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アクセシブルなデジタル教科书の到达点と今后の课题
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1.
アクセシブルなデジタル教科书の到达点と今后の课题 The challenges of
accessible digital textbooks and their reaching point. 井上 芳郎 Yoshiro INOUE 埼玉県立狭山清陵高等学校 Sayama-seiryo Highschool, Saitama pref. 【要旨】 2016 年 4 月の「障害者差別解消法」施行による合理的配慮提供の義務化を前に、文科 省では「デジタル教科書の位置付けに関する検討会議」を設置し、教科書諸制度や著作権制度と デジタル教科書との関係などについて検討を始めた。一方 DAISY/EPUB 策定の進展や各種プラ ットフォームでの実装など、技術的側面でのアクセシビリティ確保の実現性は高まっている。筆 者は 2015 年 1 月に本学会助成を受け、「DAISY/EPUB で実現するアクセシブルなデジタル教科 書」のテーマで研究会を企画した。その成果を踏まえ到達点と今後の課題について報告する。 【キーワード】 合理的配慮 デジタル教科書 アクセシビリティ DAISY EPUB 1. はじめに 教材へのアクセシビリティの確保は、 障害や学習上の困難の有無にかかわらず 可能な限り同等の教育を保障する、イン クルーシブ教育の実効性を担保するため の必須条件の一つといえる。とりわけ検 定教科書については、その使用が義務付 けられていることから、国の責務におい てアクセシビリティ確保のための方策が 遅滞なく講ぜられるべきものと解される。 しかるに 2016 年 4 月の「障害者差別解 消法」施行による合理的配慮提供の義務 化を目前にして、制度面についての具体 的な検討がようやく始められた。 2. 学習者用デジタル教科書の到達点 次に学習者用デジタル教科書について 現状での到達点を、主にアクセシビリテ ィ確保の観点から整理してみる。 教科書協会(2015)によると、2015~ 2019 年版の小学校学習者用デジタル教 科書の発行率は約 58%であり、アクセシ ビリティ確保については「リフロー等の 特別支援機能は概ね活用可能な段階」に あるとしている。しかしながら「教科書 の一部のみ」のデジタル化に留まるもの や、教科による「発行のばらつき」がみ られ低発行率の教科もあるとしている。 学習者用デジタル教科書のアクセシビ リティに関するガイドラインとして、国 立特別支援教育総合研究所(2012)で示 された試案がある。すなわち学習者のニ ーズに応じ、拡大、読み上げ、ハイライ ト、ルビふり、リフロー表示への切り替 え可能なもの、などがガイドラインを満 たすものとされる。現状発行されている もので該当するのは、いずれも電子書籍 の事実上の国際標準規格である EPUB に 準拠して製作されたものであり、そのア クセシビリティ確保については DAISY 規格によって担保されている。 このような教科書出版社による本格的 な取り組み以前に、2008 年「教科書バリ アフリー法」や 2010 年「著作権法改正」 などを契機とし、民間のボランタリベー スによるアクセシブルなデジタル教科書
2.
の製作と提供事業が開始されている。例 えば日本障害者リハビリテーション協会 では 2008 年以来、製作ボランティア団 体と連携し、通常の教科書を読むことに 困難のある児童生徒を対象に
DAISY 教 科書を提供している。2015 年 7 月現在、 約 2,000 名の利用者数があるという。 筆者は 2015 年 1 月に本学会の助成を 受け、「DAISY/EPUB で実現するアクセ シブルなデジタル教科書」のテーマで研 究 会 を 企 画 し 、 そ の 概 要 は 井 上 芳 郎 (2015)ですでに報告した。そこでの検 討の結果、アクセシブルなデジタル教科 書のメインストリームは DAISY/EPUB であることを再確認した。また各種 OS や Web ベースでの実装の進展状況であると か、既存の書籍組版データや OCR デー タなどから DAISY/EPUB へ変換する半 自動処理システムなどの開発状況といっ た、技術的側面での将来性や解決すべき 課題について多数の知見を共有できた。 3. デジタル教科書を巡る制度的課題 「デジタル教科書の位置付けに関する 検討会議」は 2015 年7月末現在まだ開 催回数は 3 回にすぎず、今のところ関係 団体へのヒアリングが主であり、検討課 題の洗い出しが始められたばかりである。 検討結果の取りまとめは 2016 年度末と され、2016 年 4 月の「障害者差別解消法」 施行時点では正式なまとめには至らず、 必要な制度改正や法改正、財政措置など は間に合わない可能性が大きい。 中央教育審議会分科会報告(2012)で は、「国は全国規模で、都道府県は各都道 府県内で、市町村は各市町村内で、教育 環境の整備をそれぞれ行う。これらは、 『合理的配慮』の基礎となる環境整備で あり、それを『基礎的環境整備』と呼」ん でいる。このことから検定教科書のアク セシビリティ確保は、国の行う「基礎的 環境整備」としてなされるべきものと解 される。しかしデジタル教科書の制度的 位置付けが不確定な状態では、アクセシ ビリティの安定的な確保は困難であり、 ひいては合理的配慮の円滑な提供にも支 障をきたすのではないかと危惧する。 4. まとめに代えた提言 最後にまとめに代えて、2016 年 4 月の 「障害者差別解消法」施行に向けて、現 行制度下でも実現性のある方策について 提言してみたい。 ① アクセシビリティが確保された当該 デジタル教科書が発行されていない、 または発行されていても、当該児童生 徒への「合理的配慮」の内容に照らし 適当と判断される場合は、DAISY 教 科書などの提供を無償で受けられる ようにする。また製作ボランティア団 体などへの財政的支援をはかる。 ② 当該児童生徒が検定教科書に代えて、 アクセシビリティが確保された市販 のデジタル教科書を使用する場合は、 助成などにより無償化をはかる。 ③ 「教科書バリアフリー法」の立法趣旨 を生かし、その弾力的運用をはかる。 例えば教科書デジタルデータの提供 方法や、利用範囲などについて現場の 実情に沿ったものとする。 資料(最終アクセス:2015 年 7 月 27 日) 教科書協会(2015) http://bit.ly/1fr9eBb(短縮 URL) 国立特別支援教育総合研究所(2012) http://bit.ly/1eloe2C(短縮 URL) 井上芳郎(2015) http://bit.ly/1LH4t2N(短縮 URL) 中央教育審議会分科会報告(2012) http://bit.ly/1LH4MdS(短縮 URL)
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