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日本での新音楽ビジネスの创出に向けて① なぜYouTubeは音楽を救えなかったのか
日本では現在、最強の音楽メディアはYouTubeだ。レコード協
会の調査(2011年度)では、「最近、利用した音楽関連サービ
ス」の1位はYouTube(52%)。2位がFMラジオ(32.7%)、3位がテレ
ビ(地上波音楽番組 30.8%)となっている。
YouTubeが音楽を救えなかった原因
(1)検索主体の媒体であること
(2)音楽を聴く時間の低下
(3)無料のオンデマンド配信であること
(4)極端に低い楽曲使用料
ローリングストーン誌の記事を元に比較すると、YouTubeの楽曲
使用料は、Spotifyの5分の1以下。オンデマンドにも関わらず、イ
ンターネット放送のPandoraよりも安い楽曲使用料だ。
特に作詞作曲家に支払う金額が極端に低い。メジャーレーベル
の幹部からも「これでは作家が育たなくなる」と心配する声が出
ているくらいだ。100万回再生されて、たった4,000円。
Pandoraの楽曲使用料はYouTubeより20%ほど高い。その上、再
生曲数の平均は約11曲/日。YouTubeの5倍近くになる。実際、
支払いもよい。ミュージシャンがPandoraから得る収入はあと1?
2年でiTunesから得るそれを超える。加えてPandoraは、オンデマ
ンド配信ではなく放送型メディア。おかげで「Pandoraを聴いて
iTunesで買う」という黄金パターンを成立できた。
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日本での新音楽ビジネスの创出に向けて② Spotify型か、Pandora型か
日本の音楽ビジネス復活のポイント
1 高成長セクターかつ高利益なストリーミング売上のシェアを伸ばすこと
2 安定成長セクターかつ高利益なダウンロード売上のシェアを維持すること
3 マイナス成長セクターであるCD売上のシェアを下げること
前提条件は、収益性の高いストリーミング配信サービスが普及すること。ストリーミング配信のCDよりも収益性が高いことは、
Spotifyが証明しており、スウェーデンでは、レコード産業売上が前年比+30%となった。 Pandoraもストリーミング配信であり、フ
リーメディアのPandoraを聴いて、iTunesでダウンロード購入する「社会的なフリーミアムモデル」がアメリカで成立している。
日本は世界1CDの売れる国であり、物理売上の比率も75%を超えており、フランスと並び、世界最高水準である(IFPI2012)。
この特殊性を考えると、CDを喰うオンデマンド配信のSpotifyより、放送型配信のPandoraが向いているのではないか。
レコードがデジタル化してCDに進化した後、iTunesのようなダウンロード型になった。複製権ビジネスからアクセス権ビジネス
への移行であり、ダウンロードまでは複製権ビジネスだった。複製権はインターネットの海賊行為に弱い。iTunesはこれを解決
できなかった。Spotifyのようなオンデマンド?ストリーミング配信が登場し、インターネットのマイナス面を克服し始めた。
複製権ビジネスからアクセス権ビジネスへの移行は、レコード産業の100年を根幹から変革するリ?インベンションである。
Pandoraは楽曲使用料を支払いすぎ
Pandoraは50%を楽曲使用料にあて、25%を広告営業の人件費
に充てている。合わせて75%のコストだ。
図→Pandoraの売上?コスト
2012年度1Q(左)から2013年度3Q(右)まで。茶色が広告売上、
紺がサブスクリプション売上。緑が楽曲使用料、オレンジが広
告営業費(営業マンの人件費)。赤が損益。85円/ドルで円換
算した
データ: http://phx.corporate-ir.net/External.File?
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日本での新音楽ビジネスの创出に向けて③日本にPandoraのようなサービスを育てるには?
