G264小平朋江?いとうたけひこ (2017, 3月). 精神障害をもつ人々の回復の語りのテキストマイニング:メンタルヘルスマガジン『こころの元気+』10...Takehiko Ito
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Text mining analysis of recovery narratives of people with mental disorder
●本文
【問題】小平?いとう(2012)は、精神障害の体験の語りをメディアの種類に着目して7つに分類し、本研究の分析対象である『こころの元気+』(NPO法人地域精神保健福祉機構?コンボ出版)を「定期刊行物」に位置づけ、表紙に当事者が素顔で登場し、その語りから病いの経験を知ることができると意義づけた。笠井(2015)は、「リカバリーのプロセスを歩んだ体験者の語り(ナラティブ)から学ぶことが必要」とした。本雑誌は当事者が表紙モデルになり、その経緯を記した記事も掲載され、リカバリーの語りの共有を可能にしている。
【目的】表紙に当事者がモデルとして登場した記事のテキストを分析することで、リカバリーを達成した人の語りの特徴を明らかにする。
【方法】『こころの元気+』2007年3月号(通巻1号)から2015年7月号(通巻101号)に毎号掲載の「私モデルになっちゃいました!」100記事の全文をテキストマイニング分析した。テキストの量的分析にはText Mining Studio Ver.5.2を用いた。単語の出現回数の多い表現を集計し、好評語?不評語分析でポジティブに用いられている単語、ネガティブな単語を抽出した。倫理的配慮:本研究の分析対象は一般に出版?公開されている雑誌であり、著作権に配慮し著者の表現や言葉などを改変せず、引用部分を明示し、出典を明記した。
【結果】出現頻度の多かった形容詞の単語は、「良い」(74)「楽しい」(54)「嬉しい」(33)「強い」(18)「多い」(18)「辛い」(17)「やさしい」(14)「悪い」(14)「苦しい」(11)「新しい」(9)、などであった。好評語は、上位より「経験」「撮影」「人」「笑顔」「気持ち」「時間」「思い出」「体験」「夢」「症状」「生活」「メイク」「写真」など、不評語は、「病気」「気持ち」「具合」「心」「緊張」「調子」「仕事」「経験」などであった。
【考察】記事の内容は、モデルになった経過や理由、撮影中のワクワクした気持ち、これまでの人生の振り返りなどが述べられていた。分析結果より、その話題の特徴から、リカバリーを達成した人は、病いと共に生きる経験をポジティブに捉え、その経験を人々と共有したい思いから、社会に発信している姿が明らかになった。Ridgway(2001)のいう、病いからくる苦労にめげずに自らの体験を残すことが当事者の重要な役割だとする「サバイバー?ミッション」が多くの撮影参加者にみられた。小平?いとう(2010)は当事者が闘病記を書くことにより自分を表現する重要性を指摘している。モデルの表現活動がリカバリーにとって同様の意義をもつと指摘できる。本雑誌は、記事内容のみならず当事者の登場する表紙それ自体、多様な回復のあり方が病名や素顔の開示と共に記述された貴重なものである。
※本研究はJSPS科研費15K11827の助成を受けた。