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クールジャパンを立体的に考える
パブリックディプロマシー、ソフトパワー、
国家ブランディング、経済?文化外交との相互関係
マカイラ株式会社 藤井宏一郎
kofujii@makairaworld.com
2016.1.12 九州大学講義
まずは自己绍介から
自己紹介
3
藤井宏一郎
小中学校はアメリカ
↓
日本の大学で法律を学ぶ
↓
1999年 科学技術庁(文科省)?文化庁で国際科学技術?文化?知財政策
↓
アメリカの大学院で経営学(MBA:マーケティング?非営利組織経営専攻)
↓
2008年 外資系PR会社でIT企業や国際機関などの政府渉外やPR
↓
2010年 グーグルで執行役員?公共政策部長(政府渉外やCSRなど)
↓
2014年 非市場戦略コンサルティング会社「マカイラ」をつくる。
会社紹介
マカイラは、
? テクノロジー?文化?社会イノベーションの分野での
? 公共政策的課題に特化した
? PRやロビイング、ブランディングなどを行う
? コンサルティング会社
です。
こんなことの普及啓発をやっています
● 新しい技術やビジネスモデルのための規制改革
● 社会変革や地方創生のためのIT利活用
● 創造的な文化産業のための制度改革
● ソーシャルファイナンスやフィランソロピーの普及
● パブリックディプロマシーや民間外交の推進
さて、本论です
これらの概念の関係は?
●パブリックディプロマシー
●ソフトパワー
●国家ブランディング
●文化外交
●経済外交
本講の目的
これらの概念の整理をして、クールジャパン政策
を多角的に考えてみること
クールジャパン政策
文化外交ソフトパワー
パブリック
ディプロマシー
国家ブランディング
経済外交
まずは定義から
”パブリックディプロマシー”
「広報や文化交流を通じて、民間とも連携しながら、外国の国
民や世論に直接働きかける外交活動」(外務省HPより)
”ソフトパワー”
「強制や報酬でなく、魅力によって望む結果を得る能力」(ジ
ョセフ?ナイ著「ソフトパワー」より)
”国家ブランディング”
「企業ブランディングの技術を国に応用すること」
(外交問題評議会)
パブリックディプロマシー
「広報や文化交流を通じて、民間とも連携しながら、外国の国
民や世論に直接働きかける外交活動」
● 冷戦時代の東西陣営のプロパガンダ戦争が由来。冷戦後にい
ったん関心が下がるが、911後、イスラムとの国際世論をめ
ぐる戦いの中、再注目される。
● 21世紀になり、特に①NGOなどの外交アクターの多様化、
②ネットなどによる国家情報独占の終焉、③民主国家の増加、
④戦争時代の終焉、でさらに重要性が増す。
● ①政府広報 ②国際放送 ③人的?文化交流 などが手段
● 政治的な外交目的を達成する手段としての側面が強調される
ことが多い。
背景
特徴
ソフトパワー
「強制や報酬でなく、魅力によって望む結果を得る能力」
● 2000年代前半のイラク戦争や「テロとの戦い」がハードパワ
ー(武力)に頼ったため、かえって米国への国際的な反発や
テロの増加を招いた反省から生まれた概念。
● 強制力だけでなく、文化や価値感などで相手を魅了して、相
手が自主的に望む行動を取ることを狙う。
● ①文化 ②政治的な価値観 ③外交政策 が源泉(J.ナイ)
● 対概念はハードパワー(軍事力?経済力など)
● 歴史的な背景からは、政治的な外交目的を達成する能力とし
ての側面が強調されることが多いが、最近は経済力のものさ
しとして使われることもある。
背景
特徴
パブリックディプロマシーとソフトパワー
パブリックディプロマシー ソフトパワー
「ソフトパワーを活用して国際世論に影響を与える行為がパブリックデ
ィプロマシー」というように、両者はほぼ重なるが、多少力点が違う
「対市民」を強調 「魅力で誘導」を強調
魅力だけでなく
宣伝工作的なも
のも入りうる
市民だけでなく政府
に対しても発揮
主に政治的
文脈
従来は政治的
文脈
最近は経済も
(冷戦より) (21世纪)
国家ブランディングとは
「企業ブランディングの技術を国に応用すること」(CFR)
「国家の評価を計測、形成および管理すること」(Wiki)
● グローバル時代に輸出?観光?直接投資などの獲得のために「国の評
判」が重要として、英国のサイモン?アンホルト氏が90年代末に提唱。
● 企業のブランド理論の発展、原産国効果やディスティネーションブラン
ディングの研究が下地とされる。
