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自殺学
―自殺対策―
和光大学 現代人間学部 心理教育学科
准教授 末木 新
日程
第1回 自殺の現状Ⅰ
第2回 自殺の現状Ⅱ
第3回 自殺生起過程
第4回 自殺への危機介入
第5回 自殺と精神障害
第6回 自殺と自傷
第7回 自殺とメディア
第8回 自殺と文化
第9回 自殺対策Ⅰ
第10回 自殺対策Ⅱ
第11回 幸福な人生の実現に向けてⅠ
第12回 幸福な人生の実現に向けてⅡ
※ ゲスト講師の回やオリエンテーション等については除外
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1. 前回の復習とリアクション?ペーパー
2. 本日の問題
3. 日本における自殺対策
4. 世界における代表的自殺対策
本日の目次
省略
5
1. 前回の復習とリアクション?ペーパー
2. 本日の問題
3. 日本における自殺対策
4. 世界における代表的自殺対策
本日の目次
本日の問題①
あなたは居住地域の首長です。(例:神奈川県知事)自殺対策基本法の第四
条には、「地方公共団体は、基本理念にのっとり、自殺対策について、
国と協力しつつ、当該地域の状況に応じた施策を策定し、及び実施する
責務を有する」という条文があります。自殺対策の責務を果たすために、
あなたが首長の地域では、どのような政策を実施しますか?
これまでに学んだことを踏まえて述べなさい。
? 回答方法
‐ リアクション?ペーパーの表面の一番上から回答すること
‐ 时间は约5分
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1. 前回の復習とリアクション?ペーパー
2. 本日の問題
3. 日本における自殺対策
4. 世界における代表的自殺対策
本日の目次
自殺年齢調整死亡率の推移と社会のイベント
● 自殺対策白書参照 http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/jisatsu/16/index.html
高度経済
成長開始
万博?
70年安保
石油危機
プラザ
合意
アジア通貨危機
消費税増税
自殺対策
基本法WWⅡ
自殺対策基本法
第一条 (目的)
この法律は、近年、我が国において自殺による死亡者数が高い水準で推
移していることにかんがみ、自殺対策に関し、基本理念を定め、及び国、
地方公共団体等の責務を明らかにするとともに、自殺対策の基本となる
事項を定めること等により、自殺対策を総合的に推進して、自殺の防止を
図り、あわせて自殺者の親族等に対する支援の充実を図り、もって国民が
健康で生きがいを持って暮らすことのできる社会の実現に寄与することを
目的とする。
◆ 地方自治体の責務を定めた結果
自殺予防対策事業を実施していた都道府県?政令指定都市
2002年度:13.6% → 2008年度:98.4%
● 自殺対策白書参照 http://www8.cao.go.jp/jisatsutaisaku/suisin/k_2/pdf/s2.pdf
自殺総合対策大綱(2007年)
? 自殺を予防するための当面の重点施策
‐ 自殺の実態を明らかにする
‐ 国民一人ひとりの気づきと見守りを促す
‐ 早期対応の中心的役割を果たす人材を養成する
‐ 心の健康づくりを進める
‐ 適切な精神科医療を受けられるようにする
‐ 社会的な取組で自殺を防ぐ
‐ 自殺未遂者の再度の自殺を防ぐ
‐ 遺された人の苦痛を和らげる
‐ 民間団体との連携を強化する
自殺総合対策大綱は、自殺予防の指針/メニューを示したもの
日本が世界に誇るべき事例①
? 新潟県松之山町における自殺対策の事例
‐ 松之山町:新潟市の約130Km南西に位置し、長野県との県境の山間部
にある日本有数の豪雪地帯
‐ 平成12年の人口は3184人、世帯数1072戸、老年人口42.1%
‐ 人口減少や高齢化が著しく進行
? 取り組みの経緯
‐ 昭和60年代、松之山町の自殺死亡率は全国より約9倍高かった
‐ 昭和60年度から5カ年間は県のモデル事業として、県精神衛生
センター(現精神保健福祉センター)や上越保健所等の支援を受けて
自殺対策に取り組むことになった
地方における自殺予防実践においては、
日本が世界に誇るべき事例がある
日本が世界に誇るべき事例②
? 取り組みの概要
‐ 65歳以上の在宅の高齢者全員に対しSDSを実施
‐ 研究用診断基準を用いて精神科医と保健師による面接を実施、
自殺のおそれのあるうつ病高齢者の拾い出す
‐ 保健師訪問後スタッフミーティングにより処遇を検討、それぞれの
立場でハイリスク高齢者のフォロー
? 結果
‐ 昭和45年~昭和61年の自殺死亡率 436.6/10万人
‐ 昭和62年~平成12年の自殺死亡率 96.2/10万人
地方における自殺予防実践においては、
