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先端認知科学概論 課題
課題タイトル:
      「持続可能な社会についての認知科学視点での展望」
レポートタイトル:少子高齢社会問題の解決に向けたアプローチ
学生番号:s0950352
氏名:須田 泰司(Yasuji Suda)
Email:sudaysj@jaist.ac.jp
提出日:2010 年 8 月 29 日(日)
1 はじめに
      わたしは「少子高齢社会」を課題テーマとして設定した。少子高齢社会は日本社会
    を象徴的に表す言葉として用いられることが多いが、実は少子化と高齢化という現象
    は先進国を中心とした世界的な課題である。例えば、高齢化は公衆衛生技術、生活環
    境の改善と医療技術の進歩によって必然的にもたらされる結果である。少子化は人口
    が減少しないために必要な人口置換水準を合計特殊出生率(15歳から49歳の女性が出
    産するこどもの数を表す)でみるとおおむね2.1人を下回ることに起因するが、人口統
    計資料集(2010)[国立社会保障?人口問題研究所 2010]の予測では2045-2050年には
    世界全域で2.02となる。因みに全世界人口の予測では2015年には73.2億人、2050年に
    は91.5億人となっている。先進国地域に限ってみると2000-2005年に1.58にまで低下し
    た後は1.6台で推移し、2045-2050年には1.80になると予測されている。国別にみると、
    アメリカは1975-1985年に1.8となる以外はおおむね2.0-2.1台で推移しているが、日本
    をはじめ、オーストリア、ブルガリア、ドイツ、ハンガリー、イタリア、スペイン、
    スイスおよび韓国は1.5を下回っている。合計特殊出生率1.5を割り込むと1.5以上への
    回復が難しいことは統計データを基に河野が指摘している。[河野 2007]
      このように、日本に限らず少子高齢社会は世界規模で進行している社会現象と捉え
    ることができる。そして、少子高齢化のひとつの帰結である人口減少社会下で繁栄と
    いう形の持続的成長を遂げた国?地域は歴史上存在しない(ペストなどの大規模な感
    染症や戦災による一時的な人口減少を除く)。そこで、少子高齢社会という人口問題
    を経済、社会の持続的発展にとって鍵となる問題と位置付け、その対応方法について、
    認知科学的観点から検討を行い、対策の提言を行う。
2 認知科学視点での人口減少の捉え方
      少子化は文字どおり多産から少産への移行であるが、これは一次産業から、二次、
    三次産業へと産業構造の変化に伴い1人あたりの獲得所得金額が上昇することで、低
    額×多人数型から高額×少人数型へと世帯収入の獲得構造が変化することとの関連が
    強い。このような産業構造の高度化のひとつの現われとしての少子化による人口減少
    と高齢化を肯定的に捉える有識者が存在する。しかし少子化はとりも直さず稼ぎ手で
    ある労働力人口の減少であり、高齢者の資産は公私年金に大きく依存している。少子
    高齢化社会は基本的に収入と消費双方の原資の縮小を伴う縮小均衡型の経済モデルで

