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両耳间位相差の知覚への注意の影响
狩野章太郎 山岨達也
東京大学医学部附属病院耳鼻咽喉科
聴覚路
ヘッドホンで左耳に 240Hz の純音を、右耳に 244Hz の純音をきくと、 4Hz の
Binaural Beat がきこえる
Synchronization with
IPD in the inferior
colliculus (Cat)
Kuwada et al. 1979
Synchronization with
IPD in the auditory
cortex (Cat)
Reale et al. 1990
Coding of IPD in the
auditory cortex (Macaque)
Malone et al. 2002
Binaural Beat の神経学的基盤
Binaural Beat: BB は両耳間の情報が脳幹以降の聴覚路において統合され処理
されることを典型的に示している。
蝸牛神経におけ
る Phase locking
脳磁場の記録
?204 チャネル全頭型脳磁計 (Vectorview; Neuromag, Helsinki, Finland) を用いて脳磁
場を記録した。
?被験者は磁気シールドルーム内に座位をとり、ヘルメット型の Dewar に頭部が接
する姿勢とした。 3-D digitizer により頭部表面の形態情報を取得し、頭部に貼付し
たコイルに電流を流して磁場を測定することにより、頭部の空間座標を確定させた
。
?記録した磁場は 1.0-200 Hz のバンドパスフィルターを通し、 600 Hz でデジタル化
した。
?各々の BB 刺激に対して、 BB の約 1000-2000 周期分に相当する時間の脳磁場を記
録した。
BB 刺激、脳磁計へのトリガ、お
よび誘発波形(聴性定常反応)
左右の純音の位相差 (Interaural
Phase Difference: IPD) が 0 の値をと
る瞬間、すなわち BB 1周期に1回
トリガが脳磁計に送られた( AB )
。
聴性定常反応の周期性を可視化する
ために、 Binaural Beat の4周期分の
解析時間で 250-500 回の加算が行わ
れた (CD) 。
聴性定常反応の加算波形
?全被験者において振幅の大きい聴性定常反応が両側の側頭部チャネル群で見られた。
?Binaural Beat 刺激下においては主に側頭部のチャネルにおいて、 BB 4周期分の区間
内に4個のピークが明瞭に観察された。一方、 No-BB 刺激下(両耳に 240 Hz の純
音)ではそのようなピークは見られなかった。
聴性定常反応の周波数解析
?4 Hz の BB 刺激による聴性定常反応を周
波数解析すると、 4 Hz のピークが確認
された。
?6.66 Hz の BB 刺激や、両耳に 240 Hz の
場合にはこのような 4 Hz のピークは見
られなかった。
?4 Hz におけるピークは 4Hz-BB を特異
的に反映しているものと考えられた。
被験者の注意が聴性定常反応に及ぼす影響を調べるため
それぞれの刺激で下記の2条件の両方を行った。
?Attend 条件: Binaural Beat の各 Beat を意識させる
?Ignore 条件:無関係のムービーを見せて Binaural beat を無視
させる
対象
8 人の正常被験者(男性6名?女性3名)  36.1 ± 11.2 歳
ΔF 4.44 Hz 5.71 Hz 8 Hz No BB
One cycle of
BB
225 ms 175 ms 125 ms
Fl 240 Hz 240 Hz 240 Hz 240 Hz
Fr 244 Hz 246.66 Hz 248 Hz 240 Hz
パワーの解析
Ignore 条件よりも Attend 条件の方が有意に (p<0.05) でパ
ワーの大きいチャネルを*で示す
Theta 帯域
3.5-7Hz
Binaural Beat
の周波数帯域
4.44Hz/5.71Hz/8Hz
Alpha 帯域
7-15Hz
Beta 帯域
15-30Hz
Low gamma
30-65Hz
High gamma
65-100Hz
4.44 Hz BB
5.71 Hz BB
8 Hz BB
10
聴性誘発反応のパワーの解析のまとめ
Theta 帯域( 3.5-7Hz ):
知覚しやすい 4.44Hz-BB や 5.71Hz-BB では、 Ignore 条件より Attend 条
件の方がパワーが大きい。 Beat を知覚しにくくなる 8Hz-BB では差がな
い。
BB:
BB の周波数に一致したピークが出るチャネルが被験者間でずれるので、
有意差が出ない。
Alpha 帯域( 7-15Hz ):
側頭部?頭頂部?後頭部において、 Ignore 条件より Attend 条件の方がパ
ワーが著明に大きい。
Beta 帯域( 15-30Hz ):
Ignore 条件より Attend 条件の方がパワーが大きい。
Low gamma 帯域( 30-65Hz ):
知覚しやすい 4.44Hz-BB では、 Ignore 条件より Attend 条件の方がパワー
が大きい。
Theta
3.8Hz
Binaural Beat
4.44Hz
Theta
6Hz
Attend Ignore Attend Ignore Attend Ignore
Left
Right
Frontal
Parietal
Occipita
.44Hz-BB 聴取時における、 Coherence > 0.8 のチャネル間の位相差の解析
青:位相差=0 赤:位相差= π
Left
Right
Frontal
Parietal
Occipital
Alpha
9Hz
Beta
23Hz
Low gamma
40Hz
Attend Ignore Attend Ignore Attend Ignore Attend Ignore
High gamma
80Hz
.44Hz-BB 聴取時における、 Coherence > 0.8 のチャネル間の位相差の解析
青:位相差=0 赤:位相差= π
13
聴性誘発反応の Coherence の解析のまとめ
Theta 帯域( 3.5-7Hz ):
側頭部―前頭部、側頭部―後頭部、といった離れた領域間での
coherence が強く、特に Attend 条件で著明である。
Low gamma 帯域( 30-65Hz ):
近傍の領域内での coherence が強く、特に Attend 条件で著明
である。
まとめと考察
Theta, Alpha, Gamma 帯域ともに、聴覚刺激に対して Top-down で注意を向
けると反応が大きくなることが従来から示されている。
音源の方向に注意を向けると頭頂部?後頭部での Alpha 帯域の活動の亢進が
報告されている (Banerjee et al. JNS2011) 。
→Binaural Beat の周波数は左右の耳に入る各々の音刺激の情報(例えば
240Hz と 244Hz )には含まれないが、
音の空間情報と同様に、脳幹以降で抽出される情報に対して
Top-down の機構で注意を向けることが可能である。
聴覚情報への注意では、特に Theta 帯域および Low gamma 帯域での脳波の
同期が知られている。
前者は解剖学的に離れた領域の同期、後者は限定された領域の同期に利用さ
れている。
→ 今回の Coherence 解析でも同様の結果が示された。
Theta 帯域では位相が180度逆転した同期が観察されており、さらなる解析
が必要である。

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  • 11. Theta 3.8Hz Binaural Beat 4.44Hz Theta 6Hz Attend Ignore Attend Ignore Attend Ignore Left Right Frontal Parietal Occipita .44Hz-BB 聴取時における、 Coherence > 0.8 のチャネル間の位相差の解析 青:位相差=0 赤:位相差= π
  • 12. Left Right Frontal Parietal Occipital Alpha 9Hz Beta 23Hz Low gamma 40Hz Attend Ignore Attend Ignore Attend Ignore Attend Ignore High gamma 80Hz .44Hz-BB 聴取時における、 Coherence > 0.8 のチャネル間の位相差の解析 青:位相差=0 赤:位相差= π
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