分類については我々が理解できる部分も多い
? リチャード?ギルピンによる悪魔の「機能」の分類(吉田他, 2005)
※ Richard Gilpin:17世紀のプロテスタントの牧師、医者
① 人間の意気消沈につけ込み、辛苦や不安を増幅する
② 良心の呵責に耐えかねさせる
③ 英雄的な果敢さに訴え、死を選ばせる(例:突撃!)
④ 慣習を利用する
⑤ 幸福が待っているかのように思い込ませる(例:天国)
⑥ 殉教
⑦ 感覚的な逸楽に耽らせる(例:アルコール依存)
⑧ 災難に遭遇しそうな行為に向かわせる(例:事故傾性)
●吉田幸子?久野幸子?岡村真紀子?齊藤美和 (2005). ヨーロッパの自殺観: イギリス?ルネサンスを中心に. 英宝社ブックレット.
市民法への影響
自殺への罰は宗教的なもの(埋葬の禁止)から
より世俗的なものへ拡大し、その後、罰則は消えていった
? 罰せられる対象としての自殺
‐ 10世紀頃から、当初、自殺者に与えられていた罰(埋葬禁止)は
世俗的な範囲へと拡大していき(市中引き回し、財産の没収等)、
市民法にて追認されていった
‐ ただし、例外規定も存在した(例:精神の異常)
? 罰則の解除(イギリス)
‐ 19世紀前半から徐々に罰則が解除(教会への埋葬の許可等)
‐ 1870年 自殺者の財産没収の廃止
‐ 1961年 自殺に対する制裁としての法的罰則が完全に排除
本日の問題②
心理学的剖検調査における結果には大きな文化差が
ありました。これはなぜだと思いますか?
我々/自分自身の自殺観や文化?宗教の差異という観点から
考えてみてください。
? 回答方法
‐ リアクション?ペーパーの裏面の一番上から回答すること
‐ 时间は约5分
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1. 前回の復習とリアクション?ペーパー
2. 本日の問題
3. 西欧における自殺観
4. 日本における自殺観
本日の目次
古代の事例|古事記における自殺①
自殺については古くから記載があり、古事記には日本に
おける「美的」自殺の例が収録されている?
? 古事記
‐ 日本最古の歴史書、712年太安万侶が編纂
‐ 神代の天地開闢から推古天皇の治世までの出来事
(含神話?伝説)が記載
c.f. 乙巳の変/大化の改新の混乱に伴う国記の消失?
c.f. 唐の建国(618年)、白村江の戦い(663年)
古代の事例|古事記における自殺①
自殺については古くから記載があり、古事記には日本に
おける「美的」自殺の例が収録されている?
? 自殺に関する物語
‐ 弟橘比売命:義による自己犠牲的自殺
‐ 忍熊皇子、目弱王&都夫良意富美:敗戦後の自殺
→ 武士道精神? 切腹の美学?
‐ 木梨軽皇子と軽大娘皇女(衣通姫(??????)伝説):心中
→ 近松門左衛門の「曽根崎心中」(1703年)と
その後の心中の流行
→ 日本においては珍しい自殺禁止令へ
儒教|Confucianism
儒教における徳(特に「義」)は自殺を誘発しがち?
仁
義
礼智
信
「人」+「二」
= 二人の人の間の暖かいこころ
禮=「示」+「豊」
(祭壇に捧げられた器)
→ 儀式
「知」+「日」
= 啓蒙された知識
「人」+「言」
=自分の言葉への誠実さ
「羊」+「我」
=自己献身(「忠」の重視)
→「忠」は心中へ
儒教の影響|孔子の言葉
孔子は自殺に対して両義的な態度をとっている
? 自殺否定的側面
‐ 孔子は自己破壊的行為は、身体が親から与えられたものであるが故に
咎められるべきとした
→ 「親からもらった大事な身体に」と言う人の発想はここから
c.f. 三国志演義の夏侯惇「父之精母之血不可棄也」
? 自殺肯定的側面
‐ 「身を殺して以て仁を成すこと有り」
‐ 他者や特定の集団のために、自ら死を持って尽くすことを認めている
→ 上記の徳(仁や義)にかなう行動であれば、自殺が認められる。
それどころか称賛される c.f. 特攻隊、ブラック企業?
仏教の影響|輪廻転生
輪廻転生の思想は自殺誘発的?
? 輪廻転生
‐ 人の一生は苦であり永遠に続く輪廻の中で終わりなく苦しむ
‐ 輪廻とは、生まれ変わりのことであり、生前の業などによって、
次の転生先が決定
‐ 輪廻の輪から抜け出すことが解脱であり、修行により解脱を目指す
ことが仏教の目的
? 影響
‐ 生と死が対立した遠いものではなくなる
‐ 転生による無罪性の獲得 c.f. 無実を証明するための自殺
文化的視点はオリエンタリズムか?
日本文化が自殺親和的と見られることはある種の
オリエンタリズムではないのか?
? スチュアート?ピッケン、『日本の自殺』、イギリス人哲学者
‐ 日本語はヨーロッパ諸言語に比べて自殺に関する語彙が豊富で描写的
(自殺との親和性が高い) c.f. 死花、玉砕
‐ 対して、ヨーロッパ系諸言語は語彙が少なく評価的
(侮蔑の意味を含む)
? オリエンタリズム
‐ 西欧における広範な芸術?文化活動において、自らと「オリエント」
を異質なものと描く傾向 c.f. エドワード?サイード
‐ 「オクシデント(西洋)」を肯定的に自己認識するために行われる
リアクション?ペーパーの書式
リアクション?ペーパーを提出して終了
? 書式
‐ 用紙を縦向きに置き横書き
‐ ボールペン?鉛筆、いずれで書いても良いが色は黒
‐ リアクション?ペーパーを上下に区切り
①上半分に本日の問題への答えを、
②下半分に質問?感想?意見?得られた示唆を
書いて下さい(②はない場合は書かなくても可)
‐ 質問は次の授業で回答

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