狠狠撸

狠狠撸Share a Scribd company logo
双曲平面のモデルと初等几何
2015.3.14
@matsumoring
目標
?双曲平面上の幾何学の公式をおもしろいと
思ってもらえること
?この講演を聞いて家に帰ったあとに
「双曲平面の上でいろいろ計算してみよう」
と手を動かしてもらえること
内容
?双曲平面のいろいろなモデルの紹介
?双曲平面上の三角法
?双曲平面上の三角形の面積の公式
※高校3年生~大学1回生向けです。
予備知識は微分積分と線形代数、
あとは複素平面です。
§0 準備
準備1
双曲線関数
双曲線関数の定義
?双曲線関数を次のように定義する。
? cosh ? =
? ?+???
2
= cos ??
? sinh ? =
? ?????
2
= ?? sin ??
? tanh ? =
sinh ?
cosh ?
= ?? tan ??
双曲線関数のグラフ1
?? = cosh ?
? cosh 0 = 1
? cosh ?? = cosh ?
? cosh ? ≥ 1
双曲線関数のグラフ2
?? = sinh ?
? sinh 0 = 0
? sinh ?? = ? sinh ?
? ?∞ < sinh ? < ∞
双曲線関数のグラフ3
?? = tanh ?
? tanh 0 = 0
? tanh ?? = ? tanh ?
? ?1 < tanh ? < 1
双曲線関数の公式1
?基本的な関係式
cosh2
? ? sinh2
? = 1
?双曲線をパラメトライズしている。
?次の形でもよく使う。
1 ? tanh2
? =
1
cosh2 ?
※三角関数の公式から導ける。
双曲線関数の公式2
?微分の公式
? (cosh ?)′ = sinh ?
? (sinh ?)′ = cosh ?
? (tanh ?)′ =
1
cosh2 ?
?三角関数と違ってマイナスが出てこない。
※三角関数の公式から導ける。
双曲線関数の公式3
?逆関数の微分の公式
? (cosh?1
?)′ =
1
?2?1
? (sinh?1
?)′ =
1
?2+1
? tanh?1
? ′
=
1
1??2
?数Ⅲでやっていた。
※一応三角関数の公式から導ける。
(cosh?1 ? > 0とした)
双曲線関数の公式4
?加法定理
? cosh ? + ? = cosh ? cosh ? + sinh ? sinh ?
? sinh ? + ? = sinh ? cosh ? + cosh ? sinh ?
? tanh ? + ? =
tanh ?+tanh ?
1+tanh ? tanh ?
?これもマイナスが出てこない。
※三角関数の公式から導ける。
双曲線関数のTaylor展開
?双曲線関数は以下のように展開できる。
? cosh ? = 1 +
?2
2!
+
?4
4!
+ ? ≒ 1 +
?2
2
? sinh ? = ? +
?3
3!
+
?5
5!
+ ? ≒ ?
?指数関数のTaylor展開の偶数、奇数部分。
?hyperbolic tangentは難しい。
準備2
第一基本形式
曲線の長さ
?曲線? ? =
?(?)
?(?)
?(?)
の長さは速さの積分。
? ?? = ?2 + ?2 + ?2 ??
曲面上の曲線の長さ
?曲面を? ?, ? =
?(?, ?)
?(?, ?)
?(?, ?)
とすると、曲面上
の曲線は? ? = ?(? ? , ? ? )の形になる。
??(?)の速さは次の式で与えられる。
? 2
= ? ?
2
?2
+ 2(? ? ? ? ?) ? ? + ? ?
2
?2
※? ?, ? ?は?の?, ?による偏微分。
曲面の第一基本形式
?? = ? ?
2
, ? = ? ? ? ? ?, ? = ? ?
2
とおくと曲面
上の曲線の長さは次のように書ける。
? ?2 + 2? ? ? + ? ?2 ??
?以下のものを曲面の第一基本形式と言う。
??2
= ???2
+ 2????? + ???2
曲面上の領域の面積
?? ?と? ?で張られる平行四辺形の面積は
|? ? × ? ?| = ?? ? ?2
(公式 ? × ? ? ? × ? = ? ? ? ? ? ? ? (? ? ?)(? ? ?)より)
?曲面上の領域?の面積は
??1(?)
?? ? ?2 ????
