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JUDO3.0オンラインカフェ
なぜ柔道の稽古をすると世を補益できるようになるのか
-嘉納治五郎の「道」を考える-
追手門学院大学社会学部 有山篤利
1 オンラインカフェを始めるにあたって
柔道の二つの顔
近代社会にふさわしいマーシャルアーツであると同時に、日本人
の民族的?文化的アイデンティティを象徴する活動 (井上俊)
競技スポーツのJUDO 嘉納治五郎の講道館柔道
スポーツ教育 柔「道」教育
本日の話の目的
「どちらが優れているか」の判別ではない=それぞれに素晴らしい教育
柔道教育の課題
両者の区別が明確ではないこと
JUDO教育と柔道教育の違いはどこにあるのか
2 教育としての武道とその矛盾
礼に始まり礼に終わる 相手への尊敬や克己の心
①競技柔道の礼法はスポーツの礼法
  伝統的な礼法とは異なるもの
   (例)小笠原流礼法=武芸の習練を日常生活の所作に位置づけた行動様式
②相手への尊敬や克己の心は世界共通の道徳
  スポーツマンシップ(フェアプレイの精神やマナー)と何が異なるのか
③勝利至上主義や合理主義と異なる分脈
   (例)イギリスのフットボール(競技としてのサッカーではない側面)
④武士道的価値観(恥を知る?礼節などの規範意識)
  いわゆる武士道は???
  「(大正~昭和初頭)の日本の官僚祖組織が外国人向けにつくった思想」
                             (チェンバレン)
  「より優れた武士(戦士)になるための営みで一般人の道徳とは無関係」
                             (菅野覚明) 
意見交換 1
「精力善用」「自他共栄」とは、具体的にはどういう動きや振る舞いのことでしょうか。
どのように指導しておられますか。
嘉納治五郎によれば…柔道とは「自他共栄を旨として精力を善用する」こと
3 欧米的な教育と日本的な教育
    
新
し
い
自
分
師匠の真似
動きの形?音読
量的
変化
質的
変化
実践する-形の変化-意味の変化-自己の変容
欧米的な近代教育
    
新
し
い
自
分
質的
変化
量的
変化
意味意義の理解
知識の習得
日本の伝統的な教育
考える-意味の変化-形の変化-自己の変容
4 武「道」の修養と「事理一体(一致)」
日本人の教育観
「真の心、すなわち花の心は、身体の正しい『形』としての『わざ』を稽古によっ
て会得することを通じて新しく獲得される」          (湯浅泰雄)
「事理一体」と「道」
風姿花伝:世阿弥の芸道論
武芸には儒仏道教に由来する「心」が「わざ」の極意として伝わる(寒川恒夫)
心の修養は、あくまでも武の「わざ」の修行を通じて達成される
武術の「わざ」の極意は、森羅万象に通じる真理に通じる
正しい「わざ」=正しい「心」のあらわれ
現代に生きる事理一体
(例)白鵬の張り差し?かちあげ論議、タイガースの伊藤隼太選手の談話
「道」
球技?お茶の点て方?職人技など「わざ」の習練を伴うものはすべて「道」
「事」は「わざ」、「理」は形而上の原理
5 講道館柔道にみる「事理一体」
武術と体育を兼ね備えた一種の練習によって、心身の力を最も有効に使用する方法を
覚え、そこから自然に人事万般のことに応用する仕方を覚える     (嘉納治五郎)
稽古を通して得られた「わざ」の理合いを、生活上の課題解決の秘訣に転用する
必勝の原理(精力善用)と日常の課題解決の原理は連動する=事理一体
「精力善用」:心身の力を最も有効に使うとはどうすることなのか?
柔道は柔の理を応用して対手を制御する術を練習し、またその理論を考究するもの
柔の理とは対手が力を用いて攻撃し来る場合、我はこれに反抗せず、柔らかに対手
の力に順応して動作し、これを利用して勝ちを制する理合い    (嘉納治五郎)
柔道の目指すところは最大効果と相互福利の原理を損等する精神の育成であり、そ
の道徳的側面についてもルールやエチケットの遵守やフェアプレイといったことを
意味しているのではなく、人間関係の諍いなどは不必要な労力の消費であり、最大
効果の原理に反することを学ぶことにある          (樋口聡)
「柔」という美意識
「柔の理」という
動きの原則
「柔能く剛を制す」動き方
理想の「わざ」の発現
…しなやかさ?従順性を重視する考え方
…①強い力同士を衝突させない
 ②状況に合わせて臨機応変に変化し相手の 
  力を利用する
…相手の力を利用して勝つ
理想的な振る舞い方
技術の完成 心の完成
礼法
6 柔道の「わざ」の生成
7 スポーツ教育と柔「道」教育の違い
武道の事理一体
?盤石な「心」の世界にいたる手段は闘いの「わざ」の習練にある
?「わざ」の極意には世の中すべてを包み込む形而上の原理が存在する
嘉納治五郎の事績
あくまでも伝統的な「事理一体」を継承しながら…
  神秘主義を排し、近代教育に適合するよう柔術を科学的な教育体系に再構築
「道」という伝統的な教育方法に則った近代教育の創造
柔道教育とスポーツ教育の違い
スポーツ教育:運動や活動の効果として教育価値を獲得する
柔道教育:「わざ」の原理(極意)習得によって教育価値を獲得する
   背負い投げがうまくなれば人格ができる?ドリブルがうまくなっても…
勝つための背負い投げ?柔能く剛を制す背負い投げ…どちらを教えるか
8 柔「道」教育の科学的根拠
自己知覚=自分の行動を観察することで、自分自身の心の状態を知ること
(例)人は悲しいから泣くだけではなく、泣くから悲しくなるときもある
脳は自分の行動を合理化する傾向がある
自己知覚理論 べム(D.J.Bem)
 自己の心理状態を知る時に、内的手がかりから直接的に感情を経験するよ
りも、外的手がかりから客観的な観察を通して知覚する場合が多い
自己の行動や周囲の反応(外的心理)  心の状態(内的心理)の理解
(例)ペンを咥えてマンガ読む実験
渋い顔で読む→面白く感じない
笑いながら読む→面白く感じる
表情筋の動きを読み取った結果
意見交換 2
皆さんは、スポーツ教育(欧米流の近代教育)と柔道教育(伝統的な道の教育)
をどのように取り入れて指導されるでしょうか?
「道」とは汎用的な道徳、武士道的な規範を教える教育ではありません
「道」とは「わざ」の専門世界、「わざ」による教育でした

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