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対人的コミュニケーション
研究?実践における
行動分析学の可能性
立命館大学総合心理学部
三田村 仰
日本行動分析学会第36 回年次大会 自主企画シンポジウム1
新しい研究領域としての「臨床言語心理学」は可能か:行動分析学からの提言
2018年8月24日(金)12:30~14:30 良心館1 階(RY103)
2
アサーション assertiveness とは
? 「自他を尊重する自己主張」
「適切かつ率直な自己表現」(e.g., 平木,2000)
? 米国で発展し,現在も日本では,
理想のコミュニケーションとして根強い人気!!
先生,うちの子は群指数間で差があり,
自閉スペクトラムと診断されているので,
ぜひPBSを取り入れて,うちの子を支援して
いただきたいです!(キッパリ) どうですか?
母親
これはアサーション??
もしも
本日の内容:機能的アサーション
1. 機能的視点からの再概念化
? 目指すべき対人コミュニケーションの概念化
2. 測定法開発
? 禁断(?)の質問紙尺度開発とその意義
3. 機能的アセスメントと
テーラーメイドでのプログラム開発
? 行動分析学だからこその新しさ?面白さ!!
3
1. 機能的視点からの
再概念化
「行動クラス」という考え方
行動分析学の特徴
?文脈の中で行動を捉える
? 環境のなかでの行動の役割に注目
?プラグマティックである
? 個人を責めず,どう工夫すればいいかに応
える
?科学的である
? 少ない原理で効果的に記述する
5
なぜ太郎は次郎をくすぐるのか?
6
太郎 次郎
いつも,
いたずら
ばかり??? イラスト(三田村, 2017)
=カズモトトモミさん
行動するとどうなるか?
行動 B 結果事象 C
次郎をくすぐる 次郎が
「やめてやて!!」
とリアクション
? 行動の理由(機能)を環境に求める
? 行動とは相互作用
時間軸
7
環境!
イラスト(三田村, 2017)
=カズモトトモミさん
行動クラス response class
? 例:「次郎構い行動」という行動クラス
8
B 行動 C 結果事象
次郎を
? 手でくすぐる
? 足でくすぐる
? 孫の手でくすぐる
? 後ろから脅かす
? 横から脅かす
次郎が
「やめてやて!!」
とリアクション
? 機能から行動を分類する = 行動クラス
イラスト(三田村, 2017)
=カズモトトモミさん
Skinner (1957)の言語行動
話し手 聞き手
? 聞き手を介して強化される行動=言語行動
? 言語行動はコミュニケーション行動 9
2つだけ
紹介します
イラスト(三田村, 2017)
=カズモトトモミさん
タクト tact (報告言語行動)
? ごくごくシンプルな話である
10
A:先行事象 B:行動 C:結果事象
猫が歩いてい
る
母[聞き手]が
いる
「猫だ」 母 [ 聞 き 手 ]
「そうね」
Skinnerの言語行動:その①
マンド mand (要求言語行動)
☆ポイント 「この部屋暑いね/寒いね」はタクト
かもしれないし,マンドかもしれない
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先行事象 A 行動 B 結果事象 C
聞き手がいる
真夏に水分を
取らずに4時間
野外で過ごして
いる
「お水をくだ
さい」
聞き手から水
[ 特 定 の 強 化
子]をもらう
Skinnerの言語行動:その②
Carr & Durand (1985)の機能的
コミュニケーション?トレーニング
? 「自分を叩く」のはマンドだった
? より適切なマンドに置き換える支援 12
A:先行事象 B:行動 C:結果事象
自分を叩く
A:先行事象 B:行動 C:結果事象
同じ機能異なる行動形態トム
Before
After
先生からの
注目
「僕,がんばっ
てる?」と言う
先生からの
注目
アサーションを「機能」で捉えると
? アサーション = マンドの一種
? さらに,
①率直な自己主張 → 「自分を尊重(本質)」
→話し手にとっての有効性 (機能)
②適切 → 「相手を尊重(本質) 」
→聞き手からみた適切さ(機能)(宇佐美, 2002)
13(三田村?松見,2010a,b)
機能的アサーションという行動クラス
A:先行事象 B:行動 C:結果
? 他者との間
に課題発生
? 自己表現X ①より効果的
に課題を達
成!!
②相手が不必
要に傷つい
たり不快に
ならない!!