…第一基本形式から計算できる。
Gaussの驚異の定理
?Gauss曲率という量は、曲面がどのように空
間に埋め込まれているかという情報(第二基
本形式)を用いて定義されるが、実は曲面に
内在的な量(第一基本形式)のみで定まる。
?平面と円柱は違う形をしているが、どちらも
Gauss曲率は0。
?紙の幾何学と鉄の幾何学。
J.C.F.Gauss
(1777~1855)
Riemann幾何学
?「曲面の第一基本形式を計算する」の逆に、
「第一基本形式を基に幾何学ができる」。
?Riemannの講師就任講演のアイデア。
?この考えに基づき双曲平面のモデルを構成。
G.F.B.Riemann
(1826~1866)
準備3
一次分数変換
一次分数変換
?? =
? ?
? ?
∈ ??2(?)に対し
?? ? =
?? + ?
?? + ?
(? ∈ ?)
で定まる変換を一次分数変換という。
?定数倍だけ異なる行列は同じ変換を定める。
???2(?)は?に作用している。
?? ?? = ???
一次分数変換の性質
?複素数だけではなく∞も込めて定義できる。
?実はRiemann球面上の変換。
?円を円に写す。
?直線は無限遠点を通る円とみなす。
?向きを込めて角度を変えない。
複比
?4つの異なる複素数(or∞)の複比を次のよう
に定義する。
? ?0, ?1, ?2, ?3 =
(?0 ? ?2)(?1 ? ?3)
(?0 ? ?3)(?1 ? ?2)
?複比は一次分数変換で不変。
? ??0, ??1, ??2, ??3 = ? ?0, ?1, ?2, ?3
?4点が1つの円周上に順に並んでいる?? > 1
一次分数変換と複比
?一次分数変換は3点の行き先により定まる。
?逆に、任意の3点を任意の3点に写す一次分
数変換が存在する。
??1, ?2, ?3を?1, ?2, ?3に写す一次分数変換は
? ??, ?1, ?2, ?3 = ? ?, ?1, ?2, ?3
により定まる。
§1 双曲空間のモデル
牽引線(tractrix)
?棒の端を持ってずるずると引きずったときに、
棒のもう一方の端が描く軌跡。
牽引線の方程式
?引っ張る棒が牽引線の接線になる。
?
? =
1
cosh ?
? ? tanh ?
擬球1
?牽引線を回転させてできる面。
?Gauss曲率が-1。
…第4回つどいご参照。
?
?
?
=
cos ?
cosh ?
sin ?
cosh ?
? ? tanh ?
擬球2
?Beltramiが構成したと言われることが多いが
MindingやCodazzi、Liouvilleなどがすでに計算
していた。
?Beltramiは「擬球」という言葉を双曲平面の
意味で使用していた。
E.Beltrami
(1835~1900)
擬球の第一基本形式
?素直に計算すると以下の形になる。
??2
=
??2
cosh2 ?
+tanh2
? ??2
?変数変換? = cosh ? により次のようになる。
??2
=
??2
+ ??2
?2
擬球の不満な点1
?円柱状になっている。
?普遍被覆をとることにより解決。
?θの定義域を実数全体に拡張する。
?薄さ0、曲率-1、長さ∞のトイレットペーパー。
擬球の不満な点2
?完備でない。(x-y平面のとこで切れてる)
?uの定義域を正の実数全体に拡張して対応。
?uが0に近づくと長さが無限大になるので完備。
※完備な負の定曲率曲面は3次元Euclid空間
に埋め込むことはできない(Hilbert)。
D.Hilbert
(1862~1943)
Poincare上半平面
?? = { ?, ? ∈ ?2
|? > 0}に第一基本形式
??2
=
??2
+ ??2
?2
を入れたものをPoincare上半平面という。
?複素平面で考えると
?? =
??
Im ?
と書ける。
Poincare上半平面の測地線
?第一基本形式で決まる長さについて局所的
に最短経路を与える曲線を測地線という。
?以後、双曲直線とも呼ぶ。
?Poincare上半平面の双曲直線は、実軸に直
交する半直線または半円。
…第5回つどい参照。
Poincare上半平面の等長変換
???2(?)は?に一次分数変換として作用する。
?±1倍は同じ変換を定めるので次のようにおく。
???2 ? = ??2 ? /{±?}
?この作用は向きと長さを保つ。
?通常の平面の回転と平行移動に相当。
※実は上半平面の向きと長さを保つ変換全体。
※実は上半平面の解析的自己同型全体。
Poincare円板
?上半平面と単位円板はCayley変換により同型。
? =
? ? ?