● 西欧以外に、冷戦後復興下の東欧諸国や、経済発展してもイメージの洗
練に欠けたアジア諸国で関心が高まった(シンガポールや日本など)
● 国際紛争下に米国で生まれたパブリックディプロマシーと違い、平和な
グローバル社会での国家間の評判競争を念頭に欧州(英国)で発展。
● 国際社会での発言力など、政治分野も
● ブランド指標による計測マネージメントを行う。
背景
特徴
外交政策の分類(一つの考え方)
国の(広義の)外交は、以下のように分類できる。クールジャパン政策の位
置は? 国家マター
(国家専権事項)
民間マター
(民間領域事項)
リアル
(実態的活動)
ルール
(制度や取決め)
(例)戦争
インテリジェンス
警察協力
など
(例)企業現地活動支援
マーケティング
支援
留学支援 など
(例)通商条約
文化財保護条約
環境規制
など
(例)安全保障条約
国交?領土
など パブリックディ
プロマシー
ソフトパワー
国家
ブランディング
主要な国家ブランド指数(最近の数字)
アンホルトGfKローパー国家ブラン
ド指数 (文化、国民性、観光、輸出、
統治、移住?投資)2014年
フューチャーブランド国別ブランド
指数 (旅行者対象アンケート)
2014-15年
モノクル?ソフトパワー調査(政府、
外交基盤、文化出力、教育力、ビジ
ネス訴求力)2012年
ポートランド?ソフトパワー30
(国際協力?文化?政府?教育?デ
ジタル?起業)2015年
1位 2位 3位 4位 5位 6位 7位 8位 9位 10位
上位を占める国々はほとんど変わらない。「ソフトパワー調査」と呼ぶものも。
そもそもブランディングとは(実態と印象)
ブランディングとは、
ポイント1 「実態」と「イメージ」の両方が必要。(実態の伴わない
イメージ操作はほとんどの場合、失敗する。)以下は標準のブランド理論を少し簡略化してい
ます
ある商品や会社に対して特別の共感や信頼感を起こさせるために、
一貫性のある価値や印象を構築すること。
その統一された価値や印象が「ブランド」。
ブランド目的 ブランド実態 ブランドイメージ
どういう真の価値
を顧客に提供する
かの組織内の合意
目的に見合った実
態。製品やサービ
スの品質など。
目的と実態に沿った
イメージ(ロゴな
ど)の作りこみ。
国家ブランディングの問題(実態と印象)
● 世界中の広告代理店やPR会社が、「国家ブランディング」=「ロゴや
広告宣伝で、国のイメージを改善」として売りこんだ。
● 難しい政策に手を付けずにイメージを改善出来る手法として、各国政
府が飛びついた。
● 多くの無駄な金と時間が広告代理店やCM制作会社、ロゴデザイナーや
コピーライターに流れた。(どこかの国の地方創生プロジェクトでも時々あるような…)
怒るサイモン?アンホルト氏
https://www.youtube.com/watch?v=baxr9Ie0zqg&feature=youtu.be&t=15m05s
● 私の意図が曲解されている。
● 国の「ブランド管理」が必要と言った
が、「ブランディング」で改善できる
とは言っていない。
● 「国家ブランド」などという言葉を作
らなければよかった。
アンチテーゼでアンホルト氏は”Good Country Index”を立ち上げる。
● 人類の共通善や国際社会(自国でなく)への貢献度や毀損度を、
①科学技術 ②文化 ③世界平和と安全保障 ④世界秩序 ⑤地球環境
⑥繁栄と平等 ⑦健康と福祉 の7つの指標で計測。
1位 2位 3位 4位 5位 6位 7位 8位 9位 10位
● 1位アイルランド、
2位フィンランド、
と「ブランド指標」とは大之悿胜虢Y果。日本はなんと25位。
ちなみに、別の観点から、評判より実態面を計測した指標が、世界経済フ
ォーラム国際競争力調査。シンガポール、香港など、アジアの新興国がラ
ンクに入ってくる。
結局、各種ランキングは政策目標のベンチマークとして有効と思われる。
国家ブランディングの問題(実態と印象)
そもそもブランディングとは(包含性と統一性)
ポイント2 ブランドは「全体のブランドが個の評価を上げる」。
(例:ホンダのオートバイは信頼できる。原産地効果。)
しかし、「全体」の範囲をどこまでとするか、それに何の「ブランド目
的」を担わせるかは、個別の判断が必要。(例:レクサスはトヨタブラン
ドから、キャデラックはGMブランドから、オンワードは下位ブランドから
切り離されている)
● 「日本」という統一ブランド戦略にどこまで何を担わせるのか?
観光?輸出?投資呼込だけでなく、安全保障や国連での発言力まで?