14
有効性の機能
適切性の機能
(三田村?松見,2010a,b)
機能的アサーション(三田村?松見,2010a,b)
?「話し手がある課題達成の必要性に
迫られた状況下で,
①当該の課題をより達成し,かつ
②聞き手から,より適切と受け取られる
対人コミュニケーション」
キャッチフレーズ
”しなやかで芯のある自己表現”
15
2. 測定法開発
行動分析学を援用した概念の
応用可能性
質問項目の例
【課題達成】
1. 和を乱すチームメイトや仲間がいるとき,
その人の行動を改めてもらうことができる
【語用論的配慮】
7. 和を乱すチームメイトや仲間の行動を改
めてもらうとき,相手から反感を買わない
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有効性の次元
適切性の次元
Mitamura (2018)
機能的
アサーション
FA
課題達成
OE
語用論的
配慮 PP
FAS 1
FAS 2
FAS 3
FAS 4
FAS 5
FAS 6
FAS 7
FAS 8
FAS 9
FAS 10
FAS 11
FAS 12
.62
.67
.35
.60
.75
.61
.75
.72
.52
.52
.56
47
.50
.53
.70
.69
.67
.73
.62
.57
.80
.64
.50
.62.62
.60
1.00
機能的アサーション尺度
χ2 χ2/ df GFI AGFI RMSEA
144.69 2.78 .92 .88 .08
Table 1 モデルの適合度
Fig. 1 二次因子モデル.
Mitamura (2018)
使用例:効果指標としての活用
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介入前 介入後 d (前-後) 検定
松原他
(2017)
FAS-
total
39.07
(5.25)
40.36
(5.64)
.24 n.s.
N = 16 OE 18.21
(4.00)
18.71
(4.18)
.13 n.s.
PP 20.86
(2.74)
21.68
(3.03)
.36 n.s.
臼井他
(2018)
FAS-
total
36.13
(4.21)
39.07
(4.71)
.61 p < .05
N = 16 OE 15.13
(4.21)
18.07
(3.33)
.77 p < .01
PP 21.00
(2.80)
19.40
(3.21)
.00 n.s.
質問紙尺度は研究のバリエーションを広げる!
3. 機能的アセスメントと
テーラーメイドでの
プログラム開発
行動分析学だから
こその新しさ?面白さ!!
機能的アサーションの実践例
? 特別支援教育(文部科学省)
通常学級での発達障害児支援に期待
? 保護者による学校への相談
? 学校への相談のもつれが課題
↓
? NPO法人よりトレーニングの要請
? 発達障害児の保護者向け機能的アサーショ
ン?トレーニング?プログラムの開発!!
(三田村?松見,2009)
機能的アサーションになりそうな
行動形態を予測してトレーニングする
<古典的アサーション> (Booraem & Flowers, 1978)
? 「うちの子をきちんと見てください。」
? 明確な主張,簡潔に
<機能的アサーション(になりそうな言い方)>
? 「お忙しいところありがとうございます。
2点ほど,お伝えしたいうちの子の特徴があ
りまして,ちょっと,お話させていただけれ
ばと思います」
機能的アセスメントから予測
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Fig.1 2名の教員からみた保護者による依頼行動の
「望ましさ」(保護者内でのランキング)
トレーニングの効果
(三田村?松見,2009)
注)悪くなったという
わけでは必ずしもあ
りません
向上!!
まとめ:対人的コミュニケーション研究?実
践における行動分析学の可能性
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? 行動クラス,機能という視点は,
ユニークな発想を提供する
? 行動分析学由来でも,質問紙開発によ
り研究のバリエーションを広げられる
? 「理念的にどうすべきか」ではなく
「現実的にどうするのがいいか」に基づく
実践的な介入案を提案できる
引用文献
Booraem, C. D., & Flowers, J. V. (1978). A procedual model
for the training of assertive behavior. In J. M. Whiteley &
J. V. Flowers (Eds.), Approaches to assertion training (pp.
15-46): Monterey, Calif: Brooks Cole.
平木典子 (2000). 自己カウンセリングとアサーションのす
すめ. 金子書房.
松原耕平?猪澤歩?森際孝司ほか (2017) 女子短大生に対
するグループワークプログラム実践の試み(5). 日本教
育心理学会第 59 回総会発表論文集. PG70.
三田村仰 (2017). はじめてまなぶ行動療法. 金剛出版
Mitamura, T. (2018). Developing the functional
assertiveness scale: Measuring dimensions of objective
effectiveness and pragmatic politeness. Japanese
Psychological Research, 60(2), 99-110.
三田村仰?松見淳子 (2009). 発達障害児の保護者向け機
能的アサーション?トレーニング. 行動療法研究, 35(3),
257-269. 25
引用文献
三田村仰?松見淳子 (2010a). 相互作用としての機能
的アサーション. パーソナリティ研究, 18(3), 220-
232.
三田村仰?松見淳子 (2010b). アサーション(自他を尊
重する自己表現)とは何か? ―“さわやか”と“し
なやか”,2つのアサーションの共通了解を求め
て―. 構造構成主義研究, 4, 158-182.
宇佐美まゆみ (2002). ディスコース?ポライトネス理論
構想(5) -DP理論の展開- ポライトネス理論の展
開(連載)11. 月刊言語, 31(13), 96-101.
臼井卓也?猪澤歩?森際孝司ほか (2018) 女子短大生
に対するグループワークプログラム実践の試み
(6). 日本教育心理学会第 60回総会発表論文集.
PG22.
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