                                                   1
あり、持続的な経済社会の発展のためには少なくとも稼ぐ手である労働力人口(16
歳から64歳)の拡大が必要である。
2.1 人口減少の進化論的把握
   本稿では人口の減少を「性淘汰」のひとつの帰結と考える。女性を100とした場
  合の男性の割合を示す性比率は、日本では1947年以降95-96で推移しており、同世
  代に限らず60年の年齢幅でもっても常に女性の人口が多い状態が続いている。こ
  れは女性をペアリングの需要者、男性を供給者とみなすと、半世紀以上にわたる
  供給不足が続いているということになるが、実態は先に合計特殊出生率でみた通
  りである(ペアリングは日本では特に社会通念上、結婚が前提なので非婚、未婚
  者による出産?子育てはマスメディアの報道では取り上げられやすいエピソード
  ではあるが非常に例外的である。また、統計データを持ち合わせていないが、同
  世代間の需給ギャップ解消手段としての前後10年を超える異世代間ペアリングも
  世代間ペアリングよりも低く、例外的な手段と考えられる)。つまり、日本人男
  性に限ってみると(女性未婚率の上昇からは日本人男性に限らないことも推察で
  きる)、女性は自らの需要を満たす「質的」供給者とみていない。このような認
  知ギャップが少子化を引き起こしているというのが本稿での仮説である。
2.2 人口減少の社会構造的把握
   「消えた 100 歳」を契機として、日本における(家族)コミュニティの崩壊や
  無縁社会化の進行が大々的に言われるが、梅棹忠夫は、日本社会は本質的に超個
  人主義的社会であると正反対の視点を提供している。
                         「日本の家族を典型的なゲマ
  インシャフト(共同社会)であるという見かたがありますが、日本は非常に古く
  からゲゼルシャフト(利益社会)なのです。わたしが社会人類学をやったからそ
  う見えるのかも知れませんが、日本とドイツとフランスの社会構造はよく似てい
  ます。
    (p6)
       」[野島、原田 2004]
   日本社会は利益社会という梅棹のこの指摘は、性淘汰における「眼鏡に適う」
  という側面の理解に役立つ。つまり、人口減少は日本の社会構造の変質の結果で
  はなく、本質的に日本社会に埋め込まれている利益追求の側面の発現と捉えるこ
  とが可能であり、またそうすることが不可欠なのである。社会構造の変質に立脚
  する限り、少子化対策は失敗を繰り返すことになる
2.3 人口減少の社会規範的把握
   社会的規範には、人類、とりわけ特定コミュニティの持続性に関する知識が文
  化的に埋め込まれている。よってその一形式である、宗教的な規範を通じてコミ
  ュニティの持続性を理解することは効果的と考えられる。宗教におけるキリスト
  教の7つの大罪と仏教における六波羅蜜を例に取り上げてみよう。まず、7つの

                                          2
大罪は、ウィキペディアの記述では、6世紀末に時のローマ教皇グレゴリウス1世
  が、8つの枢要罪をベースとして作成したもので、傲慢、嫉妬、憤怒、怠惰、強
  欲(貪欲)
      、暴食(食欲)
            、色欲で構成される。

  http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%83%E3%81%A4%E3%81%AE%E5%A4%A


  7%E7%BD%AA

      これらのうち、暴食と色欲はマズローの欲求階層に照らし合わせると、人間の
  生理的欲求であり、強欲や嫉妬は競争優位を目指した生存的欲求と把握すること
  ができる。信仰を妨害するものとして、度が過ぎることの戒めでの位置づけ上の
  罪=原罪であることは、つまり人間が遺伝的に受け継いでいるものである。次に、
  六波羅蜜は、同じくウィキペディアの記述によると、布施波羅蜜(分け与える)、
  持戒波羅蜜(戒律を守る) 忍辱波羅蜜
             、      (怒りを捨てる) 精進波羅蜜
                           、      (努力する)、
  禅定波羅蜜(心を集中する)、智慧波羅蜜(客観的に観察し、本質的な知恵を発現
  する)の六種類の行為を定めたものである。

  http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%AD%E6%B3%A2%E7%BE%85%E8%9C%9


  C

      7つの大罪に比べると、六波羅蜜の内容は自己実現の欲求に対応している。こ
  れら宗教的規範として受け継がれて来ている、コミュニティ継続に向けた基本姿
  勢は、色欲と布施波羅蜜は、男女のペアリングに関する基本的な視点を提供して
  いる。つまりこれらは、一夫一婦制の原則の構成要素と考えられよう。
2.4 ペアリング認知ギャップの解消に向けて
      このように、一夫一婦制、前後10年の世代内ペアリングという制約がある中で、
  ペアリングに関する男女の認知ギャップを解消し、合計特殊出生率をどう引き上
  げるか。日本の経済社会の発展に伴い、異性間結婚という形に象徴されるペアリ
  ング以外に、お一人様(積極的な意味と消極的な意味の両方あり)、同性間結婚、
  非婚という人生の選択肢が定着している。また、異性間結婚においても積極的に
  こども持たないことを選択する人々も存在する。「ベビーブームに関する神話」
  では、1965年の北アメリカ大停電、2003年の停電、2005年のハリケーン?カトリ
  ーナといった災害の翌年に出産が増えたことが報道されたが、これは偶然発生し
  た特異な環境下での出来事の積み重ねである。
  http://www.weblio.jp/content/1965年北アメリカ大停電 このような状況を意
  図的にしかもランダムに作り出すことも不可能ではないがこれはオプションであ
  り、このオプションが効果を発揮する前提はペアリング認知のギャップの解消で

