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第4回:低価格3Dプリンターで実製品を造る - 設計?生産 -
日経テクノロジーオンライン
 3Dプリンティング技術を実製品の製造に活用する事例が、日本でも増えてきている。精度や材質、造
形速度などの点で不十分だと思われがちな低価格3Dプリンターを採用しつつも、きちんとした機能を持
たせた製品を提供するメーカーや、発売と同時に3Dデータの公開に踏み切るメーカーも出てきており、
3Dプリンティングによるものづくり革新がさらに加速しそうだ。
高性能なトランペット用ミュート
 MORITA(本社仙台市)が発売した「Mutio」はトランペット練習用ミュート(消音器)だ(図1)。
トランペットの先端に差し込んで取り付けることで、操作感を損なうことなく消音できる。唇を振動させ
ながら息の吹き込むバズィングに使うマウスピース用のアタッチメントも組み合わせてある。
図1 MORITAの「Mutio」とその使用イメージ
トランペット練習用のミュートと、バズィング用のマウスピース?アタッチメントの
セットで提供する(a)。(b)はミュートをトランペットの先端に差し込んだ状態、
(c)はマウスピースをアタッチメントに差し込み、さらにミュート本体に差し込ん
だところ。
 当初は主にネット経由での販売だったが、2015年4月からは全国の楽器店での販売も開始した。吹い
た際の抵抗感の軽さや低音域の安定性といった点が、世界各国のプロのトランペット奏者から高く評価さ
れているという。
 このMutioは、3Dプリンターで造っている(スポンジ部を除く)。しかも、100万円以上するような
業務用ではなく、ヒーター内蔵の可動ヘッドから熱可塑性樹脂を吐出する樹脂溶解積層法を採用した20
万円前後の低価格3Dプリンターでだ。製品立ち上げ時の初期投資が少なくて済むことや、発売後にも多
品種少量生産が可能な点で3Dプリンターを使っている。
図2 YOKOITOの「FAB-LENS」
一眼レフカメラなどに装着できるトイカ
メラレンズ。
 製品ラインアップは、PLA(ポリ乳酸)製が4色(青色、赤色、黄色、ピンク色)と、木の微細粒子を
含有した樹脂製(ウッドタイプ、ベージュ色)の5種類 。同社では3Dプリンターを複数台導入し、受
注状況に応じて造形を進める。
*1 通常のPLAタイプが8500円(税別)。ウッドタイプは1万円(同)。なお、ウッドタイプ
の消音効果はPLA製に比べて25%高い。
 もちろん、低価格3Dプリンターの適用に当たっては造形条件を細かく設定する必要があるなど、ノウ
ハウは不可欠。その一方で、前述のウッドタイプのように、装置に限定されない汎用の材料を使える場合
も多く、材料の選択肢は広がるという利点もある 。
*2 実際、同社では金属粉末を含んだ樹脂や炭素繊維を含んだ樹脂でも試作してみたという。
 Mutioで注目すべきは、3Dプリンター製であることをカタログやWebサイトで特にアピールしていな
いこと。3Dプリンターだからこそ実現できた形状という面はあるが、同社は、消音性能の高さや、ミュ
ート部で約50gという軽さといった製品価値そのものをアピールする。
データのオープン化も
 YOKOITO(本社神奈川県茅ケ崎市)が2015年5月14日
に発売した一眼レフカメラなどに装着できるトイカメラレン
ズ「FAB-LENS」も、製造に3Dプリンターを用いている
(図2)。同社が運営する京都のものづくりスペース
「fagora」において、プロダクトデザイナーの鈴木雄貴
氏、グラフィックデザイナーの深地宏昌氏と共同開発した。
 FAB-LENSは、マウントや絞り、レンズ部、フードなど
をユニット化しており、これらをねじ込み式で組み合わせる
(図3)。絞りは円形の紙にレーザーカッターで穴を開けた
ものだが、その他の部品は3Dプリンターで造形した。レン
ズ部に関しては、3Dプリンター製のケースに市販のレンズ
を組み込んでいる 。
*3 なお、レンズについては今後、切削加工などよる
製造も検討しているという。
*1
*2
*3
図3 FAB-LENSの構成
マウント、絞り、レンズ部、フードなどをユニット化し、自由に組み合わせられる。
ハート形や星形の穴が開いた絞りもある。
 同社は、まずキヤノンのEFマウント互換モデルを含んだセットを8000円(税別)で発売。今後、他の
マウントにも対応する予定だが、注目すべきは、同社がFAB-LENSの各部品の3Dデータを公開している
ことだ。
 3Dデータの共有サイト「Thingivers」から無料でダウンロードし、非営利目的に限って活用できる。
FAB-LENSは、樹脂溶解積層法の低価格3Dプリンターでの造形を前提として設計してあるため、自宅の
3Dプリンターで部品を造形できる人も多いはずだ。その際には色や材料を選んだり、形状を部分的に変
更したりすることもできるので、メーカーだけでは実現できない発展も期待できる。

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