日本が世界に誇るべき事例がある
DVD視聴
松之山町の事例(約13分(5:42~18:42))
…うつ病を手掛かりにつながりを作る
(大塚耕太郎(監修) 自殺を防ぐ地域精神保健福祉1)
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1. 前回の復習とリアクション?ペーパー
2. 本日の問題
3. 日本における自殺対策
4. 世界における代表的自殺対策
本日の目次
自殺対策のエビデンス
? WHOの推奨するエビデンスに基づく自殺対策
効果があると明確に分かっている対策は多くはない
対象 対策の内容
一般集団
レベル
? 自殺方法へのアクセスを制限する
? 問題のある飲酒を低減する政策の実施
? メディアの責任ある自殺報道に向けた支援
個人
レベル
? 精神疾患の発見?治療
? 自殺企図者?ハイリスク者のケア
事例1:イギリス
? 取り組みの概要
‐ 1998年まで、イギリスでは、ばら売りの錠剤とブリスター包装の
錠剤とが販売されていた
‐ ばら売りを禁止し、ブリスター包装で販売するよう、
法整備が行われた
‐ 1996から1999年までの期間中に、過量服薬による死亡数が減少
自殺方法へのアクセスを難しくすることは自殺予防になる
● Hawton, K., Townsend, E., Deeks, J., Appleby, L., Gunnell, D., Bennewith, O., & Cooper, J. (2001). Effects of
legislation restricting pack sizes of paracetamol and salicylate on self poisoning in the United Kingdom: before
and after study. BMJ, 322(7296), 1203.
事例1|イギリス
? 取り組みの概要
‐ 1998年まで、イギリスでは、ばら売りの錠剤とブリスター包装の
錠剤とが販売されていた
‐ ばら売りを禁止し、ブリスター包装で販売するよう、
法整備が行われた
‐ 1996から1999年までの期間中に、過量服薬による死亡数が減少
自殺方法へのアクセスを難しくすることは自殺予防になる
● Hawton, K., Townsend, E., Deeks, J., Appleby, L., Gunnell, D., Bennewith, O., & Cooper, J. (2001). Effects of
legislation restricting pack sizes of paracetamol and salicylate on self poisoning in the United Kingdom: before
and after study. BMJ, 322, 1203.
事例2|スリランカ
? 取り組みの概要
‐ 1995年および1998年に服毒自殺によく用いられていた農薬の輸入、
販売に関する制限が実施された
‐ 1995~2005年までに自殺率は半減した
‐ 低所得国の農村部での自殺は農薬によるものが多い
‐ 日本でも昭和30年代はパラコートという除草剤の服毒自殺が最も
ポピュラーだった(今は違うが)
→ 日本では、毒性低減等の工夫により自殺率↓
自殺方法へのアクセスを難しくすることは自殺予防になる
● Gunnell, D., Fernando, R., Hewagama, M., Priyangika, W. D. D., Konradsen, F., & Eddleston, M. (2007). The
impact of pesticide regulations on suicide in Sri Lanka. International Journal of Epidemiology, 36, 1235-1242.
事例3|香港?日本
? 取り組みの概要
‐ 2002年までは香港のMTRの駅のホームには線路への人身落下を防ぐ
仕切りがなかった
‐ 設置後MTRの駅での地下鉄自殺は38件(1997~2001年)から
7件(2003~2007年)へと81.6%減少
‐ ホームドアの効果については、日本においても検討されており、
やはり効果があるとの報告あり(Ueda et al., 2015)
自殺方法へのアクセスを難しくすることは自殺予防になる
● Law, C. K., Yip, P. S., Chan, W. S., Fu, K. W., Wong, P. W., & Law, Y. W. (2009). Evaluating the effectiveness of
barrier installation for preventing railway suicides in Hong Kong. Journal of Affective Disorders, 114, 254-262.
