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2オセロプレゼンテーション
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Baku Momoki
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京都アカデメイア?イベント「人类は人工知能にいかに立ち向かうのか~将棋とオセロから考える」
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2オセロプレゼンテーション
1.
オセロ界はソフトといかに 向き合ってきたか 人類は人工知能にいかに立ち向かうのか② 中森弘樹(日本オセロ連盟六段)
2.
オセロの基礎知識 ? ありがちな誤解 :オセロの勝敗は運で決まる? ?
オセロは将棋や囲碁やチェスなどと同じ二人零和有限確定 完全情報ゲームであり、偶然(運)には左右されない。 ? オセロの歴史 ○ 故?長谷川五郎氏が考案 ? 1973年に商品化され、空前の大ヒット ○ 1973年 第1回全日本オセロ選手権開催(~現在まで) ○ 1977年 世界オセロ選手権大会開催(~現在まで) ○ 2006年 従来の全日本選手権と名人戦に加えて、王座戦の創始 ?以後は三大タイトル制となり、各優勝者が世界選手権の代表に ○ 過去から現在にいたるオセロが最も強い国は日本(競技人口の桁が違う) 2016/11/27 人類は人工知能にいかに立ち向かうのか 2
3.
オセロの基礎知識 ? オセロのルール ○ 8×8の盤で、初期配置(右図)から 黒→白→黒…の順番で、相手の石を 挟めるマスに交互に着手する。 ○
打てる箇所がない場合は、パス。 ○ 盤が全て埋まるか、黒も白も打てる箇所がなくなると、試合終了。最終的に 石が多い方が勝ち。? 必ず60手以内で終局する。 ○ 競技オセロの大会形式:参加者が一日に6~7試合を戦い、優勝を競う。 ? オセロの戦略 ○ 自分の打てる箇所が多い(≒自分の色の石が少ない)ほど有利 ? オセロにプロはない(過去から現在に至るまで) 2016/11/27 人類は人工知能にいかに立ち向かうのか 3
4.
私はオセロがそれなりに強かった ? 主な戦績 ○ ネットでオセロを始めたのは2002年頃、初めて大会に出たのが2004 年 ○
2009年度王座戦準優勝(あと1回勝てば世界戦に行けたのに…) ○ 公式レーティング(日本ランキングのようなもの)最高4位 ○ 2007,2010,2011年度オセロ近畿?北陸名人 ○ 全日本選手権最高4位(2006年)、名人戦最高3位(2013年) ○ 最近も関西選手権優勝(2015年)、レート最高10位(2016年)など ? しかし現在は69位… ? そんな私がedax(現在最強と言われているオセロプログラ ム)と対局すると… 2016/11/27 人類は人工知能にいかに立ち向かうのか 4
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人類がソフトに敗北を認めた日 ? 1997年、当時の世界チャンピオン村上健七段(当時)が Logistelloと6番勝負を行い、全敗する。 ? 「私が生きている間、努力を続けても追い付かないほど『ロ ジステロ』は強いと思った。人間には手が届かないところに いってしまっている」(「朝日新聞夕刊」) ?
この対局は、村上健七段が色々な意味で準備を怠って臨んだ ことがオセロ界で物議を醸した。 ○ 現在の将棋の電王戦のように、人間とソフトの対戦自体をコンテンツ 化したり、延命させたりすることはできなかったのか?という指摘も 2016/11/27 人類は人工知能にいかに立ち向かうのか 5
6.
オセロのソフトとは ? 代表的なソフト ○ Logistello:初期の最強ソフト。1997年に村上九段に圧勝した。 ○
Wzebra:90年代から00年代頃まで広く普及し、研究に使われた。 ○ Edax:現在最強と謳われるソフト。現在、多くの人間のトッププレイ ヤーも研究に使用している。 ? なぜオセロでは早い時期に人間がソフトに敗北したのか ○ オセロにはプロ制度がなかったので、人間のレベルが低かった ○ 盤面が8×8と狭く、手数も決まっているため、ソフトが解析しやす かった(それに対して囲碁や将棋は分岐が多い)。 ○ 特に、終盤(ソフトや設定にもよるが、ラスト20手~30手ぐらいま で)は全ての手を読み切ることができるため、絶対に間違わない。 2016/11/27 人類は人工知能にいかに立ち向かうのか 6
7.