● 「クールジャパン」というブランドにどこまで何を担わせるのか?
国家ブランディングの問題(包含性と統一性)
● 何でもかんでもの機能を担う「アンブレラ?ブランド」を作ろうとす
ると、どんどん焦点がぼけていく。
どの国も「伝統文化と革新の交差する多様性に満ち
溢れたエキサイティングな国」みたいなブランド戦略に。
● 企業と異なり国の場合、「統一的なブランド目的」の設定が「我が国
が目指すべき統一的国家イメージ」となり、そこにあらゆる人が自分
の国家観?民族観を投影したがる。
混乱して合意できない。無理にやると思想統制ぽくなる。
やはり、ある程度割り切って、「輸出品」「観光」など
領域と目的をしぼるべきでは?
「21世紀型クール」とは多様な日本文化を、面白さ、
楽しさ、美しさ、健康など身近な生活の中の幸福追
求に密接に関わりながら、同時に自然や環境と調和
しつつ、持続的に物心両面における豊かな生活を創
り上げていくものであるという、世界がこれから発
展させるべき一つの社会的なモデルとして提示して
いくこと。(2005年「文化外交の推進に関する懇談会」)
↑ 盛り込みすぎると焦点がぼやけ、ブランド管理がしにくい。
国家ブランディングの問題(包含性と統一性)
クールジャパン政策の位置づけ
この図におけるクールジャパン政策の位置は?
国家マター
(国家専権事項)
民間マター
(民間領域事項)
リアル
(実態的活動)
ルール
(制度や取決め)
(例)戦争
インテリジェンス
警察協力
など
(例)経済活動支援
文化活動支援
など
(例)通商条約
文化財保護条約
環境規制
など
(例)安全保障条約
国交?領土
など パブリックディ
プロマシー
ソフトパワー
国家
ブランディング
クールジャパン政策の位置づけ
本来意図していた、このあたりに絞るべきでは。
国家マター
(国家専権事項)
民間マター
(民間領域事項)
リアル
(実態的活動)
ルール
(制度や取決め)
(例)戦争
インテリジェンス
警察協力
など
(例)経済活動支援
文化活動支援
など
(例)通商条約
文化財保護条約
環境規制
など
(例)安全保障条約
国交?領土
など パブリックディ
プロマシー
ソフトパワー
国家
ブランディングクールジ
ャパン政
策
文化外交?経済外交 その他
文化?経済外交は、ほぼクールジャパン政策と同じ位置づけの活動か?
国家マター
(国家専権事項)
民間マター
(民間領域事項)
リアル
(実態的活動)
ルール
(制度や取決め)
(例)戦争
インテリジェンス
警察協力
など
(例)経済活動支援
文化活動支援
など
(例)通商条約
文化財保護条約
環境規制
など
(例)安全保障条約
国交?領土
など パブリックディ
プロマシー
ソフトパワー
国家
ブランディング
文化外交?
経済外交?
クールジ
ャパン政
策
文化外交
”文化外交”
「文化交流活動は、①一方で国のイメージに大きな影響を与え、②他方で
地球規模の困難な問題の解決や、世界の究極の平和や繁栄にもつながると
いう意味で、極めて重要な外交的側面を有する。」(「文化外交の推進に
関する懇談会」報告書)
人類の共通価値感や真理を志向する活動。国の利害関係を超えたものさし
を持つであるため、直近の対立を超えて参加が可能。
類似の特徴を持つ外交政策として、
「科学外交」や「スポーツ外交」なども。
(UNESCOや文科省に近い領域)
経済外交
”経済外交”
「国益を確保するために、貿易?直接投資の促進、経済連携の推進、ODAの供与、
経済安全保障?知的財産権保護の強化などの経済的手段を用いて行われる国家間の
交渉。」(デジタル大辞泉)
2010年の時点では、
クールジャパン政策
が文化外交という
より経済外交である
ことは比較的明確
我が国のファッション、コンテンツ、デザイン、食、伝
統?文化?観光、音楽などの「クール?ジャパン」は、そ
の潜在力が成長に結びついておらず、今後はこれらのソフ
トパワーを活用し、その魅力と一体となった製品?サービ
スを世界に提供することが鍵となっている。(中略)これ
らの施策を通じ、戦略分野における日本の国際競争力を強
化するとともに、アジアにおけるコンテンツ収入1兆円を
実現する。(2010年新成長戦略)
経済外交
2014年になるとクールジャパン政策が単なる経済政策を超える。
議論で見えてきたのは、クールジャパンに期待されることは単に日本文化の紹
介や発信を通じた経済効果を期待するものではないということである。日本は
少子高齢化、環境?エネルギー問題、財政再建など多くの国々がこれから直面
するであろう困難な課題を既にか替え、その解決に取り組んでいる「課題先進