● Ueda, M., Sawada, Y., & Matsubayashi, T. (2015). The effectiveness of installing physical barriers for preventing
railway suicides and accidents: evidence from Japan. Journal of Affective Disorders, 178, 1-4.
事例4|香港
? 取り組みの概要
‐ 食料雑貨品店の商品棚から木炭を取り除き、木炭購入時に客が店員に
声を掛けることが義務化された
‐ 木炭燃焼自殺による死亡が対照地域に比べ統計的に有意に減少し
(66%減少)、他の手段への代替効果も認められなかった
‐ 販売方法の変更による購入コストの増加が、自殺方法へのアクセス
可能性を低減させ、自殺率を減少させた
自殺方法へのアクセスを難しくすることは自殺予防になる
● Yip, P. S., Law, C. K., Fu, K. W., Law, Y. W., Wong, P. W., & Xu, Y. (2010). Restricting the means of suicide by
charcoal burning. British Journal of Psychiatry, 196, 241-242.
事例5|アメリカ
? 取り組みの概要
‐ Brady Handgun Violence Prevention Act(ブレイディ法)の実施に
よる変化を検討した(1994年2月施行)
‐ 法律により、銃の購入希望者に待機期間(5日間)の設定と身元調査
が義務化
‐ 結果、法による介入を受けた州とそうでない州(対照)との間で、
殺人率および自殺率の変化量に有意差は認められなかった
自殺方法へのアクセスを難しくすることは自殺予防になる?
● Ludwig, J., & Cook, P. J. (2000). Homicide and suicide rates associated with implementation of the Brady Handgun
Violence Prevention Act. JAMA, 284, 585-591.
事例6|オーストリア
? 取り組みの概要
‐ 新聞報道の過熱化で、オーストリアでは地下鉄への飛び込み自殺が
流行した
‐ メディア向けの報道ガイドラインの制定した
‐ 結果、ウィーンの自殺率(地下鉄自殺?総自殺)が低下した
(地下鉄による自殺および自殺未遂の件数が80%以上減少)
‐ 詳細は、メディアの回にやります
自殺方法への認知的アクセスを難しくすることは
自殺予防になる
● Etzersdorfer, E., & Sonneck, G. (1998). Preventing suicide by influencing mass-media reporting. The Viennese
experience 1980–1996. Archives of Suicide Research, 4, 67-74.
自殺方法の制限に関するよくある疑問
? Answer?
‐ 自殺方法の制限の結果、他の方法が代用されるという結果は
報告されていない
例:ホームドアのない駅へ移動して自殺する
‐ 自殺念慮には波がある?
(ただし、直前の心理状況は正確には把握できない)
‐ 方法を制限するだけでは根本的には変わらないが、波が静まっている
間に、状況を変える試みができるかもしれない
自殺方法の制限をしても、死にたい人の気持ちや状況が変わる
わけではないのだから、結局は、自殺は減らないのでは?
事例7|スウェーデン
? 取り組みの概要
‐ ゴットランド?プログラムとして有名 c.f. 魔女の宅急便
‐ 一般開業医向けに、うつ病や自殺念慮の治療に関する教育プログラム
を実施
‐ その結果、うつ病および自殺念慮の発生率および自殺率が有意に低下
‐ ゲートキーパー教育の効果を明らかにしたものは、本件を含めて
準実験が二件、その他、いくつかのコホート研究あり
ゲートキーパー教育は自殺を予防する
● Rutz, W., Knorring, L. V., & W?linder, J. (1992). Long-term effects of an educational program for general
practitioners given by the Swedish Committee for the Prevention and Treatment of Depression. Acta Psychiatrica
Scandinavica, 85, 83–88.
● Knox, K. L., Litts, D. A., Talcott, G. W., Feig, J. C., & Caine, E. D. (2003). Risk of suicide and related adverse
outcomes after exposure to a suicide prevention programme in the US Air Force: cohort study. BMJ, 327, 1376–1380.
リアクション?ペーパーの書式
リアクション?ペーパーを提出して終了
? 書式
‐ 用紙を縦向きに置き横書き
‐ ボールペン?鉛筆、いずれで書いても良いが色は黒
‐ リアクション?ペーパーを上下に区切り
①上半分に本日の問題への答えを、
②下半分に質問?感想?意見?得られた示唆を
書いて下さい(②はない場合は書かなくても可)
‐ 質問は次の授業で回答

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