アブストラクト
我が国における動物の学校飼育は、明治時代に始まった歴史ある試みである。1980年代頃からは各地で獣医師による小学校の動物飼育支援が始まり、東京都でも東京都獣医師会が動物の学校飼育支援を行っている。平成10年以降、東京都教育委員会の後援を得て、毎年「学校動物飼育教育モデル校事業」の一環としてこれらモデル校の児童作文を収集?出版している。これまで『学校動物飼育モデル校事業の作文集』4冊に掲載された小学生の入賞作文を対象にテキストマイニングソフトを用いて内容語の分析を行い、対象作文から児童の達成感と飼育好き、労働参加と動物理解、動物と他者への思いやり、動物接触との楽しみ、動物の喜びという擬人的な捉え方、自分の喜び、自分の振り返り、などを確認した。そうした中で、頻出動詞の検討を行った結果、男子児童では1位であった「死ぬ」に対し、全体および女子児童では20位以下と、性差が認められたが詳細については明らかになっていない。
【目的】本研究では、対象作文中の頻出動詞における性差について、「死」がどのような文脈で用いられているのかをテキストマイニングの原文参照機能を用いて明らかにすることを目的とする。
【方法】『学校動物飼育モデル校事業の作文集』2001年度-2004年度の4冊に掲載された小学生の入賞作文386編を対象とし、テキストマイニングソフトText Mining Studio Ver.4.1の原文参照機能を用いて、「死」が表現される文脈について質的検討を加えた。まず原文参照機能を用いて「死」が表現されている作文を収集し、「死」が含まれる部分を抜き出し、その表現がどのような文脈で表現されているかを質的に分類した。1作文の中に複数の文脈で表現されている場合はそれぞれを1表現として数えた。次に項目×性差のクロス集計をし、性別ごとに各項目の度数が全度数に占める割合を算出した。さらにすべての項目についてカイ二乗検定を行い、性差の有無を検討した。
【結果】本研究対象となった表現数はのべ230(以下表現数はのべ)、男子児童77、女子児童153で、これらの表現は16項目に分類された、すなわち「悲しい」「可哀そう」「寂しい」「残念」「びっくり」「大切に育てる」「回想の中の出来事」「死別体験」「寿命(と折り合いをつける)」「動物はいつか死ぬ」「生と死の体験から命の大切さを学ぶ」「忘れない?大好き」「責任」「動物の擬人化(私を忘れないで)」「観察」「社会問題(と結びつける)」であった。男女ともに「大切に育てる」「回想の中の出来事」「悲しい」が主な文脈でありこれら3項目で全体の5~6割を占めていたが、「死別体験」「生と死の体験から命の大切さを学ぶ」は男子児童において女子児童の場合の2倍になっていた。さらに、「寿命(と折り合いをつける)」「びっくりした」「社会問題(と結びつける)」は男子児童の表現には見られなかった。カイ二乗検定の結果は、5%水準でも性差が見られる項目はなかった。
【考察】カイ二乗検定の結果からは性差が認められなかったが、「寿命(と折り合いをつける)」の項目はp値が0.06であり、さらにこの項目の表現が0であったことを考えると、対象作文からは男子児童が「死」について寿命だから仕方がないと折り合いをつけることなく、死について「(日常とは違う)死別体験」に「びっくりする」様子が推測できた。本研究の対象となった作文は10年以上前の作文であり、学校での動物飼育環境も大きく変化していることから、同様の方法で直近の作文との比較検討を行い、環境の変化と児童の動物に対する意識の関係について検討することが求められよう。
G309 いとうたけひこ、?宇多仁美 (2019,3月). 東日本大震災の遺族のスピリチュアリティ: 『私の夢まで、会いに来てくれた』における夢の語りのテキストマイニング分析
要旨:[目的]夢は死者の遺族が本人とコミュニケーションできる機会である。災害の遺族が離別後にどのような夢を見て死者と再開するのかを明らかにする。[方法]夢のインタビュー記録『私の夢まで会いに来てくれた』に掲載された27篇の夢についての語りをテキストマイニングにより分析した。[結果] 出現頻度が多かった単語は、名詞では「一緒」「震災」「津波」「夢」などであり。動詞では「いる」「一緒」「思う」「見る」「言う」であった。また、係り受けの頻度分析や評判分析により夢の特徴が明らかにされた。[考察] 夢を見ることにより、亡くなった家族や現在も行方不明の人?友人などがそこに一緒にいる気配を感じ、会うことができたり、この世とは思えない体験、魂や本来見えないものの世界を体感し、夢と現実のはざまを実感することから遺族は亡くなった人との魂とともにこれから未来に向かう目的や新たに芽生えた価値観、前向きに生きるための方向性を見出すことができることを示した。