? + ?
(? ∈ ?2
)
?この同型によりPoincare上半平面の長さを単位
円板に写したものをPoincare円板という。
?Poincare円板の双曲直線は円周に直交する円弧。
Poincareモデル
?Poincare上半平面、Poincare円板ともに
Beltramiが先に発表しているが、これらの等長
変換がFuchs関数の対称性と一致すること
にPoincareが気付いたため、Poincareの名が
冠されているらしい。
?「馬車のステップに足をかけた瞬間に」閃いた。
J.H.Poincaré
(1854~1912)
Euclidの第1公準に関して
Ⅰ.任意の点から他の一点に直線が引ける。
?上半平面で考えれば明らか。
Euclidの第2公準に関して
Ⅱ.任意の直線を連続的にまっすぐ延長できる。
?上半平面の虚軸の長さを計算してみる。
?等長変換群は双曲直線に推移的に作用している。
?実軸までの長さは無限大。
?線分の長さの公式が複比で書ける。
?Cayley変換は一次分数変換なので複比を保存し、
Poincare円板の第一基本形式が求められる。
Euclidの第3公準に関して
Ⅲ.任意の中心と半径に関して円が描ける。
?Poincare円板の回転も等長変換なので、双曲円
は通常の意味でも円になっている。
?Cayley変換も一次分数変換なので、実はPoincare上
半平面の双曲円も通常の円になる。
?ただし通常の円の中心と双曲円の中心は異なる。
?半径?の双曲円の周長は2? sinh ? 。
?面積をぜひ計算してください。
Euclidの第4公準に関して
Ⅳ.すべての直角は互いに等しい。
?第一基本形式の形より、Poincare上半平面と
Poincare円板のいずれも、双曲的な角と通常の
角は等しい。
?角度は、余弦定理より長さを使って定義できる。
Euclidの第5公準に関して
Ⅴ.直線が二直線と交わるとき、同じ側の内角
の和が二直角より小ならば、その二直線が限り
なく延長されたとき、内角の和が二直角より小
なる側で交わる。
?不成立。
直線?が二直線?と?に
交わっていて内角の和
? + ?は180度より小さい
が?と?は交わらない。
等距離線
?Euclid幾何学では、ある直線に平行な直線は
その直線から等距離にある点の成す直線。
?双曲幾何学では等距離線は双曲直線ではない!
?上半平面の虚軸の等距離線は次の図の通り。
?拡大は等長変換。
その他のモデル
?Poincare円板を単位球の赤道面とし、南極
から北半球に射影して上半球モデルを得る。
?上半球モデルを北極で単位球に接する単位
円板に射影してKleinモデルを得る。
?Kleinモデルを原点から双曲面に射影して双
曲面モデルを得る。
模式図
Poincare円板
Kleinモデル
Kleinモデル
?単位円板の弦が双曲直線を表す。
?Beltramiが先に発表していたが、後にKleinが
射影幾何学に用いたのでKleinの名が冠され
ているらしい。
F.C.Klein
(1849~1925)
§2 双曲平面の三角法
Minkowski空間
??3
に擬内積と擬外積を以下で定義する。
? =
?1
?2
?3
, ? =
?1
?2
?3
に対し
? ? ? ? = ?1 ?1 + ?2 ?2 ? ?3 ?3
? ? × ? =
?2 ?3 ? ?3 ?2
?3 ?1 ? ?1 ?3
?(?1 ?2 ? ?2 ?1)
擬内積と擬外積の公式
?以下の公式が成り立つ。
? ? × ? ? ? = det(?, ?, ?)
? ? × ? × ? = ? ? ? ? ? ? ? ? ?
? ? × ? ? ? × ? = ? ? ? ? ? ? ? (? ? ?)(? ? ?)
? det(?1, ?2, ?3) det(?1, ?2, ?3) = ? det(?? ? ??)
双曲面モデル
?Minkowski空間の二葉双曲面 ? ? ? = ?1 の
うち、? > 0 の葉?が双曲面モデルとなる。
?点?0での接平面の方程式は
?0 ? (? ? ?0) = 0
?接ベクトル?は?0 ? ? = 0を満たす。
?擬内積は接平面上では正定値。
?接平面は「傾き」が1より小さい。
?測地線は原点を通る平面との交線。
二点間の距離
?? = 0で位置?、速度?( ? = 1)の測地線は
? ? = (cosh ?) ? + (sinh ?) ?