2000年代前半のオセロ界 ? インターネットによるオンラインオセロ対戦の普及 ○ 「暗記オセラー」の出現:大会ではなくインターネットでオセロを始 め、ソフトで序盤を研究して強くなるプレイヤー ○
「ソフト打ち」の出現:インターネット対戦でソフトに代打ちさせる こと。当然のことながら、ズルとしてプレイヤーからは嫌われる。 ○ インターネットで高段者を含む人間を圧倒するソフト打ち ○ ネットでオセロを始めたプレイヤーがリアルの大会にデビューする。 ? その頃のオセロ高段者たち ○ 大会育ちの高段者たちは、ソフトを十分に活かそうとはしなかった。 ? 大会育ちのベテラン高段者 vs 若手の暗記オセラーの構図 2016/11/27 人類は人工知能にいかに立ち向かうのか 7
8.
ソフトによるオセロ戦術の変化① ? 「変化」という概念の変容 ○ 従来、「変化」とは人間によって確立された定石から意図的に外れた 新手を打つことを意味していた。 ○
ソフトが最強になって以降、対人戦における「変化」とは、ソフトが 解析?研究したBOOK(定石)が示す最善手とは異なる手(評価値的 には悪い手)を意図的に打つことを意味するようになった。 ○ 大会育ちのベテラン高段者たちは、意図的に(あるいはソフトによる 研究をしていないため非意図的に)最善進行とは異なる悪手を打つこ とで、ソフトのBOOK通りに打ってくる暗記オセラーの研究を外し、 自力勝負に持ち込むことで、暗記オセラーたちに勝利していった。 ○ 2000年代前半に出現した暗記オセラーたちは、まだ相手の変化や終盤戦に 弱く、ベテラン高段者たちの牙城を切り崩せなかった。 2016/11/27 人類は人工知能にいかに立ち向かうのか 8
9.
BenSeeley vs 為則九段 ?
Ben Seeley選手の出現 ○ ソフトの研究による序盤の知識と、変化された後の対応力や終盤力と いった自力の両方を兼ね備えたアメリカ人プレイヤー ○ Seelyに日本の高段者は苦戦(Seelyは2003?04年と世界戦を連覇) ? 為則九段がソフトを活かす ○ 為則英司:現在でも歴代最強と言われているオセロプレイヤー。 ○ 為則九段は、1990年代の時点で世界戦を五度制するなど、すでにレ ジェンドプレイヤーだったが、久々にオセロに復帰して出場した2004 年の世界戦で、Seelyの強さに衝撃を受ける。 ○ 後に為則九段は、Seelyと同じくソフトによる研究を取り入れ、 2005?06年の世界戦を連覇する。Seelyへのリベンジに成功。 2016/11/27 人類は人工知能にいかに立ち向かうのか 9
10.
為則九段の与えた影響 ? 為則九段のソフトによる研究を活かした打ち回し 為則 vs
Kashiwabara(世界戦2005準決) 柏原はこの進行を終局まで調べて把握して いたが、為則も終局まで最善進行でついて いった(為則もソフトでかなり研究して いたと思われる)。結果は引き分け。 ○ 最強のベテラン高段者が、ソフトを用いた序盤研究を駆使して世界戦 を連覇したことは、他の日本人プレイヤーたちにも、ソフトを使用し た研究の重要性を知らしめることになった。 2016/11/27 人類は人工知能にいかに立ち向かうのか 10
11.
