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小学校教師の資質能力に対する認識比較
ー採用段階の大学と教育委員会に着目してー
松 宮 慎 治
(神戸学院大学/広島大学大学院)
2016.09.17.
日本教師教育学会第26回研究大会
於:帝京大学八王子キャンパス
shinnji28@j.kobegakuin.ac.jp
問題関心
?教師としての専門的資質能力(「教師
力」)と,大卒の学位にふさわしい汎用的
な資質能力(「学士力」)の関連性は,どの
ように認識されているだろうか
?教師教育領域では前者が,高等教育領
域では後者が個別に焦点化されるが,大
学における教員養成においては,両者の
関連(e.g.,整合的か,独立的か)も同時に
問題ではないか
2
先行研究
?教職履修学生を対象に「社会人としての資質
能力」の向上要因を検討した作田(2007)や,学
士課程における「教師力」と「教養」の関連の重
要性を指摘する小池(2011)など
?森田(2014)では,「狭義の教職教育」と「広義
の教職教育」の融合への回帰が提案される
→どのように融合?統合すればよいか?
∴前提として,現状の把握と実証分析の蓄積が
同時に必要
3
目的
?教師力と学士力の関連性を探索的に分
析し,現状を素描する
?その際,生涯を通じた養成という観点か
ら,大学と教育委員会という2つのアクター
に着目し,両者の認識異同を確認する
?教員養成に孕む問題は小学校の教員養
成教育に潜在する(別惣 2013)ため,小学
校教師に限定して検討する
4
方法-量的調査-
?対象は,都道府県?政令市教育委員会
67と,小学校教諭一種免許状を取得でき
る通学課程のうち,一部を除く240の課程
?先行研究から「教師力」と「学士力」を定
義し,採用段階を結節点として設定
?回収率は,教育委員会55.2%,大学
52.5%で,大学の設置者別内訳の偏りは
ほとんどなく,サンプルの代表性は高い
5
基礎集計
?記述統計量から各項目の標準偏差を比
較すると,大学よりも教育委員会の方が
高い値を示したのは,計72項目のうちわ
ずか5項目であり,大学よりも教育委員会
の分散が小さく,選択が収斂していた
?大学?教育委員会の2群の平均値の差の
検定を行った結果,有意差が検出される
項目は計72項目のうち12項目と相対的に
少なく,差はあまり見いだせなかった
6
教師力と学士力の相関(1)
?平均値の差の検定結果を受けて,両アク
ターの認識の異同は捨象できるレベルで
小さいと結論づけた
?この前提のもと,再度教師力と学士力の
関連性を検討するため,2群のデータを結
合し,教師力と学士力をそれぞれ探索的
な因子分析によって縮約した上で,抽出さ
れた因子の尺度得点間の相関分析を行う
こととした
7
教師力と学士力の相関(2)
?固有値の減衰状況等から総合的に判断した
上で,6因子解を採用し,最尤法とプロマックス
回転による因子分析を行った
?教師力から抽出された因子は,[学習計画]
[教育者観念][学級経営指導][保護者連携]
[授業評価測定][子ども理解]【表1】
?学士力から抽出された因子は,[積極性発現]
[専門分野理解][対外的関心][論理的思考
判断][プレゼンテーション][多面的思考]【表
2】
8
教師力と学士力の相関(3)
9
積極性
発現
専門分野
理解
対外的
関心
論理的
思考判断
プレゼン
テーション
多面的
思考
学習計画 .574**
.663**
.487**
.480**
.606**
.566**
教育者観念 .794**
.516**
.518**
.625**
.587**
.515**
学級経営指導 .683**
.620**
.545**
.534**
.541**
.619**
保護者連携 .601**
.529**
.511**
.495**
.471**
.481**
授業評価測定 .530**
.578**
.573**
.435**
.487**
.651**
子ども理解 .617**
.407**
.415**
.503**
.417**
.459**
**P < .01
教
師
力
学士力
?全ての尺度得点間で中程度以上の相関が見られた
?中でも,教師力の5因子と学士力の積極性発現因子には高
い相関がみられた
主要な結論
?教師力と学士力への認識には,大学と教育
委員会で有意な差がなく,整合的である
?ただし,平均値は教育委員会の方が高い傾
向にあり,大学と比べて高い値に収斂してい
る → 教育委員会の期待の発露か?
?教師力と学士力の相関は非常に高く,中でも
学士力の積極性と教師力の相関が高いこと
から,積極的な態度の育成が教育委員会の
期待する教師力と親和性があると考えられる
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含意と課題
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?大学と教育委員会の認識では,「学士力」と「教師
力」は高く相関している。すなわち,高等教育領域
で強調される「学士力」は,(いわば従来どおり)
「教師力」を鍛えていれば自然と身に着くのである
から,隆盛する「学士力」必要論にあまり拘泥する
必要はないという解釈が可能である
?ただし,使用したデータは利害関係者の認識調
査に過ぎないという限界があり,回答において自
己正当化圧力が働いている可能性もある。このバ
イアスを克服するため,労働市場における教師以
外への就職者の評価等,客観的なマクロ統計を分
析に導入する必要がある
引用文献
?小池俊夫(2011)「教養という「教師力」と教員養成」
『學苑』847,pp.1-10.
?作田良三(2007)「教職履修学生の「社会人としての
資質能力」『大学教育学会誌』29(1),pp.146-154.
?別惣淳二(2013)「なぜ小学校教師が問題なのか」
『小学校教師に何が必要か―コンピテンシーをデータ
から考える』(東京大学出版会),pp.10-23.
?森田真樹(2014)「私立大学から見た教員養成改革
議論と教職課程の質向上及び高度化の方策」『日本
教師教育学会年報』23,pp.10-19.
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*この報告は,大学行政管理学会2015年度若手
研究奨励金による研究成果の一部です。

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