                                                                 3
ある。
        「ミームは、模倣によって人から人へ伝えられる癖や技術、行動、物語といっ
    たものである。ミームは遺伝子にように競って自己を複製しようとする。だが、
    ミームは細胞の中に閉じ込められた化学物質ではなく、脳から脳、あるいは脳か
    らコンピュータや本や芸術作品へと飛び移る情報である。競争に勝ったミームは
    世界中に広まり、行く先々で私たちの心や文化を形づくる。 [ブラックモア 2010]
                              」
    というミーム論や、ニューラル?ダーウィニズムを代表する、ジェラルド?エー
    デルマンの「遺伝的に決定された組織の構造に環境が彫刻する」「私たちの表現
                                 、
    型は、遺伝子型と経験との間の相互作用によって形成される(p256)」[ハリソン
    2006]との指摘を敷衍すると、いかにペアリングのための環境を構築し継続的に提
    供して行けるかが少子化解消の鍵といえる。
        また、
          「理性と感情は正反対に位置するのではない。両者は時として反発し合う
                     」[ザルトマン 2005]とザルトマンが言う
    が、相互に依存するパートナーである。
    ように、ペアリング対象の理性的な選択と感情的な選択を最適化するような環境
    づくり、場づくりが有効であろう。現在の人口減少は理性的な選択に偏ったがた
    めの性淘汰現象といえるので、感情とのバランスがとれた選択を支援することが
    必要と考えられる。そして何より、メディアを媒介とする間接経験ではなく、直
    接経験し判断することの重要性を指摘した、リード流の経験主義[リード     2009]
    を借りればペアリングによる生殖行為はとりもなおさず直接経験であり、直接経
    験を積み重ねることが、理性的な選択と感情的な選択の各人の最適バランス下で
    のペアリングの成立につながる。
        そしてペアリング?出産による新しい家庭の創造には、個人家庭よりも水道?
    電気の消費、食材の調達?調理における資源利用の効率化効果が働く。つまり、
    夫婦とこどもから成る 3 人以上のコミュニティの形成には、その構成員が強く意
    識して行動しなくても環境負荷の低減効果が働くことが期待できるのである。
3 まとめ
   本稿では持続的な日本の経済社会の発展の基盤を少子化の改善にあるとした上で、
  少子化の原因を男女ペアリングの認知ギャップにあると仮定し、そのギャップ解消の
  方策について述べた。少子化対策は、この他、こども手当に代表されるような国の政
  策にも強い影響を受ける。例えばフランスの出生率の回復は、出産?子育てに係る経
  済上の優遇政策に加え、出産のイスラム化と言われている、合計特殊出生率が高いイ
  スラム系移民の受け入れ効果が大きく寄与していることが指摘されている。このフラ
  ンスの経験が示唆するところは、少子化対策、ひいては人口増加対策がペアリングギ
  ャップの解消だけでは困難であり、移民を含めた各種施策の総合化によらなければ解



                                             4
決が困難であるということである。しかし同時に民族、宗教的背景が異なるものの男
  女ペアリングの認知ギャップを縮小できるヒントが移民系イスラムのコミュニティに
  知識として埋め込まれているとも考えられるので、彼らのペアリングに関する認知?
  行動を理解して、日本の男女ペアリングの認知?行動に活かすことが必要になるだろ
  う。1970年代にはじまった日本の少子化は40年近くその対策の効果は不十分なままで
  あることから、他者に学んで取り入れる姿勢を少子化対策においても実践することが
  求められているといえよう。

4 参考文献
  ?   [河野    2007] 河野稠果 , 人口学への招待 ,中央公論社 , 2007
  ?   [ザルトマン 2005] ザルトマン, ジェラルド, 心脳マーケティング, ダイヤモンド
      社, 2005.
  ?   [野島、原田 2004] 野島久雄 原田悦子,<家の中>を認知科学する, 新曜社, 2004.
                       ?
  ?   [ハリソン 2006] ハリソン, ジョン, 共感覚, 新曜社, 2006.
  ?   [ブラックモア        2010]   ブラックモア, スーザン, 「1冊でわかる意識」, 岩波書
      店, 2010.
  ?   [リード       2009] リード, エドワード, 経験のための戦い, 新曜社, 2010