ソフトによるオセロ戦術の変化② ? <真理>の所在の移動 ○ ソフトが強くなる以前は、人間の高段者の思考が最善手の根拠であり、 彼らの研究した定石や実践譜が他のプレイヤーの教科書だった ○
しかし、ソフトが人間を上回ってからは、コンピューターの思考こそ が絶対的な最善手の根拠になった。 ○ この傾向は、最強の高段者である為則九段がソフトから多くの手を教 わって世界戦を勝利して以降、より顕著になった。 ? その影響 ○ 人間の強豪同士が対戦した棋譜の価値の低下 ○ 最善手は、探索すべき未知のものから、誰でもアクセス可能な既知の ものへ。ソフトを使えば誰でも棋譜の「答え合わせ」が可能になった 2016/11/27 人類は人工知能にいかに立ち向かうのか 11
12.
2000年代後半~現在のオセロ界 ? 高梨九段の出現 ○ 過去10年で世界戦を4回制覇している、近年最強の天才プレイヤー。 ○
おそらく日本初の、コンピューターの研究による緻密な序盤知識と、 あらゆる変化に対応する自力(中盤力+終盤力)を持ったオンライン オセロ出身のプレイヤー。 ○ 高梨九段の出現以降、インターネット出身のプレイヤー全体のレベル が飛躍的に向上し、同様の傾向を持ったプレイヤーが次々と生まれる。 ○ 高梨九段を旗手とした新世代のオンラインオセロ出身のプレイヤーた ちは、旧世代のオンラインオセロ出身のプレイヤー(暗記オセラー) たちが為しえなかった、ソフトをあまり使用しないベテラン高段者た ちの打倒を果たしてゆくことになる。 ○ 背景には、携帯電話端末のオセロソフト(アプリ)の普及があった。 2016/11/27 人類は人工知能にいかに立ち向かうのか 12
13.
まるでコンピューターのような ? 2010年の名人戦決勝、高梨七段 vs
明石二段(段位は当時) ○ 高梨七段は、ソフトによる解析でも全くミスのない、最初から最後ま でオール最善手の打ち回しを決勝戦で披露して勝利。 ○ まるでコンピューターのような高梨九段のオセロ 2016/11/27 人類は人工知能にいかに立ち向かうのか 13
14.
ソフトによるオセロ戦術の変化③ ? 最善手と変化 ○ ソフトによってどんどん最善手の研究が進めば、プレイヤーたちは最 善手しか打たなくなる?? ?
おそらく、500通りほど60手(初手~最終手)の最善進行のパターンを記憶で きていたら、あらゆる最善進行には対応可能である。 ? それはトッププレイヤーにとっては不可能ではないが、その場合、結果は引き 分けばかりになる(オセロは双方最善で引き分けと言われている) ○ そこで、特に2000年代半ば以降に進んだのが、対人戦における変化の 研究である。 ? 以前の変化は、最善手とされる展開をとりあえず外すだけだった。 ? 2000年代半ばからは、事前に最善進行ではない-2や-4の変化をソフトで深く 研究しておいて、実戦で武器として使用する選手が増えた。 2016/11/27 人類は人工知能にいかに立ち向かうのか 14
15.
ソフトによるオセロ戦術の変化③ ? 「変化の研究」という戦略の有効性 ○ なぜ、あえて最善進行ではない展開をソフトで研究するのか ?
ソフトによる研究がトッププレイヤーの間に浸透すると、有名なソフトの最善 進行は彼らにとっては知っていて当然になってくる。 ? そこで、有名な最善進行をわざと外し、少しだけ自分が不利になる代わりに、 相手の知らない展開に誘導する。 ? すると、僅かに不利ではあるが、一時的に「自分だけがソフトで研究していた 展開」になるので、相手にソフトと打つような状況を強いることができる。 ? 変化の有限性(≒「オセロの有限性」?)という問題 ○ 「ベテラン高段者vs暗記オセラー」から、「最善派vs変化派」の構図 に変化。 ○ しかし、有効な変化のバリエーションには限界がある。 2016/11/27 人類は人工知能にいかに立ち向かうのか 15
16.