国」である。日本は古来より、狭い国土、乏しい資源といった厳しい環境の中
で、外国の文物を柔軟に受け入れ、我が国独自の文化として発展させてきた伝
統を持つ、イノベーションの国である。今こそ、日本らしい創意工夫で率先し
て困難な課題を解決していき、世界の先頭に立つ。そして世界の国々が同様の
課題に直面した時、日本のやり方を参考にできるようになれば、日本という国
のブランド価値をより一層高めていくことにつながる。つまり、「世界の課題
をクリエイティブに解決する日本」こそ、新たなクールジャパンのミッション
であるとここに宣言したい。(2014年「クールジャパンのミッション宣言」)
その他周辺の外交概念
”価値観外交”
● 普遍的価値を共有できる国家との関係を強化し、それを広める外交。外務省は
「普遍的価値(自由、民主主義、基本的人権、法の支配、市場経済)に基づ
く」外交とする。
● 米国GWブッシュ政権下の新保守主義 → 日本では第一次安倍政権の「自由
と繁栄の弧」
”開発協力(援助外交)”
● 先進国による途上国支援。援助を外交手段として使い、国益のために利用する
場合を特に援助外交ということもある。
● 開発協力は、人道的な観点から行われる側面もあるが、自国への親近感?支持
の醸成や自国陣営への組み込み、自国企業の市場開発の側面を持つこともある。
外交政策の分類(別の軸で考える)
こういう見方もできる。クールジャパン政策の位置は?
人類普遍
自国有利
二国間世界秩序
文化?科学?
スポーツ外交
価値観外交
経済外交
開発協力
(例)
UNESCO?文化財保護条約
オリンピック
国際宇宙ステーション など
(例)
文化交流
スポーツ交流
二国間援助 など
(例)
WTO他の通商条約
「自由と繁栄の弧」
冷戦中の
東西プロパガンダ
など
(例)
二国間FTA?EPA
輸出支援
観光振興
直接投資促進
など
本来意図していた、このあたりに絞るべきでは。(最近かなり拡大気味)。
クールジャパン政策の位置づけ
人類普遍
自国有利
二国間世界秩序
文化?科学?
スポーツ外交
価値観外交
経済外交
クール
ジャパン
政策
(例)
UNESCO?文化財保護条約
オリンピック
国際宇宙ステーション など
(例)
文化交流
スポーツ交流
二国間援助 など
(例)
WTO他の通商条約
「自由と繁栄の弧」
冷戦中の
東西プロパガンダ
など
(例)
二国間FTA?EPA
輸出支援
観光振興
直接投資促進
など
開発協力
A 海外と活発に交流できるコミュニケーション能力を獲得する
B クリエイティブに対する障壁を取り除き、挑戦への機運を高める
C 縦割りや前例に縛られず、自由な挑戦や協働を応援する
D 世界でのより良い日本のパブリック?イメージを形成する
E 国際社会における日本の情報やコンテンツの流動性を上げる
F 日本の本質的な魅力を発見するために海外の視点を取り入れる
G 日本の課題と世界の課題を自分ゴト化する
H 環境問題や少子高齢化など日本が世界に貢献できる産業の推進
I サステイナビリティや調和を大切にする日本古来の哲学を発信
共有する (クールジャパン提言2014年)
今のクールジャパンは詰め込まれすぎている?
何でもかんでも入って→
いて、前年の「日本再興
戦略」↓ をそのまま入
れ込んだように見える。
「日本はこうなりたい」
の総花的ウィッシュリス
トになっていないか?
クールジャパン政策の課題(総括)
政治的目的のパブリックディプロマシーや価値観外交やもの、
国内のイノベーション政策までも担わされるようになった
結局「クールジャパン」のコンセプトに収まりきらず、「クー
ルジャパンに代わる新しいコミュニケーションワード」
(2014年クールジャパン提言)が必要になる。
ブランドコンセプトとしては総花的すぎて維持が困難(と思わ
れる)。今後は、目的別?分野別にブランドキャンペーンを設
計すべきではないか?
輸出や観光など経済目的中心のソフトパワー?国家ブランディング政策とし
て始まった。
Thank you
Questions?
本日のディスカッション課題
佐藤可士和さんの提言
「日本ブランド戦略2020」
http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/future/wg1/0730/shiryou_03_1.pdf
を論じてください。
本日のディスカッション課題
<考えるヒント>
国家ブランディングの
①「実態と印象」の視点から
②「包含性と統一性」の視点から
この戦略をどう思いますか?

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