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  • 4. ある。 「ミームは、模倣によって人から人へ伝えられる癖や技術、行動、物語といっ たものである。ミームは遺伝子にように競って自己を複製しようとする。だが、 ミームは細胞の中に閉じ込められた化学物質ではなく、脳から脳、あるいは脳か らコンピュータや本や芸術作品へと飛び移る情報である。競争に勝ったミームは 世界中に広まり、行く先々で私たちの心や文化を形づくる。 [ブラックモア 2010] 」 というミーム論や、ニューラル?ダーウィニズムを代表する、ジェラルド?エー デルマンの「遺伝的に決定された組織の構造に環境が彫刻する」「私たちの表現 、 型は、遺伝子型と経験との間の相互作用によって形成される(p256)」[ハリソン 2006]との指摘を敷衍すると、いかにペアリングのための環境を構築し継続的に提 供して行けるかが少子化解消の鍵といえる。 また、 「理性と感情は正反対に位置するのではない。両者は時として反発し合う 」[ザルトマン 2005]とザルトマンが言う が、相互に依存するパートナーである。 ように、ペアリング対象の理性的な選択と感情的な選択を最適化するような環境 づくり、場づくりが有効であろう。現在の人口減少は理性的な選択に偏ったがた めの性淘汰現象といえるので、感情とのバランスがとれた選択を支援することが 必要と考えられる。そして何より、メディアを媒介とする間接経験ではなく、直 接経験し判断することの重要性を指摘した、リード流の経験主義[リード 2009] を借りればペアリングによる生殖行為はとりもなおさず直接経験であり、直接経 験を積み重ねることが、理性的な選択と感情的な選択の各人の最適バランス下で のペアリングの成立につながる。 そしてペアリング?出産による新しい家庭の創造には、個人家庭よりも水道? 電気の消費、食材の調達?調理における資源利用の効率化効果が働く。つまり、 夫婦とこどもから成る 3 人以上のコミュニティの形成には、その構成員が強く意 識して行動しなくても環境負荷の低減効果が働くことが期待できるのである。 3 まとめ 本稿では持続的な日本の経済社会の発展の基盤を少子化の改善にあるとした上で、 少子化の原因を男女ペアリングの認知ギャップにあると仮定し、そのギャップ解消の 方策について述べた。少子化対策は、この他、こども手当に代表されるような国の政 策にも強い影響を受ける。例えばフランスの出生率の回復は、出産?子育てに係る経 済上の優遇政策に加え、出産のイスラム化と言われている、合計特殊出生率が高いイ スラム系移民の受け入れ効果が大きく寄与していることが指摘されている。このフラ ンスの経験が示唆するところは、少子化対策、ひいては人口増加対策がペアリングギ ャップの解消だけでは困難であり、移民を含めた各種施策の総合化によらなければ解 4
  • 5. 決が困難であるということである。しかし同時に民族、宗教的背景が異なるものの男 女ペアリングの認知ギャップを縮小できるヒントが移民系イスラムのコミュニティに 知識として埋め込まれているとも考えられるので、彼らのペアリングに関する認知? 行動を理解して、日本の男女ペアリングの認知?行動に活かすことが必要になるだろ う。1970年代にはじまった日本の少子化は40年近くその対策の効果は不十分なままで あることから、他者に学んで取り入れる姿勢を少子化対策においても実践することが 求められているといえよう。 4 参考文献 ? [河野 2007] 河野稠果 , 人口学への招待 ,中央公論社 , 2007 ? [ザルトマン 2005] ザルトマン, ジェラルド, 心脳マーケティング, ダイヤモンド 社, 2005. ? [野島、原田 2004] 野島久雄 原田悦子,<家の中>を認知科学する, 新曜社, 2004. ? ? [ハリソン 2006] ハリソン, ジョン, 共感覚, 新曜社, 2006. ? [ブラックモア 2010] ブラックモア, スーザン, 「1冊でわかる意識」, 岩波書 店, 2010. ? [リード 2009] リード, エドワード, 経験のための戦い, 新曜社, 2010 5