ソフトによるオセロ戦術の変化③ ? 変化の有限性(≒「オセロの有限性」?)という問題 ○ 変化の「有効期限」の短さ ?
良い変化が見つかっても、一度ソフトによって解析?対策されれば、最善手によっ て対応されてしまう。変化を発見?ソフトで対策のいたちごっこ。 ? その結果、自らの棋譜の公開を拒むトッププレイヤーが増加した。 ○ 三大タイトル戦後に作成されていた「棋譜集」の成立が困難に。 ○ 全ての最善進行が記憶され、かつ良い変化が枯渇してしまったとき、それで もオセロの競技性は保たれるのだろうか? ? 携帯端末へのオセロアプリの普及 ○ 大会中にも誰でも棋譜の解析が可能に ? 変化が一日ももたないことも(準決勝の変化が決勝で対策されているとか) ○ 大会での、ソフトを使った不正の恐れ(中座問題など) 2016/11/27 人類は人工知能にいかに立ち向かうのか 16
17.
オセロとコンピューター ? コンピューターの圧倒的な力 ○ 圧倒的な計算量と絶対に忘れることのない記憶力 ○
コンピューターによる完全解析も時間の問題? ○ オセロでは、コンピューターこそが「神」 ? オセロは、すでに<真理>が存在するゲーム ○ オセロでは、カント的な構図がもはや成立しない。 ○ そのとき、ボードゲームはボードゲームのままでいられるだろうか? 2016/11/27 人類は人工知能にいかに立ち向かうのか 17 理性による無限の志向 真理 (物自体) ソフトによる解析 真理
18.
オセロとコンピューター ? コンピューターによる人間のレベルの向上 ○ たしかにソフトは、従来のオセロの「面白さ」をかなり失わせた。 ?
高段者の権威、棋譜の価値、無限性、最善手の追求、ネット対局の面白さ ○ しかし、ソフトは同時に、人類のオセロレベルを飛躍的に向上させた。 ? まるでコンピューターのようなプレイヤーの出現 ? ソフトに敗北して20年を経た今、人類とソフトの表面上の差はむしろ縮まった ○ 最善手と変化をめぐる人間同士の駆け引きの出現 ? 暫定的な結論 ○ ソフトの出現による、ゲームが行われる位相の変化 ? 真理(最善手)をめぐる戦いから、真理(最善手)を資源として用いる戦いへ ○ 人工知能の台頭は、単に人類の行いを減らすだけではない。 ? 環境の変化に応じて、新たにイシューを作り出してしまう(良くも悪くも)が資本 主義的な、あるいは近代的な人間のあり方である。 2016/11/27 人類は人工知能にいかに立ち向かうのか 18
19.
他のボードゲームについて ? 他のボードゲームとの比較 ○ オセロでの出来事(とそこから得た知見)は、他のボードゲームにも 適用可能か。
?どこまで一般化して考えることができるか ? オセロで起きる問題は、囲碁や将棋でも後で起きる(by オセロの谷田七段) ○ おそらく、特にこれまでの経緯が似ているのは、チェス ○ しかし、囲碁や将棋は、同じ二人零和有限確定完全情報ゲームであり ながら、ゲームの中身も置かれている環境もオセロとはかなり異なる。 ? プロ制度の有無 ○ それにともなう、人間のレベルの高さ ? ゲームの<深さ> ○ 選択肢が多いゲームは、コンピューターが人間を追い抜くのに時間がかかる。 ○ しかし、ひとたびコンピューターが人間を追い抜くと、今度はその<深さ>ゆえに、 人間がコンピューターと勝敗を争うことが困難になる恐れがある。 2016/11/27 人類は人工知能にいかに立ち向かうのか 19
20.
ご清聴ありがとうございました。 2016/11/27 人類は人工知能にいかに立ち向かうのか 20
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