(1)売上の35%前後を楽曲使用料に
まず、Pandoraのように売上の50%を楽曲使用料で獲られては、インターネット放送局は黒字化できない。音楽放送とレコード会社がWin-Winの関係
でなければ、音楽のエコシステムは育たない。エンタメ界の王座を揺るがされている現在、内輪もめをやっている場合ではなく、インターネット放送
に10?15%程度の営業利益を残せる料率を考えると、楽曲使用料は売上の35%前後がよいだろう。
(2)アドバンス、パープレイ、レベニューシェアを組み合わせる
レベニューシェアには問題点もある。単純に「売上の35%」と設定してしまうと、趣味のように運営する放送局が出てきてしまう。そうすると再生あたり
の楽曲使用料はとんでもなく低くなってしまう。そこで、パープレイとアドバンス(※)を併用する。 (※パープレイ:再生される毎に使用料を払う方式。
SoundExchangeの方式/アドバンス:毎年支払う前払金)
アドバンスは、レコード会社が事務所やアーティストと交渉し、包括契約を可能にしてくれることへの礼金にも当たり、毎年支払う。アドバンスは低め
に設定し、パープレイ(Per Play)のミニマム?ギャランティ(MG)を併用する。着うた等ではアドバンスの形で毎年数百万?数千万円を支払うものだが、
ストリーミングビジネスの経営では、1再生あたりのコストと売上のバランスを管理するため、再生毎に最低補償金を支払うにし、パープレイだけの
場合の、3割程度。
? アドバンスは、目標売上の5%
? ミニマムギャランティは0.02円/再生
? 残り売上の25%をレベニューシェア
? 再生あたり0.2円の広告収入(Pandoraがそれくらい)
以上のように定めて試算したところ、楽曲使用料は「総売上の36%」。再生あたりに換算すると0.07円/再生。
(3)フリーミアムモデルにして、有料会員料は高めにレベニューシェア
有料会員が増えれば、インターネット放送局も、レコード会社も共に儲かるように設定する。
? 有料会員料300円/月で、有料会員比率10%
? 楽曲使用料はサブスクリプション料の50%
以上の設定で試算したところ、売上の上昇率が最も高くなった(別紙)。パープレイに換算すると無料会員は0.08円/再生、有料会員は0.25円/再生ぐ
らい。Pandoraの約0.1円/再生(0.11セント 88円換算)と比べてもよい。
楽曲使用料率を上げすぎると、インターネット放送局の取り分がほとんど上がらず、インセンティヴの減少で売上が伸び悩む。有料会員料を上げす
ぎると、有料会員比率がなかなか上がらない。逆に有料会員料を100円にすると、フリーモデルと売上が変わらなくなる。
(※以上の仕組みはSpotifyとLast.fmの契約方式を応用したもの)
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日本での新音楽ビジネスの创出に向けて④ハイブリッドモデルの可能性
iHeartRadioの人気のポイント
(1) 認知に強い
iHeartRadioが登場したのは2011年の後半。わずか1年少しで、
ユーザー数は2,000万人に達した。Pandoraの3分の1に相当する
数で、放送とインターネット双方を使ったブランド告知が効いた。
(2) 女性に強い
女性ユーザーがPandoraを聴く時間は、全ラジオの平均と比べて
5%ほど低い。いっぽう、iHeartRadioにはそうした傾向はない。
(3) イベント連動など、ラジオならではの展開
2012年の9月。iHeartRadioが主催する音楽フェスが、ロスで開催
された。会場のキャパは約2万人。チケットは販売開始からわず
か10分で売り切れた。
地上波ラジオとパーソナライズド放送の共存の可能性
3種類のクリエイティビティーが必要だ。(1)テクノロジー
(2)プロダクトプランニング(3)マーケティング-この3分野
でのクリエイティビティーが絶対必要で、いずれが欠け
ても事業は自壊する」
( I said there are three creativities: creativity in
technology, in product planning, and in marketing. To
have any one of these without the others is self
defeating in business.)
「MADE IN JAPAN」 盛田昭夫

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