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鉄道飛び込み自殺の多発する駅
及び飛び込み地点の特徴
末木 新(和光大学)
詳細は、以下の文献を参照してください:Sueki, H. (in press). Characteristics of train stations where railway suicides have occurred and locations within the stations.
Crisis. https://doi.org/10.1027/0227-5910/a000761
背景:鉄道自殺の予防の必要性
鉄道自殺は大きな社会的コストを発生させる
? 鉄道自殺による損失の推計例
‐ 鉄道自殺1件につき少なくとも平均8900万円ほどの損失
が生じているという試算がある(国交省, 2010)
‐ この試算は、平均的な輸送人数、遅延時間、時間価値
(51.3円/分)の積であり、その他の様々なコストは勘案
されていないミニマムの数字である
例:飛び込みを目撃した運転手の心理的ダメージ
飛び込みによって破損した車両の修理代
● 国土交通省鉄道局 (2010). 鉄道利用者等の理解促進による安全性向上に関する調査報告書.
http://www.mlit.go.jp/common/000120234.pdf
背景:鉄道自殺の予防方法
鉄道自殺の予防方法には一定のエビデンスがある
? 効果的な鉄道自殺の予防方法(Barker et al., 2017)
‐ ホームドアの設置の効果を明らかにした研究は多数存在
‐ パトロールの実施も効果的である
‐ 青色ライトの設置に関する効果研究は十分とは言えない
‐ ホームドアの設置は有効であるが、全ての駅で実施できる
わけではない(例:ホーム強度の問題、予算の問題)
● Barker, E., Kolves, K., & De Leo, D. (2017). Rail-suicide prevention: Systematic literature review of evidence-based
activities. Asia Pacific Psychiatry, 9, e12246.
先行研究の問題点
鉄道自殺の予防政策を効率的に実施するためには、
自殺が発生しやすい駅や構内の場所を特定する必要がある
? 自殺が発生しやすい駅の特徴
‐ 駅の利用客数の多さ、停車する列車のスピードの速さが
駅における飛び込み自殺の発生と関連する
(Niederkrotenthaler et al., 2012)
‐ 鉄道への飛び込み自殺が発生しやすい駅の特徴を明らかに
した研究は上記の一件のみであり、これ以上のことは
分かっていない
● Niederkrotenthaler, T., Sonneck, G., Dervic, K., Nader, I. W., Voracek, M., Kapusta, N. D., ... & Dorner, T. (2012).
Predictors of suicide and suicide attempt in subway stations: A population-based ecological study. Journal of Urban
Health, 89, 339-353.
本研究の目的
そこで、この研究では、
①鉄道自殺が発生しやすい駅及び
②ホームにおける飛び込み地点の特徴
を明らかにします
研究1
鉄道自殺が発生しやすい駅とは?
方法
国内の大手鉄道会社から各駅の自殺発生件数に
関するデータの提供を受けた
? データ収集
‐ 2014年4月?2019年9月
‐ 鉄道会社に関する情報は、提供元の意向により開示不可
? データ分析
‐ 駅の特徴(利用客数、通過列車の有無、近隣の精神科病院
の存在)を独立変数、自殺発生件数を従属変数とした
ポアソン回帰分析を実施
結果
駅における鉄道飛び込み自殺の発生は、通過列車が通る、
利用客数が多い、近隣に精神科病院があることと関連する
研究2
飛び込みポイントの特徴
方法
鉄道会社からの提供データをもとに、フィールドワークを実施
? データ収集&分析
‐ 研究1でデータ提供を受けた鉄道会社が、特に自殺の多発する駅の
図面に過去の飛び込み自殺発生地点を記した地図を作成
‐ 地図を参照しながら、鉄道飛び込み自殺が多発する駅のホーム上を
第一著者と複数の鉄道会社職員とで訪問し、飛び込み地点の周囲の
特徴に関するフィールドワークを実施
‐ 飛び込み地点には4つの特徴(ベンチ?待合室前、ホーム始端、
ホーム侵入口、運転手からの物陰)が見られた
‐ 飛び込み発生地点(n= 50)が上述の4つの特徴に合致するか否か、
第一著者と研究協力者で各地点を訪問し、数量化
飛び込み地点の約半数はベンチ?待合室の前
結果|自殺の発生しやすい駅の特徴
総合考察
総合考察|有望な対策とは?
飛び込み自殺の発生しやすい駅には一定の特徴があり、
その特徴を元にした対策を実施することは可能
? 結果から考えうる駅における鉄道飛び込み自殺対策
‐ これらの特徴を有する駅への優先的なホームドアの設置
‐ ホームドアの設置が難しい場合には、4つの特徴に合致
するホーム上の地点への重点的なパトロール
‐ ホーム上にベンチや待合室を設置せず、コンコースに
設置し、ホームでの滞留を少なくする
‐ 長期的には、通過列車がホームから離れた線路を通るよう
に路線の構造そのものを変えていく
総合考察|研究の課題と今後の展望
‐ 日本の単一の路線に関するデータであり、
一般化可能性は制限される
‐ 自殺者の個人情報は取得できていない
→ 特定の属性の人間が特定の駅で自殺している可能性
≒ パトロールのターゲットを絞れる可能性
‐ (研究2)飛び込み地点に関するデータは正確でも、
飛び込む直前に何をしていたのかという行動データは
取得できていない
→ 監視カメラのデータと組み合わせて分析する必要性

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