と書ける。
?平面 ?, ? と?の交線。
?2点?, ? ∈ ?の距離?(?, ?)に対して次が成り
立つ。
cosh ?(?, ?) = ?? ? ?
測地線の法線ベクトル
?測地線?(?)の法線ベクトルを次で定める。
?(?) = ? ? × ?(?)
??は?と ?に擬直交している。
?上から見たとき?(?)は?(?)に対して左向き。
?Minkowski空間では、?は?によらず一定!
? ? は平面 ?, ? の擬直交補空間。
測地線が角を成す場合の公式
?図の状況で以下の等式が成り立つ。
? ?1 ? ?2 = cos ? , ?1 × ?2 = ? (sin ?) ?
? ?1 ? ?2 = ?cos ? , ?1 × ?2 = (sin ?) ?
? ?1 ? ?2 = ?1 ? ?2 = sin ?
? ?1 × ?2 = ?1 × ?2 = (cos ?)?
※以下、図はPoincare円板のもの。
双曲三角形の余弦定理
?双曲三角形について以下の式が成り立つ。
cos ? =
cosh ? cosh ? ? cosh ?
sinh ? sinh ?
双曲三角形の正弦定理
?双曲三角形について以下の式が成り立つ。
sinh ?
sin ?
=
sinh ?
sin ?
=
sinh ?
sin ?
双曲三角形の??定理
?双曲三角形について以下の式が成り立つ。
cosh ? =
cos ? + cos ? cos ?
sin ? sin ?
?角度から辺の長さが決まる。
直角三角形の場合
?Pythagorasの定理
cosh ? = cosh ? cosh ?
?三角比
cos ? =
sinh ?
sinh ?
cosh ?, sin ? =
sinh ?
sinh ?
?新しい式
cosh ? =
cos ?
sin ?
直角が2つある場合の公式
?図の状況で次の公式が成り立つ。
?1 ? ?3 = ?cosh ?
?1 × ?3 = (sinh ?) ?2
det ?1, ?2, ?3 = ? sinh ?
直角六角形の余弦公式
?直角六角形に対し次の公式が成り立つ。
sinh ?2 sinh ?4 cosh ?3 = cosh ?6 + cosh ?2 cosh ?4
直角六角形の正弦公式
?直角六角形に対し次の公式が成り立つ。
sinh ?4
sinh ?1
=
sinh ?2
sinh ?5
=
sinh ?6
sinh ?3
正n角形
?? ≥ 3に対し、0 < ? < 1 ?
2
?
?を満たす
任意の?に対し、全ての内角が?となる正?角
形が存在する。
§3 双曲三角形の面積
状況説明
Bolyai(子)「平行線公理なくてもいけるかも」
Bolyai(父)「やめとけ、俺はそれで人生棒に振った」
Bolyai(子)「いや、どうやら俺無から世界創造したわwww」
Bolyai(父)「??????wなら早く発表しろ」
Gaussに手紙書かないと…φ(.. )????
「息子が大発見しました」
Gauss 「それ俺が考えてたのと完全に一緒w」
Bolyai(子)「え」←いまここ
Gaussが手紙で述べたこと
?内角が?, ?, ?の双曲三角形の面積は角不足
? ? ? + ? + ?
の定数倍となる。
…三角形の面積は角度のみで決まる!!
?以下の証明の流れはGaussによるものですが、説明
の前半は全然違います。
Gaussの証明
Ⅰ.全ての三重漸近三角形は合同である。
Gaussの証明
Ⅱ.三重漸近三角形は有限の面積?を持つ。
Gaussの証明
Ⅲ.二重漸近三角形の面積は0でない内角によ
り決まる。
?対応する外角が?のとき面積を?(?)で表す。
Gaussの証明
Ⅳ.? ? + ? ? ? ? = ?
Gaussの証明
Ⅴ.? ? + ?(?) + ? ? ? ? ? ? = ?
Gaussの証明
Ⅵ.? ? + ? ? = ? ? + ?
?したがってある定数?に対し
? ? = ??
と書ける。
?適当な単位をとれば? = 1とできる。
(双曲平面はそうなっている。)
Gaussの証明
Ⅶ.三角形の面積Δは角不足の定数倍となる。
Δ = ?(? ? ? ? ? ? ?)

More Related Content

双曲平面のモデルと初等几何